「それで、結局アインは強くなってどうするの?
「ん?そうだな…とりあえず誰にもバレないうちに元にいた所に戻らないとな。
「…!そういえば!アインは外から取り込まれたんだったな!」
「ふーん。そういうのもあるんだ。てっきり全員この墓地生まれだと思っていたけど」
「取り込まれてくるのはほとんどが自我の持たない低級アンデッドだからな。私は…まあ例外中の例外だ」
アイン、ダリアがのんびり魔法を発動させながら歩く。ときおり襲ってくる低位アンデッドの群れに魔法を浴びせるアインとダリア。ジャックはというと先頭に立ち、残ったアンデッドを切り裂いていった。
「なんか明らかに俺の倒す敵の量多くねえか!?」
前へ後ろへ左へ右へ。ジャックはその俊敏な足を生かし、アンデッド達を駆逐していく。
「がんばれー前衛ならそれぐらいできるよー」
「ふむ、やはりタンクが足りないかこのパーティは」
「いやお前らも十分に前衛できるスペックあるじゃねえか…」
全く気持ちのこもっていないダリアの言葉にジャック達をそっちのけで思考し始めるアイン。ジャックは前回の戦闘ではあまり活躍できなかった為、二人に対しあまり強くは出られなかった。名誉挽回とばかりに戦闘をこなすジャック。決して足手まといでもなければ、ステータス的にも弱くはないのだが、ダリアとの一戦で一発でのされてしまった事を気にしていたのだった。
「疲れないから別に構わんが!」
ジャックは右手を振り、目の前の
「終わったぜ!今回はかなり頑張ったと思うが!」
両手を広げ、どうだと言わんばかりのジャックに、目を合わせること事なくダリアは冷ややかな声を浴びせた。
「あたしならもっと早く終わらせているけど、まあザッコ君にしては上々じゃない」
「さらっと酷い呼び名に変えてんじゃねえよ性悪女」
「カルマ値極悪のあたしにそれ、別に悪口になってないから」
「…やはり
「アイン、この女いっぺんバラバラにしてやった方が良いと思うぞ。まあ
「ジャックって“ぼく感情が分からないから人を解体して心を探したけどなかった!傑作だぜ、ぼくは正常だ”とか言いながら猟奇殺人してそう」
「いやその発想が怖えよ」
「…やはりスケリトルドラゴンを媒体に作るしかないか…いやそもそも
和気藹々と進む一行。ようやく荒野を抜け、三人はその先にあるものを見据えた。それはアインの予想を遥かに超えた光景だった。
「へーすごい。落ちてみてジャック」
「蹴落とすぞ」
「…いや名前からしてどんな感じかなあって思ってたけども…これは」
三人の目の前には幅数十メートルはあるだろう裂け目が大地に走り、それは谷のようになっていた。そしてその向こうには真っ白な光景が広がっていた。
大地に突き立つように刺さっている巨大な牙や爪の林。その上を縦横無尽に走る竜のものと思われる背骨。その奥には幾重にも重なる竜骨によって形成された城のような建造物。アイン達に相対するように反対側の崖にはこちらに向かって巨大な竜の頭蓋骨が吠えるように口を開き、まるで誘うかのように、そこから細い吊り橋がこちらへと掛かっていた。
「あれが…“竜の墓場”か」
「ああ。あの先には厄介なアンデッド、特にスケルトン系が集まっているらしい。今までのように楽勝とはいかなさそうだぜ」
「ふーん。あそこに上位者がいるんでしょ?」
「だったなジャック?」
「確か“紫紺の怨竜”だったか。この辺りでは間違いなくトップクラスの上位者のはずだ。あまり自分からは攻めず、いつもテリトリー内に籠もっているらしい」
ジャックの言葉にアインは再度思考するのだった。“紫紺の怨竜”とは随分と仰々しい名だが、おそらくはスケリトルドラゴンもしくは上位種である
アインは初めて少し余裕が出てきた事を喜んでいた。一人増えたことによって取れる戦術の幅が広がったのが大きかった。そして何より、それはあの輝かしいギルド・アインズ・ウール・ゴウン黎明期を思い出させるものだったからだ。心強い仲間が増え、難関へと挑む。これが楽しくなくて何が楽しい。思えば自分は驕っていたのかもしれない。自身の力、ナザリックの力に。そして忘れていたのだ。ゲームの楽しみ方を。いやもちろんここはユグドラシルではなく、現実である事は承知している。しかしやはりまだ、何処かでゲーム気分な部分を否定できないアインだった。
「さて、それではその“紫紺の怨竜”とやらを叩き起こしに行こうか。力を入れ過ぎてうっかりそのまま永眠させてしまうかもしれんがな」
「余裕でしょ」
「油断はできないぜ。まあこの三人なら大丈夫か」
三者三様の言葉を吐き、進む三人。恐れることなく吊り橋を渡っていく。谷の底は見えず、暗い。
