「有効打があるとすれば炎、神聖属性魔法か近接戦闘による突破、か。…厳しすぎるぞ!」
アインは転がるように
「そうね。炎もしくは神聖属性魔法を撃てて、なおかつ近接戦闘をこなせれば可能かもしれない。試してみれば?」
アンデッドに共通する弱点はいくつかあるが、最も一般的なものは炎属性か神聖属性による攻撃だろう。そして特にこれらの弱点をアイテム装備魔法などの追加効果で全て無効化するのは不可能であり、例えば炎属性攻撃を
「アンデッドしかいないこの墓地において憂うべきは低位アンデッド、そうあなたのようなスケルトンメイジでも撃てる炎属性攻撃のみ」
だから。そう続けてバックステップし距離を置いた
「
赤と緑の膜が何重にも
「全く。私のような雑魚相手に随分な念の入りようだな」
動きに慣れさえすれば、なんとか凌げる逆十字による攻撃の隙に
「残念ながら私はロールプレイを重視していてね。死霊系魔法しか取っていなかったんだよ。神聖属性魔法なんて一つも撃てはしない」
アインは魔法を警戒しつつそう説明しながら、
「だから破れかぶれの突撃?意味のないことを」
あっさり弾かれたアインの剣。剣が上へと打ち払われて、空いた腹部へと強烈な蹴りを叩きこまれた。
「くっ!」
強烈な筋力から繰り出せる蹴りはそれだけでアインに十分なダメージを与えたが、神聖属性ではない為アインは耐え、体勢を崩さずそのまま後退。
「
アインは剣先からまばゆい光の矢を三本放った。魔力増幅した矢が音速で
「無属性なら効くとでも思った?
しかし矢が当たる直前に緑色の膜が
「
アインは無理やり剣を前に出し、火球を放つ。威力よりも範囲重視の火球を放った。至近距離での爆破に、アインと
「勝てないと分かっての自殺行為!?」
逆十字を地面に立て、後ろへと吹き飛ぶを防いだ
「十字架に殴られるよりはマシとはいえ、これはキツイな…」
体中が悲鳴を上げており、ギシギシと骨が軋む音を立てていた。しかしのんびり思考している暇はなかった。
「
「くそ!」
嫌な予感がし、アインはすぐに立ち上がると迷わず、突撃。今から後方に逃げたところで魔法の範囲外にはとてもじゃないが逃げられない。朗々と詠う
「降り注げ
辺り一帯に光の束が雨となり、振り注いだ。それはあまりにも荘厳でそして静かな攻撃。回避不可能、広範囲殲滅型神聖属性魔法。光の雨の一つ一つのダメージはそれほどではないが、あまりの広さとそして効果時間の長さは留まる事は死を意味していた。
「はああああ!」
多少のダメージは覚悟でアインは剣を掲げ、吶喊。この魔法の効果時間の長さ。それはつまり
剣によっていくらか直撃を防ぐも光の雨によるダメージでよろめきつつ、アインは剣を上段から振り下げた。まさか突っ込んでくるとは思わなかった
「そういうの嫌いじゃない!」
「…!?」
アインの斬撃を受け止めきれず、右腕に裂傷。そのまま剣を返し追撃するアインに危機感を感じ、後ろへと退避。
「どうした?遠距離も支援も近接戦闘も得意なのだろう?なぜ剣を持ったたかだかスケルトンメイジから退く?」
「なぜ
アインの体の各部から浄化による煙が上がっており、かなり危険な状態になっていた。しかし、アインはもはや勝利を確信した。
「アクティブスキルというものは回数制でね。そう何度も
「…まさかそれでわざと」
「ああ。わざと勝ち目のない近接戦闘と無意味な後退を繰り返し、誘ったのだよ。魔力と筋力の入れ替えと聞くとととても便利なスキルのように聞こえるが、魔法を使うたびに、近接戦闘を行うたびにスキルを使う必要がある。…最初から近接戦闘だけ、もしくは魔法だけで戦うべきだったな。強いアピールをするのは良いがそれで自分の首を絞めるのは傍から見ていると滑稽極まりないな」
「…それで?確かにもう先ほどのよう近接戦闘は出来ないわ。でもそれだけ。
