少女はお辞儀することにした   作:ウンバボ族の強襲

7 / 51
クィデッチ

 昔、とある銀河系の一つの星にて……。

 

 

 ある者が「箒乗ってバスケしよーぜ」と言った。

 ルールはどっちかというとキーパーがいる辺りフットボールに近かった。

 

 それはクアッフルという、ただの玉を皆で転がしあい、スニジェットというやたら早くて美しい鳥を握りつぶせば試合が終わるという……何の変哲もない、スポーツだった。

 

 

 その日までは。

 

 

 

 ある試合のことだった。

 いつもの様に、クィディッチやろうぜ! と集まり、各自ボールとったり回したり鳥を絶滅寸前まで追い込んだりしていた。その時。

 

 

 

 ひとりのトチ狂った馬鹿が、相手に向かって魔法をかけた岩をぶっ放したのだ。

 

 

 どう考えても反則、リンチものだろと思うが基本的にイカレている魔法使いはそれを承認。

「いいぞ、おもしろいもっとやれ」

 やんなくていいのに煽った。クソが。

 

 

 と、同時に誕生したのがビーターという役職であり。

 

 ビーターとはすなわち

 

 ただでさえ危ない、高速上空空中機動スポーツを更に危険にした戦犯ともいえるのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

「以上、キャプテンフリントのクィディッチ講座でした」

「初めに暴れ玉考えた奴マジ狂ってるな、余計なことしてくれやがって」

「俺もそう思う。まぁ、ベス。お前の仕事はただ一つ、凄くシンプルで簡単だ」

 

 フリントはベスの目線の高さまで屈みこみ、少女のまだ華奢な肩にすとん、と手を置いた。

 

 

 

 

「要はハリー・ポッターをぶっ殺せば試合終了だ。な? 簡単だろう?」

 

 

 

 

 

「よっしゃ任せろやる気でた」

 

 ベスは至極分かり易い試練にこくり、と頷く。

 

 

「おっしゃ殺すぞぉおお!! 野郎共ぉおおお!!」

 

 

「おー、ベスはやる気だなー」

「我らが便所娘に怪我させんじゃねーぞーー分かってんだろーなー」

「デリック……おまえの敵は討つ……」

「ふっ……疼くぜ……この右腕がスニッチを掴めと言っている……!」

 

 気合いの入れ方は各自違った。

 

 

 

 

「貴様らは何だッ!?」

 

「「「「我らスリザリン! ホグワーツ最強の末裔なり!!!!」」」」

 

「貴様らの敵は何だ!?」

 

「「「「獅子の皮を被った猫! グリフィンドールの案山子共!!」」」」

 

「時は来た! 箒を掲げろ!! 柄を起こせ!! 純血の誇りの名のもとに、奴らに身の程を教育してやれぇえええ!!」

 

「「「「おおおおおおおおお!!!」」」」

 

 

 

「ナニコレ胸熱テンション上がるわ」

「あー、伝統っぽい。伝統は大事だからな」

「成る程、過去の栄光と妄執に固執するのね、流石英国」

「そうそう。ほな行くでー」

 

 

 

 

 

 スリザリン勢出陣。

 

 尚、グリフィンドールでもその時オリバー・ウッドがほぼ同じことを言ってたりした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『という訳でーー! 始まりましたぁーー! 第一回ホグワーツカップ第一戦! 空はカラっと晴れた晴天微風。気温は平年どおりのコンディションです。いやーマクゴナガル先生、晴れて良かったですねー!』

『解説のマクゴナガルです。このような天気に恵まれたことを大変うれしく思いますね』

『マクゴナガル先生はこの日の為にてるてる坊主を大量に暴れ柳に吊るしていましたからね。あれは怖かった』

『ガタガタ抜かすなテメェも吊るすぞ。真面目に実況なさい』

 

 

 

「やぁベス! 敵同士だね。でも頑張ろう」

「ハァイ、ハリー! あなたシーカーなんですってね! 全力で叩き落すからそのつもりでね!」

「えー何か怖いな。お手柔らかにね!」

 

 

 

 試合開始。

 

 マダムフーチのやる気バリバリの号令と共に比較的普通のボール、戦犯、元鳥が放たれた。

 

 

 

 

『先攻はグリフィンドール! 赤球はグリフィンドールからです! なので自動的に暴れ玉はスリザリン! えー……スリザリンですが何とディックが人間として折れちゃいけない方向に腕が崩壊したので何と今年は新入生、1年生のエリザベス・ラドフォードを入れるという斜め上の采配となりました! スネイプロリコンじゃねーの?

