少女はお辞儀することにした   作:ウンバボ族の強襲

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ハロウィーン

(……どうして……こうなった……?)

 

 

 

 聖域。

 

 トロール。

 

 震えている栗毛の少女。

 

 

 

 

(なにがなんだか、わからない……?)

 

 

 ベス・ラドフォードはトイレに居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハロウィン。

 

 それは、特に食ってもおいしくない南瓜の中をくりぬき光源にし。

 子供たちはお菓子かいたずらかの究極の選択を善良かつ何の罪もない大人たちに迫る日である。

 尚、お菓子は全てメイドインイングランド。

 美味しかったらそれは奇跡。

 

 

 そんな感じで一心不乱にお菓子を貪り食っていたらクィレルとかいうターバンが本体な奴が入ってきた。

 

 

「トロールがぁああああ! 地下室にぃいいい!!」

 

 静まり返る大広間。

 

 

 

「お知らせす……スヤァ……」

 

 

 

「死んだ」

「次の闇の魔術に対する防衛術の先生は上手くやってくれるでしょう」

「ロックハートとかいうイケメンが来るらしいよ」

「万事解決」

 

 

 

 勝手にクィレルを殺そうとする生徒たち。

 それをダンブルドアが杖の先から爆竹を生成し、生徒共にブチかましながら吠える。

 

 

 

 まさしく老いても眼光の衰えぬ猛獣――獅子吼の校長。

 

 

 

「しぃいいいいずぅうううまぁぁああれぇええええええええええええええええ!!!!」

 

 

「黙ります」

「黙りました」

「これがホグワーツ……」

 

 

 

「皆うろたえるでない。先生方はトロールの捜索じゃ。監督生はすぐさま下級生を引率して寮に戻るように」

 

 

 

 ロンの3番目の兄、グリフィンドールの監督生なパーシーは、まるでウォーターをゲットしたフィッシュの様だった。

 コイツがゲットしてるのはクリアウォーターだったけどな。

 

 

 

「グリフィンドール! 監督生の僕についてきて!! 1年生は固まって! 監督生の僕の言う通りにしてればトロールなんて恐るるに足らず! 監督生の僕の後ろに着いてきて! 監督生の僕に道を開けて! 監督生の僕と1年生を通して! 監督生の! 僕に!! 道を!! 開けて!! 僕は監督生の監督生の監督生です!!」 

 

 

 

「うっざ」

「うっせ」

「監督生とは何だったのか」

「誰だよトロールなんか入れたの」

「知らね、クィレルじゃない?」

「マジかよあのターバン。自作自演とかクソだな本当」

「心配ないわ、いずれフリットウィックあたりにアバダアバダアバダされるでしょ多分」

 

 

 

「あ、この流れるような罵倒を止めるハズの……ハーマイオニー居ない!」

 

 ハリーがやっと気づいた。

 

「多分さっきロンが『ハーマイオニーなんかボッチ』って言ったこと気にしてるんだ!!」

「やっぱ僕のせいか。で、今どこに居るって」

「どうもグリフィンドールの方の双子のパーバディです。ハーマイオニーはそこの腐れド貧乏地味赤毛が『ボッチ』とか悪態付いたのでトイレで一人でしくしく泣いているっぽいわ、尚私は、身内でもない奴危険を冒して助けに行く気は毛頭ない」

「ロン! じゃあ僕たち助けに行かなきゃ!!」

「……で、でも僕あいつにひどいこと言ったしその……」

「ロン、男だったら責任取れ。大丈夫僕も一緒だから」

「ついていきますハリーの兄貴!!」

 

 

 

 一方スリザリンでは。

 

 

「と、トロールだって……トロールだって……!? 冗談だろ嘘だろありえないそんなありえないそんなことは有り得nnnnnn」

「ドラコが精神崩壊しかかってる件について」

「精神崩壊なんかするわけないわけないし僕がそそっそそそそんなことで恐れるとか有り得ないこともないこともないなんてわけないじゃないかぁ!!」

「お前何言ってんのか分かんねーよ」

「……………あ、展開読めた」

「ふぇぇ……ミリー怖いよぉ……」

「然り、恐れて尚只黙して時を待つのも良し――武士とはそのようなものだ」

 

