ヒーロー殺しの継承者   作:知ったか豆腐

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ヒーロー殺しの継承者

 ――――痛い。

 

 頬に突き刺さった彼の拳の重みが。

 

 ――――痛い。

 

 彼の、ボクを否定する言葉が。

 

 思った以上に心が揺らぐ。

 

「あなたに構っている暇はない。僕は行きます」

 

 そう言って立ち去る彼を追う気力もなく、ただ茫然と見過ごした。

 

理想(ユメ)は自分で叶えなきゃ』

 

 ボクの理想(ユメ)……か。ボクの理想(ユメ)はいつから思い描いていたんだっけ?

 アァ、なんだかわけがわからなくなってきた。頭が、重い。

 

 

 

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 ボクが四歳の誕生日を迎えてからしばらくしたころ。

 待ちに待った“個性”がようやく発現した。だけれど、それは決して思い描いていたような楽しいことではなかったんだ。

 

 個性『読心』

 人の心を読む個性は発現したばかりでは制御が上手くいかず、ふとした拍子に、いや、悪い時には四六時中周りの人の心を見てしまうこととなった。

 この時不幸だったのは、この個性が皮肉にも“強力”なものであったこと。

 目をつぶろうと、耳をふさごうと、一定の範囲内に入ってくる人の心を“見て”、“聞いて”、五感で感じとる以上に“理解”してしまう個性だった。

 幼いボクに耐えられるはずもなく、しかしながら、拙い言葉では親にも伝えきることができなかったため、塞ぎ込み、引きこもりになるのは当然の帰結だったと思う。

 そんなボクが希望を抱いたのは、今は名前も思い出せないが、地元密着を謳うヒーローの存在だった。

 よく地元住民との交流会を開いていた、そのヒーローはボクにとってのNo.1ヒーロー。当時のボクの心のなかで理想の存在だったんだ。

 

 引きこもっていたボクは、たまたまつけたテレビに映ったそのヒーローを見て、希望を抱いたよ。

 

『ヒーローなら、心の底から暖かい言葉をかけてくれる』

 

 もはや人間不信に陥っていたボクが、前向きになるための希望をそのヒーローに見出したわけだね。

 すぐさま母親に頼んで、そのヒーローの交流会に参加できるようにしてもらったよ。

 母親も、塞ぎがちだった息子が元気になるんだったら、喜んで手続きをしてくれた。一緒に申し込みはがきを書いてポストに出しに行くときなんか、久々に笑ったものさ。

 個性のせいで、母親の心配する気持ちも分かってしまっていたから、これで元気になればもう心配させずに済むなんて思ってもいたしね。

 

 そうして参加した交流会。

 いつも通り、住民に笑顔を振りまき、一人ひとりに声を掛けていくヒーロー。

 周りの人の心が雑音のようにうるさかったけれど、ヒーローに会えると思って我慢して待っていたんだ。

 そうやって、待ちに待った自分の番。

 でもそれは、幼いボクが望んでいたような救いにはならなかった。

 

「最近、息子が個性を発現してから落ち込んでいて……大好きなヒーローに元気づけてもらおうと思ってきたんです。そうよね? サトル」

「そうですか。坊や、個性が上手く使えなくて悩んでいるのかい? 大丈夫! しばらくすれば、ちゃんと使えるようになるよ。安心して」

(チッ、面倒だな。人気取りのためとはいえ、個性発現したばっかりのガキの機嫌までみなきゃならねえとは。まぁ、これも仕事だ)

 

 笑顔で語られる暖かい言葉、それと裏腹に心の声はひどく利己的で、ボクの期待はいとも簡単に裏切られてしまった。

 当時としては、心を閉ざしてしまってもおかしくない位のショックを受けたものだけど、皮肉なことに心を閉ざそうとしたことが個性を制御できるようになるきっかけになった。

 

「……ありがとう。だいじょうぶ。ひーろーのこえを聞けてげんきがでたよ」

 

 短い期間に多くの人の心に触れたせいで、嘘を吐くことを覚えたボクは、その場を笑顔でごまかした。

 交流会が終わって、親にも嘘を吐き続けた。

 ボクの個性の本当の能力は、知られたら拙いというのは感覚で分かっていたから。

 

 その日、ボクは理想(ヒーロー)なんていない。綺麗な心だけの人間はいないってことを知った。

 これが、齢四歳にして知った最初にして、原初の絶望(オリジン)だ。

 

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 どうやら夢を見ていたみたいだ。

 気絶が原因だったせいか、なんともクソッタレな夢だ。自分の最悪の過去を第三者みたいに傍観している夢なんて。

 でもまぁ、おかげで整理はついた。ぐちゃぐちゃに絡まっていた心の糸がようやくほどけたみたいな。

 

