やはり最近の比企谷八幡の女の子事情はまちがっている。   作:八橋夏目

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感想ありがとうございます。

ご期待が叶った人もいるかもしれませんが、ただの偶然です。

京華の投稿前から書き始め、途中まで書いていたところにコメントをいただいたのです。

すごいタイミング(笑)


留美のターン

 最近、私は休みの日は八幡といることが多い。中学生になってからというもの、少し私の中での行動範囲が広くなってしまったようで、たまに八幡の家に行ったりしている。小町さんが快く迎え入れてくれるから、土曜日でも朝早くから八幡の家に行っては起こしたりしている。

 ぶっちゃけ、八幡は年下には甘い節があるから私がこんなことをしていても全く嫌がりはしない(口では色々と言葉を捏ねくり回しているけど)。まあ、でもこうなったのには理由がないわけでもない。

 

 

 

 中学生になったばかりの四月の中頃。街を歩いていると去年のクリスマスパーティーで場を仕切っていた八幡の高校の生徒会長が、うらやましいことに八幡と肩を並べて歩いていた。しかも二人だけで。生憎、二人に見つかりはしなかったけど、八幡が心配になって後を追ってみることにした。

 和気藹々、とまではいかないにしても、生徒会長が話してるのを見る限り楽しそうだ。それと、どうも聞こえてくる会話から推測するに、その日は彼女の誕生日だったらしい。

 ああ、だから他の二人はいないわけだ。彼女のことだから特別な日である誕生日を武器に八幡を独占したのだろう。そこに八幡の意見はなかったのは聞かなくても分かる。かわいそうな八幡。大丈夫だよ、もうじき私が癒してあげるから。

 それからは二人で雑貨屋に行ったり、ラーメン屋に行ったりしていた。どうやら以前にも八幡は彼女をお気に入りのラーメン屋に連れて行ったことがあるらしく、その日は生徒会長さんのリクエストにより、再び来店することになったんだって。私ももう少し早く生まれてれば、ああやって八幡の横に並んでお出かけできたのかな………。

 取り敢えず、私はコンビニで買ったあんパンと牛乳を片手に遠巻きながら八幡たちがラーメン屋から出てくるのを待っていた。案外、私はぼーっとしているのが好きなようで、八幡たちが出てくるまでの間もそれはそれで楽しかった。

 ラーメン屋を後にすると今度は「卓球しましょう」とか生徒会長が言い出し、ゲームセンターに行くことになった。あ、私この時初めてゲームセンターに一人で入ったんだよね。そもそも行ってもお金がないから、お父さんと買い物に行った時にモールにあるゲームセンターで時間をつぶすくらいだ(つまりお父さんと出かけることが滅多にない)。でも音楽ゲームをするための専用のカードは持ってたりするんだから、不思議だよね。

 取り敢えず、卓球台の近くにあった十六マスの叩く音楽ゲームで時間をつぶすことにした。視界の端に二人の姿を映しながら、八幡が好きそうなアニメの曲を選択する。レベルはまだ7が限界。8じゃちょっとが難しくてクリアできないんだよね。この曲はレベル6だから準備運動としてはやりやすいだよね。

 一曲目が終わって二人を見ると二人は卓球に没頭していて、私がそばにいることには気づいていない様子。この分では後三十分くらいはやってそう。私は二曲目を選択して意識をゲームに戻す。横の高校生くらいの男の人の腕が目で追いつけないくらい動いてるのは見なかったことにしよう。私じゃ、あそこまでできないしね。

 二曲目も終わってラスト一曲。最後は何かレベル8の曲でもやろうかな、という気分になり夏用ベストを身につけた制服の女の子が二人描かれている画像を選択。この曲の原作がなんなのかはわからないけど、たぶん八幡に聞けばわかると思う。そのうち聞いてみよう。

 それから。

 やったよ! 判定Cだったけど一応クリアしたよ!

 すごく指が痛いけどね。

 って、ああそういえば私は八幡たちを追いかけてたんだった。二人はどうしてるかなー。

 

 ……………意外と八幡が勝っていた。

 

 

 へー、八幡って卓球強いんだ。あ、それとも生徒会長の方が弱いのかな。

 後ろにも人が並んでいるので、卓球台近くのベンチに移動した。

 より近くはなったけど、いかんせんゲームセンターはうるさいので二人の声は聞こえない。

 あーあ、楽しそうにしちゃって。ここで私が乱入したらどうなるのかなー、怒られるかなー。でもいいなー、混ざりたいなー。

 なんて考えていたら。

 

 

 バッチリと・

 

 

 二人と目があってしまった。

 

 

 二人は声をそろえて「「あ、」」と固まっていたが、私はじっと見続ける。なんかちょっと見つかったのが嬉しかったりするから、声とか出そうものなら顔がフニャケちゃいそうだった。

 生徒会長は何事もなかったかのように「次いきますよー」とサーブの構えを取る。だけど、それを八幡は許さなかった。

 八幡は私に声をかけてくれた。それを見た生徒会長も「はあ………」と深いため息を吐いて、こっちにやってきた。

 なんでいるのか聞かれたので、真っ正直についてきたことを打ち明ける。それを聞いた八幡は一歩私の方によってきたが、今度は生徒会長の方がそれを良しとはしなかった。私を自分の胸の中に抱き寄せると「こんな幼気な美少女まで先輩の毒牙にかける気ですか! させませんよ、させませんからっ!」なんて言い出した。私は人形のように固まったまま聞いていたけど、この人私をまだ小学生扱いしてるのかな。一応もう中学生なんだけどなー。

 というか、毒牙って何?

