「やはりそうだとしか考えられないな」
“竜の墓場”への道中で何度か戦闘があり、アインはそれによりいくつかの事実を確認出来た。まず自身の使える魔法とスキルだが、本来の
「
目の前の
「ふむ。装備ペナルティは無しと」
腕と首を同時に斬り飛ばされた
アインは右手を返し、ギリギリのところでスケルトンの剣を受け止め、金属音と火花を散らせた。スケルトン後方のアンデッドの群れが今にも襲い掛からんと武器を振り上げた。
「強度も問題なしか」
アインはそう呟くと、空いている左手をスケルトンへと向け、魔法発動。
「
アインの左手より二つの光球が放たれ、スケルトンを貫通。光球は勢いを落とさずアンデッドの群れの中の
「
アインは剣を下半身だけの
「いや、もう何されても驚かねえよ…」
ジャックは驚きを通り越して呆れた声を出した。剣を作り、それで近接戦闘を行いつつ魔法も発動させ、無駄なくアンデッドの群れを殲滅させるスケルトンメイジを見た後のジャックにはそれぐらいしか言う事がなかった。試したい事があるからと1人で戦いたいというアインの要求に答えジャックは静観していたが、危なくなればすぐに手助けしようと密かに身構えていた。どうやらいらぬ心配だったらしいが。
「こちらの世界に来てから戦士として戦った経験は無駄ではなかったようだが、それだけではなさそうだな。」
アインは実戦を終えて、確信を得た。スケルトンメイジの貧弱の体とは思えない体さばき。さらに純粋な攻性魔法職である
「そしてこの体から沸き上がるような力」
アインは先ほどの戦闘が終わった後から自身の内から少しずつだが力で満たされていくのを感じていた。それはユグドラシル時代のレベルアップ時に感じた物にとてもよく似ていた。
「あれだけ倒せばそりゃあ強くもなるぜ。俺も最初はそうだった」
ジャックの返答にやはりそうかと確信するアイン。おそらくステータスも上がっているはずだ。遠い昔の記憶であるレベルアップの楽しみを、強くなる喜びをまた再び味わえるようになるとは。アインは心の中でさざ波のように少しずつ押し寄せる感激を味わっていた。
このままレベルを上げていけば、元に戻れるはずだ。ならば移す行動は一つだった。
「さてウォーミングアップも済んだところでそろそろ本番と洒落込もうか」
「ああ。今のペースだとあと半日もしないうちに着くと思うぞ」
アインがジャックへと不敵に笑い、ジャックも頷いて墓石から腰を上げた。アインはささやか自分の成功に少し油断していた。言葉を換えれば浮かれていたのかもしれない。ジャックも仲間の成長を心から喜んでおり、警戒を解いていた。そうするとどうなるか。皮肉にもアインが一番最初の戦闘後にジャックに言っていた事だった。
ゆえに。
二人は豪速で飛来する鎖付きの鉤に気付かなかった。
「ジャック!」
アインが先に気付いたのは単純に鉤がジャックの背後から迫ってきていたからだ。ジャックもアインの声に遅れながら気付くと、間一髪頭を下げまるで碇のような鉤を躱す。ジャックの頭上を鉤と鎖が耳障りな音を立てて過ぎてゆき、そのまま真っ直ぐ鉤はアインへと飛来する。アインは横へと飛び、回避する。アインの立っていた位置を鉤は通り過ぎ、そのままアインの後ろにあった墓石を次々粉砕していった。
「戻ってくるぞ!」
勢いを失ったかに見えた鉤が今度は繫がっている鎖に引っ張られてアインへと追撃をかける。アインは鉤の形状からしてこちらが本命の攻撃と判断。地面へと転がりながら鎖、そして遅れてやってきた鉤から距離を取る。鉤が過ぎ去ると同時に立ち上がりアインが声を上げた
「ジャック!鎖を追えるか!?」
「もう向かってる!」
ジャックは唸る鎖を避け、鉤を両手の爪で受け流してそのまま後方へ鉤を追うように反転、疾走。
「あれは…まさかあいつか!」
先に見えるのは今まさに手繰り寄せた鉤を再び投げようとする屈強な大男。包帯を全身に巻き、その体には鉤や杭が打ち込まれていた。
「ウボオオオオオオオオオオオ!」
雄叫びを上げ、再び鉤を投げつけようとする大男だが、それよりも先にジャックが大男に肉薄。
「てめえまだ生きてやがったか
鉤の投擲から目の前の敵への迎撃に切り替えた
「ち、やはり効かないか!」
ジャックの猛攻に怯むことなく、
「死にぞこないが」
「殺す…敵は殺す。てきはてきはてきはころころころころrkrkrkr!!!」
狂ったような声を上げ
「アイン!」
「
ジャックへの返事の代わりに追いついたアインが火球を放つ。墓石に体ごとぶつかり、粉砕させたところで止まった
「!?ジャック!まだだ!」
爆発の余波を受けつつ、ジャックがアインの声を受け素早く態勢を整える。
「痛い痛いイタイイタイイタイイタイぃぃぃぃぃぃ!!!!!」
血の涙を流しながら鉤を振り回しながら突進してくる
「あの
でたらめな鉤の軌道がむしろ読みづらく、安易に踏み込めないジャックは距離を取る。
「ジャック引け!敵はそいつだけではないぞ!」
アインは素早く周囲を見渡すが乱立する墓石が視界を塞ぐ。火球が
「隠れているぞ!おそらく上位者だ!」
隠れている時点でそれは明白だ。自我も知性もないアンデッドならば最初からその姿を見せているはず。隠れる知能に効果的な
アインは即判断し、
「っ!いたぞ!アインお前から十時の方向だ!」
粉塵に紛れ、墓石の横から爆風の煽りを受け赤い髪が靡いたのを見たジャックが叫んだ。
「了解した!