 ミリセント・ストロング・ブルストロードは一人で肝が据わっていた。

 

 

「まったくトロールの侵入を許す? トロールの侵入を許す、だって!? そんなバカな話があってたまるか。父上に言いつけてやる……全くもって許しがたいよ。本当もう怖いからやめて下さい。ダンブルドアは何を考えているのか全然分からない――こんなんだから穢れた血の入学なんか許すべきじゃないんだ、なぁラドフォード。

 

 ……あれ? ラドフォード」

 

「ドラコ、ベス、いない」

「温熱センサー稼働中……」

 

 

「え? えっ? えぇ!? なんで……ら、ラドフォード!? い、居ないの!?!? なんで!?」

 

「ドラコ君、ドラコ君……あのね、ベスちゃんね……言ってたの。

『私、今日便所飯するから』って……」

 

 

 

 

「正気か!?!?!?」

 

 

 

 

「作用、あ奴にとって便所とは即ち聖域――この神聖なる日を聖域で祝いたかったのであろう」

 

 

 

「今日は!! ハロウィーンだぞ!? ……ハロウィーンの日だぞ!?!?」

 

 

 

「何言ってるのよ、あの子、基本朝昼夜は便所飯じゃない。知らないの?」

「知る訳ないだろう!? てっきり僕は君たち女子と食べているのかと思ってたんだぞ!?」

「わ、私もそう言ったんだけど……ベスちゃん……宗教的な理由で聖地の方向を向いて食べないといけないからって言ってて……」

「信じたのか……? 君はそれを信じたのかダフネ・グリーングラス!!」

「お、大きな声出さないでよぉ……! どうしよう……どうしよう、ベスちゃんトロールのこと知らないよ……」

「出陣か?」

「ノット!! ノットはいないかーー!? ノットーーー!!」

 

 

 

 

「1年生遅れないで! 早く寮に戻りなさい! ……ってあれナニシテンノお前ら」

 

「………………なんかそうゆう訳なんで女子トイレの探索に行ってくださいジェマ様」

 

「……マジデ……? あぁもう! 分かったわよ!! 1年生は出来るだけ上級生にくっついて戻りなさいよ! 下級生を助けに行くわよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ベスはトイレで今日も充実したスーパー便所飯をやろうと思っていたのだ。

 

 たった一人になれる、個室。

 あぁ、なんて贅沢な空間。

 

 こんな場所で誰にも見られずにひとりで食べたいものを満喫できる幸せ……。

 

 ベスはそんな喜びをかみしめていた。

 

 

 のに、

 

 

 

 簡単に言うと汚れた靴下と掃除したことないオッサンの部屋のような息するだけで目が酸っぱくなりそうな、くっせー臭いが漂ってきて洗面台をガッシャンガッシャンぶっ壊していた。

 臭い五月蠅い破壊神。まさに三重苦。

 

 

「やだ……私の『ハロウィーン限定☆おひとり様リア充♪便所飯』が台無しに……」

「きゃぁぁあああーーーーっ!」

 

 

 女の子の悲鳴が聞こえた。

 ベスは、はっとして音源を見る。

 

 ……見覚えのある栗毛の少女が恐怖で口をあけたまま硬直していた。

 

 

(えーっと……グリフィンドールの……)

 

 

 地味にマトモなヤツだ、としか思いつかなかった。

 

 

「こっち!!」

「た、助けて……!」

 

 

 完全にデカブツにロックオンされた彼女は怯えて動けない。

 尚、叫び声でビビってる模様。

 

 そこでベスは、今日はハロウィーンだ、ということを思い出した。

 

 

 

「このクィディッチ練習中な腕で……お菓子を投げるわ!!」

 

 

 良いコントロールだった。

 お菓子(百味ビーンズ)の箱をトロールの顔に投げる。

 お菓子の箱は潰れ、百味ビーンズがトロールの顔面に飛び散った。

 続いて便所飯にしようと思っていた南瓜のパイを投げる。

 

 トロールの顔面が美味しそうになった。

 どうやら一時的にちょっと満足したらしい。トロールほっこり。

 

 

 

