骸骨魔法師は無慈悲な支配者   作:エギュベル

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第1章:死屍累々の楽園

 

 

 

「一体全体何が起きてるのやらさっぱり分からんぞ…」

 

 アインズの嘆きが共同墓地に響く。とにかくまず、現状把握だ。アインズは今自分が陥っている状況を冷静に分析してみた。まず“原初のへその緒”の効果により骸骨魔法師(スケルトンメイジ)にまでレベルシンクをされている。おそらく“昔逆の鏡”も発動したのだろう、アイテムや装備まで無くなっている上にアイテムストレージが開けない。幸いこの状態での死亡にペナルティはなく(運営の数少ない有情である)、アイテムはロスト扱いにならず全てストレージに入る為心配はないが、残念ながらここはユグドラシルではない。

 

「アイテムの効果がユグドラシルと同じと考えるのは危険か」

 

 なぜかメッセージが機能しないのもユグドラシルの時にはなかった効果だ。そもそもあれはイベント期間限定のアイテムのはずだった。やはりこちらの世界に来て仕様が変わったと考えるのが妥当だろう。しかしメッセージが使えないのは不幸中の幸いだった。守護者達にバレてこんな姿を見られでもしたら大変だ。今まで必死に築いてきたアインズ・ウール・ゴウンの支配者としての立場が崩れしまいかねない。それはアインズが最も恐れている事の一つだった。

 

 ワールドアイテムによる攻撃ではなかったものの、ある意味それ以上に厄介な状況だ。ステータスが最低クラスになり、使えるスキル、魔法が骸骨魔法師(スケルトンメイジ)で使用できるものだけになってしまった。アイテムも装備もなく、新たに取り出そうにもアイテムストレージは開かない。

 

「ええっと確かこの効果を消すには死亡するか…あとボスを倒す、だっけ?」

 

 アインズは必死にこのアイテムの効果の解除方法を思い出そうとするもこのイベント自体が随分と前の話な上、どちらかというとお祭りイベントだったので楽しんではいたが大して真剣にはやっていなかった。アインズの曖昧な記憶によるとこのアイテムの特性上、アイテムや魔法、スキルの効果で解除するのは不可能のはずだ。となると死亡するか限定ダンジョンのボスを倒すまでは効果は続く。

 

「いや、待て。確かもう一つあったような」

 

 しかしどうにも思い出せない。パンドラズアクター辺りは知っているだろうが聞くにもメッセージは使えない。館へと戻り直接パンドラアクターに聞くしかないようだ。そもそもなぜ館の前からこの共同墓地へと移動させられたのだろうか?館へと着いた時、思えばあの魔力の減っていく様と体が重くなったいく現象はレベルに見合わない武具、アイテムを装備していたペナルティによく似た感じだった。あれ、そういえばアルベドが駆け寄ってきたような…あの辺りから記憶が曖昧だが、なぜかアルベドは物凄く怒っていたように思えた。

 

「打ち合わせに悪ふざけみたいな見た目でいったからか?」

 

 確かに今の自分はみすぼらしいローブだけを纏ったただのスケルトンメイジだ。そんな恰好で会議に臨めば誰だって怒る。

 

「うーむどうアルベドに言い訳しようか」

 

 打ち合わせをすっぽかしてしまい、さらに怒っている可能性も。効果を消してすぐに謝りにいけば許してもらえるだろうが、そうするには一度死ぬしかない。

 

「それはあまりにも危険過ぎるな。ユグドラシルの時と違い、プレイヤーの死亡に対するペナルティも復活もまだ未確定の事が多いからなあ…」

「さっきからぶつぶつと大丈夫かお前?」

 

 すっかり目の前のジャック・ザ・リッパーの事を忘れていたアインズ。

 

「ええと、ジャック・ザ・リッパー…さん。ここはエ・ランテルの共同墓地であってますよね?」

 