アインの手元から強化された光球がジャックの示す方向へと放たれた。あまり速さに光球は引き延ばされ、まさに矢のごとく墓石の裏に潜む影へと殺到する。同時にジャックの足元の墓石を
「お前はいい加減くたばれ!」
ジャックは飛び降りると、
爪だけに留まらず指ごと鋭利なメスと化した両手が地面と当たり、ギャリギャリギャリと音を立てながら火花を散らす。
「だすけて!だすけて!だりあさ…!」
顔の位置が前後逆になり前が見えず、鉤すら放棄し、何かに助けを請うような声を上げる
「…ちっ!」
ジャックは下げ切った腕を目の前の
体のバランスを崩した
「…くそが」
しかしジャックは悪態を吐くと腕を降ろした。そのまま
「アイン!」
ジャックの声が聞こえてきた。アインは油断せず墓石の間を縫うように進む。先程の
「そこか!」
視界の端に人影が映り、アインは
「埒があかんな」
アインは思い切って前へと進む。支援魔法を使えるアンデッドモンスターなど数える程しかおらず、なおかつ中位以上となると候補は絞られる。もちろんアインの知らない未知の種族である可能性は否めないが。
「さてそろそろ正体を現せたらどうだ!?」
アインは再び、
「っ!」
爆風に紛れ、走る影にアインは追撃を開始。
「ジャック!そっちに上位者が逃げた!挟み撃ちをするぞ!」
アインはわざと大きな声で、そう叫び、逃げ惑う影とは全く見当違いの場所を、
「そっちでいいのか?そっちは・・・」
爆破の起きた位置と正反対のほうへと逃げていく影。その影は墓石から飛び出し、ようやく自分が誘導されたと気付いた。
「…さっきの声と爆破は陽動…やられたわ」
丁度そこから乱立する墓石が無くなり、荒野が広がっていた。
「そういうことだよ。さて大人しく降参してくれるかな?」
アインはゆっくりと墓石から歩みでた。目の前には1人の女が佇んでいた。赤く長い髪が風に揺れ、血の気が失せて真っ青ながらも美しく整った顔と燃えるような赤い瞳。まるで夜会のドレスのような真っ黒のローブは胸元が大きく抉れており、豊かな乳房を覗かせていた。裾は短く、太ももが露わになっており、このような墓地でなければさぞかし扇情的だろうが手に持つ十字架と獰猛な肉食獣のような表情がそれを打ち消していた。
「その逆十字に支援魔法。ということはやはり
「確か
「…」
「図星だろう?まあしかし支援魔法の有用性は確かに認めよう。
アインの説明に
「アイン!そいつか!?」
アインの横にジャックが飛び込むように駆けつけた。爪を伸ばし、すぐにでも飛び掛らんと姿勢を低くする。
「待て、ジャック。こいつは
「倒さないのか?」
まあ待てとアインはジャックを抑えた。
「ジャック、周囲を警戒してくれ。まだ仲間がいないとも限らない」
「解った。アイン、お前はどうする?」
「交渉だよ。全て力で片付けるのはいささか強引過ぎる。そうは思わないか
アインがそう声を
「…ふふふ。やっぱりあなた
「
「…!?避けろジャック!」
迫る槍にアインは肌が粟立つ感覚を、肌はないのだが、感じ咄嗟にジャックを突き飛ばしつつ魔法を発動
「
「ぐはっ」
剣では受けきれず、大きなダメージがアインに入る。あまりのダメージにアインは動けず、膝が地についた。
「
追撃するように放たれる一条の光。アインを貫き、さらにHPを削る。
「アイン!」
突き飛ばされたジャックがアインを庇うよう前へと出た。爪を伸ばし疾走しようとするも、
「馬鹿な…
アインのうめき声に答えるように
「二人まとめて死になさい。
逆十字から溢れるのは極光。辺りを白く塗りつぶす光が逆十字へと収束され、アインとジャックへと放たれようとした瞬間。
「まっでぐれ!だりあさま!」
墓石から巨大な影が飛びだすとジャックとアインの前へと出た。
「
「レクタ!?」
ジャックと
「ガアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
声を上げ耐える
「だりあ…さま」
それだけ呟くと
「ジャック!」
アインは素早く体勢を立て直すと、倒れた
呆然と立ち尽くす
「嘘だろ?…」
甲高い音が響き、火花が飛んだ。
それは
「支援魔法も遠距離攻撃もできる素敵な後裔に、
「ちっ!」
アインは素早く打ち払われた剣を前へと戻そうとするがそんな隙を与えまいと逆十字の突きがアインへと打ち込まれる。あまりの衝撃と痛みに思わず後ずさるアイン。ジャックは吹っ飛んで倒れたっきり動いていない。消滅していないところを見るとまだ生きてはいるようだが。
「この体さばきに殴打、神聖属性武器。こっちが本命か!」
「必死に逃げ回るウサギに追い詰められる気分はどう?」
「くそ!逃げ回っていたのもわざとか!」
「そうかもね。知ったところでどうにもなりはしないわ。さよならスケルトンメイジ。あなた中々面白かったわ」
「なるほど…ダリアか…!忘れていた!」
目の前の存在が逆十字を振りあげて、ようやくアインは記憶の齟齬に気付いた。
“
たったそれだけで
「くそったれ!…そんなの最強のアンデッドじゃないか!」