「しかし一体何がどうなってこんな地形になったんだ?流石にここまでは弄っていないはずだが…」
アインは疑問に思った。こんなものはこの実験以前の共同墓地にはなかった。確かに土地を拡張し、ある程度のバリエーションを
「んーこの共同墓地事態が創造主のつまりこの場合はアインズ様だな、の
「…」
「そういえばやたらとジャックはこの共同墓地について詳しいけど、誰から聞いたの?」
「まだ俺が生まれたばかりの頃、世話になったリッチがいたんだ。そいつが色々と教えてくれてな。助けてもらってばかりだったが、消滅してしまった」
「そうか。だから私に友好的だったんだなジャックは」
「…まあ恩返しって訳じゃあないけどな。しかもまたこうやって仲間に助けられてる」
ジャックはおどけて肩をすくめて見せた。笑顔の仮面のせいかどうにも道化じみているが、それもジャックらしさだった。
「いいんじゃない?そういうのも」
「全くだ。この状況は悪くない」
「そうか。いや、ならいいんだ俺は。さ、!近付いてきたぜ!」
吊り橋も後半にさしかかり、近付くに連れその巨大さを増す竜の咢。侵入者を食らわんと広げる竜の咢を三人を見上げた。
「でかい顔」
その向こうには骨の密林が見えた。アインは気配を探るがまだ動く物はない。しかし間違いなくあそこにはアンデッドが潜んでいるはずだ。上位者のテリトリー。おそらく支配下に置いたアンデッド達に守らせているだろう。もしかしたら上位者が複数いるかもしれない。しかしアインはその考えを頭の隅に追いやった。警戒するにし過ぎる事はないが、それで二の足を踏む程アインは愚かではなかった。
「視界が狭まる上に、スケルトン系の敵が多いと思われる。何処から襲ってくるか分からないから全周囲警戒を怠るなよ」
「バフかける?」
「いや、まだいい。MPはなるべく温存していきたい。ダリアも私も近接メインでいく。ジャックは遊撃として我らの手の回らない奴を頼む」
「了解だアイン」
「じゃあ
ジャックが先頭に、逆十字を構えるダリア、アインの順に並び、素早く吊り橋を渡り切る。咢から生える牙の間をすり抜け、“竜の墓場”へと踏み込んだ。
「さて、どれほどの歓迎を受けるかな?」
地面が見えぬほど骨が積もり、歩くたびにパキパキと乾いた音が鳴った。竜の頭蓋骨から出ると、そこにはちょっとした広場が広がっていた。いかにも迎撃に敵が出てきそうな場所である。
「なあ…アイン」
「これって」
警戒しつつジャックは辺りを見渡し、ダリアもその死角へと注意を向けた。そして二人は同時に気付いた。目の前の広場の真ん中に不自然に破壊され、折れた巨大な牙が複数突き刺さっており、無数の頭蓋骨が黒焦げになって辺りに散らばっていた。そして何よりも、自分達の進む先の地面に積もっている骨がまるで竜巻が通ったかのように散らされており、一本の道の如く地面が露出し先へと続いてた。続く先には竜骨の城が見えた。
それは明らかに、辺り一帯に残された戦闘の痕であり、そしてそれを残した者が先へと進んだ事を示していた。
「まさか先を越されたか」
その可能性は否定出来なかったが、そこまで高くはないと踏んでいたアインだった。しかしこうなると認めざるを得ない。もし仮にそうだとすれば、最悪の状況を考慮しなければいけなかった。すなわちそれは。
「“紫紺の怨竜”が倒され、それを倒した謎の上位者が待ち構えている、か。厄介だな。だとすれば想定していた難度を数倍に引き上げなければならない」
「そいつは倒してしまえばいいだけの話だと思うけど」
ダリア軽くそう言うと逆十字を肩に乗せた。頼もしい言葉だが、アインは楽観できなかった。
「その謎の上位者が“紫紺の怨竜”を倒したと仮定すると、その時点で“紫紺の怨竜”を倒す事を想定していた我々の計算は白紙に戻る。なんせそいつは“紫紺の怨竜”より強く未知の存在なのだ。その上“紫紺の怨竜”を倒した事によって更に強くなっているかもしれない」
「俺らみたいに組んでる可能性もあるが…まあ俺はそれはついては否定的だ」
お前らが特殊過ぎるんだよ…と呟くジャックだった。ジャックが知る限りにおいて上位者はほとんど単独で行動し、せいぜいあるとしても使役したアンデッドを使うぐらいか。もちろん共同墓地の中心部に近い場所であれば更に上位者が増える為組む可能性はあるが、ほぼ外縁に近く低級しか現れないとされるこの辺りで上位者が組んで行動しているとは考えにくいとジャックは説明した。
「確かにな。私もこの戦闘痕を見るに単独での行動だと思う。しかもおそらくは高位の
「だったら、余裕なんじゃないか?