 アインズはとりあえずなるべく刺激しないように聞いてみた。まさか中位アンデットをさん付けで呼ぶ日が来るとは夢にも思わなかったが。まずは現在地の確認。もしかしたら勘違いしているだけで、全く別の似た場所の可能性もある。それに、この目の前のアンデッドは気になる事をいくつか話していた。

 

「ん?ああそうか、お前さん初めてだったな。ここはアインズ様が創られたアンデッドの地獄だよ。楽園だと呼ぶ奴らもいるけどな。昔は共同墓地だったみたいだが、今は壮大なアインズ様の実験場(おもちゃ箱)さ。俺もお前も囚われたんだよ、この死の螺旋に」

「死の螺旋?実験場ですか?」

 

 そんなもん作ったっけと首を傾げるアインズ。

 

「アインズ様がこの共同墓地に結界を張り、このエ・ランテル周囲のアンデッドを全部ぶちこんで殺し合わせているのさ」

 

 そうジャックが言うと、すげえよなと同意を求めてきた。アインズはそうですねと生返事しながらそういえばアルベドとそんな話してたなあと曖昧な記憶を思い出していた。

 

 元々はこの世界の天然発生したアンデッドとスキル等で創造したアンデットの差異を検証するという名目だったはずだ。なんとなくそれらしい事を言っていたらアルベドがえらく感銘を受けて、早速やりましょうと意気込んでいたっけ…ほんとにやってたんだ。というかなんだかもの凄く大仰な事になっている気がする。

 …そうだそうだ確か共同墓地に死者の領域(アンチライフ・フィールド)不死寄せ(アトラクト・アンデッド)の魔法をかけるのを頼まれて、驚嘆するアルベドの反応に気を良くしてユグドラシルの時には実用性がなさ過ぎて使えなかった魔法まであれこれかけた気がする。おそらくアルベドの毎朝の報告にはここの事が含まれていたのだろうが、全く読んでいなかった。いや、これからは真面目に報告書には一通り目を通しておこうと誓うアインズだった。

 

「あーじゃあジャック・ザ・リッパーさんもこの共同墓地に飛ばされてきたのですか?」

「いや、俺はここで生まれたんだよ。アンデッドが一定以上の数がいると新たなアンデッドが自然発生するだろ?お前はどうも外部から取り込まれてきたようだが」

「そうですね。ここに来るまではエ・ランテルにいたのですが」

「珍しいな。エ・ランテルにいるアンデッドは全てアインズ様の支配下のはずだからここに取り込まれないようになっているって話を聞いた事があるが」

 

 ジャック・ザ・リッパーが不思議そうにアインズを眺めた。そもそもアンデッドで自我持ちはほとんどが創造されたものかもしくは上位のアンデッドであり、スケルトンメイジという低位アンデッドで自我持ちだとほぼ誰かに意図的に自我を持つように創造されたものという事になる。しかし誰かの支配下に置かれている限り、この共同墓地に取り込まれる事はないはずだ。

 

「お前さんは自然発生した天然のアンデッドでなおかつ前世の記憶と自我を持っているという訳か」

「ええ、そうですねジャック・ザ・リッパーさん。多分、そうなのでしょう」

 

 まさかだ。アインズは思った。そう確かにこの実験を行う際に支配下におけるアンデッドと上位のアンデッドはこの実験に取り込まれないようにした。そうしないとエ・ランテルで警備や労働を行っているアンデッドまで取り込まれてしまうからだ。()()()()の支配下の者には全く影響のない実験だった。しかし、アインズは()()をこの実験の対象から除外していなかった。当たり前だ。アインズは死の支配者(オーバーロード)であり、低位アンデッドではないのだ。まさか自分が低位アンデッドになるなんて思うまい。

 

「そうか…骸骨魔法師(スケルトンメイジ)にレベルシンクした時点で私はこの実験の対象となり、取り込まれた。確かに私は()()()()の支配下でもないし、そして上位アンデッドでもなくなった。ならば当然ここに取り込まれる」

