町はずれにある寺 通称ー棺桶寺ー に五つの影があった。
「今回のはものすごい大仕事だよ。それこそ一世一代の、ね」
「相手は?」
「ふふ・・」
勿体ぶるお菊に、しびれを切らし、苛立ち気に聞く涼次の言葉に、意味ありげな笑みを浮かべながら重々しく言った。
「的は黛 由紀江、依頼金は・・」
「「「却下だ」」」
話が終わる前に、涼次以外の三人が言い放った。
「話は最後までお聞きよ。依頼金は千両だよ。せ・ん・りょ・う」
膨大な額である。一両は約八万円・・千倍で約一億円である。
「千両だぁ?うめぇもん食い放題じゃねぇか。よし、や・・」
やる、と言いかけた涼次の口をふさいで、
「まぁ、待て。誰だい?依頼主は。」
主水が聞いた。
「両替商 稲田屋 九郎右衛門・・・先月潰れたあそこさ。なんでも、風間ファミリーとかいうチンピラどもに、不当な金利で金を貸していたことを暴かれて、店が闕所になったらしいよ。その風間ファミリーの主戦力が黛由紀恵らしいよ」
匳が、
「なんだよ逆恨みか・・・俺は降りるぜ」
涼次は、
「ちっ。剣聖相手はな・・・」
主水も、
「だな、千両は惜しいが、命には代えられねぇ」
と、そろって降りた。
「そうかい・・・あんたはどうすんだい?」
「・・・・・・・・・やるぜ」
「え・・・」
てっきり断るだろうと思って聞いてみたが、小五郎の返事は、やる、だった。
「本気かい?」
「逆恨みごときに・・」
「ああ・・・逆恨みだろうと恨みは恨みだ」
小五郎は本気だ。
「なら・・・俺もやるぜ。」
「ああ、俺もやるか。」
「やれやれ・・まぁ、千両だしな・・・」
「・・・・ちっ。取り分減ったぜ」
結局、千両の力は偉大だった。
明くる日 南町奉行所 書庫
主水と小五郎が密談していた。
「お前さん、どうしてあんな依頼を受けたんだい?剣聖相手に喧嘩売る輩なんざまともな奴じゃねぇぜ?」
訝しげに聞く主水に小五郎は、
「だからだよ。そんな非常識な奴に俺たち真剣人の存在が割れてるんじゃ危なくて仕方ねぇだろ。それに、調べてみたけどよ、潰れた稲田屋は、全部本店じゃなくて支店だ。本店は江戸で大繁盛してるそうだぜ。田舎者だと舐められたな」
「なんだって?そりゃあ・・・俺たちも舐められたなぁ・・・・どうする?」
「的を変更するだけだ。依頼料は千両。的は
両替商 稲田屋 九郎右衛門
手代 矢太吉
用心棒 板部 勇藏
やくざ 小見山の才五郎
の4人だ」
「自分の依頼料でやられるたぁな・・・。だが、小見山の才五郎ってのは?」
皮肉気に行った後、ふと思ったことを聞いてみた。
「ああ、隣藩の小見山藩の元中間で、稲田屋の子飼に成り下がった野郎だ。今は借金取りをしてやがる。何が店が闕所だ。大本はぴんぴんしてやがる。阿呆臭い」
「そうかい。で、段取りは?」
「ああ・・・・」
夜が明けていく・・
棺桶寺
「んだとぉ!?ふざけやがって・・・なめんじゃねえよ!」
息まく匳、
「おお、的が変わったか。剣聖さんに比べて随分とましじゃねえか。一人頭二百両には変わりねぇしな。これで当分美味いもん食って暮らせるぜ」
結局は食道楽な涼次であった。
「でも本当に来るかねぇ?」
お菊が聞いた。
「絶対にな。絶対にあいつらは俺の仕事を陰で見てくるはずだ。恐らく、失敗して死んだらよし、生きてたり万が一成功したら口封じにかかるつもりだろうな」
そこで陰に潜んで見ている輩をほか三人で退治する、という段取りな訳だ。
「いつやるんだい?」
「明日の夜だ」
段取り、決行日時が決まったので、皆帰路についた。
皆、心の中で、
(二百両か・・・何に使おうか・・・)
と、そのことばかり考えていた。