 栗毛の少女は個室と個室の下を必死にかいくぐってベスの方向までやってきた。

 

 

「あ、あなた……スリザリンの……」

「ハロウィーンの夜にこんな所で何してたの!? もしかして同志?」

「え……な、泣いてた……」

「そうね、トイレは聖域だものね!」

 

 意味不明なことを言うベスにハーマイオニーは絶句していた。

 今トロールの視界は塞がっている。

 チャンスは今だ。

 

 

「ねぇあなた! 一緒に逃げましょう! 今のうちに……」

「…………無理」

「なんで!?」

「…………できないの」

 

 ハーマイオニーはどうして、と怒鳴りつけようとし――――気づく。

 ベスの腕に、傷が出来ていることに。恐らくは先ほどの洗面所の破片が刺さったのだろう。

 聡明な彼女は理解する。ハーマイオニーだけなら個室の下から這い出せるだろう。

 だがベスの傷では……匍匐前進は叶わないと。

 

「だからお願い、助けを呼んできて。私はここでトロールを引き付けているから」

「何よ……何よそんなこと言って……!」

「大丈夫よ。私これでも死喰い人見習いなんだから。闇の魔術とかいっぱい本読んでるんだから」

「……でも……!」

 

 迷うハーマイオニーに、ベスは激高した声を上げた。

 

 

 

 

「早く行きなさいよ!! この『穢れた血』!!」

 

 

「……っ」

 

 

「あなたと違って私は純血なんだからこんな馬鹿で間抜けですっとろいトロールに負ける訳ないでしょ!!

 早く行きなさいよ!! マグル生まれのあなたなんか要らないのよ!!」

 

「……」

 

 

 

 くるり、と栗毛の少女は踵をかえし。

 

 這いずり回りながらトイレの個室から脱出した。

 

 鍵の壊れたトイレはもう開くことはない、唯一の手段は上から脱出すること。

 だが腕を汚した自分にはもう――それは不可能だろう、とベスは悟った。

 あとはただ、時間との勝負。

 

 トロールの視界に入らない様に――瓦礫でカムフラージュしつつ、息を潜めているしかない。

 

 

 

 

 

 

「……これで、良いのよ……」

 

 

 

(どうせ、誰も来てなんかくれない)

 

 

 

「……穢れた血なんかに頼りたくないじゃない。あんなのと一緒に戦うんなら死んだ方がマシだわ」

 

 

 

(あの子にはちゃんとマグルでも『親』が居るんだから……あの子を心配するパパとママが、居るんだから)

 

(まぁ、マグルだけどな)

 

 

 

 

「私、本当純血で良かった。マグルのクズが親なんかじゃなくって、良かった」

 

 

 

(……もう、私にはパパもママも……居ないんだから)

 

 

 

「……だからいいのよ。私……どうせ……」

 

 

 

(……ひとりぼっち、なんだから)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勝手に悲しい気持ちになり下がり、ベス一人で勝手に諦めようとした。

 

 その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ルーモス・マキシマ!!」

 

 

 光り輝く閃光が、トロールの視界を真っ白に塗りつぶす。

 せっかくお菓子もらって多少良い気持ちだったトロール激おこ。

 

 目の潰れた一瞬の隙を狙って、誰かがレダクトを叫び個室のドアを木っ端みじんに帰す。

 

 

 

 

「もしかして入学初日、寝てたの? 私言ったでしょう?

 

 スリザリンは皆、兄弟姉妹だから上級生を頼りなさい――って」

 

 

 

 

 

 

「……!」

 

 

 

 

 

「ベス、こっちに来い!」

「ようやったわ」

「トロール絶殺」

「侵入して女子トイレに直行でロリ襲うとか……ふぅ、良いご趣味です」

「一切隙のない素晴らしい行動だと思います」

「流石変態界の先導者トロールさんだぜヒャハー!」

 

「なんでトイレに居たのか聞かないでおいてあげるからさっさと出してあげなさいフリント」

「はい姐さん」

「なんで……」

 

 クィディッチ寮代表キャプテンに救出されながらベスは半分涙目で後ろを見る。

 

 

 そこには見知った栗毛の少女、そして赤毛と黒髪眼鏡。

 

