忍たま。利吉さんと小松田さん。ほのぼの系です。この作品はピクシブにも投稿しております。

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あの子は事務員

 平和な青空の下、いつもの山道を歩く。

 

 母からの嫌味と愛情たっぷりの荷物を、忍術学園に勤める単身赴任中の父に届けるための何気ない日常のひとコマだ。

 

 何も変わらない日常は、命懸けの殺伐とした忍びの世界に身を置く自分にとって、ほんの僅かな休息である。用事と称して簡単な使いを頻繁に息子に頼むのは、働きづめの己に対する母からの気遣いなのかも知れない。

 

 忍術学園教員山田伝蔵の息子山田利吉は、フリーのエリート忍者である。亜麻色のサラサラした髪に整った輪郭は母親譲りだが、つり目がちの利発な目元は父親譲りだ。両親の遺伝子部分をいいとこ取りしたイケメンである利吉は勿論、都に出れば町娘にモテていて、自ら色男であることを自覚しているちょっと自惚れの強い若者だった。

 

 つまり利吉は自信家だったのである。

 あの事務員に出会うまでは……。

 

 

 

 通い慣れたハズの忍術学園の門の入り口に、見慣れない少女が立っている。

 ほんの僅かな違和感。

 少女は浅黄色の着物を見に纏い、一見するとただの町娘に見えるが、胸には『事務員』という札を付けている。

 

 事務員?

 

 見慣れぬ少女に警戒しつつ近づくと、

「あっお客様ですね〜入門表にサインをお願いします」

 と、のんびりした声色でほわほわと話しかけてきた。

 強制的に名前を書かされる。

 ほんわりしている割に強引な娘だ。

 

 少女の名前は、小松田秀子(しゅうこ)というらしい。

 

 別に事務員の情報なんか対して興味もなかったが、一年は組の良い子たちが新しく入ってきた事務員の情報を己にいちいち教えてくれるので、覚える気もないのに覚えてしまった。

 

 母親からの事付けを父に伝え荷物を渡し、食堂で忍術学園の今日のランチである『アジの開き定食』を完食し、さあ帰るかと学園の門を出ようとすると、どこからともなく例の事務員の少女が自分の目の前に立って、

「お帰りですねー出門表にサインをお願いします」

と、ほわほわした笑顔でバインダーを突きつけてきて、強制的に名前を書かされた。

 

「またいらして下さいね」

と、色白の頬を赤らめながら潤んだ瞳を上目遣いにして、見つめてきた小松田君をちょっと可愛いかな……と思ってしまったのは、何かの気の迷いだと思うことにする。

 

 

 数日後、特別講義の依頼を受け、再び忍術学園の門をくぐることになった。

 学園の入り口には、相変わらずほんわかした表情で門を守る事務員の小松田君。なんでも、今後はずっとあの事務員に学園の門番を任せるという。

 あんなほわほわした娘に門番を任せて大丈夫だろうか? 

 危険すぎる。

 学園長の思いつきも大概にしてほしい。

 

「利吉さん、どうかされましたか?」

 小首を傾げ訪ねてくる小松田君。しばらく忍術学園に滞在する事になったため、夕食を学園でとっていると、たまたま居合わせた小松田君と隣の席になったのだった。別に、小松田君と親しくなりたいわけじゃない。

 偶然だ。

 

 その後、風呂にでも入るかと浴場に向かおうとすると、

「利吉さんお風呂ですか? お背中、流しますよ! 一緒に入ります?」

 などと、のほほんと大胆な事を言い始めた小松田君を振り切って、即効で風呂を終え、小松田君を視界に入れないように即、部屋に戻り就寝する。

 

『お背中流しますよ』

 などとほざいた小松田君の馬鹿面が頭に浮かんできて、よく眠れなかった。

 ほんの僅かだが、背中流して貰えば良かったかな……などと邪念が生まれた気がしたが、気づかないふりだ。

 

(早くこの講義を終えたい)

 

 学園に滞在している間、小松田君のことがチラついて集中力に欠けてしまったが、日頃の疲れがピークに達しているのだと思うことにした。

 