「炎と物理攻撃に耐性を魔法で得たあたしをその剣だけで削りきれるかしら?」
「確かに難しいな。そうだな、
アインは手の内の剣をためつすがめつ、刃に走る赤い回路が発光している事を確かめた。
「さて実践といこうか」
「
「これでも魔法職は一時期極めていてね。予備動作から発動時間、挙動、はほぼ頭には入っている」
さきほどのような不意打ちや距離が離れているならともかく、来ると分かっていれば、範囲魔法でなければ避けるのは容易い。アインは素早く
「来ると分かっていれば怖くないのはこっちも同じよ!」
「ぐうううう」
アインに致命的でないにせよダメージが入る。
「ちっ!」
「死ね!」
そのまま逆十字をアインの左腕へと打ち付けた。その衝撃でアインの左腕は折れ、アインは無理やり刺さった剣を右手だけで抜いた。
「うおおおお!」
アインはそう叫び右手だけで大上段からの袈裟切り、先ほどの一撃でバランスを崩しつつも今度は振り上げるように払う
「
同時にアインは持っている剣
「そんな…!なぜスケルトンメイジが神聖属性魔法を…」
左半身を消滅させ、倒れた
「言っただろ?私は神聖属性魔法なぞ一切使えないと。ならば使用する奴から奪えばいいだけの話だ。いや、思ったよりも上手くいったようだ。なんせ試作品だからな、発動しないかもしれないとドキドキしていたよ」
アインの作成した
「相手の発動した魔法を吸収、封印。それを任意に斬った相手に発動。残念ながら封印する際は完全に吸収できず、ダメージは受けてしまうようだ。封印、発動自体は完璧だがまだまだ改良の余地がありそうだ」
「あたしの魔法を最初、剣で受けたのはその為…」
「ああ、一目見て
ふううと息をつき、アインは地面へと座り込んだ。アンデッドの特性上疲れはないのだが、精神的に疲れた。いやなんで初っ端からこんなぎりぎりな戦いをしているんだ?先が思いやられる…。勝ったとは言え、回復手段がない以上、ジャックも自分もしばらくはここからは動けない。
「それではなぜ、止めをささない」
「言ったはずだ。力はある程度の事は解決できるが、それだけだ。私は力や武力だけで全てを支配できる等と驕ってはいないのだよ
「そう…でも強くなりたいのでしょ?だったらさっさとあたしを殺して強くなればいい。」
「それも手だが、これで懲りたよ。手札が揃わないうちに勝負に出るのはやはり自殺行為だ。ジャックは敏捷性、反応に長けるが、火力と耐久力に難があり、私なんてただのスケルトンメイジだ。出来れば支援魔法と回復魔法、それとこの共同墓地の上位者全てにおそらく有効であろう神聖属性魔法を使えて近接戦闘もこなせる仲間が欲しいな」
おお!ポンとわざとらしく手を打つアイン。
「なぜか目の前に仲間にして欲しそうに見つめている
「そんな目で見てない!」
睨みつける
「さて、ではどうしようか。私に仲間と共に挑んできたお前には何か目的があるのだろう?それをこんなところで諦めるのか?」
「あいつは仲間なんかじゃない…」
「そうか?あの
「…」
「レクタと呼んでいたな。早く助けなくていいのか?可愛いお嬢さんにフラれたスケルトンメイジが
アインは手を
「待って!」
「待とう」
アインは手を戻すと今度は
「私と共に来い
「約束して…レクタは連れていかないと。あの子ひどい傷で倒れていたから気まぐれで助けたの。そしたらなぜか私に懐いて付いてきただけ。本当は戦いなんて望んでいないの」
ただ、単純に面白そうだったから。そして自分の力を試したかった。まだ生まれたばかりの
「ふむ…あの耐久力は良い戦力になるのだが…致し方あるまい。良いだろう。ただしここで回復してしまうときっとお前にまた付いていくだろう。だからこのまま置いていく。それでいいな?」
