少女はお辞儀することにした   作:ウンバボ族の強襲

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賢者()の石編
生き残った男の子との出会い


 

 トイレは聖域だった。

 

 

 

 

 

 エリザベス・ラドフォードという少女が此処に居る。11歳の少女だ。

 そんな少女が今日も便座に座ってお気に入りの児童小説、ダレ●・シャ●をじっくりと読んでいると、不意にトイレの高い位置に備え付けられた窓。小ぶりだが、ガラスが綺麗に拭かれておりレースのカーテンがあしらってある窓から。

 

 

 

 

 

 

 

 フクロウが(横方向に)ドリルツイストをかましてガラスをぶち破ってきた。

 

 

 粉々に砕けたガラス片が少女へと襲い掛かる。

 

 

 

 

「え……? え……? 何? うそ……ぎゃぁあああああああああ!?」

 

 

 

 痛みに叫ぶ少女。それを聞き分けた屋敷下僕妖精が今度は正面にあったマホガニーの扉をぶち破る。

 デカい木片が屋敷下僕妖精の頭に突き刺さるけど、妖精はあんまり気にしていないようだった。

 

「お嬢様ーー! お嬢様ーー!!」

「痛いーーー!痛いよぉおおおおおお!!」

「お嬢様しっかりなさいませ!!」

 

 妖精による手早い処置で事なきを得たエリザベスだったが、足からは血が流れ、父親譲りと言われる自慢の漆黒の髪は血で濡れ、陶器製の便座のそれと酷似した白磁の如くなめらかな肌はズタボロだ、冬の空を映したかのような青みがかった灰色の目は涙で濡れている。

 少女はよろよろと、そこで伏せる鳥――――フクロウに向かって手を伸ばした。

 

 人生で最高に輝きを放つドリルツイストをかましたフクロウの羽根は鳥類的に曲がっちゃいけない方向に折れ曲がり、口は小さくホーホーと叫ぶばかりで、その余命がもう幾何もないことを少女は悟った。

 

 

 

 

 

 

 

(じゃあドリルツイストブチかまさないでよ……)

 

 

 

 

 

 

 自業自得だと思いながらフクロウの脚に括りつけられてるその紙を取る。

 

 すると……

 

 

 

 フクロウは満足そうに――微笑んだかと思うと、ゆっくりとその生涯を終えた。

 

 

 

 

 

 フクロウが命を賭して託した手紙は、紋章入りの紫色の蝋で封印のほどこされたものだ。

 真ん中に大きく『H』と書かれ、その周辺をサバンナの王者、全ての鳥の上に君臨する皇帝、穴熊、西洋人が無駄に嫌う人類に知恵の実を喰う事をおすすめした爬虫類というよく分からないラインナップ。

 手紙は大体こんな感じだった。

 

 

『ホグワーツ入学おめでとうございます。教科書と教材リスト同封したので9月1日までに揃えて下さい。返事は7月31日必着でお願いします』

 

 

(ホグワーツ……魔法学校のお知らせだわ……!)

 

 

 こうして少女は、ホグワーツ入学資格を得たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうもこんにちわハグリッドです。親に恵まれない可哀想な子供と一緒に買い物にいくことをダンブルドア校長から強要されました。ホグワーツの森林管理人やってるからそこんとこよろしく」

「スコラン訛りめんどくさい」

「ぶち殺すぞクソガキが」

 

(やだ怖い。コレだからスコットランド系は)

 

 目の前には巨漢がいた。

 多分進撃してくる巨人の類っぽかった。

 

 その隣には眼鏡をかけた痩せすぎのクシャクシャ黒髪な少年がいる。あまり特徴のなさそうな外見の中で目だけが異様に美しい緑色だった。

 