 しかも「まで」っていうことは他にも毒牙にかかっている人がいるってこと?

 ああ、そういやすでにここに一人いたよね。亜麻色の髪で私の鼻をくすぐってくる人が。

 それからはなぜか三人で街を巡ることになった。何気生徒会長も年下には甘いよね。まあ、私はそれを分かった上で受け入れてるから、何も言える立場じゃないけど。

 その日は街中で解散したから特に何もなかったんだけど。

 

 

 

 週明けの月曜日。その日はなぜか無性に八幡に会いたくなってしまった。放課後、私は気がついたら総武高校の前にいていたんだから、相当重症だよね。中学生が高校の前にいるのはどうにも違和感がある。ぽつぽつと昇降口から出てくる生徒の流れを眺めながら、八幡の姿がないか探してみる。

 

 ………………。

 ………………。

 ………………。

 

 出てこない。

 それから数十分。

 今更だけど、八幡って奉仕部とかっていう部活に入ってたよね。これって結構待たなきゃいけないやつじゃない?

 まあ、空でも見てようかなーと上を向くと金髪のウェーブのかかった髪の人と目があった。

 どうやらあっちも目があったことに気がついたようで、じっと見つめてくる。

 ああ、千葉村に行った時にいた金髪の人だ。

 彼女もようやく私が誰なのか分かったみたいで声をかけてきた。

 取り敢えずここに来た経緯を話すと「はあ………最近のヒキオは………」と深いため息を吐いた。スマホを取り出すと誰かに電話をしだし、しばらくすると大きな胸が揺れているのが視界に入った。

 あれは確か八幡とよく一緒にいる二人の片割れの………胸だけがでかいアホっぽい人。

 無事に私の受け渡しが終わり、入校許可証をもらって、奉仕部へと連れて行かれた。意外とそういうところには気が回るんだよな、この人。それとも八幡の差し金なのかな?

 奉仕部に着くと待っていたのは千葉村で見たメンバーに生徒会長だった。あれ? 生徒会長って奉仕部の部員なの?

 それからは生徒会長が持ち出してきたパイプ椅子に座って、出された紅茶をありがたくいただく。うん、おいしい。やっぱり、未来の私(みたいな黒長髪の人)は何をしても完璧である。私も紅茶の入れ方とか勉強した方がいいのかな。

 なんてゆったりしていると八幡に心配されてしまった。「中学でも友達が…………」とか言ってきたため私は首を横に振った。確かにすぐに友達ができたってことはなかったけど、八幡がこれまでに道を示してくれたから惨めな思いはしてない。それ以上に今は八幡の方が心配だった。土曜日の誕生日デートを見る限り、他にも八幡を狙っている人がいるのが分かった。それが理由できたことを伝えると、女性陣が顔を赤くした。妹の小町さん以外は色々と言葉を捏ねくりまわして否定はしていたが、ぼそっと「八幡みたい………」って言ったら、急に黙ってしまった。なんかこの人たちで遊ぶのも楽しいかも………。

 それからは改めて中学生になったことを祝われたり、制服姿を八幡に褒めてもらえた。

 あと連絡先も交換した。

 たぶん、これが大きかったんだろうな。

 その日から八幡や小町さんたちと連絡を取るようになり、二週間くらい経った頃の土曜日に八幡の家に行くお許しがもらえたのだから。ここから比企谷家訪問が始まったと言っても過言ではない。

 

 そして今日も行くことにしてたんだけど。ちょっと寝坊した。心地いい天気で寝つきが良すぎたのが悪かったのだ。私が悪いわけではない。

 十一時過ぎに比企谷家に着くと八幡はすでに起きていて、九時過ぎには近くの公園に行ったらしかった。珍しいこともあるんだね。あの八幡が休日に早起きするなんて。それから少し雑談をして小町さんと二人で公園まで行くと青みのかかった長い髪の女の人とその人に似た小さい子と一緒に砂場で遊んでいた。あれ、八幡だよね…………? 休日の昔のお父さんみたい。それから三人の様子をベンチに座って見ていると、女の人と手が触れ合って顔を赤くしてたり、小さい子におでこをピトっと当てられて、二人して砂場でごろごろ転がり始めた。周りに人がいないからいいけど、すごく気持ち悪い光景だった。

 それからしばらくて三人が立ち上がると、どこからともなく現れた生徒会長によって、八幡が捕獲されてしまった。しかもちょうど公園の反対側の入り口からは奉仕部の二人がやってくる始末。右を向くとニコニコを小町さんが笑っていた。ああ、この人が呼んだのか。これはもう私達も行くしかないよね。

 

 

 待っててね、八幡。いつか私の気持ちを伝えられるように私がんばるから。


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