オーバーロード ワン・モア・デイ   作:0kcal

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※旧12話を分割いたしました。こちらは後半部分となります。加筆修正があります。


Creak

  

 

 宝物殿より戻ったアインズは、自室で玉座の間での演説の支度をしつつ、先程パンドラズ・アクターより得た情報に関して思考を巡らせていた。

 

「しかし、スレイン法国……プレイヤーの匂いがする危険な国だとは思っていたが」

 

 人類の守護者を名乗りながら、帝国兵に偽装した部隊をリ・エスティーゼ王国に送り込んで無関係の村々を焼き討ちし、そこに住まう村人を次々と斬殺。しかも、その目的が王国戦士長であるガゼフ・ストロノーフを暗殺するための罠だったというのだから、最初から印象は最悪だった。

 人類の団結による脅威への対抗を掲げているのに、同じ人類国家である帝国と王国を敵対させ弱体化を目論むとは全く筋が通っていない。暗殺対象の戦士長、ガゼフ・ストロノーフにしても人類の保有する戦力として最高峰であることはわかっているはずだ。個の強さが数を凌駕するこの世界に置いて彼を失うことが、どれだけ人類の戦力を低下させるのかも考えないのだろうか?

 

(エルフを目の敵にし、奴隷にしているというのも理解できん)

 

 エルフを奴隷にしているのは法国に限ったことではなく、バハルス帝国でもそうだったが、帝国と法国には決定的な違いがある。帝国はあくまで皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスを頂点とした、自分たちの利益を追求する人間国家だ。人類の守護者などと名乗っているわけではない。それにエルフだけでなく、人間も奴隷として売買されていることから、帝国で奴隷制度が敷かれているのは国家の政策方針であって、特定種族に対する弾圧ではないことがわかる。それに比べ人類の守り手を名乗りながら同じ人間種であるエルフと戦争をし、捕虜を奴隷にしている法国は実に矛盾に満ちた国家と言えよう。

 

 冒険者組合のアインザックは、人々の範疇にエルフやハーフエルフ、ドワーフを加えていたし、帝国には奴隷ではないエルフやハーフエルフも住んでいた。つまり所属する国家の方針はともかく、エルフ・ハーフエルフ・ドワーフは多くの者にとって人類であるはずなのだ。宗教国家である故か、とも考え調べたが王国・帝国で信仰されている四大神・法国で信仰される六大神のいずれの教えにも、人間のみを尊びエルフやハーフエルフを迫害するような選民的な教えはない。

 

「理想を唱え、それによって国家の秩序を保ち民衆を支配しているだけなのか……もしそうだとすると、法国の上層部は腐りきってる可能性が高いな」

 

 あまり詳しくはないが、歴史上に於いて国政に関わった宗教関係者が腐敗し、堕落するというのは珍しい事ではないと知っている。しかも法国はその宗教関係者が関わっているどころではなく、支配者層だ。腐っていたとしても全く驚かない。少なくとも今までアインズが知りえた法国の行動からの推測ではあるが、そう考えても仕方のない材料、状況証拠ばかりが揃っていく。

 

 

「……それに、まさか叡者の額冠が奴らの物だったとは」

 

 

 たしかに前回のエ・ランテルでの騒動で、ンフィーレアが装着させられた叡者の額冠とは宝石の色が違う。だが、こんな特殊なアイテムの製法が複数個所に伝えられているだろうか?前回、叡者の額冠の情報が手に入ったのはあの時だけであった。つまり、あの叡者の額冠もスレイン法国製である可能性が非常に高い。だとすると、あの騒動の黒幕は――

 

(ズーラーノーンとやらでなく、法国だったか?)