「あたしも賛成。もしかしたら“紫紺の怨竜”に返り討ちにされているかもしれないし、どちらが勝っているにせよその戦闘によってどちらかが弱っている可能性もあるわ」
その意見は楽観的過ぎるが、同時にもしそうであればかなり美味しい状況だとアインは考えた。戦闘痕を見るにまだ数時間程しか経っていない。リスクを考えると難しいところだが、ここで相手に回復する時間を与えるのは愚の骨頂だ。パーティは無傷。戦意も上々。一度退却するという手もあるが…
「ならば進もう。ただし、対
アインはジャックとダリアに対
*
時間を少し遡る事、数時間。竜の墓場内、竜骨の城。
「愚かな…
“骨組み玉座の間”
部屋を覆いつくす巨大な骨の竜が吠えた。それはアンデッド・ドラゴン系の中でも特に恐れらているアンデッド、
「ふはははは。なるほど…良い力をもっておるわ。負の力が溢れておる」
「
魔法陣より漆黒の息吹が放たれた。耐性を持つアンデッドすらも呪う死の息吹。直撃を受ければそのダメージと追加効果に耐えられる者はいない。
はずだった。
「ほほう、これまた
ブレスに飲み込まれる直前にその骸骨は杖を掲げた。
「…馬鹿な!」
たったそれだけ、骸骨は
「温い…温いのぉ。もっとじゃ。もっと闇を。負を!力を!」
骸骨が叫び、杖を掲げた。
「死ね!」
「ああ、なぜこうも脆いのじゃ」
尻尾が骸骨の掲げた杖に触れた途端に、バラバラに砕け散った。それはまるで繊細な硝子細工を叩き割ったかのように綺麗に粉々に、散った。
「馬鹿なあああああああああああ」
「ならば!」
同時に左の爪で襲う。杖に秘密があるのならば同時に攻めれば良いだけだ。さらに追撃用に咢を開け、骸骨を飲み込まんと襲い掛かる。
「これはただの杖じゃぞ“紫紺の怨竜”よ」
左の爪を骸骨の手が触れる。その瞬間にやはり右の爪と同じように砕けた。そして左右の手を失いバランスを崩した“紫紺の怨竜”は骸骨を食らわんと首を伸ばす。せめて一矢報いねばと。
「こんなもので良いか。
魔法により飛び上がった骸骨の下を“紫紺の怨竜”の咢が通り過ぎる。床を削り進むも、骸骨には傷一つ付けられなかった。
「さてでは
骸骨は杖を離す。杖は落ちることなく骸骨の両手の間で浮遊し、くるくると回転していた。骸骨の口から不吉な言葉が発せられた。
「
「
「
「
骸骨の周囲に幾重もの魔法陣が張られた。それぞれが歪み、お互いへと干渉しながら魔法陣が複雑に描かれていく。
「さあその惨めな姿を晒したまま永遠に苦しむが良い」
「
全ての魔法陣が砕けた。そして“紫紺の怨竜”が悶え、地獄のような怨嗟を上げた
「やめろ!やめろやめろやめろ!力が!馬鹿な!エナジードレインなどアンデッドには効かぬはずだ!」
手を失い、這うようにのたうつ“紫紺の怨竜”から黒いエネルギー状のものが螺旋を描くように昇り、骸骨へと到達。全身で黒いエネルギーを浴び、骸骨はカタカタと笑ったのだった。
「ふはははははははは!!!これが、死の味!闇の匂い!負の力!これでワシは…ワシは神へと至る!」
「や…め…!きさ…!ゆ…!…」
「…!」
「…」
みるみるうちに量が減っていく黒いエネルギー。そしてそれに連れて、搾るように体が不自然に捻られ、捩じ切られた、“紫紺の怨竜”
残るは搾りかすのような骨の残骸。
「…あともう少し…あともう少しで…」
黒いエネルギーがもう出てこないと分かると、骸骨は杖を持ち、呪詛のように呟いた。そして骸骨は空間に溶けるように消えた。
その瞬間。空間が
その清浄で静謐な玉座で、“紫紺の怨竜”の残骸はしかし、確かに脈動をしていたのだった。
*
場所は変わり、エ・ランテル、アインズの館内、応接間。
そこは守護者達の緊急の会議所として使われていた。しかしそれぞれの守護者達は各個重要な仕事があり、前回のようによっぽどの事態でない限り全員集まる事はない。今この広い応接間にはアルベドとデミウルゴスの二人が集まっていた。というよりデミウルゴスが押し掛けてきたというのが正しいかもしれない。
