もういっそこんな世界になっちまえよ、ほらほら。
※注意
1話と文章構成が大幅に異なると思います。
1話は名前を出さないように無理して書いたので。
「自衛隊員じゃないの?」
一通り自己紹介が終わったあと、校内の生存者、いや学園生活部を加えた一行は手近な教室に腰を落ち着けて話し合いの時間を設けた。
「うん。僕たちはもともと高校生。学校サボってたから家に立てこもったんだけど目的ができたから全滅した自衛隊の装備を使ってここまで移動してきたんだ」
「銃が使えるのび太がいてくれたおかげで助かったぜ」
「ありがとうスネ夫。若狭さんはここにずっと立てこもってたの? どうも一度はゾンビに襲撃されたみたいだけど」
教室を見回し、割れたガラスや血染めの廊下に視線を動かす。
「ええ。最初は屋上に逃げたのだけれど、あれがいない隙にバリケードの位置を下におろしていったの。今はとりあえず本校舎の大部分は行動可能範囲だし、一階の購買部の物資を使ってなんとかやりくりしてるわ。3階と2階は掃除が終わったんだけど1階は最近解放したばかりで手を付けられていないの」
「掃除大変だったのに最近は食べ物少ないんだよー! お風呂とか電気は使えるんだけどね!!」
「コラ由紀!! それは内緒にって! ・・・あ」
気まずそうな顔でこちらを見る恵飛須沢さん。
「あっごみん胡桃ちゃん内緒だった・・・」
「アハハ・・・気にしなくていいよ。設備のこと知ったら奪われるかもしれないって思ったんでしょ」
というかそのあたりの設備は大体予想がついていた。災害発生から大分時間がたつのに学園生活部のみんなは汚れていたり臭ったりすることがないからだ。むしろいい香りが・・・駄目だ駄目だ。
「僕たちは男だから多少汚れててもそれで設備を奪おうなんて考えないよ」
「えっ、僕はシャワー浴びた「スネ夫は黙ってろ!」イテッ! 殴らないでよジャイアン」
「お腹が減っているなら僕らの物資が分けられる。今はあの装甲車の中だけど落ち着いて周りの奴らを掃討できれば」
「心配しなくても大丈夫よ」
「どうして?」
「もうすぐよ」
はてなマークが頭に何個も浮かんだまま彼女を見つめること8秒。それは突如校内に響き渡った。
『皆さん、最終下校時刻が近づきました。まだ校内に残っている学生は速やかに帰宅しましょう』
「最終・・・下校時刻・・・?」
「なんでかは知らないけど奴らは生前の行動をなぞっているようなの。だからもうしばらくすれば校庭には数体しか残らないはずよ」
「へぇ・・・。でもここに来るまでに何十発と撃っちゃったからかなり集まってきてるんじゃ」
「そうねぇ・・・。音に気付いてもしばらく静かにしてればどこかに行ってしまうから大丈夫なんじゃないかしら。それよりもこれからあなた達はどうするの? 奴らから逃げるためにここに入ってきたんでしょ?」
「そうか・・・。ううん、もともとここを拠点にして周辺の探索をしようと思っていたんだけど」
「なら・・・私たちと協力しない? そうすれば拠点の設置も設備の使用も許可するわ」
「いいの?」
「食事の量は増えるけど・・・物資調達の効率が上がるなら・・・」
「ああ、食事に関しては心配しなくてもいいよ。必要な分だけ供給するし調達の必要も」
「おいのび太・・・それ以上は・・・」
「・・・大丈夫だよ。この人たちは、敵じゃない」
「・・・分かった」
「それでこそ心の友よ」
「でも! 物資は有限なのよ? いくら装甲車が大きくても心配しなくていいほど積めるはずがないわ」
「あー・・・証拠を見てもらった方が早いかな・・・。奴らが少ないようなら僕たちの物資をとってくる。君たちはここで待ってて」
「やっぱりのび太はお人よしだよ」
「別に僕らの懐は痛くないからね。あるものは有効活用しないと」
64式小銃にささった弾切れの弾倉を取り外し、代わりにフル装填された弾倉を押し込み、槓桿を引いて薬室に弾を送り込む。あとは背嚢に入ったあるものをつければ戦闘準備は万端だ。
