やはり最近の比企谷八幡の女の子事情はまちがっている。   作:八橋夏目

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かおりのターン

 ああー、比企谷に会いたい……………。

 比企谷に会いたいー……………比企谷に会いたいよー……………。

 

 

 

 最近のあたしは何かがおかしい。まあ、何かとは言ったけど原因はわかっている。

 比企谷だ。

 あの捻くれ者にバレンタインの時から会えていない。それが今のあたしのウケない状況を作り出している原因である。

 最初はほんの偶然による再会から、クリスマスイベントやバレンタイン手作りチョコ教室を経て、比企谷という存在を改めて見返してきた。中学までのつまらない比企谷とはまったく違うなんか新鮮な比企谷になっていた。

 うん、まあそれだけだったんだけどなあ……………。

 それがここ最近、んー具体的に言うと春休み前くらいからかなー。なんか無性に比企谷に会いたくなった。千佳に言ったら遊びにでも誘えばいいじゃんって言われたけど、連絡先とか知らないんだよね………。聞くタイミングがなかったというか、ここまで頭を埋め尽くしてしまうような存在になると思ってなかったからさー。聞きもしなかったんだよねー。あーあ、あの時のあたしってほんとバカだよねー。ちゃんと聞いときなさいよ。

 で、今に至るんだけどねー。総武高校に乗り込もうかと思ったけど、というか千佳を巻き込んで校門前まで行ったけど、いざって時に足がすくんじゃうっていうね。超ウケる!そのまま梅雨入りまでしちゃったけど、まだ比企谷に会えていないあたしって意外と臆病だったのかね…………。いや、でも他の男子にはそんなことないし、逆にあの生徒会長は苦手なまであるからなー。………ぷくくくっ!? なんかこの言い方、比企谷みたいで超ウケる。

 そんなことをいろいろと千佳に話した。愚痴も込めて話した。そしたら、千佳が「比企谷くん」って言おうとしたのを「比企谷きん」って風に噛んだ。………あっははははははっ!? ヤバい! 思い出しただけで超ウケるんですけど! バンバン机を叩いちゃうくらい笑いが止まらない!

 …………はあ………はあ……………、とまあ何が言いたいかといえば、中学の時に比企谷菌っていうあだ名があったなー、っていうことだ。で、その比企谷菌ってのが最近妙に引っかかるのだ。なんというかあたしも感染してるんじゃないだろうかという風に。

 寝ても起きても頭の中はいつの間にか比企谷のことでいっぱいになってるし、その周りにいる女の子の姿も見た回数が少ないのに、妙に顔まで思い出せてしまうのだ。しかも比企谷にしばらくというか四ヶ月近くも会えてないからか、比企谷のことを思い出すだけで、胸がきゅうっと締め付けられる感じがする。体は熱くなってくるし、呼吸も荒くなってくる。しまいには触りたくなる始末。これは比企谷菌に感染しているとみてもなんらおかしくはないよね。

 さて、どうしたものかね。あたしがこんなことになるなんて、しかも比企谷に対してだなんて夢にも思ってなかったからなー。それに比企谷のことは一度告白されてふってるんだよね………。まあ、でもあの時の比企谷じゃこんな気持ちにもならなかっただろうけど。だから、惜しいことをしたとは思わないし、あいつもそんなこと思ってもないよね。前にそのことをさりげなく話したら、今はそんな気はないって言ってたし。あたしもその時はなんとも思わなかったはずなんだけど、その言葉を今思い出すと胸が苦しくなるのはなんでなのかなー。

 

 

 それから六月の中頃、あたしと千佳は街へと繰り出してきていた。受験生だけど、たまには息抜きも必要じゃん。しかも最近じゃ比企谷のことで頭がいっぱいで、勉強にも集中できない。元々勉強にさほど興味があるわけでもないけど、周りの空気に流されてぼちぼちとやっている。といっても千佳とやってるから全く進まない。なんて考えながら隣を歩く千佳を見ると足を止めてどこかを眺めていた。不思議に思ったあたしも彼女の視線をたどる。

 

 

 ッッッ!?

 

 

 ヤバい!?

 え? なにこの感じ?

 ヤバいヤバいヤバい、なんかよくわかんないけど超ヤバい!