大変かわいい美少女です。あの綺麗なお顔がブラッジャーに轢き潰されると考えるといささかゾクゾクします』

『あ?』

『冗談です。そしてボールはアンジェリーナに。なんて素晴らしいチェイサーでしょう。超可愛い、今度デートして』

『おい』

『ジョーダンですHAHAHAHAHA!』

 

 

 アンジェリーナ→アリシアにボールが回る。

 そこにスリザリンキャプテンがパスカット。そのまま鷲のように舞い上がる。

 

 

『フリント速いです! 速すぎるッ! このままゴールか……おーっと立ちふさがるはグリフィンドールキャプテンオリバー・ウッド!! まさかのキャプテン対決です!

 フリント――――破れたぁぁああ! 非常に惜しかった!!』

 

 

「ベス! ブラッジャー寄越せ!!」

「ほい」

 

 ベスは相方のビーター。ボールへとブラッジャーを回す。

 ボールがバッドを振るうと、ケイティ・ベルの後頭部に思いっきり投げつけた。

 殺人的な速度だった。

 ブラッジャーは風を切り、空をかけ、周囲の空気を巻き込みながら旋回し、ケイティ・ベルの後頭部を狙う。

 

 そして――

 

 

「あ痛」

 

 

 金属同士がぶつかり合うガッキーンという音と、いくつか火花が軽く散り、ケイティはクアッフルを落とした。

 尚本人は箒からすべっても居ない。

 

 

「あの石頭め……」

「人間じゃない……」

「ベス、こんな感じでポッターを殺すんだ。いいか? 人の頭を殴ることに躊躇するなよ? そんなことじゃクィディッチなんかやってられないからな」

「狂気じみてるな……そうゆうの嫌いじゃないわ」

「心配するなお前は俺が守ってやる」

 

 ベスがハリーを見ると――一人高みから戦場を睥睨しているようだった。

 尚、シーカーはボコられやすいので初心者ポッターはとりあえずスニッチ掴むまで怪我しないように温存しとけというウッドの指示らしいがベスはそんなこと知る訳ない。

 思い出したのはキャプテンフリントの言葉だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ベス。この『スニッチ』という球なんだが……お前どう思う」

 

 

「どう考えてもバランスブレイカーだわ。一回取っただけで150点も入るとか舐めてるとしか思えないもの」

 

 

「そうだ。しかもそこで試合が終了する……。ちなみに昔はマジで生きている鳥を使っていたらしいぞ」

 

「怖」

 

 

「掴まれたら死、ブラッジャーに当たっても死。スニッチがスニジェットだった時代――それはもう、圧殺とか苦しい死に方したくない鳥は死にもの狂いで本気になって逃げたらしい」

 

 

「でしょうね」

 

 

「そいつらを追いかけ、クィディッチというゲームと何の罪もないただ懸命に毎日を生きていた小鳥の命を終わらせるのが『シーカー』だ。つまり150点というのはかけがえのない、尊い命の重みだ」

 

「にしちゃあ安過ぎないかしら? マグル並じゃないの」

 

「気にすんな代わりなんぞ幾らでもある」

 

「世知辛いわね」

 

 

「つまり『シーカー』というのはゲームを終わらせ150点の得点を入れる奴だ――――これが、どうゆうことだか……分かるな?」

 

「なるほど分からん」

 

 

「ハイ無能発見。死んどけマヌケ」

 

 

「お前がな」

 

 

 

 

 

 

 

「いいか――つまるところ『シーカー』というのは……。

 

 

 

 英雄か、戦犯。常にそのどっちかにしか成れない――そんな存在なんだ」

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

 

「勝てば英雄だが、負ければ戦犯だ。そんな孤高にして孤独な存在……それがシーカーなんだよ。つまりこの狂気に満ちたゲームの中で一番狂っている――キチガイだ。べス」

 

 

「お、おう……」

 

 

 

「だから奴らに許しは乞うな――そして哀れみもするな。躊躇や容赦をしていて勝てる相手ではない――――いいな?」

 

 

「分かったわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シーカー死すべし慈悲はない。おぁあああああああっ!!」

 

 ベスの吶喊攻撃。

 スネイプに無理言って買わせたクリーンスイープ7号が、高速のニンバス2000の軌道上に急降下し、その背中を目がけて体を叩き付ける!!

 

 

 グリフィンドールから惜しげもないブーイング!!

