骸骨魔法師は無慈悲な支配者   作:エギュベル

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第2章:個々蠢動の不死者達

「アイン!俺が雑魚を相手するから、本体に火球(ファイヤー・ボール)を!」

「ジャック、タイミングは計るが威力も精度もまだ調整できないぞ?」

「来るのが分かる分は避けるから撃て!一発では死なないと思うが、俺が当てる隙を作る」

 

 アンデッド蠢く広場の片隅。アインとジャックの前には何体ものスケルトンの群体が立ち塞がっており、その奥に無数の腕と手で構成された、かろうじて人型だと認識できる醜い物体が体を揺らしていた。目の前のスケルトン達は広場で殺し合っているもの達と違い、統一した動きを見せ一斉に二人へと襲い掛かってきた。

 

百死手(ハンドデッド)か…低位とはいえアンデッド使役スキル持ちは厄介だな」

 

 アインは剣や槍を振り上げ突撃してくるスケルトンを見つつ、さてどうしようかと考える。ジャックが剣と槍の群れを華麗に回避しつつ容赦なく両手の爪でスケルトンを切り裂いていく。スケルトンは種族特性として刺突武器耐性と斬撃武器耐性を持っているが、ジャックの爪はそんな事を微塵も感じさせず、バラバラにしていく。

 

 ジャックが猛然と百死手(ハンドデッド)へと進むのを見て、百死手(ハンドデッド)は両手を地面へと突き刺した。百死手(ハンドデッド)の体が一回り小さく収縮されていく。

 

「足元に来るぞ!」

 

 ジャックがスケルトンを一体屠りつつ、声を上げた。同時にアインとジャックの足元に先ほどの腐った腕が多数現れこちらの足を拘束せんと襲い掛かってくる。

 

「なるほど、使役したアンデッドに気を取られている隙に足を拘束しそこを叩かせると。中々考えてあるじゃないか」

 

 アインはスケルトンの剣撃を避けつつバックステップし地面から生える腕の群れから離れると、ジャックの位置を確認しつつ魔法を発動。

 

火球(ファイヤー・ボール)

 

 アインの手から放たれた火球は腐った腕とスケルトンを焼きつつ百死手(ハンドデッド)へと進む。ジャックは両爪でスケルトンの群れを切り裂きながら素早く後退し、アインの火球の範囲から逃れた

 

「爆ぜよ」

 

 アインの言葉と共に火球が百死手(ハンドデッド)の手前で爆発、周囲のスケルトンごと百死手(ハンドデッド)を吹き飛ばす。

 

 爆風の煽りを片手で防ぎつつ追撃をしようと足を踏み出したジャックだったが、目の前に広がる光景にその足を止めてしまった。

 

スケルトン達は皆吹き飛び、爆発の直撃を受けた百死手(ハンドデッド)はもはや原型を残しておらず、何本かの腕のみが焼け爛れた状態でもがいていた。

 

「足元への攻撃と移動拘束、使役した群隊による二面攻撃。かなり有効な手だが、足元への攻撃中はどうも回避行動を取れない上に防御力も著しく下がっているようだな。この程度の火球(ファイヤー・ボール)で一撃とは…」

 

 悠々と歩きながら解説するアイン。のたうち回る百死手(ハンドデッド)を踏み付けつつアインは自身の力の衰えを大きく感じていた。本来の自分ならば腕どころか細胞一つ残さず、地面が溶解するほどの火球(ファイヤー・ボール)を撃てるのだが、今はこの様である。

 

「はあ…本当にスケルトンメイジに戻ってしまったんだなあ」

 

 戦闘を終え、痛感するアインだった。謎の補正によりそこらのスケルトンメイジには出せない威力と精度とはいえやはり不満が残る。

 

「速度も範囲も火力も全然駄目だ。こんなものでは上位どころか中位アンデッドすら倒すのが危ういな」

「いや、十分に凄いと思うぞアイン…」

 

 あれだけの魔法を撃っておきながら落ち込んでいるアインを見つつ、ジャックはアインに対する評価を改めた。最初のいきなり火球(ファイヤー・ボール)には驚いたが何より今回の戦闘で分かったのが、あれが決して本気ではなかった事だ。自分が回避できるタイミング、距離を把握し火球の速度、威力、範囲を完璧に計算尽くした先ほどの火球(ファイヤー・ボール)。とてもではないが低位アンデッドの撃てる物ではない。

 

「アイン、お前本当にスケルトンメイジか?外のスケルトンメイジは皆そうなのか?」

「…ただのスケルトンメイジだよ。戦闘については()()心得はあるがね」

「そうか…いや頼りになるよ」

 

 戦闘が終わり、体を弛緩させるジャックだったが、アインはまだ警戒態勢を維持していた。

 

「どうした?あれだけ派手にやったんだ。しばらく弱いのは近寄ってこないと思うぞ」

 

 ジャックがアインの警戒に疑問を持ち問いかけた。この辺りには低位アンデッドしかおらず、先ほどの炎を見て近付いてくるものはいない。

 