 

 

 と思ったら体は正直なようで勝手に視線の先にいた目の腐った総武高校の制服を着た男子生徒に抱きついていた。

 

 ああ〜、そうそうこの感じ。この匂い。落ち着くわ〜。

 

 すりすりと男子生徒の胸に顔を擦りつける。次第にぐりぐりと力強くなってるのは気のせいだよね。

「え? ちょ、なに? これ、どゆこと!?」って低い声が頭の上から聴こえてくる。おお、おお、今日も通常運転でキョドってるねー。ヤバい、なんか無性に嬉しくなってきたんですけど!

「ちょ、そこの人! 先輩に何してんですか!? そこは私の場所です!」という声や「ちょっとあなた。いきなり抱きつくなんて不躾けにも程があるわ。離れなさい!」という冷たい声や、「ふおぉぉぉおおおおお!? また、新たなお義姉ちゃん候補が!? ……………って、かおりさんか」という聞いたことのある声が聞こえてくる。だけど、今はそんなことはどうだっていい。あたしはあたしの欲望に従うのみ! うへへへへっ、比企谷〜、会いたかったよー。

 

 

 

 この後、みんなに(もちろん千佳にも)怒られました。まあ、怒ってるのを聞いてたら、比企谷の周りにいた女の子は全員比企谷菌に感染してるっぽかったけど。あの比企谷の妹まで女の子でしたよ! どうしよう、超ウケる展開なのに全くウケない…………。

 それによく考えてみると、今の比企谷って女の子五人に囲まれて歩いてたってことでしょ。しかも一人は中学生ってどういうこと!? 全員顔は覚えてるけどさー、なーんかこう胸のモヤモヤが広がってるんだよねー。

 で、今はなぜかみんなでサイゼにきている。比企谷の尋問を行うとかいう理由で、あたしたちも連行されてきた(千佳はただの被害者だけどね)。比企谷兄妹はついでに晩御飯も済ませてしまおうってことになったようで、がっつり頼みだした。といってもミラドリとマルゲリータを比企谷が頼んで、妹の小町ちゃんの方がサラダとスパゲッティを頼んだだけだけど。後はデザートとかを適当に頼み、全員が長話になることを見越してドリンクバーをつけた。中学生の留美ちゃんだっけ? は比企谷がお代を持つらしい。さすがに中学生を付き合わせるんだからそれくらいはな、って言ってた。変なところで律儀って言うか面倒見がいいっていうか。

 それから比企谷が一人、ドリンクバーを取りに立ったので、女の子だけの時間になった。そこであたしは疑問に思っていた比企谷菌感染の有無について聞いてみた。まあ、まずは比企谷菌についての説明からだったんだけど、説明したらどうやら全員心当たりがあるようで。あたしの症状に似ているのが、生徒会長の一色ちゃんと雪ノ下さんで、留美ちゃんと由比ヶ浜さんはあたしたちの症状をより悪化させたものだった。小町ちゃんは、その………なんというか全員がぶっ飛ぶようなことを平然と口にしてたってことだけは言っておくよ。あたしの口からとてもじゃないけど言えない。超はずい。

 それから食事をすませ、再び比企谷が席を立ったので、話がまた戻った。で、なんと雪ノ下さんのお姉さんが比企谷の声やフェロモンは媚薬だって言ってたらしい。というかお姉さんまで落ちてるよね。なにそれ、超ウケるんだけど。

 そして、みんな一斉に気がついた。それは比企谷菌というフェロモンが媚薬効果を持っているという事実に。しかもそれはあたしたちにしか効かないんだとか。理由は比企谷のことが好きだから、だって………………。

 

 

 え?

 ん?

 あれ?

 ということはあたしって比企谷のこと好きなの?

 

 

 つい思ったことを口に出したら、今更!? って驚かれた。みんなでハモるとか超ウケるんだけど。

 でも、そっか。

 あたしは比企谷のことが好きなのか。

 うん、まあ、それなら納得……………かな。

 でも、あたしがねー、比企谷をねー。

 なにがきっかけなんだろうね。

 

 

 意外と超どうでもいいことだったりして…………。

 

 

 うわっ、超ウケるんですけど!


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