 

 

 

「おいコラ腐れビーターぁああ!」

「反則だ吊るせーー!!」

「死ね!! 死んで地獄の業火に焼かれ続けろ!!」

「この腐れ××××ーー!!」

「ふぁっきん」

 

 

 

 

 試合が一時中断。

 

 ベスはゴールから這い出してきた怒りのキーパー、オリバー・ウッドと言う名のメッチャ怖い、5歳位年上のお兄さんに死ぬほど怒鳴られ、涙目になっていた。

 クィディッチの前には性別も年齢も関係ない。女子供であろうと容赦のない世界がそこにあった。

 

 べそべそと涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしているベスへキャプテンフリントが肩を叩く。

 

 

「キャプテン……ごめんなさい……」

「個人的には良くやったと言いたいぞ、ベス。お蔭でポッターはスニッチを見失った」

「うん……ハリーが鳥さんを……殺しちゃうと思って……」

「だが、バッド持ったまま直で頭カチ割りに行くのはどう考えてもアウトだった。だが心意気は買おう。そしてアレは元鳥な。今無生物だからな。そこんとこはき違えんなはい続行」

 

 

 後半戦。

 

 

 

 

『えー、では誰が見ても反則である卑劣極まりないクソ行為の後にはなりますが試合続行です!

 はい、始まりましたー後半戦! 現在スリザリンリード!! 20-60でリードです、腹立ちますね』

『先ほどのビーターの反則さえなければ試合は終了していたのかもしれませんがね』

『(新人ビーターそこまで苛める必要もねーと思うんだよなぁ……)おや、ハリーの様子が……?』

『まさか……進化……!?』

 

 

 

『おーぉっと何ということだーー! グリフィンドールシーカーの箒が暴走しているぅーーー! やはり『生き残った男の子』と言えど新人にニンバス2000は重すぎたか!? 箒にへばりつくのに必死の様です!

 人間ブラッジャー、ウィーズリー兄弟が下を旋回しております! 多分落下したら助けるつもりでしょう!』

 

「……」

 

『それをじっと見つめるスリザリンの大物新人が不穏だ!!』

 

 

 

 

 

(これは…………チャンス到来!!)

 

 

 

 

 

 

「ボールさん、ボールさんあのね……」

「ん? どした……あー成る程。うん、面白そうだ。よしそれやろう」

 

 

 ベスとボールは上下に陣形展開する。

 そこに、暴れ玉がやってくる。

 そして

 

 

 

 

『や、や、やりやがったぁーー! スリザリンのビーターズ! 箒に必死にへばりついているハリー目がけてブラッジャーを乱射しております! これはハリーは動けない!! むしろ直撃したら骨が肋骨骨折不回避です! 卑劣です! 最悪です! やはり只者ではなかったーー!!』

 

 

 

「どうしようハーマイオニー……あいつ……マジでハリーを殺しに来た!」

「ちょっとスネイプに放火してくる」

「え? は、ハーマイオニー?」

 

 

 ハーマイオニーによる怒りの放火。

 何らかの呪文をかけていただろうスネイプが、ビビる。

 

 それでも迫りくるブラッジャーの嵐に恐れをなしたニンバス2000はおののいていた。

 もう無理怖い。

 こうなったら乗り手を振るい落としてでも生き残る。とばかりに暴れるニンバス2000。

 だが、ハリーは極めて冷静な声でニンバスを――諭す。

 

「なぁ、ニンバス.僕はこの勝負に勝ちたいんだ。だからさ……大人しくしてくれるかな?」

 

 迫りくるブラッジャー。

 ニンバス2000はあまり落ち着く気はないらしい。

 

「あぁ、聞こえなかった。僕は、勝ちたいんだけど?」

 

 ニンバス恐慌状態。

 

 まるでいう事を聞かないニンバスに対し――ハリーは、キレる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっそ、君『も』…………よっぽど燃やされたいんだね」 

 

 

 

 

 

 

 

 ニンバス2000は。

 

 生きることを――諦めた。

 

 

 

 

 結局、その試合はハリーがスニッチを掴み。

 170対60でスリザリンチームの敗北となったのだった。

 

 

 スニッチを発見しつつも、捕獲にまでは到らなかったスリザリンシーカーのテレンスは、目に見えて落ち込んでいた。

 フリントが肩を叩いて慰める。

 

 と、やっている間に。

 

 気がついたらグリフィンドール陣営で胴上げされていたハズのハリーがすいーっとベスの元へと飛行してくる。

 

「お疲れ、ベス」

「お疲れさま、ハリー! すごいキャッチだったわね! 私、あなたの頭をつぶしに行ったんだけど」

「うん、アレはちょっと怖かったな」

 

 ハリーは箒を一瞬チラリ、と見た。

 もうニンバスはハリーに立てつくつもりもないらしい。絶対的な服従、それがニンバスに残された最後の生存の可能性だった。

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。