少女はお辞儀することにした   作:ウンバボ族の強襲

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秘密の部屋編最終話

読者の皆様、ここまで大変お疲れ様でした。ウンバボ族は超疲れました。


c+javaさん、ヒゲオッサンさん、KAORI@マークさん、火蜥蜴さん。
秘密の部屋編、誤字報告大変ありがとうございました!


願い

「という訳で秘密の部屋の化け物をぶっ殺してきましたハリーです」

「ロックハートは暴走しすぎて自分の記憶が道連れになり頭パッパラパーのヤバい人になってしまいました」

「どうもこんにちわ、今回の襲撃犯です。でも私のせいじゃないから謝らない」

「お星さまきらきらしてる~~」

「きゃーーロックハート先生かーわーいーいー!」

 

 

「よくやったご苦労じゃ。ロックハート自爆()とか。やっぱワシの采配は間違っておらなんだ。楽しいのぅ。人を一人ぶっ壊すのは実に楽しいのぅ」

 

 

「最悪だなこの爺」

「ドン引きだわ」

「一矢報いる為に爺に襲い掛かります。ロックハート先生を返せクソ爺がぁーーー!!」

「それは残像じゃよ」

「何……!」

「すごい! やっぱり校長先生は偉大な人だ!」

「ハリー、やっぱ君おかしいよ」

「何言ってるのよ! ハリーは最高よ!!」

「おほししゃまきらきら~~」

「ピェッ……!」(もうやだこの爺のペットやめたい……)

 

 

 爺は何かホグワーツ特別功労賞とかいう黒歴史盾をくれたりした。

 するとドアが思いっきりばーんと開き、長い金髪の変なオッサンが現れた。

 

 

「どうもホグワーツ理事のルシウス・マルフォイです」

「フォイカス(父)だー!」

「こんにちわマルフォイさん、息子さんからいつもスニッチかすめ取ってますハリーです」

「あ、本屋でパパと殴り合って私にボロ日記くれた人だわーー」

「今回の騒動の黒幕が直々にご苦労様です。これからアズカバンですか? ご愁傷さまです」

 

 

「…………」

 

「コレに懲りたらもうヴォルデモート卿の遺品ばら撒くのはやめるのじゃなー」

 

「闇の帝王死んでねーよクソ爺。不愉快なので帰ります」

 

「じゃあどうぞ、これ僕の靴下です。マルフォイさんに差し上げます」

 

「……舐めてんのかクソガキ。ドビー!」

 

 ハリーは嫌がるルシウス・マルフォイにくっせー靴下を押し付け、マルフォイは嫌々その異臭を放つ靴下をドビ―へとぶん投げた。

 するとドビ―、と呼ばれたテニスボール大の目ん玉をした屋敷下僕妖精はめっちゃ喜んでた。

 

 

「ご主人さまがドビ―めに服を下さった」(曲解)

「は?」

「ご主人さまがドビ―めに靴下を下さった。ハリー・ポッターがご主人さまにあげた靴下を、ドビーめにくださった!」

 

 靴下の所有権はハリー→ルシウス→ドビ―へと変遷。

 一応靴下あげたことにはなっている。問題ない。

 問題ないったら問題ない。

 

「ドビーは自由だーーーー!!」

 

「こ、小僧! よくも私の召使をーー!!」

 

「いけない! ハリー・ポッターに手を出すな!!」

 

「アバd----!」

 

 

 杖を構えたルシウス・マルフォイだったが、ドビーが指を鳴らすと謎の旋風が発生。

 ルシウス・マルフォイはぶっ飛んだ。

 

 そのまま校門までぶっ飛ばされたルシウス・マルフォイは、ホグワーツ城から強制的に追放されたのだった。

 

 

 

 

 

 

「ハリー・ポッターがドビーを自由にしてくださった!」

「ドビー、せめてこれくらいしかしてあげられないけど」

「誰コイツ」

「あぁ、これ僕の家までやってきて散々嫌がらせした挙句、9と4分の3番線を閉じて暴れ柳を間接的に殺し、ついでにクィディッチでグリフィンドールを敗北へと追いやった今回の戦犯たるマルフォイ家の屋敷下僕妖精のドビーさ」

「よくやったわ、勇者よ。あなたは偉大な屋敷下僕妖精だった」

「ドビーめは可愛らしい人間のお嬢様に誉められました!!」

「人間じゃなくって、そこは純血の魔法族の、にして頂戴。私は屋敷下僕妖精は好きよ。ティニーは私の親みたいなものだったから」

 