 

 ようやく館からこの共同墓地までの移動の謎が解けた。しかし、それはさらに状況が悪くなっている事に気付かせてくれただけだった。アインズは盛大な溜息をついた。そう、ここが存在する限り、取り込まれ続けるのだ。実験を止めるには元の死の支配者(オーバーロード)に戻るしかなく、それをするにはここから出なければいけない。

 

「なんか分からんが、まあ落ち込むなよ新人。自我持ちはここでは有利だからな。協力すれば、ここから脱出するのも不可能ではないぜ?」

 

 しかしそんなアインズを見て、ジャック・ザ・リッパーが励まそうと声をかけた。なぜだかさっきから考えこんだり落ち込んだりと中々感情豊かなアインズを見て、改めて珍しい奴だと感じたジャック・ザ・リッパーだった。こんな奴はこの共同墓地にそう多くないのだ。

 

「分からない事があればなんでも聞いてくれ。あと長ったらしいから俺の事はジャックでいいよ。さんもいらねえ」

「ありがとうジャック」

「俺はこの辺りを狩場にしているんだが、一人よりも二人の方が効率良いから仲良くしようぜ」

「ああよろしく頼むジャック。私は…」

 

 アインズはそこで名乗る名がないことに気付いた。アインズと名乗ったところで信じてはくれないだろう。なんせ証明する手立てがないのだ。

 

「私の名は…」

 

 アインズが続きを発しようとしたその瞬間。

 

 地面が蠢いた。

 

「ち、早速嗅ぎ付けてきやがったか!気を付けろ!」

 

ジャックは素早く臨戦態勢になり、両手の爪を構えた。アインズとジャックの足元の地面が盛り上がり、多数の腐った腕がまるで植物のようにそこかしこから生えてきた。

 

「これは!?」

 

 アインズの声を引き金に、一斉に襲い掛かってくる腕の群れ。足を掴まれそうになり、アインズは、後方へと下がろうとするもそこは骨の山。後方を塞がれ、目の前に群がる腕が手を広げ、アインズへと迫る。

 

「ちっ!百死手(ハンドデッド)か」

 

 舌打ちと共にジャックが両手の爪を一閃。地面から迫る腕を次々に切り裂いていく。ジャックは足元の腕を蹴りつけ、まるで踊るように腕の群れを蹂躙。アインズも素早く見渡し、前方にしか活路がないことを確認。

 

「ジャック避けろ!」

 

 アインズは叫ぶと手を前へとかざし、現状自分が使える魔法の一つを選択し、即発動させた。

 

火球(ファイヤー・ボール)!」

 

 杖がない為、中途半端な火力だろうが、この程度のアンデッドには十分に効果があると踏んで発動させた火球(ファイヤー・ボール)だったが、アインズの手からは通常の火球(ファイヤー・ボール)ではありえない程の大きさの火球が打ち出された。

 

「っ!」

 

 間一髪、横へと飛びその巨大な火球から逃れたジャック。

 

「あれ?」

 

 首を傾げるアインズの前を火球は猛烈な勢いで進み、無数の腕を炭化させていった。あまりの威力に驚いたのか残った腕達は地面へと一斉に戻った。

 

「殲滅しきれなかったか。今のうちにここを出ようジャック」

 

 ジャックの安否を確認しつつ前へと進もうとするアインズだったが 

 

「お前俺を殺す気か!」

 

 怒りを露わにしたジャックが猛然とアインズへと迫った。両手の爪を場合によってはすぐにでも振らんと力を込めていた。

 

「いや、待ってくれ!あんなに大きい火球が出るとは思わなかった!すまなかった!」

 

 平謝りするアインズに迫るジャックだったが、ふと気付いた事があった

 

「お前、スケルトンメイジだよな?杖なしであんな魔法打てるのか?」

 

 ジャックのよく知る、スケルトンメイジは低位アンデッドながら決して侮っていい存在ではなかった。流石に一撃では死なないとはいえ、火球(ファイヤー・ボール)が直撃すればジャックといえどかなりの重傷を負う事になる。しかし今ジャックが見たものは今までの火球(ファイヤー・ボール)とは桁違いの威力に大きさだった。それを触媒である杖もなしに?