「いや…戦闘が終わって油断している時が一番襲われやすいからな。杞憂のようだったが」

 

 しばらく周囲を見渡したが、動きがないと分かるとようやくアインは警戒を解いた。なんとなく視線を感じるような気がするが、残念ながらいつもなら常時発動させていた探知系魔法に対するカウンターは今のアインには使えないので確かめようがなかった。

 

 まだ完全に状況に把握出来ていないのだ。慎重に行動すべきだ。そういう意味では選択肢があまりなかったとはいえ、派手な火球(ファイヤー・ボール)を撃ったのは早計だったかもしれない。やはり一刻も早く、現状を把握する必要性を感じた。

 

「ジャック、この後はどうする?というかこの実験は確か2、3日程前から始まっていると思うがどの程度レベルを上げた?」

 

 アインはまずは現在の相棒であるジャックの力を把握するところから始めた。

 

「レベル?なんだそれ。俺はここに生まれて1年ぐらいだがそんなもの聞いたことがないな」

 

 ジャックの言葉にアインはそういえばこの世界にレベルという概念はなく代わりに難度という強さを表す指標があることを思い出した。しかしあれはあくまで人間から見たモンスターの強さであり、モンスター同士では意味を成さない指標のはずだ。いや、それよりも。

 

「生まれて、一年?馬鹿な。まさか生まれたときからここはこのような状況だったのか?」

「?ああそうだが。俺はここらでは長生きなほうだが、中心部に行けばもっと俺よりも長く生きている奴もいるぜ」

 

 そしてジャックは説明した。この共同墓地では、長く生きている奴ほど強い。大抵のアンデッドは生まれてきてもすぐに襲われ死んでいく。しかし中にはジャックのように自我を持ち、中位や上位のアンデッドに生まれるものがおり、そういったものが長く生きているという。そういった者達を上位者と呼び、それぞれがテリトリーを持ち日々争い合っている。ジャックのように一定のテリトリーを持たない者は少ないそうだ。

 

「この墓地の中心である霊廟から離れるほど発生するアンデッドは弱くなる。だから俺はなるべく外縁から離れないんだ」

 

 まだ死にたくないからなとジャックは締めくくった。

 

「しかしジャック。君も十分に強いと思うがそんな君でも敵わないアンデッドがいるのか?」

「いる。今までで出会ったの一回だけだが、逃げるので精一杯だった。あれは化け物だ…」

 

その時の事を思い出したのか、微かに震えるジャック。おそらく上位のアンデッドに遭遇したのだろう。しかし精神系魔法に耐性を持つアンデッドに恐怖を抱かせるとは相当な強者だったんだろう。しかしアインはそれよりも気になる事があった。ジャックは生まれて1年ぐらいだという。生まれた時から実験は始まっていたと言っているがそれはありえない話だ。この実験は2、3日前に始まったばかりのはず。仮に何日か前後していたとしても、1年などという期間は考えられない。それだとここでカジットやクレマンティーヌと戦った時には既に実験が始まっていた事になるではないか。

 

 と、ここまで考えたところでアインは一つの考えに至った。それを確かめる為にジャックに問いかけた。

 

「ジャック。一年もこの狭い場所に閉じ込められて不満はないのか?上位者がテリトリーを持って争っているといったな?それでは中々身動きがしづらいのではないか?だからこそ外縁にいるのだと思うが」

「いや決して狭いとは思った事はないな。端から端まで一か月ぶっ続けで歩いても辿り着かないぐらいには広いぞここは?」

「…やはりか」

 

 アインはこの共同墓地をぐるりと囲む壁を背にかつて霊廟があったであろう方角を睨んだ。しかしかつてあったはずの霊廟は見えず、薄い霧が漂う墓地が延々と続いていた。確かに広い墓地ではあったが、疲れを知らぬアンデッドの足で一か月かけても横断できないような広さはなかった。

 

 間違いなく実験の際にかけた加速領域(アクセラレイト・フィールド)領域拡張(エキスパンド)の影響だと確信するアイン。加速領域(アクセラレイト・フィールド)はユグドラシルでは一定範囲内のプレイヤーの移動速度上昇、詠唱、リキャストタイム短縮の効果だったが、どうやらこの世界では本当に時間が加速されているようだ。おそらくだがこの共同墓地外での1日がこの中では加速され1年以上の時間に感じるのだろう。単純にそうなったらレベリングの効率良いよなあという軽い考えでかけたのだったが、まさか本当に効果が出るとは。

 

 更に土地が狭いと発生するアンデッドの数が制限されるだろうと領域拡張(エキスパンド)をかけたのだがどうやら拡張し過ぎたようだ。流石に広過ぎである。

 

「考えなしにやって自分の首絞めていたら世話ないな…」

 