 ベスは家に居る屋敷下僕妖精のティニーのことを思い浮かべた。

 多忙だった叔母、コーデリアに代わり、子供の頃は親のような存在だった。

 

「で、コイツどうするんだいハリー? ここで殺すか? 口封じ?」

 

 ロンはゴミでも見るかのような目で屋敷下僕妖精を見た。

 

「うーーーーん……そうだな」

 

 ハリーは少しばかり迷い、何か考えて――口を開く。

 

 

 

 

 

「ねぇ、ドビー。ひとつだけ、約束してくれる?」

「はい! はい! なんでも致します!!」

 

 ドビーは大きく首を上下運動させた。

 

 

 

「もし、君が――君が、これから先、どこか親切な人の家で――屋敷下僕をやると言うのなら。ひとつだけ約束してほしい。ドビー。

 

 

 誰かの命令じゃない、使命でもない――――ただ、自分自身の意志で、選ぶんだ。

 

 どう生きるか、どんな下僕妖精になりたいのか……どんな主人に仕えたいのか」

 

 

 ハリーの力強い言葉に、先ほどまで嬉しそうにしていたハズのドビーが、小さくなって俯いた。

 ひどく困惑しているようだった。

 

 

「……ハリー・ポッターは偉大な魔法使いです。ドビーめにも優しい、強い、勇気の出る言葉を掛けて下さいます……。

 ですが、ドビーめは人間ではありません。屋敷下僕妖精です。ドビーは魔法使いではありません、ドビーは……ドビーにそれが……できるでしょうか……」

 

 

「……多分、キツイことになるかもしれない。人によっては君のことを笑うかもしれない。貶すかもしれないし、後ろ指をさして嘲るかもしれない――でも。

 でもね、ドビー」

 

 ハリーの目は優しい緑色を宿していた。

 その緑は――秘密の部屋で、友との約束を守る為だけに戦った『彼』の姿を映していた。

 

 

 

 

 

 

「僕は絶対、君のことを笑ったりしないから」

 

 

 

 

 

 

「……なら、ドビーめは頑張れます。ハリー・ポッターがドビーを誇りに思ってくれるのならば……ドビーは何百人に笑われようとも気になさいません!!

 さようなら! ハリー・ポッター!!」

 

 ドビーはバチン、と音をたてて姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シャンデリアがきらめく大広間。

 

 

「マンドラゴラを生きたまま釜茹でにした結果ーー、石化していた生徒たちが戻ったーーーー。命拾いしたのをせいぜい喜びワシに感謝するがよい」

 

 

「偉大なる校長先生ありがとうございました!」

「完璧に幸福です!!」

「いっそこのまま石化していたかったーなんてこれっぽちも思っておりません!」

「こんなクソ学校もうやだ早く帰りたいなんて全然思ってません!!」

 

 

「今叛逆的なこと言った奴ホグワーツの壁に塗り込めんぞ。

 

 ともあれ喜んでおる貴様等生徒のゴミカスを絶望のどん底に突き落とそうかと思います。

 

 学年末テストじゃが――取りやめにしようかと思ったが。例年通り続行することになった!! さぁ死ぬ気で勉強するがよい。そして実際爆死するがよい」

 

 

 

「「「「うわあああああああああああああ!!!!」」」」

 

 

「そ……そんな……」

「……どーしよ……秘密の部屋暴くのに必死で勉強なんかなんもしてねー……」

「やったわ! 目覚めた甲斐があったというものよ! やるわよ!」

 

 ハーマイオニーは元気だった。

 それ以外の生徒は、基本的に皆絶望的な顔をしていた。

 

 

 それは、スリザリンも例外ではない。

 

 

「……フォイ……もう無理フォイ……どーするんだコレ」

 

「ドラコ、俺、諦める」

「現実ヲシャットダウン……」

「ふぇ……私ぜんぜん勉強なんかしてないよぉ……!」

「そんなダフネにこの僕が個人レッスンをしてやろうか?」

「だが今のスリザリンには得点源のノットがおらぬ」

「アイツ……スリザリン2年の平均点上げてたからなぁ……」

 

 数人がベス・ラドフォードをちらっと見た。

 この女、授業態度は最悪だが腐っても優等生だ。何だかんだで1年時も成績優秀者上位10名に名を連ねていた。

 

 

「…………やるわよ」

 

「え」

「お?」

「ふぇ……」

「ら、ラドフォード……? えっ……やるって……何を……?」

 

 

「黙ってろフォイカス。皆……やるわよ!! 絶対! いい点とるのよ!! そうすれば成績優秀者点でスリザリンが優勝カップよ!! いい!!