 

「あ、いや確かに杖があったほうがダメージ補正もかかるし、精度もあがるのだが…」

 

 スキルもアイテムも装備もないつまり一切補正無しのしかも低ステータスでの魔法にしては有り得ない威力に精度だった。

 

「まさかステータスが下がりきっていない?もしくは何かしらの補正がかかっているのか?」

 

 分からない事だらけだったが、これはしかしアインズにとって朗報だった。自衛手段がないのは致命傷だろう。

 

「お前もしかしてすげえ奴なのか?」

 

 呆れ半分感心半分で呟いたジャック。いやそんな事はないさとアインズが返すと、ジャックはとりあえずこのままでは危険だ、移動しようと提案した。さきほど撃退した腕は一部に過ぎず、本体はまだピンピンしているだろう。そう遠くにはいないはずだから、奇襲のお返しとばかりに倒しにいこうと。

 

百死手(ハンドデッド)だったっけ?初めて聞くアンデッドの名前だ」

 

 アインズはユグドラシルの時にそんなアンデッドはいなかったはずと、記憶に検索をかけた。やはり覚えがない。となるとこの先気を引き締めなければならない。大きなハンデがある上に未知の敵である。

 

「低位アンデッドだけどな。こそこそと遠くからしか攻撃してこない奴さ。低位の癖にしぶとい」

 

さあ奴が逃げ出さないうちに行こう、とジャックが先頭に立ち、おそらくいるであろう方向へと疾走を始めた。アインズも置いて行かれないようにと後ろについていく。状況が分からない以上、味方から離れるのは愚策だ。

 

アインズとジャックは骨の山の間を抜け、元々墓場であっただろう広場へと出た。

 

「これは…」

 

 思わず足を止めたアインズの前には異様な光景が広がっていた。

 

 スケルトン同士が殺し合い、ゾンビ同士が食い合い、ときおりスケルトンメイジのであろう魔法が飛び交っていた。それは混沌。まさに地獄絵図そのものだった。倒されたアンデッドは消滅し、そして倒した方も別のアンデッドに襲われ、果てた。しかし、広場の地面からはアンデッドが次々湧きあがり、突然転移してきたように現れるアンデッド。一向にアンデッドの数は減る気配がなく、消滅しては生まれ、生まれては消滅を繰り返していた。

 

 それはまさに滅びと誕生の螺旋。

 

「ほとんどが自我のない連中だ。同族としては哀れに思うがな」

 

 ジャックはそう言うと、アインズへと振り向いた。

 

「そういえば聞いてなかったな。お前前世の記憶持ちだろ?名前はあるのか」

 

 ジャックの言葉に油断していたアインズは、

 

「ん?私はアインズ…」

 

 と答えてしまった。

 

「は?何言ってんだお前」

 

ジャックの身の毛のよだつような冷たい声にアインズは慌てて口を開いた

 

「そう、アインズ…様をリスペクトする…あ、アインだ!そうアインとこれからは私を呼ぶが良い!」

「…まあそれならそれでいいか。よろしくなアイン」

 

 …(アイン)か…フフフ、レベル1程度になってしまった私にはお似合いだな…とアインズ…ではなくアインは自らのネーミングセンスを自嘲気味に皮肉った。

 

 そんなアインを見て、ジャックは手を広げ、言い放った。

 変わることのないはずのマスクの笑顔を大きく歪ませて。

 

 

 

「改めて言うぜ、アイン。ようこそ“死屍累々の楽園(地獄)”へ。さあ、楽しく殺し殺されようぜ」

 

 

 

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