「二人とも弾は何発ある?」
「俺は12ゲージが6発」
「僕はマガジン3本がフルだから90発と少しかな」
「ジャイアンなんでショットガンなの?」
「後ろに取りに行く余裕がなかったんだよ!! 即応弾と本体につけた予備弾しかないぞ」
「ああ、そうか・・・。じゃあ今一緒に取ってきなよ」
「もとよりそのつもりだ。これじゃ俺には軽すぎる」
「「ハハハ・・・」」
「まずはバリケードをどかそう」
「またバリケードか・・・」
「僕は2階に上がって周囲の安全を確保するからジャイアンとスネ夫は無線の合図で外に出て。なるべく撃たないように気を付けてくれよ」
「分かった。無線はいつも通りグループ9の3チャンネルだね?」
自衛隊の無線機は使い方がよくわからなかったので民間の無線機を使用している。但し特小無線機では通信範囲が短すぎたので本来許可が必要なデジタル簡易無線だったが。
「うん。入り口の屋根の下とその死角は見えないから隙間から覗いて判断してね」
「了解。じゃあ後で」
「任せたよ」
そういって野比さんは2階に上がっていってしまった。
「みなさんお互いに信頼しているんですね。なんで野比さんが2階に上がったんですか? 二人ではなく」
「あいつは昔から射撃だけが取り柄でね、高校生スポーツライフルの全国大会で優勝するような奴なんだ」
「おう。だから狙撃ができる建物ならあいつに任せた方が安全なんだ」
「全国大会で優勝!?」
「しかも記録上は社会人トップより上なんだぜ」
「ずりーよな、特技が役に立って。俺の歌もなんか役に立たないかなあ」
「いやジャイアンの歌は別に特技じゃぁ「なんだこの野郎!! 俺の歌が下手だってのかよ!!」ゴメンゴメン冗談だから!!」
「ふふっ」
『おーい二人とも、今は安全だ。本当にさっきの奴らが少なくなってる』
「分かった。外に出るぞ」
最後に残してあったバリケードの机をどかし、隙間から外の様子をうかがう。
「右側、車までにあいつらはいない」
「左も同じく」
「油断するなよ。GO!」
言葉に嘘はなく油断も隙も無くM870を構えるジャイアンは大柄な体に見合わない素早さで入り口から屋根を支える柱の陰に滑り込む。
「入り口、クリア。オクレ」
『装甲車の陰に1体いる。ジャイアンからは見えない?』
装甲車までは5メートルと離れていないがそのせいで裏側はジャイアンから完全に死角になっている。だが確かに奴らが呻く声がそこからは聞こえていた。
「声は聞こえるが・・・」
『わかった。こっちで撃つ』
パスッという銃声とは思えない音が頭上から聞こえ、続いて装甲車の死角でドサッと奴らが倒れる音がした。
『GO』
合図で屋根を抜けて装甲車まで到達すると2階からのび太がペットボトルを銃口に取り付けた64式小銃を油断なく構えているのが見えた。64式小銃に配備されていない減音器の代用品だ。生存者がいるとわかった以上、余計な脅威を呼びたくないからという配慮だった。
「弾薬と、銃と、あとコイツか」
運転席にいたため即応配置してあったショットガンを使っていたジャイアンは自分の相棒をついでに持ち、後部ベンチシートに畳んであった回収物のメインをポーチに押し込んだ。
「よし! 回収完了!」
「ジャイアン止まって!!」
「なんだ!? 下か!!」
装甲車で引き倒して地面と車体に挟まっているゾンビがまだ生きていたようだ。この学校の生徒であろう少年姿のソイツはジャイアンの靴に噛みつくがあいにく鉄板入りの半長靴だ。皮膚までは噛みちぎれない。
『上からは狙えない!』
「離せよこの野郎!!」
ジャイアンは乱暴にそれを振りほどくと体重に任せて頭を踏み潰した。
「回収成功、戻るぞ」
『了解』
「うん。足拭きなよ」
「分かってるようるせぇな」
「待たせたな」
外に取りに行っている間またされていた学園生活部の一同はジャイアンが持ってきた物をみて顔をしかめていた。
「それ全部弾薬? 食べ物はどうしたの?」
