「それで一体緊急事態とは何なのかねアルベド?動ける階層守護者達を全員集めるなんて」
「皆、職務ガ忙シイノハ承知デノ招集…何ガアッタ?」
「あれーアインズ様は?」
「あんたに会いたくありんせん、来られなかったのも分からんのかえ?」
「はあ?いい加減あんたの偽乳に愛想尽かしたに決まってるじゃん」
「き、きっとお忙しいんだよアインズ様…」
「…」
宝物殿入り口。そこにナザリック地下大墳墓の主な階層守護者達が集められていた。緊急とはいえ、皆それぞれに重要な仕事が与えられており、ただの世間話の為に呼ばれたのではない事はなんとなく察していた。
守護者達の前にパンドラズアクターとその横にアルベドが立ち、誰も見たことがないほどの焦りと悲痛の表情を浮かべていた。
「忙しい中無理を言ってごめんなさい、ですがこれはナザリックにおける最重要案件として緊急招集をさせてもらったわ。残念ながら全員という訳にはいかないのだけど」
アルベドが頭を下げ、謝罪を示した。それは滅多に見られない光景だった。アルベドが少し躊躇うように口を開けた。
「アインズ様が行方不明になられたわ」
その瞬間、アルベドはとてつもない圧力が自分へと浴びせられている事を感じた。それぞれ違う性質の物だったが全て殺気と怒りが含まれていた。
「アルベド、君を殺す前にどういう事か説明してもらいたいものだね」
人の姿でいることをやめたデミウルゴスが殺気を放ちながらアルベドへと問いかけた。行方不明?なんだそれは。直近にいておきながら崇拝すべき我らの絶対者の現在位置を見失う?この時期に?そんな馬鹿な話があるか。パンドラズアクターを除くそれぞれの守護者達はみな同様の思いを抱いていた。ありえないと。
「あ、アインズ様は時々御一人で出掛けられる事はあるけど…それじゃあないのかな?」
マーレがそう疑問を口にした。冒険者モモンを始めた時もそうだった。アインズ様も御一人になりたい時もあるだろうと。
「今回は違うわ。今までならどこへ行くにせよ、誰かにそれを告げ、最低でも一人は付き添いもしくは護衛を付けていたわ」
「今回はそれがないと?直前に会っていたのは誰か分かるかね?」
デミウルゴスは冷静さを取り戻したのか元の姿に戻り、アルベドからパンドラズアクターへと視線を移した。
「私です!アインズ様は私と共に宝物殿でアイテムを愛でられており、アルベドよりメッセージがあったのでそれを切り上げエ・ランテルへと転移されました!ああ出来ることなら私が磨き上げたデータクリスタルをご覧にいれたかった!」
パンドラズアクターが相変わらずの身振り手振りで説明した。守護者達は呆れた顔で聞いていたが、その事については何も言わなかった。
「確かに、アインズ様へメッセージでやりとりをしたわ。“なるほど、すぐに向かおう”と仰られていたわ」
アルベドはその後の状況を説明した。
「エ・ランテルの館で待っていても一向に現れないアインズ様。もちろんアインズ様を待つのは苦痛じゃないわ。でもいつまで経ってもいらっしゃらないからメッセージを送ったのだけど繋がらないの。それで護衛についてるはずのシャドーデーモンに話を聞いても急に影から弾き出されたといって全く要領の得ない事しか答えなかったわ」
「サーチはしたのかね?アインズ様となれば、隠そうともあのお力は隠しきれないはず」
「ええもちろんよ。でも気配すら見付からないわ…」
「なるほど、だとすればエ・ランテルに転移した後、何処かへ行かれてしまわれた訳だ」
「ワザト隠レラレテイルノデハナイカ?アインズ様ハ時折ソウイッタオ遊ビヲナサレル」
「仮にそうだとすれば見つけるのは容易ではありんせんね」
「ほうほう!なるほどかくれんぼですな!それであのアイテムを使われたのかもしれませんな!」
「か、かくれんぼなのかな?…ぼくたちに失望して“あっち”の世界にお戻りになられたんじゃないよね?」
「マーレ!あんた何言ってるのか分かってんの!?」
好き勝手に発言するなか、マーレの発言に皆、思考と会話を停止させた。
「…そんな…アインズ様は唯一残られた慈悲深き御方。この後に及んでそんな事を…」
悲痛な言葉が宝物殿に響いた。守護者達が最も恐れている事。それは忠誠を誓うべき主の喪失。それは耐え難い事であった。しかし、デミウルゴスだけが冷静に思考していた。このタイミングで?突然?それはないと断言できる。確かに恐るべき頭脳を誇る我らが主の真意を見抜くのは難しい。しかし必ず何かヒントを残されているはずだ。
「パンドラズアクター。アインズ様は宝物殿で何か仰っていなかったかね?」
「仰っていましたとも!“ちょっとしたお遊びだ。上からじゃ見えない景色を見せてくれるからなこれは”と」
「なるほど。アルベド、君は何をアインズ様と話し合う予定だったのかね?」
「アインズ様と?ナザリックとエ・ランテルにおける防衛網の再編だけど。アインズ様発案の“限定空間における死の螺旋再現実験”が始まったからそれの報告も兼ねて」
「ふむ…」