 

 法国が、王国と帝国双方の弱体化を画策していたとすれば――状況から見れば間違いないだろうが――あのエ・ランテルでの事件が法国の陰謀であってもおかしくない。それにもう一つ、それを補強する情報を自分は持っている。

 

 帝国のフールーダ・パラダインから、帝国がアンデッドを利用した様々な政策を検討・研究していたと聞いた時は流石ジルクニフだ、と感心した。偏見や思い込み、古い慣習などにとらわれず実利を追求して行動する、あの男は為政者として本当に優秀だ。なぜ急に属国になる等と言い出したのかは、未だにちょっとわからないが、何か理由があったに違いない。……思考が横にそれたが、問題は帝国のアンデッド研究を法国が察知し、証拠をつかんでいた場合だ。

 

 あの時エ・ランテルに自分たちがいなかった場合、事態は急速に悪化・拡大し、おそらくエ・ランテルは一晩のうちに滅びていただろう。エ・ランテルにはミスリル級までの冒険者しかおらず、警備の兵士は軟弱でものの役には立たない。そうなれば王国だけでなく、帝国や都市国家連合を含む周辺各国は世界の危機か、と大騒ぎになったに違いない。

 

 そこでもし、法国が“バハルス帝国は魔法省でアンデッドを使役する研究をしている”と発表したらどうなるだろうか?おそらく各国と神殿関係者は頭から信じはしないだろうが、帝国に確認はするし、独自に調査も行うだろう。ジルクニフであれば、その追及すらも見事にはねのけるかもしれないが、法国が追加の情報を発表・流布するような事となれば、周辺各国や民衆は帝国と距離を置き、敵対する国家や集団もでてくるだろう。また、帝国内部においてもジルクニフの権威が大きく失墜し、内部から崩壊するような事態も起こりかねない。なにせ、情報自体は真実なのだ。

 

(いや、待て待て、だとしても……ズーラーノーンが法国の一機関である、と考える方がしっくりくるな)

 

 ズーラーノーンはアンデッドを使役する魔法詠唱者集団だと聞いている。そして、その活動範囲は広範囲に及び王国や帝国、都市国家連合あたりでも不穏な事件を起こしていることが確認されているそうだ。他の国々と違いスレイン法国では元素を司るらしい四大神の他に、生と死の神を加えた六大神を信仰している。死の神を信仰している者達がアンデッドを使役するのは、当然とまではいかないが十分にありえることだ。だが他の国々ではアンデッド=悪。これは非常に誤解と偏見に満ち溢れている、と自分がアンデッドであるアインズは思うのだが、それは置いておいて。

 

(人類の守護者を標榜するスレイン法国が、他の人類国家で絶対悪とされているアンデッドを使役する一面があったとすれば、それを隠すためのアンダーカバーとしてズーラーノーンという組織を作り出した可能性は……あるな)

 

 陽光聖典は魔法詠唱者の部隊で天使を使役していた。と、すれば死の神の部隊が魔法詠唱者で構成されていて、アンデッドを使役しているというのはごく自然な考えではないだろうか。その活動目的が陽光聖典と同じく、周辺国家に対する不安定工作だとしたら……それはズーラーノーンという組織の性質に合致しないだろうか。憶測の域は出ないが、これは気に留めておくべき考えだろう。そして、アインズの脳裏にかつて自分と刃を交わした、ある女の姿がよぎった。

 

「ああ、簡単じゃないか」

 

 わからないことは、当事者に聞けばよいのだ。

 

 

 

 

 

 

「アインズ・ウール・ゴウンを不変の伝説とせよ!アインズ・ウール・ゴウンこそが最も偉大であると、世界に知らしめるのだ!」

 

 

 

 先程、この玉座の間に響き渡ったアインズ様の玉声がまだ耳に残っていることを、デミウルゴスは心地よく感じていた。至高の御方はこの玉座の間を去られたが、残っている自分を含む守護者、選ばれた幸運なシモベ達は未だ興奮と熱気のただなかにあった。

 

「皆、面を上げなさい。各員はアインズ様の勅命には謹んで従うように。では解散といたします」

 

 守護者統括、アルベドの静かな声が熱気に水を差すように響く。デミウルゴスはその声に二重に不快感を覚えた。確かに打ち合わせはしていないが、この場で皆に発表すべき事柄があるだろうに、なぜ解散を宣言するのか。そして――なぜ、そんなに冷たい声を出せるのか。

 