 今年の優勝旗は絶対蛇を飾ってやらなきゃダメなの!! 分かったわね!!」

 

 

「で、でもぉ……ベスちゃん今から勉強間に合わないよぉ……!」

 

「間に合う間に合わないじゃないの!! やるの!!

 今回は凄いカンペも用意したわ!! 何でも分からないことを何でも答えてくれる凄い日記帳通称リドル先生よ!! 蛇の言葉も分かる凄い奴よ!! 皆! このリドカス先生を使って!!

 

 何が何でもいい点とるわよ!!!! 優勝杯をゲットするわよ!!」

 

 

 並々ならぬ熱意に、スリザリンのテーブルは気圧された。

 あれ? コイツこんな奴だったっけ。と皆が首を傾げた。

 だが、そんなベスの肩を叩く人間が居た。

 

 

 

「良く言ったわ……ベス」

 

 知的な美人――監督生のジェマ・ファーレイだった。

 

 

 

「そうと決まれば全員死ぬ気で勉強なさい!! 時間がないのは皆同じ! だから今ならレイブンクローをもしのげるわよ!

 取るわよ!! 8年目の優勝杯をね!!」

 

 

 

 

 

 

『……え、ちょ……マジですか……』

 

 

 

 

 

 数日後。

 

 リドル日記はスリザリンの超便利な家庭教師扱いされまくり、生徒たちの手によって八つ裂きにされたりとかしたけれど、お蔭でスリザリン生が死ぬほどいい点を取れたので優勝杯は蛇寮になった。

 何の問題もない、優しい世界だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「汽車がでーーるーーよーー」

「乗ります」

「帰ります」

「光を超える速度で帰ります」

「ドーバー海峡を越えて来年はフランスに亡命します。二度と来るかこんなクソ学校」

「東欧諸国に行ってダムストに入ります命が惜しいので」

 

 

 生徒たちが我先にとホグワーツ特急に押し寄せる中。

 

 ベスはがらんとした大広間を眺めていた。

 眼鏡と赤毛も横に居る。

 

 三人は黙ったまま、天井を見上げていた。

 

 

 曇ってばかりいる英国にしては珍しい、初夏の――どこまでも晴れ渡った空を。

 

 

 

「おめでとう、ベス。今年も優勝はスリザリンだったね」

「当たり前だわ。死ぬ気で頑張ったもの……主席は穢れた血に持ってかれたけど」

「……お前その言い方辞めるつもりはないんだな本当見下げ果てたマー髭レイシストだな」

「真実を言っただけじゃないの。不変の事実はいくら言葉で虚飾しようが隠せるものではないわ。ただ逃げてるだけじゃないの血の裏切り」

「だからって堂々とそれ言う君は本当スリカスの鏡だと思うね」

「光栄だわ」

 

 ベスは上を見上げる。

 

 

「……光栄だわ、本当に」

 

 

 

「……サラザール・スリザリン、か……」

 

 

 ハリーはどこか思うところがあるのか――何かを噛みしめるような声色だった。

 

 

 

 

「……どんな人だったんだろう」

 

 

 

 

「さぁね、千年も前の人間だし――ひょっとしたらハリーのひいひいひいひい爺さんだったのかもしれないよ。確かに偉大な魔法使いだったかもしれないけど、今のスリカスを見てるとトンデモナイレイシストだったのかもな」

「はい出ましたーーーー都合の悪い人のことをすぐレイシスト認定ーーーー。グリカス特有の自分と違う意見なだけですぐに人のこと不当に貶めるという島国人間特有の薄汚い思考ですねーーーきゃ~~~~怖ーーーーい」

「すぐ『血の裏切り』とか言っちゃうエリザベスさんに言われたくないですねェ~~~~? どこのどこ口がその台詞言ってんのか一回死んで転生して客観的に自分のこと見れるようになってからそうゆう事言いましょーーって幼稚園で習わなかったのかな~~~~? ベスちゃんは習わなかったのかな~~?」

「あら、私、幼稚園通ったことないの。ごめん遊ばせ、私ずっと家庭教師でしたの。どっかのド貧乏家庭と違ってリッチでセレブでごめんなさいねーーーー? その上見た目もどっかの腐れ赤毛と違って端正でついでに成績もよくって悪いわねーーーー。一生知らずに済んだかもしれない人間の格の違いってヤツを見せつけちゃって本当ごめんねーーーー?」

「あーーやっぱそうだったのかーー! 君って本当友達居ないと思ってたらコミュ障の純粋培養だったんだねおったまげーー! きっと先天性コミュニケーション障害症候群な君は周囲に害悪を及ぼすと判断されて隔離されてたんだね! 当たり過ぎてて自分の勘が怖いや僕!」

