フワ…………
磁石に引き付けられるように真姫の身体はクロフォードの元に近付いた。
ーや、やめて!本当にふざけないで!
「大丈夫、貴女に変なことはしないから。先ずは私の話を聞いて」
真姫は赤目でクロフォードを睨み付けているがクロフォードは柔和な顔を崩さない。
真姫がクロフォードの顔を見続けて4秒程経っただろうか……
「アイドルがそんな酷い顔じゃ駄目だよ」
ーほぼあんたのせいよ!
涙を流しながら声に為らない言葉を口に出す。
すると、クロフォードは笑顔を作った。だがクロフォードが笑顔になったからと言って真姫が笑顔になるというわけでは無い。
寧ろ……火に油を注いでるような物だ。
クロフォードは今度は御経を唱える御坊さんのように合掌し言葉を唱え始めた。
「貴女は私の鏡になる……貴女は笑う……笑みを貴女自身が作り出す……」
すると……
ーそんな子供騙しみたいな言葉で人が笑うわけ無いでしょ!良い……加減……に……して……ははは……
「うん、その方が貴女らしくて似合ってるよ」
真姫は笑った。止めどなく溢れる笑みは自身の気持ちに安心感を与えて行く……
ーあぁ……何でかしら……根拠が無い……根拠が無いのに……『幸せ』を感じる……
「……怒りの感情は治まったみたいね。ちょっと強引で御免ね……私はまだ他世界に移動して力を使った事が無かったから」
黒衣を纏った少女はぺこりと頭を下げる。
ー聞かせて………クロフォード……だったわよね、あんたの話をね……
「ありがとう……信じてくれるの?」
ーまだ半信半疑よ……超能力者だと言うことは信じても良いかしら。
「ふふっ!ぁはははは!意外と冗談好きなんだね、真姫!……分かった話す、話すわ……貴女の声を戻す方法を」
「ただ……聞くより恐らく視た方が貴女の脳も覚えると思うの、だからちょっと目を詰むって」
ー目を……瞑る……
パチリ
「これを……見て……」
ザー
クロフォードの言葉を聞いた途端、テレビのノイズのような音が脳裏に響き出した。
やがて……脳の中にある風景が写りこんでくる……
「はっ!ここは!……何処かしら?」
空中に……立っている……
良く見ると何処かの街の夜景のようだ。
「声が戻ったのはありがたいけど……この場所?……限定と考えた方が良いわね……」
『その通りよ』
「その声は……クロフォード!」
『貴女がいる場所は自分自身の脳内、そして私は今貴女の脳にある少女の記憶を見せている』
「さっき私の声に関係が有ると言った女の子ね。その子の命を助ければ、私にも声が戻ると考えて良いのね?」
『そうだよ……その子を助けられればね』
パチン
指ならしの音が真姫の脳内にジーンと広がった。
「うぅ……」
本人にとっては堪った物ではない。
まるで自分が寒気を覚え鳥肌が立つ音をボリューム大で聞かされた気分だ。
『ごめんごめん……貴女に害になるような音も混ぜちゃった。反省してます……』
「やっぱりあんた!私の事馬鹿にしてない!?」
シュン
突如として空間が変わった。
「また……微妙なタイミングで……」
今度はどうやら室内らしい、自分は触れる事が出来ないが、年頃の少女が好みそうな縫いぐるみがいっぱい置いてあった。
「じゃあ……今ベットで眠ってるこの子が私が助ける相手……?クロフォード!」
返事が無い……
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
真姫が落胆していたその時。
少女がベットから降りてベランダの扉を開けたでは無いか。
「何をする気?……」
外は雨が降り頻り、10秒もベランダに居ればずぶ濡れだろう……しかし少女は手刷りを強く握り締め顔は真っ暗な空を見上げ何かを叫んでいた。
必死に必死に何かを……何かを……叫んでいるのだが『声が聞こえない』
「この子も……声が出ないの?……何で……」
しかし少女は……泣きつかれたのかまたベットに戻った……その顔は何かに怯えているように険しい顔をしている。
「ストレスが……この子の声を……奪ったのかしら……」
真姫は暫くその少女の近くに居た。自分の存在などこの少女には感じて貰えないのだろうが、何故かこの少女がせめて眠るまで見守ってあげたくなった。
「ママも小さい時、私が寝付けるようにこうやってたのかな……」
初めてやっている事なのに行為に懐かしさを感じた。
「…………だよ」
「あっ、…………日。」
「話し声?この子の家族かな」
少女も家族の会話が聞こえているようなのか、閉ざした目をまた見開き会話がする方に視線を向けている。
会話の内容から察するに会話をしているのはこの子の母親と兄らしい。
「やっぱり忘れてた。」
「忘れてた?……」
何を忘れていたんだろう…
西木野 真姫は次の母親の台詞に絶句した。
「ああ、あすかなんて、本当に生まなきゃ良かったなあ。」
「………………え?……」
雨音が真姫の耳に異様に大きく聞こえてきた。
次話で結構展開が進むかもです。