やはり最近の比企谷八幡の女の子事情はまちがっている。   作:八橋夏目

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陽乃のターン

 最近の雪乃ちゃんの様子がおかしい。

 まるでストーカーのように比企谷くんを観察している。

 いろんな意味で心配になって、よく顔を出すようにしているけど、会うたびに比企谷くんの話ばかり。やれ彼がこんなことを言っていた、やれ周りの女の子たちが彼を取り囲んでいる。やれ自分も混ざりたいなど………。自覚してないんだろうけど、どんだけ比企谷くんのこと好きなのよって感じよね。一度、それを言ってみたら「ば、馬鹿なこと言わないでくれるかしら。わ、わわ私は別に比企谷君のことなんて何とも思っていないし、ましてや好きだなんてそんなことありえるはずがないじゃない。ええそうよ。そもそもどうして私があんな誑し谷君のことをそ、その、す、好き、だなんて考えに至ったのかそこから説明して欲しいものね」だって。すごく目が泳いでて比企谷くんみたいだったってのは言わないでおいた。言ったら絶対泣き出すから。お姉ちゃんはそこまで鬼じゃないんだぞっ☆

 それとあの子、名前何ガハマちゃんだっけ? まあ、あのお団子のガハマちゃんのことも溺愛してるわね。今日は何回抱きつかれた、唇がほんの数センチまで迫ってきた、たまに顔が赤い時があってしかも震えだすから心配だ、などなど。我が妹ながらにしてなかなかの逸材になってしまったような気がするわ。そのうち捕まらないか心配よ。

 でもちょっと雪乃ちゃんから伝え聞く比企谷くんも異常なようにも思えてくる。

 まず、そもそも彼は基本ぼっちだったはずだ。過去に何があったのかは知らないけど、社会に対しての偏見というか屈折した見方を持っている。しかもどこかしら雪乃ちゃんに通づるものがあり、なのにあの子とは対照的に対人スキルが身に備わっていないコミュ障というちょっと変わった子。でも雪乃ちゃんにとっては色々と殻を破るきっかけを与えてくる男の子で、ゆくゆくは雪乃ちゃんの婿にでもと私は考えてる。

 そんな彼が雪乃ちゃん曰く、言葉通りの女誑しになってしまっているみたいなのだ。確かに、彼の周りには彼に惹かれている娘がたくさんいる。雪乃ちゃんを始め、ガハマちゃんに一色ちゃんにめぐりはどうなんだろ………、あと隼人のお友達も一人陥落してたわね。しかも小学生………あがりの中学生か今は………にも手を出しているらしい。あ、それと一番危険なのが妹ちゃんだったわね。彼の一番身近にいて、みんなが知らない彼のことまで知っていて、なおかつ彼はシスコンだからいつ間違いが起きても不思議じゃない。んーまあ、比企谷くんだし大丈夫だとは思うんだけどね。ヘタレだし…………。

 

 

 

 翌日。

 結局、心配なので来てしまいました。

 んー、来たはいいけどそもそも私は何が心配なんだろうね。雪乃ちゃんのストーカー癖かなー。それとも比企谷くんが間違いを犯してしまうことかなー。ま、彼に会えばなんとかなるでしょ。

 それから奉仕部の部室へと行き扉を開くとーーー

 

 

 

 ……………………何か見てはいけないものを見た気がするわ。

 

 

 

 一度扉を閉めて、再び開けるとーーー

 

 

 

 ーーーああ、夢じゃなかったみたいね。

 

 

 

 比企谷くんはいた。ちゃんといつものように読書をしている。うん、彼は特に変わってはいない比企谷くんだ。

 問題なのは彼の周りにまとわりつく三人の女の子。と対極の位置にいる二人の女の子。二人組の方は言わずもがな、雪乃ちゃんとガハマちゃんである。なんか密着しすぎでゆりゆりしく感じるけど、今はそっとしておこう。

 それよりもこれはどういうことなのかしら。比企谷くんの右腕に肢体を絡める一色ちゃんに彼の背中に抱きつき首に両腕を絡める妹ちゃん。そして彼の膝の上を陣取り、抱きつくように胸の中に顔を埋(うず)めている……………誰?

 それからみんなが私のことに気づくまでに何時間時が流れたのか分からなくなる感覚に陥ったけど、実際はほんの数秒だったと思う。

 えっと…………、君たち何してるの?