 

 

 傍らで繰り広げられるロンとベスの小学生並の口喧嘩をハリーはスルーしてそっと笑顔を浮かべた。

 

 

 

「……でも、きっと……悪い人じゃなかったと思うよ」

 

 

 

 サラザール・スリザリン。

 悪の道に走った魔法使いを最も多く輩出した寮の創設者。

 魔法薬を体系化した偉大な魔法使い。

 純血主義の提言者にして……その後も多くの魔法使いたちに影響を及ぼした人物。

 

 ある者は彼を褒め称え、またある者は蔑む。

 どこまでも混沌としている彼のことを――――一言で言い表せるわけがない。

 

 

 でも。

 

 

 だからこそ、ハリーは信じたかったのだ。

 

 きっと、サラザール・スリザリンは聖者でも、悪魔でもない――ただの、人間だったのだと。

 度を越した残酷さもなければ、誰に対しても平等に降り注ぐ慈愛も持たない。

 全てを焼き滅ぼす力もなければ、悲しみ打ちひしがれ一歩も動くことも出来なくなる。

 

 そして、

 

 信じた友と、信じた未来を描き、理想だけを追い続けた――ただの、人間だったのだと。

 

 

 

 

 

 

「あ! ここに居たのかラドフォード!! 何しているんだ! 早くしないと汽車が出てしまうフォイ!!」

「あらフォイカス。わざわざご苦労様じゃない」

「うっわ出たよ。ようスリザリンのシーカー()さん、来年もハリーに見せ場を作るだけのかませポジション、宜しくお願いします」

「殺すぞ貧乏赤毛」

「黙れマルフォイ。何か色々台無しだ」

 

 いきなり現れたマルフォイ(息子)が天井を見上げ、まだ吊るされてる元旧友を悲し気に見た後――ベスを呼んでさっさと帰ろうと告げた。

 

 

 

 少女は去り際に、一度だけ振り返る。

 

 

 

 

 

 

「…………きっと、会えたよね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もし、死後の世界があると言うのなら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………会えたわよ、そうよね」

 

 

 

 

 

 

 そこでは、誰もが、愛しい人と再会することができる、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お辞儀はしなかった。

 

 

 

 

 

 かわりに、目に焼き付けていくことにした。

 意図的にか、それともめんどくさかっただけなのか――大広間の飾りつけは、学期末パーティーの時の、そのままにされていた。その真実はあの暴君校長のみが知ることだ。

 

 死後の世界があるのかないのかは、死んでみなければ分からない。

 だから――願うことにした。

 

 どうか、再び彼らが再会できますように、と。

 

 ベスは、目をいっぱいに見開いてその光景を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 青い空の下、堂々とはためく――――緑色の旗を。

 

 

 

 

 

 

 

 蛇の紋章を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 







「なぁ、サラザール」






 伝わるさ、きっと。






「なんだ? 歌バカ」





 千年超えた先の――――誰かに。





「オレが言った夢覚えてるか?」


「……あぁ、あのどうしようもない、アホの夢か」







 私たちの思いは。







「アホ言うな!」


「忘れるわけがないだろうが」






 私たちの、描いた理想は。







「いつか、魔法使いもマグルも関係ねー世界が来るといいな!」







 願わくば、どうか、その未来が明るいことを。






「どこまで楽天家なんだ貴様は、そんなもの来るわけがないだろうが」


「いいじゃねえか!」






 誰も、もう、偏見や、迫害、差別で……悲しまない世界であることを。






「そしたらきっと、面白いコトが沢山あるぜ! 皆平等でさ、マグルも魔法使いも。

 きっと皆で笑って生きる世界が来る!」


「……呆れてモノが言えぬ」

 






 その世界では。






「まぁ、俺たちは見れないだろうな。そんな世界。千年先ぐらいになりそーだしな。だけどさ、きっと」


「……ん?」



「コイツは見届けてくれるんじゃねーの?」



「…………あぁ、そうかも、な」











 もう、誰もお前を恐れることはないさ。








「……まるで夢だな。……だが、悪くない、か」


「いいんだよ! 夢でも何でも! きっとコイツはお前を覚えててくれるさ!
 ついでにオレのことも覚えててくれよー? そんでヘルガも、ロウェナも!
 あとへレナのことも! ……って、お前大変だな!」


「愚かな夢だな、本当に」

「バカでいいんだよ。『夢』なんだから」










 今はただ、そんな未来を――――――願おう。



















「願わなきゃ何も始まらない……そうだろ?」












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