「守護者統括殿。私からこの場で皆に話しておかねばならぬ事がございます。ご許可を願います」

 

 だが、役職上は守護者統括であるアルベドが今この場における最上位の存在だ。アインズ様が居られるか、守護者だけであれば声を上げすぐさま発表するのだが――

 

「アインズ様は玉座の間を去られました。我々も解散し、玉座の間を去るべきではなくて?」

 

 この女……と先程に倍する不快感をデミウルゴスは覚え、いくつか考えていた展開の穏便な方から順番に破棄した。後で揉めるかもしれないが、ここは少々強引に話を進めることにする。

 

「アインズ様の御心に関して、皆に伝えたき事がございます。ご許可を」

 

 ざわ、と玉座の間にどよめきが上がる。

 

「アインズ様の御心、それは最重要事項でありんすね。デミウルゴス!早く聞かせてほしいでありんす」

 

 シャルティアが役職上の順列も礼儀も守らずに真っ先に喰いついてきたことに、内心苦笑するが今はありがたい。その一言で他の守護者達も口々にアルベド、ないし自分に許可や発言を要求し始める。

 

「……わかりました。デミウルゴス、皆に説明なさい」

 

「ありがとうございます」

 

 自分にしか見えない角度で、表情だけで殺せるスキルがあれば自分を殺せそうな顔を統括が向けてきたが、この際無視することにする。

 

「後ろまで声が響くよう、壇上に上がってもよろしいでしょうか?」

 

「……いいでしょう」

 

 アルベドの声を受けデミウルゴスは立ち上がり、壇上へと歩を進めると、振り返って玉座の間に並ぶ守護者とシモベを視界に納める。アルベドはこの状態では見ることはできないが。

 

「アインズ様が私を連れ夜空をご覧になられていた時に、この世界を見渡し「ここは!」とおっしゃられました。至高の御方でしか気が付けぬ、何かに気が付かれたご様子でした」

 

 玉座の間にいる全ての者達がデミウルゴスの言葉を聞き逃すまいと、真剣に耳を傾けている。

 

「そして、あの天空に浮かぶ月を見上げ、こう仰られました。『私がこの世界にやってきたのは、この地をより美しく輝かせるためやもしれぬ』と、そしてこう続けられました。『この地に我らが国を築くのも悪くはないかもしれないな』と。この世界を美しく輝かせること、これは月光の如く至高の御方のご威光で世界を照らすという事に他なりません。そして、この地というのは言うまでもなく世界そのもの。この世界に至高の御方のご威光を知らしめるべく、征服する。それこそがこの御言葉の意味するところです。そして最後に、アインズ様はこう仰いました」

 

 デミウルゴスの貌に歓喜の色が浮かぶ。

 

「『我が友たちからも見える輝きを放つような国を』と、つまりは……」

 

 デミウルゴスの視界に入る全ての者が、喜びの表情を浮かべているのが見える。

 

「この世界を支配する事で、ナザリックを去られた至高の御方々の御帰還の道標となる。それこそが、アインズ様の御望みです」

 

 玉座の間が先程、至高の御方の御言葉が響いた時と同様の熱気に包まれる、その熱気を受けてデミウルゴスは高らかに宣言した。

 

「至高の御方の御真意を受け止め、準備を行うことこそ我らが忠義の証であり、優秀な臣下の印。ナザリック地下大墳墓の最終的な目的はアインズ様にこの世界を献上し――至高の御方々の御帰還をお助けすることであると、皆心得るように」

 

 デミウルゴスは振り返り、アインズ・ウール・ゴウンのギルドサインの旗に最敬礼を行う。

 

 

「正統な支配者たるアインズ・ウール・ゴウン、至高の御方々にこの世界の全てを捧げましょう」

 




多数のご感想、お気に入り登録及び誤字報告をいつもありがとうございます。修正は随時反映させていただいてます。

前回投稿で原作1巻の内容が終わりました。実はそこまでなんとか終わらせようと気が逸って2話分を1話にまとめたのですが、色々と抜けた部分も多かったため、分割させて頂きました。

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