 そんな言葉を私は投げかけた。

 けど、返ってきた言葉は私の斜め上を行くものだった。

 

「見ての通り先輩に抱きついてます。ねー、せーんぱい」というのが一色ちゃん。

 

「あ、陽乃さん。やっはろーです。今、小町は兄の背中を揉んでるんですよー」となんか怪しい言葉を発する妹ちゃん。

 

「………八幡の………汗くさい………………」と顔を隠す女の子。

 

 えっ、ちょ、ほんとこれどういうこと!?

 さすがの私でも理解が追いつかないんだけど。

 この中で一色ちゃんがまともに見えるのは気のせいかな………。

 妹ちゃん、それ絶対当ててるよね。

 いや、それよりも正面から抱きついてる子! もうヤバいところまできてるよね!

 

 

 取り敢えず、比企谷くんから一旦離れてもらった。

 

 

 落ち着け、陽乃。私は雪ノ下家の長女よ。並大抵のことでは動じないんだから、これくらいで動揺を見せてはいけないわ。しっかりするのよ、私。

 まずは比企谷くんに説明を求めよう。

 この子達じゃ、主観的にしかならないだろうし。

 

 で、返ってきたのは分からないという一言だった。

 ただ、一番最初に抱きついてきたのはガハマちゃんなんだとか。そのうち一色ちゃんも抱きついてくるようになり、ゴールデンウィーク明けには留美ちゃん(正面から抱きついていた子で中学生なんだって)までもがこんな状態になっていたという。うん、まあ、いつかはこうなるかもしれないとは思ってたけど、それよりも妹ちゃん。「小町はこれがいつも通り、というかぬるいくらいですよ」ってどういうこと!? お姉さん、もう頭痛くなってきたんだけど……………。

 それから、比企谷くんにどうして嫌がらないのかを聞いたら、

 

 妹ちゃんはご飯抜きにすると脅してくる。

 一色ちゃんはなんだかんだ言いくるめられて、既に諦めた。

 留美ちゃんは断ると泣きそうになるから断れない。

 ガハマちゃんは一度引っ付くと吸盤でも付いているかのように離れない。

 

 なんだって。

 雪乃ちゃんの名前がそこに出てこないのは雪乃ちゃんらしいわよね。

 これだけみんなが欲望のままにしてるんだから、雪乃ちゃんも正直になればいいのに。

 

 

 はあ……………心配で来てみたけど、すでに手遅れだったわね………。

 これからどうすればいいのかしら。

 取り敢えず、今日は帰ろうかしらね………。

 

「あ、はるさん先輩! そこ、さっき先輩が紅茶こぼしたところでまだーーー」

 

 え?

 椅子から立ち上がって扉の方へ向かおうと、足を切り返したら、つるんと滑る感触があり、地に足がつかない感覚が全身を包んでいく。

 

 あ、やばっ! 

 倒れながら、今更気付いた。

 私、超動揺している。

 

 

 雪乃ちゃんが比企谷くんに取られるかもしれないからーーー

 

 

 比企谷くんが誰かにとられるかもしれないからーーー

 

 

 私の知らないところで私よりもみんな先に進んでいるからーーー

 

 

 なんだ最初から何を心配してるのか心は分かってたんじゃん。

 ああ、私も雪乃ちゃんのこと言えないわね。

 

 

 

 ……………………………。

 …………………………………………………。

 

 

 痛くない?

 衝撃はあったけど、どこも痛くない。

 それよりも何この匂い。

 それとあったかい…………?

 私が今の状況を整理していると「大丈夫ですか」と彼の声が耳元から聴こえてくる。

 

 

 ッッ!?

 

 え? 何この感覚………。

 ちょ、これはさすがにやばいって!?

 なんか急に体が熱くなってくるし、彼の声が鼓膜を震わせてきて、何も考えられなくなってくるし。

 しかもこれ、抱きしめられてるんだよね!? 比企谷くんに私抱きしめられてるんだよねっ!?

 やばいやばいやばいやばいっ!!

 こんな抱きしめられて彼の熱なんか感じちゃったら、いろいろとやばいょ。

 それにこの匂い。比企谷くんの匂いだよね。ああ、だめ、脳が、脳に、……………だめぇ。

 

 

 

 はあ、はあ…………はあ…………こんなのされてたら、そりゃ、みんな落ちちゃう、よね………。

 だって、彼のこのフェロモンの匂いは、私たちには媚薬でしかないんだから…………。




R指定いりますかね……………。
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