3年時の授業が始まった。
「さぁ――――心の目で……見るのです!!」
痩せてスパンコールの服を着たいかにも胡散臭い女が叫んでいた。
大きな眼鏡をかけている。
その様子を見て、ハリーは何となく昆虫を思い出した。多分他意はない。
「あたくしがトレローニー教授です。みなさんがお選びになったのはこの『占い学』――魔法の学問の中でももっとも難しいものですわ。断言しましょう……。
『眼力』が備わっていない方にはあたくしが教えられることは殆どないでしょう」
具体的に言うと未来を見通し、世界の進む方角を予見したりする非常に厄介でメンドクサイマジで辞めて欲しいことこの上ないクソチート余計な能力のことである。
「限られたものにのみ与えられる『天分』とも言えましょう――。もし、そこのあなた」
トレローニーがネビルを指さす。
「は、はい!?」
「お婆様はお元気?」
「た、多分!」
「……お可哀想に……」
「えぇ!?」
「凄い、何で分かったんだ……?」
「ネビルにお婆さんがいるなんて一言も言ってないのに!」
「個人情報流出?」
13歳のガキどもは基本的に超単純だった。
バーナム効果も知らねーガキをだますのは非常にチョロい。
「ところで、そこのあなた……」
次なるターゲットはラベンダー・ブラウン。
「赤毛の男子にはお気を付け遊ばせ」
「あ、赤毛!?」
ラベンダーは何故かロンの方を直視し、後ずさる。
「そのお隣の……エキゾチックな顔立ちの貴女もですわよ。お気を付け遊ばせ……。
具体的に言いますと来年のクリスマスに――本命に捨てられた当てつけ仕方なくで妥協された挙句あんまり相手にして貰えないダンスパーティーを過ごすことになるか、と」
「マジかスゲーー来るなら来い!」
「誰も僕とは言ってないだろ!」
ロンの叫びをトレローニーはガン無視し、ポットからお茶を注ぎ始めた。
茶葉に拘ったアールグレイ。
イギリス人はイギリス人らしく淹れたての紅茶をお互いカップに入れて飲み干し、その残った茶葉を見て占う、という占いを確立していたのだ。
毎日お茶ばっか飲んでその挙句、淹れカスの茶葉をありがたがる風習はどこの島国も同じらしい。
「右手ご覧くださいハリーさん。ふやけた茶色いものがいっぱい見えますね、ゴミです」
「見たまんまのことを何のためらいもなく言いましたねロンさん。じゃあこれを内なる目で曲解してください」
「無理だわー。あ、なんか動物っぽい」
「僕のは何か山高帽っぽく見える――ロン、君将来魔法省で働くかも。多分闇払い的な感じで」
「マジかよおったまげーー」
「皆さんはかどっておりまして? あら、そこのスリザリンの?」
「先生……! あぁ先生……! わ、私……私何か凄いものが……!!」
「……まぁ」
「ん?」
「あ、ベスだ!」
「……あの子占い学とってたのね」
ダフネ・グリーングラスと席を並べて紅茶カップを回していたのは、誰も呼んでいない。
スリザリンの誇る便所娘。エリザベス・ラドフォードだった。
どうせまた、穢れた血がどうのこうの言い出すんだーなーとかロンは思った。
ハーマイオニーは杖を振り回す準備をしていた。
「見えます……! こ、これは――預言です!! 紅茶の妖精さんの預言です!!」
「な、なんと……? まぁ、それは素晴らしいですわねえぇ……さぁ、では……その紅茶の精からの言伝を……アールグレイの預言を……読み解くのです!!」
「紅茶の精は言っています!! 『額に稲妻の傷を持ちし眼鏡の男子に、災いが訪れん……』」
「額に稲妻の傷……? 眼鏡……? そんな特徴的な人が他にいるなんて凄い偶然だ!」
「お言葉ですがハリー・ジェームズ・ポッターさん、それはきっとあなたの事だと思います」
「なんと、ロナルド・ビリウス・ウィーズリーさん、それは本当ですか」
「多分、あの女の単なる言いがかりだと思われます」
「ハーマイオニー・ジーン・グレンジャ―さん。そうやってエリザベス・D・ラドフォードさんを悪く言うのは良くないと僕は思います」
「『奴は悪天候クィデッチで感電し、スニッチを取られて惨敗し、更にご自慢のニンバス2000もバッキバキになるであろう』……と言っています! アールグレイの精が!!」
「まぁ……素晴らしい! 素晴らしい預言ですわよスリザリンのお方……。人類にはそこまで傲岸不遜極まりない預言はできませんわ! あなたは『心眼』ならぬ『心耳』をお持ちのようですわね」
「はい先生! 今年もアイツなんかヒデー目に遭えばいいと思います!」
「ふぇ……ベスちゃんそれ願望だよぅ……!」
ロンが何か閃いたような顔つきになった。
「はーーーーい! 先生僕も見えます! 紅茶の妖精からの伝言が見えます!!」
「あら赤毛の……あなたには奇妙なエニシが見えましてよ……具体的に言いますと横の生徒との赤い糸が……」
「そうなって欲しくはあるけどね。
預言でーーす!『蛇の寮の住まいし便所女に災いが訪れん』」
「災い! 今年は序盤から不吉な予言がぶっ飛んでてあたくし、思わず感動のキュンキュンを禁じ得ません!」
「いい性格してるぜトレローニー先生」
「よく言われましてよ」
「蛇寮の便所女……やだそれ私じゃない!?」
「ふぇぇ……ベスちゃん……ただのあてつけ返しだよぉ……」
「『奴は何か変な鳥にボッコボコにされ、クィディッチでボロ負け、更には今年闇の魔術に対する防衛術で最悪の点数を取るであろう』……これは悲惨です! 可哀想に!」
「どこの誰だか存じませんがまぁお気の毒に。今年は性格の素晴らしい生徒が多くて何よりですわ。
さぁ、ティーカップをおよこし下さい、叩き割って差し上げましょう」
「渡します。どうぞ」
トレローニーはティーカップを見るなりそれを叩き割った。
「見えます!! あなた!! あなたには!! グリムがついております!!」
「グリム? え? なんですか童話?」
「グレム?」
「不幸の象徴! グリム! 死神犬です!! きっとあなたは今年不幸でしょーーー!!」
何かトレローニーが大方当たりそうな不吉極まりない預言を一個ブチ当てたので授業はお通夜ムードと化し強制終了したよ。
その直後のマクゴナガルの授業。
「で、今年の生贄はポッターという訳ですかそうですか」
「先生――今年『の』て何ですかーー?」
「あの占い騙りの授業じゃ毎年必ず一人死ぬって預言が出るのですよ。そんで今年はポッターですか、当たりそうですね。トレローニーにしてはマシな占いです」
「なんだ、やっぱ偽占い師か」
猫から人型に戻ったマクゴナガルは知能レベルも人間まで戻ったことで、授業を再開することにした。
「それじゃあ『動物モドキ』に関する授業をしますので有難くお聞きなさい」
動物もどき。
それは非常に難しく高度な魔法である。
人の本性なんか所詮畜生と大して変わんねーよという強烈なパンチのこもった反社会的な魔法であり、20世紀はこの100年でだった7人。しか登録されていないことになっているが。魔法省が把握ミスしている可能性も存在する。
そして、この魔法の最大の特徴は、とマクゴナガルが言った。
「自分が人間だったという記憶も残るしある程度の人間としての思考は残りますが、その思考回路や感情は極めて獣寄りになります」
「一発で見分ける方法の伝授ありがとうございます」
「あとはトレローニー先生の占いに賭けるしかないねーー!」