 講義も終盤になった頃、休み時間の学園内の庭で聞き覚えのある声の持ち主が、のほほんと誰かと楽しそうに会話しているのを目撃する。

 

 のほほんとした声の主は小松田君。

 相手は、確か六年生の善法寺伊作君だ。

 善法寺君はイケメン揃いと呼ばれる六年生の中でも、特に目立つイケメンである。たいていの女の子は、ああいうタイプが好みだろう。きっと、小松田君とて例外ではないはずだ。

 

 小松田君と善法寺君は年頃も近いせいか、なんだかお似合いに見えた。

 

「あっ利吉さん!」

 にこやかな笑顔で近づいてくる小松田君。この笑顔は、さっきまで善法寺君にも向けられていたもの。

 

 そんな小松田君の顔を見たくなくて、次第に小松田君に冷たく当たるようになった。

 

(イライラする、小松田君を見ているとイライラする)

 

 この感情の正体が、嫉妬という名の恐ろしい病であることに目を背けたまま講義は終了し、しばらく小松田君と会わない日が続いた。

 

 

 

 ある日のこと。

 任務帰りに都に立ち寄ると、商店の並ぶ都会の路地裏で見覚えのある少女が、ガラの悪い連中に絡まれている。

 夕刻なこともあり、暗がりに引き込まれたら……急いで賊どもから少女を救い出し、手を引いて町を駆け出した。

 

 なんとか追っ手を撒いて、町外れの小屋に逃げ込む。ここは自分の任務のために使うための小屋だが、緊急事態だ。仕方がない。

「何をやっているんだ! 小松田君!」

 賊が怖かったのか、己に怒鳴られたのが怖かったのか、その両方か?

 小松田君は、ついに泣き出してしまった。

 

「ごめんなさい……学園のお使いで、手紙を届けなくてはいけなくて……そしたら、怖い人達に連れ込まれて……」

 

 おそらく小松田君に密書を持たせたか、もしくはカムフラージュの役割か……どちらにしろ、学園長も無謀な任務を押し付けたものだ。こんなへぼ事務員に、重要な役割なんか果たせるはずないじゃないか。

 

「何もされていないか?」

 怒鳴ったことを申し訳なく思い、少し優しく接する。

「はい……利吉さん、私のこと嫌いなのに助けてくださってありがとうございます……もう行かなくちゃ……」

 

『私のこと嫌いなのに』

 冷たく当たったのがいけなかったのか、怒鳴ったのが悪かったのか、どうやら小松田君は己が嫌っていると誤解しているようだ。

 

「別に嫌いというわけじゃ……」

 一応は弁解する。

 意外そうな表情で、キョトンとこちらを見つめる小松田君。

 

「えっ? でも、利吉さん私のことすごく厳しく当たるしてっきり……」

 

 嫌い……なわけあるか。

 むしろ……。

 いや、己が嫉妬してヤツ当たるからか。

 

 そういえば今の状況は……小さな小屋で二人きり。

 良い子の忍たま達に話を聞かれる心配もない。

 想いを伝えるなら、今がチャンスだ。

 

「小松田君……実は……」

 意を決して告白しようとすると、小松田君の口から意外なセリフが出てきた。

 

「そっかあ……良かったあ……私、学園長の思いつきでずっと女装した状態でお仕事していたから、てっきり利吉さんに変わっていると思われているのかと……」

 

 ?

 学園長の思いつき?

 女装?

 女装だって⁈

 

 日頃、伝子さん(父)の女装ばかり見ているせいか、クオリティの高い小松田君の女装を、まったく疑わなかった己が憎い。

 

「あれえ……利吉さんどうかしました? 震えていますよ?」

 

 相変わらず、のほほんとした小松田君。

 この可愛いらしい仕草も、クオリティの高い女装メイクと着物のセンスの良さが手伝っているかと思うと、憎らしい。

 

 そして思わずこう叫んだ。

 

「キミを見ているとイライラするんだ!」

 


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