「穢れた血……? どうして……」

 

「そ……そんなの! 助けを呼んできて、って言われたからに決まっているでしょ!」

 

「ハーマイオニーさんの頼みを僕が断る訳ないね!」

「アレだけ頼まれればね。スリザリン生と一緒で良かったよ」

 

 

 錯乱状態になったトロールがこん棒を振り上げる。

 トロール監視中のグリフィンドール1年生×3がさっと杖を振り上げた。

 標的はもちろん――前方4メートル級トロールだ。

 

 

「「「ウィンガーディアム・レビオーサ!!」」」

 

 

 トロールが。

 

 浮く。

 

 

 

 

「「「「「インカーセラス!!!!」」」」」

 

 

 スリザリン上級生たちの呪いが炸裂。

 (フリント以外の)5人の杖から光線が迸り、宙にあげられたトロールに衝突。

 インカーセラスは縛れ、の意味。

 

 無からロープが現れ、トロールの肉体を拘束する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こ……これは……!」

「き、きききき……」

 

 

 

「「「「「亀甲縛り……!」」」」」

 

 

「おい、誰だこんな縛りにした馬鹿は!!」

 

 スリザリンの女将軍キレる。

 

 

「いや……インカーセラスって言うから……」

「俺ちょっと縛りかた研究してました」

「縛るって言うから……なぁ?」

「トロールのぉおお! 亀甲! 縛りだぁあああ!!」

 

「テメェら一直線に並べ、一人ずつアバダしてやる」

 

「「「「「ありがとうございまぁす!!」」」」」

 

 

 これがよく訓練されたスリザリン。

 

 

 

「……何か……ごめんなさい……うん……」

「あー、ハーマイオニー? 僕君になんか酷いこと言ったような気がするんだけど今この状況を見たらかつての自分がとても小さいもののように思えたよ、もっと大きな男になります」

「いい様だね。じゃあ皆帰ろっか」

 

 ハリーはケラケラ笑っていた。

 

「クソなんて羨まし……じゃない、ベスは見ない方がいいと思って目を塞ぎます」

「素晴らしいじゃない! いいオブジェだわ!! コレはトイレの持つ空間的な美しさをより立体的に表現することができるわ!! ねぇ、コレに蝋燭乗っけてシャンデリアにしましょうよ!!」

「汚ねぇシャンデリアだぜ……へへっ、そうゆうの嫌いじゃないね」

「流石キャプテン!」

 

 フリントが杖の先から蝋燭を出現させ、トロールを芸術的に飾った。

 屈辱に悶えるトロール。

 

 

「……素敵……」

「フリントすげー」

「流石キャプテンじゃんすげー」

「女子トイレに躊躇なく突入しただけあるわー」

「もうやだ……私……私……」

 

 ジェマが失神しそうな顔色で呟いた。

 

 

 

 

 

 

 やがて騒ぎを聞きつけたマクゴナガルが現れた。

 そして、天井に吊り下げられミゴトなシャンデリアと化しているトロールの姿に目を剥く。

 数度目をこすり、それが幻覚ではないと確信したマクゴナガルがスリザリン生を「マジか」という目を見つめ……。

 

 

 

 

 

 

「……成る程、この状況が……分かりました。

 

 とりあえず、ケガ人なミス・ラドフォードをポピーのところへ連れていきなさい。

 そして……。

 

 

 

 スリザリン50点減点!!!!」

 

 

 

 という公正なジャッジを下していた。

 その実ちゃっかりグリフィンドール3人は1人5点な合計15点の得点を貰いそそくさと帰って行った。

 理由は「仲間を助けに行ったことと、幸運評価」とか寝ぼけたこと言ってた。

 

 

 

 

「……あ、あぁ……優勝杯が……! 7冠達成の優勝杯が……! わ、私の代で途絶えてしまうと言うの……!? 50点て……50点ていくらなんでも酷……。

 え? な、何よベス……? ……そんなすりすりしなくてもいいのよ? 抱き着いてこなくてもいいのよ、べつにあなたを責めてるわけじゃないんだからね……無事で本当に良かったわね……うん、もう……それでいいや」

 

 

 

 

 







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