ジャイアンが力に任せて持ってきたのはMINIMI軽機関銃と200連5.56ミリ弾薬箱2つ、100連7.62ミリ弾薬箱だけだ。缶詰や袋といった食べ物の姿はどこにも見当たらない。
「えーっとどれだっけ・・・これだよこれ」
しばらくポーチの中をゴソゴソとかき回し、取り出したのはピンク色の布だった。
「グルメテーブル掛け」
「ふざけてるの?」
語気を荒げられてしまった。やっぱり警戒すべきだったのだろうか。本当は頭がおかしい人なのだろうか。そういった負の感情が見え隠れする。
「ま、まぁまぁ。とりあえず甘いものでもどうぞ。クッキーを7人分」
「何を言って・・・」
「な、なんだこれ!? どうなってんの!? 手品!?」
「え、え?」
「わー、クッキーだ! いっただっきまーす」
「どういう仕組みなのかしら」
広げられたテーブルかけの上に突如として現れたクッキーの大皿に驚愕の声を上げる学園生活部の一同。若干1名何の疑いもなく食べたが。
「由紀ちゃん、大丈夫?」
「え? うん、おいしいよ!」
「幻とか偽物・・・ではないわね」
若狭さんも一枚をつまんで本物であることを確認したようだ。
「僕の親友が残してくれたものなんだ。今はいないけどね」
「あ、ごめんなさい・・・」
「あ、いや。死んだわけじゃないんだ。気にしないで」
「でもこんなすごいものどうやって手に入れたんだ?」
「・・・それはおいおい話すよ」
「ところで若狭さん。そろそろ日が沈む時間なんですが・・・」
「寝床を確保したいんだ。僕らはどこを拠点にすればいいんだい?」
ジャイアンが時計を気にしながら話を打ち切った。続いてスネ夫もそもそもの話を戻しに入った。
「ええ、そうだったわね。校舎3階に私たちの部室があるわ。だからできればそのまま3階を使ってくれると嬉しいのだけれど」
「わかった。同じ階で大丈夫なの?」
「私は気にしないわ。胡桃ちゃんたちは?」
「わ、私は別に信用したわけじゃないけど、なるべく固まってた方がいいしね。別にいいぞ」
「いいよいいよ!! 一緒にご飯食べよ!!」
「先生も別に構わないわ」
「と、全員一致で大丈夫だそうよ?」
「分かった。3階だね。二人とも、間違えても変なことするなよ」
「わ、分かってるって」
「スネ夫。視線」
初めから気付いてはいたがスネ夫の視線は佐倉先生の胸部プロテクターを10式戦車の砲身よろしくロックし続けていた。
「す、すすすすすいません」
「やっぱりちょっと不安かなぁ・・・」
一番寛容であってほしい佐倉先生から不安の声が上がってしまった。これでは僕らの居場所がなくなってしまう。しかし男同士で遠慮なく移動し続けていた僕らだが、さすがに近くに誰かがいる状態でナニをする勇気があるはずもなく、今が全盛期である高校生のために全員相当溜まっているはずなのだ。何がとは言わないが。ここにいる間はお互いに一人の時間を作った方が身のためかもしれない。
「すみません。個人で対処させますので・・・」
「あらあら・・・」
しまったこれじゃナニするって宣言してるも同じじゃないか・・・。
「そ、そうだ! 見張りのシフトはどうなってる?」
ここは話をすり替えて逃げなければならない。戦略的撤退である。もう敗走でもいい。
「見張り? してないわ」
「・・・見張りをしてない??」
これまで見張りをしていなかったということは相当恵まれた環境にあったのだろう。もしかしたら生前の行動をなぞるというゾンビたちに対し、夜間は思う以上に安全なのかもしれない。思い返せば僕らが見張りをしている間もゾンビを見かけることは数える程度しかなかった。
「そ、そうか・・・。じゃあいつも通りにしててくれ。俺たちは念のため3交代で屋上に立ってるから」
「・・・せっかくだし私たちも見張りましょう。男女二人一組でどう?」
「り、りーさんそれは困る!!」
「夜更かし!? 夜更かししていいの!?」