「それで、アルベド。実験場はどんな様子かな?」
ゆったりとソファーに座り足を組むデミウルゴスが上座へと座るアルベドに問いかけた。聞くまでもないことだが、話を進ませるきっかけを与えたのだ。
「
「そうだろうね。しかしいつまでこの状態にしておく気だい?正直に言うと私はあの時の結論に納得はしていないのだよアルベド」
前回、アルベドの緊急招集によって集められ聞かされたアインズ様失踪事件。なんの事はない、いつものアインズ様の恐るべき先見性と智謀の現れなだけだった。理解の及ばぬ我らが右往左往する姿をお見せしたらアインズ様はさぞかし嘆かれるであろう。前回至った結論としては、
「今、アインズ様は非常に無防備な状態だ。はっきり言ってしまえば、君や私どころか配下の者でも今のアインズ様に勝てるだろう」
「デミウルゴス。
アルベドから殺気が発せられる。おそらくこの世界の生物でそれをこの直近で受けて平然としていられるものはほとんどいないだろう。しかしデミウルゴスは眉一つ動かすことなく答えた。
「分かっているよ。だが、アインズ様がそんな状態で我らが何もしないというのは守護者として失格だと思わないかい」
「信じなさい、デミウルゴス。あのアインズ様がたかがスケルトンメイジになったぐらいでやられる御方だと思っているの?」
「私が言っているのは可能性が1%でもあるならば潰すべきだと言う事だ!」
デミウルゴスは体を前のめりにして主張した。アインズ様は自らとはいえ、考えられない程弱くなられた。もちろんそれは一時的な事であり、この実験が
「アインズ様は我らが干渉する事を一言でも禁じたか?していないはずだ。ならば、いつ上位のアンデッドに襲われるかもしれない危険に晒される前に我ら全員でお守りすべきではないか!?」
それが我ら守護者の務めではないか。デミウルゴスはそう締めくくった。
「デミウルゴス。私はね、分かるの。アインズ様はきっとこの状況を楽しんでいらっしゃるわ。アインズ様は自ら産んだこの実験の後始末をご自身で為そうとされているのよ?それに我らが手を出すのはアインズ様に対する侮辱。だから、アインズ様の邪魔をしないし、させない。」
アルベドは美しい笑顔を浮かべつつ、黒いハルバードを取り出した。そしてその刃の先をデミウルゴスへと向けた。
「なるほど。君の意見は理解した。納得はしていないがね」
「アインズ様の当初の計画通りならば、この実験によって我らに及ばずともナザリック及びこの魔導国にとって重要な戦力の増加に繋がるはず、だった。
そこまで語るとアルベドはゆっくりとハルバードを下げた。デミウルゴスは聞きながらもどうすれば最善かを思考していた。しかしアルベドの最後の一言に思わず笑ってしまった。
「…アインズ様に匹敵するほどの力を得る?笑える冗談だよアルベド。そんな事有り得る訳がない。しかし仮にそうなった場合はどうするつもりだい?」
意味のない仮定だ。だが、あのアインズ様が関わった以上、可能性がゼロだとは言い切れなかった。
「そうね…貴方の言っていたことは最もよデミウルゴス。我らは守護者。アインズが御呼びの際にはすぐに駆け付けねばならない」
つまりこういう事よ…とアルベドはデミウルゴスへと伝えた。我らが為すべき事を。
「なるほど…素晴らしい。流石は守護者統括。良いでしょう、精々、実験が破綻するまでの一時、夢を見させてあげましょう…」
アルベドはゆっくりとデミウルゴスへとほほ笑むと立ち上がり、漆黒の翼を広げ、全守護者にメッセージを送った。
「守護者統括として全守護者に次ぐ。これより最低限防衛に残る一部を除き、ナザリック全戦力を持って万が一に、いいえ万が一など絶無の
アルベドは見る者全てを恋に落とすような笑顔を。それはそれは邪悪な笑顔を浮かべて、メッセージを締めた。
「地獄すら生温い絶望の淵へと叩き落す」