考えこむデミウルゴス。アインズ様の事だ。ただのお遊びやお戯れで御姿を消された訳ではないだろう。
「あ、あのアインズ様が宝物殿で使われていたアイテムって何かな?それがヒントになるんじゃないかな多分…」
「おお!流石はマーレ!そうですアインズ様はなんと“原初のへその緒”のみならず“昔逆の鏡”まで使われた徹底っぷり!」
「待って待って何よそのアイテム。そんなの聞いた事ないよ」
「そんな事も知りんせんとはあんた階層守護者失格じゃない?」
「守護者失格ハ辛イナ…」
「あんたは知ってんの?」
「…デミウルゴスならば分かるでしょ」
「残念ながら私にも分からないよシャルティア。パンドラズアクター、そのアイテムの効果を教えてくれるかね?」
「もちろん!このアイテムは…」
そしてパンドラズアクターは踊るように語りだした。いかに素晴らしく希少で美しいアイテムなのかを。ついでにその効果を。
「それでアイテムの効果の解除方法はあるのですかパンドラズアクター」
「もちろんありますとも!一度死ぬか、もしくは時間経過、あとはこの場合使えない条件ですがイベント期間限定ダンジョンのボスを倒す事ですな!」
「なるほど…それならば全ての辻褄が合いますね」
「え、全然分かんないんだけど」
「分ラナイゾ」
「ああ!」
おそらく何か思い至った事があるのか突然アルベドが悲痛な叫びをあげた。
「まさかまさかまさかまさかまさかまさかあの侵入者は!」
「侵入者ですか?どういう事ですかアルベド」
「あああああ私は私は私は私は私はアインズ様をこの手で殺そうと!あああああ!」
アルベドは狂ったような声を上げ、ハルバードを取り出した。
「死をもってしか償えない罪を私は犯してしまった!」
ハルバードの刃を持ち、自らの首を刎ねようとするアルベド。常人であれば反応できないような速度で首へと迫る刃。
しかしそのハルバードの刃は一本の剣と指によって首の手前で止められた。
「早マルナ」
「迷いなき動き!素晴らしいですが早計ですな!」
さらにこれ以上動かないようにとハルバードの柄を掴むシャルティアと、柄に巻き付くアウラの鞭。
「せめて説明してから死にな」
「不服だけどこいつに同意よ」
そして二つの拘束魔法によって動きを封じられたアルベドの腕。
「貴方らしくないですね。冷静さを失っていますよ」
「そ、そんな事してもアインズ様は喜ばないよ!」
ハルバードを離したアルベドは、床へと崩れ落ちた。
「私は何てことを…愛しき君を自らの手で…」
「さて、想像はつきますが、一応説明して頂きましょう」
しばらく沈黙が続いた。しかし意を決したのかアルベドがぽつりぽつりと話し始めた。
「アインズ様とのメッセージの後すぐに館に侵入者が現れたのよ。小汚いスケルトンメイジでなぜか弱っていたのだけれど」
うなだれたままアルベドの話は続く。
「当然、迎撃しようとしたわ。でも私の攻撃が届く直前に突然消えたしまったの。アインズ様に防衛についてのご提案を差し上げようと思っていたところへの侵入者だったから考える暇もなく、そう、確かに焦っていたわ」
「そうだろうね。君らしくもない」
やれやれと、デミウルゴスが手を広げ、守護者達へと向け滔々と語りだした。
「分かるかい?アインズ様の御発言“ちょっとしたお遊びだ。上からじゃ見えない景色を見せてくれるからなこれは”。そして“原初のへその緒”と“昔逆の鏡”の併用。アインズ様自ら考案された実験に防衛網の再編。そしてアインズ様の御館の前に現れた一体のスケルトンメイジとその消失。流石はアインズ様と言ったところでしょうか。一手に多数の意味を持たせ我ら如きでは到底届かぬ高みにいらっしゃる」
「…ようやく理解したわ。ああ、良かったわ、知らずとはいえアインズ様をこの手で傷付けるところだったわ」
「そうだね。おそらくアルベド、君の迎撃には満足されただろうね。自分がしばらくいなくても警備は問題ないと判断され、移動された。ならば我らがどうすればいいかは明白だ」
納得とばかりうなずくのはアルベトとパンドラズアクターのみで、他の守護者達は首を傾げ、疑問を投げかけた。
「ドウスレバイイ?」
「いや全っ然わかんないだけど!」
「た、多分、アインズ様はあえて弱くてどこにでもいるようなスケルトンメイジになる事によって、エ・ランテルの防衛や警備を確認したいんじゃないかな」
マーレがおずおずと自らの姉に進言した言葉に他の守護者達はおお!と納得の声を上げた。
「そうだねマーレ。でもあの賢明して思慮深きアインズ様がまさかそれだけの為にこのようなリスクを背負ったと思うかい?」
「デミウルゴスの言う通りよ。アインズ様はさらに高い次元で物事を俯瞰していらっしゃるのよ」
取り乱して悪かったわ。そう言うとアルベドは立ち上がった。最悪の状況ではなくなった安心感がアルベドに余裕を取り戻させた。
「つまりはこういう事だよ…」
そうしてデミウルゴスは守護者達に説明しはじめた。
彼らの支配者であり、絶対者であり、この世に並ぶ者はいないとされる魔導王アインズ・ウール・ゴウンの恐るべき智謀を。