 しかしある意味朗報でもあった。外の事を考えると一刻も早く脱出したいのだが、幸い外ではまだ5分も経っていないだろうし守護者達もまだ気付いてはいまい。これならば外に戻った際にある程度誤魔化しが効くのではないかと考えるアインだった。流石に間違ってアイテムを使った挙句自分で作った実験に取り込まれてあろうことか自分が実験台になってしまったなんて事が守護者達にバレた日にはもう支配者たるアインズ像は脆くも崩れ去るだろう。それだけはなんとしてでも避けねばなるまい。

 

「ジャックよ。君に目的はあるのか?まさか無目的で一年も戦い続けた訳でもないのだろう?」

 

 アインはようやく少しづつではあるが、状況を把握しつつありそしてここから脱出できる手立てを少ないながらも、思い付いていた。しかしどの方法を取るにせよ、ジャックの協力は不可欠である。

 

「そりゃあ強くなる事だな。強くなって認めてもらえればここから出され、アインズ様の直近の護衛になれるのだからな。ここの自我持ちは皆ほとんどそれが目的なんじゃないか?」

「そ、そうなのか…いやなるほど。という事は強くなると、ここから出られるのだな?」

「ああ。お迎えがくるとかどうとかいう話を聞いた事がある」

 

 お迎えか…まあ誰か配下の者がくるのだろう。という事は定期的のここを監視している者がいるはずだ。それと接触できれば、あるいは脱出できるかもしれない。問題はアイン自身をどうやってアインズだと証明するかだが…まあそれについてはなんとかなるだろう。

 

「強くなるには、やはり雑魚を狩っていても仕方がないな。その上位者とやらを倒しにいこうではないかジャック」

 

 今度はアインが手を差し出した。そんな状況では決してないのだが、少し楽しんでいる自分を否定できないアインだった。自分よりも強い敵ばかりで自身の能力すら把握出来ておらず、あるのはまだ信用できるかどうか分からない味方と、少ない魔法とスキルだけだ。

 

「いいぜアイン。お前となら何とかなる気がするからな」

 

 ジャックはアインから差し伸べられた手を強く握った。こいつは他の奴らとは違う。それはジャックにとって最早確信的な事だった。今まで数回自我持ちとは接触したがどいつもこいつも自分勝手な奴らばかりだった。まだ生きているのか、もう死んでしまったのかもう分からないが…

 

「まあ何処までいけるか分からないが、努力してみよう。全く…ユグドラシルを始めたばかりの頃を思い出すよ」

 

 しかしあの時と大きく違うのはレベルが下がろうとも決して消える事ないアイン自身の経験と知識。そして仮にとはいえパーティを組んだ。アインの脳裏にチラリと漆黒の剣の面々の顔がよぎった。対等な立場でのパーティはアインズ・ウール・ゴウンとして、モモンとしてはもう組めないものだ。ならば折角の機会だ。存分に楽しもうじゃないか。

 

 「そうだな。まずはここから一番近い上位者のテリトリーだと、“竜の墓場”か」

 

 ジャックが指差す方向へとアインは注視するが、霧に覆われ先は見えなかった。方角的には北西か?

 

「ここがこの共同墓地の霊廟を中心として丁度一番南の端だ。“竜の墓場”は霊廟から南西へと向かった所にあったと思う。ここからは北西に進めば辿り着けるはずだ。」

「ならばいこう。“竜の墓場”の上位者について情報はあるか」

「聞いた話だけどな。」

「道すがら聞こう。対策も練った方が良いだろうな。今の手札の少なさを考えるとできれば後数人は仲間が欲しいが…」

「…俺やお前みたいに友好的な奴はほとんどいないと思うからあまり期待すんなよ」

 

 ジャックとアインはこうして、対策を打ちつつ、上位者を狩らんと進むのであった。しかし彼らはまだ気付いていない。アインという特異点が現れた事によって実験場に変化が起き始めていることを。そして何より、狩る者が決して彼らだけではないという事を。

 

 

 

 

 

 アインズとジャック達のいる広場から少し離れた場所にある枯れ木林。幽鬼のように並び立つ枯れ木の一本の今にも折れそう枝に器用に座る人影。燃えるような赤い髪をなびかせ、十字架を弄んでいた。

 

「…あの火力。ふふふ面白そうなの見ぃ付けた」

 

 ショートソード程の長さの十字架で短い横のアームが、長い縦のアームのやや上方で直角に交差していた。しかしそれを逆さまにまるで剣のように握り、その人影は邪悪な笑みを浮かべた。

 

 枯れ木林からアイン達を点とした正反対に位置する荒地を禍々しい馬車が駆けていく。所謂戦闘馬車(チャリオット)と呼ばれる物であり馬車の前面と車輪にはスパイクと剣がいくつも刺さっていた。馬車を牽く馬はところどころが腐っており、骨だけの頭部の中で青い火が揺れていた。

 

「…主に報告せねば」

 

 二輪の戦闘馬車(チャリオット)を操るその人影の呟きは、誰にも聞かれる事なく馬と車体の音にかき消された。

 

 

 

 

 

 

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