「ええ。それで結構よ。私はダリア。負けたからにはあなたに従うわ」
「私はアインズ…様を尊敬するアインだ」
「そう。よろしくねアイン。回復するから逆十字取ってくれる?」
「ああ、ちょっと待ってろ…って重っ。え、こんなの振り回してんの?」
アインは立ち上がり、ダリアのすぐ傍に落ちていた逆十字をなんとか持ちあげると、引きずってダリアの右手へと持たせた。
「
負のエネルギーがアインを包みこむ。折れた左腕も元通りになり、HPも回復した。
「便利だよな…それ」
続けて自分へと発動させるダリア。吹っ飛んだ左半身が元通りになり、ダリアは立ち上がった。そして逆十字を振り上げた
「裏切らないとは言ってないから!」
ダリアは邪悪な笑顔のままアインへと逆十字を振り下ろした。しかしアインは微動だにしなかった。アインに当たる直前。ダリアは逆十字を横へと逸らせた。アインのすぐ横へと落ちた逆十字の衝撃で土が舞う。
「…反応すらしないなんて。試していたのがバレバレ?」
「…児戯はそれぐらいにしておくんだな」
ちぇっと舌を出したダリアは見た目よりも幼く、しかし相応に思えた。
「じゃあジャック?だっけあのぶっ飛ばしたの回復してくる」
そういうとダリアはくるりと回ってジャックの倒れている方へと向かった。
「…」
いやいやいや、完全に油断していましたよ。あんなの反応出来る訳ないじゃん。内心冷や汗が滝のように流れたアインだった。向こうで黒いエネルギーが放たれているのを見るとちゃんとジャックを回復してくれているようだ。
「お前は!アイン!?まさかやられたのか!?」
「あーえっと落ち着いて。もう終わったから」
「終わった?まさかアインを殺したのか!?貴様!」
爪を構えるジャックにどうしようかと迷うダリア。さてこのまま見ておくのも面白いかもしれないが…
「いやだからもう敵じゃないから」
「敵にならない程の弱さだったと?殺すのみならず侮辱するとは許さんぞ!」
「…もっかい殴っていいアイン?」
呆れたダリアがこちらに視線を向けた。仕方なく、歩み寄るアイン。
「いやMPの無駄使いはやめておけ。もしかしたらまたすぐ襲われるかもしれん」
「アイン!無事か!…あれ?」
ようやくアインの存在に気付いたジャックだったが、状況が把握できず混乱しているようだ。
「ジャック、新たな仲間のダリアだ」
「昨日の敵は今日の友って言うしね。私ダリアよろしくね」
「仲間…いやさっきまで戦っていて…どういうことだアイン!」
こうしてアインはジャックに現状を把握させるのにしばらくの時間を取られるのだった。
*
「ごめんねレクタ。あたし行くから。一人でもこの辺りにいればあなたを殺せる奴なんていないから大人しくしているんだよ」
倒れている
「これでよしと」
そしてダリアは立ち上がり新たな仲間であるアインとジャックの下へと歩み去った。
「さて行くか“竜の墓場”」
「アイン、やっぱりこいつ信用できねえから置いていこうぜ」
「うるさいよ無能君。そういうことはまともに戦ってから言えば?」
「腹掻っ捌いてやろうか」
「やれるものならどうぞ、変質者」
「…やれやれ」
賑やかになった一行は目的地である“竜の墓場”へと向かう。
*
アイン達より遠く離れた墓地。
「…それで、カルタ。そのスケルトンメイジが要監視対象だと?」
「はっ!スケルトンメイジにあるまじき戦闘能力。さらに常に戦場を俯瞰する余裕を持ち、圧倒的カリスマで仲間も増やしております」
「なるほど。それで、君は個人的にどう思う?」
「間違いなくそうかと」
「…まだ時期尚早な気がするんだけどね。でもあれも動いているのでしょ?」
「はい。恐れていた事態になりつつあります」
「まだ
「どう致しましょうか」
「
「よろしいのですか?」
「もちろん。その際は…」
「その際は…ナザリックが威を示しなさい」