「由紀ちゃんは寝なさい。明日も学校なんだから起きれなくなるわよ? 胡桃ちゃん、今は信頼できなくてもお互い話し合えばいつかはそうなれるかもしれないわ。チャンスを逃すと後が心配だわ」
「ぶー。わかったよぉ」
「・・・ぅ、しゃぁないなぁ」
「じゃあそういうことで。日が沈む前にあなた達はシャワーを浴びなさい。正直臭うわよ。ここにいる間は清潔を保つこと。いいわね?」
「ご、ごめん。臭ってる?」
「それはもう盛大に」
「わかったよ」
「ここがシャワー室。シャンプーリンス石鹸は置いてあるから自由に使って構わない。在庫はたっぷりあるから。タオルはそこの棚の中、足りなかったら言ってくれ。洗濯機はこれだけど・・・正直その服はもう捨てたほうがいい。替えの服はあるか? ここには男物だと制服しかないけど」
「替えの迷彩服なら確かあったよな?」
「駐屯地であらかた持ってきたからね。着替えるのが面倒でずっと同じ服だったけど」
「私たちじゃ考えられないよ・・・」
「ハハ・・・」
すぐに汚れるから本当に面倒臭かったんだよね・・・
「はぁ・・・。お前たちが出た後私たちも浴びるからくれぐれも汚すなよ。そのあとはご飯だ。歓迎会といきたいところだが食料はそっち持ちだったな。グルメテーブル掛けとやら・・・期待してるからな///」
恵飛須沢さんはそう一気にまくしたてるとドアを開けて出て行った。
「あれ絶対最後のが言いたかっただけだよな」
「食い意地張ってやがる。いい友達になれそうだ」
「流石にジャイアンといい勝負になるような大食いではないでしょ」
もしそうなら一体どこにその栄養が行っているのだろうかと彼女の体を思い浮かべて下品な想像をする。腕か。腕の筋肉だな。
意外に重いスコップをメイン武器として使っているぐらいだ。筋力には相当自身があるのだろう。
「早くシャワー浴びようか」
変な想像をしてしまう手前、僕も相当疲れているのかもしれない。
コックをひねると最初は冷たい水が、しかししばらくたつとだんだんと温かいお湯が流れてきた。一体何か月ぶりのシャワーだろうか。タオルで体をふいたり川に入ったりはしたが温かいお湯というのはこれほどまでに心地よいものだったのか。
しばらくお湯に打たれていると衝立を隔てて「うおぉぉ」とか「はぁぁぁ」とかジャイアンとスネ夫の喘ぎ声が聞こえてきた。聞きたくないのに。この声は汚い。声はともかく体や頭はあまりに汚れていたのか最初は泡が立たなかった。3回目にようやく全身泡だらけとなりこれで終わりと頭からシャワーを浴びる。
「しずかちゃんがお風呂好きな理由がわかった気がするよ」
・・・駄目だ。思い出さないようにしてたのに。
これからの事を考えよう。
とりあえず寝床は確保できた。小学生時代から過酷な状況でキャンプすることが多く、慣れているとは言ってもこれまでの1ヶ月を装甲車の中で過ごしたのは辛かったから久しぶりに足を伸ばして寝られる環境は安眠をもたらしてくれるだろう。
明日からはどうするか。そもそも周辺の探索を目的にここを拠点に定めたのだからいきなり外に繰り出すべきだろうか。それともこの高校の事を把握してからにするべきか。
いずれにしても学園生活部との相談が必要になるだろう。
考え事をしている間にジャイアンとスネ夫は先に上がったようだ。僕もそろそろ上がろう。
「あれ、タオルがない」
「ちょっと入るよ。郷田さんたちがタオルが足りないっていうか・・・ら・・・」
「えーっと、その」
びしょ濡れ全裸状態で脱衣所に固まっていた僕を見て恵飛須沢さんの顔が固まる。
「・・・・・ぁ、うぁ」
「ご、ごめん・・・」
「・・・な、ななな何てもの見せるんだ馬鹿ぁぁぁ!!!」
恵飛須沢さんはタオルを持ったまま外に飛び出して行ってしまった。
「僕のせいなんだ・・・。てか、タオル・・・」
恐る恐るドアを開けると目の前の床にタオルが落ちていたのだった。
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