「んじゃ、そうゆう訳なんで自己紹介と行こうか、まずは、ウェールズ出身のお前さんからな」

「は?」

「やれよウェールズ訛り」

「ぶち殺すぞクソ爺」

「さっさとしろ」

「分かりましたゴメンナサイ。

 私はエリザベス・ラドフォード。ベスって呼んで。11歳。性別女。見ての通りの純血家系よ。パパは死喰人で私が生まれてすぐに死んだって聞いてるわ。それに絶望したママはマグル界に殴り込みに行って銀行と間違えてコンビニを襲撃。でも人間界の通貨がポンドだってことを知らなかったせいで逆ギレしリクタスセンプラを全方向無差別乱射で周囲の人間を爆笑拷問の渦に突き落とした結果、今は魔法界屈指の笑い声の絶えない更生施設アズカバンに入ってるの。好きなモノはトイレと闇の帝王。嫌いなものはプラットホームと電車の間の隙間と私からママを奪ったマグル。よろしくね!」

「ヤベェこいつクズの純血だ。サラブレッドじゃねーか」

「凄いでしょ」

「凄くねーよ。お前さんマグルを恨んじゃいかん。母ちゃんは自業自得だわ」

「ママを馬鹿にするなクソが。地獄に堕ちろデカブツ。杖折るぞ」

「もう折れてる俺に死角はなかった」

「Fuck y〇u」

 

 

 少女――ベスは長い自己紹介を終えた。

 

 

「僕ハリー、ハリー・ポッター。えぇっと……パパとママは子供の頃に死んじゃって、今までマグルのおじさんの所に居たんだ。あんまり尊敬できた人じゃなかったけどね、ドリル会社の社長だったし」

「あらそうなの! 最悪ね!」

 

 ベスはフクロウのドリルツイストを根に持っていた。

 

「本当だよ。君の言う通りさ。……で、何だかよく知らないけど……僕は魔法使いらしいんだ。でもパパとママが居ないから買い物ができなくて……そしたらハグリッドが一緒に来てくれたんだ」

「まぁ、良かったわね! あなた運がいいじゃない!」

「あはは、そうだね。今まであんまりイイコト無かったからかな!」

「きっとこれからは今までの分幸運になれるわよ」

「わぁ、ベス。君って凄く前向きな子なんだね」

 

 

 

「茶番はそこまでだ。さっさと買い出しいくぞ」

「うん、行こうベス」

「命令すんな喋んな口臭ぇんだよ」

「あ?」

「行きましょう、ハリー」

 

 

 

 

(……ハリー・ポッター……『生き残った男の子』……ね)

 

 

 

 

 ベスは内心ほくそ笑んだ。

 

 

(こんな奴が闇の帝王を打ち負かしたとか何の冗談……多分、本当に物凄く運が良かったのね……)

 

 

 きっと闇の帝王がコイツをぶっ殺そうと思ったとき偶然床に置いてあったバナナの皮を踏んづけその後頭部を偶々置いてあったスコーン(という名の炭)にぶつけた結果だろう。凄まじい不幸と幸運の応酬の末にたまたま生き延びただけじゃね? くらいにしか思っていなかった。どの道闇の帝王と純血主義が天下を取るのを防いだ男だ、いつか殺そう。

 

 

 

 

 ベスは、母親を自分から奪ったと思い込んでいる非魔法界所属人類を完全に逆恨みしており、マグル出身の魔法使いを差別する純血至上主義なヴォルデモートを盲信していた。

 

 両親を失う羽目になった幼いベスはその後、心の優しい屋敷下僕妖精と見た目だけは美しい叔母に引き取られ、トイレの中でしか安らぎを見出すことのできない生活を送ることになっていた。

 

 夜、ふと母親を思い出し、悲しくて悲しくてたまらなくなった時は一人子供部屋を抜け出して、テコでも起きない叔母をスルーし、トイレに駆け込んで忍び泣き。

 近所の男の子にいじめられた時は便座相手に愚痴りまくり。

 好きな子ができた時にはトイレットペーパー占いをしたものだった。

 

 そう、ベスの子供時代は――――つねにトイレと共にあった。

 孤独な少女の心のよりどころは、闇の帝王、純血主義、そして聖域――すなわちトイレだった。

 

 

 

(そう……私はいつか死喰い人になる。

 ……パパに負けない位、立派で強い死喰い人に……。

 そして……世界中の便座をコレクションするんだから……!)

 

 

 少女の冒険は始まったばかりである。

 

 







映画寄りになるかと思います。
賢者の石編までは投稿します。
感想&批評お待ちしております。


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