 そう、ボクは救いを求めていた。無心の正義の心を持ったヒーローの心に触れることで、意図せず見てしまった人の醜い心で傷ついた自分を救ってもらえることを。

 見なければ、聞かなければよいのに、ヒーローと出くわすたびにそのヒーローの心に触れ、そのたびに『理想と違う』と絶望する。そんなバカなことを繰り返してきたのは、いつかそんな存在に出会えることを夢見ていたからだ。

 いや、いまでも救いを求めているんだろう。だから彼が言ったような“自分が理想(ヒーロー)になるなんて発想は出てこなかったわけだけれど。

 どうして、“救われたい”と思っている存在が、“救う”存在になろうなんて思えるだろうか。

 

 そして、ボクは自分が理想(ヒーロー)になって、理想(ヒーロー)のあり方を周りに魅せるなんて悠長なやり方にきっと満足できない。

 昔の自分が最初にあったのがオールマイトだったら、もしくは緑谷 出久だったら、それで満足して、今みたいなヒーロー殺しの手伝いなんてしていなかっただろう。

 でも、もうボクは満足できない。

 一部のヒーローだけでなく、すべてのヒーローが理想の、自己犠牲的で、見返りを求めぬ無私の精神を持った者であることを望む。

 

 そのやり方を示してくれた存在にボクは出会ってしまったのだから……

 

 

 

「あの男はまさかの……ヒーロー殺し――――!!」

「待て、轟!!」

 

 響く声にハッと顔を上げる。

 無意識のうちにマスターのもとへ向かっていたようで、そこにはヒーローたちとマスター、そして死体となった脳無がいた。

 

「贋物……」

「正さねば――――……誰かが……血に染まらねば……!」

「“英雄(ヒーロー)”を取り戻さねば!!」

 

 ボロボロの体で、歩みを進めるマスター。

 その気迫に、後ろ姿に気圧される感覚がした。

 

「来い、来てみろ贋物ども! 俺を殺していいのは本物の英雄(オールマイト)だけだ!!」

 

 多くのヒーローに相対し、多勢に無勢の状況で気迫だけで圧倒するマスター。まさに信念の強さが目に見える形になったようだ。

 

「……チッ、おい、何を呆けている! 早くやつを確保するんだ」

「「「ハ、ハイ!!」」」

 

 呆然としていたのも束の間、さすがNo.2ヒーローというべきか、すぐに指示をだすエンデヴァー。

 まずい、マスターが捕まってしまう。

 

「マスターはやらせません!」

「ムムゥ、なんだコイツは!」

「気を付けてください! 彼は“相棒狩り”です! ステインの仲間です!!」

 

 とっさに前に飛び出し、ナイフをかまえて臨戦態勢を取る。

 緑谷くんが後ろにいるけれど、挟み撃ちになる前に何とかせねば。

 ここは先手必勝、相手の中に飛び込んで場を乱すか?

 そう思って、前傾姿勢になった瞬間、背に庇っていたマスターが動くのを感じた。

 

「粛清してやる! 贋物ども!!」

「なんだと、まだ動けたのか!?」

 

 ヒーローの集団に飛び込み、頼りない小型のナイフを振るうマスター。

 ボクの背後から抜き去る時に、マスターの心が読みとれた。

 

『さっさと行け……馬鹿弟子が』

 

 ボクを逃がすために身を挺してくれたマスター。

 マスターの気持ちを無駄にするわけにはいかない。マスターの信念をここで潰えさせるわけにはいかない。

 

 マスターに背を向け、足を進める。

 その時、倒れている緑谷くんと目があった。

 

「緑谷くん、マスター・ステインはここで捕まる。でも、終わりじゃない。

 

 ステインの思想はボクが継ぐ。ボクは“ヒーロー殺し”の弟子、『ヒーロー殺しの継承者』だ――――!」

 

 そう告げて走り出す。

 彼がが言うとおり、ボクがやろうとしていることは社会の正義に反しているんだろう。

 だが、ボクはもう止まらない。例え悪と言われてもこの信念を貫き通すと決めたのだから。

 

 

 

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『エピローグ』

 

 

――“ヒーロー殺し”ステイン逮捕より数日後。

 東京都 とある喫茶店にて。

 

 コーヒーのカップを傾けながら、タブレットのニュースサイトを流し読みする。

 マスター・ステインが逮捕された話題はいまだ絶えず。

 皮肉にも、マスターが逮捕されたことによって、その思想が広まることとなった。

 いま見ているページにもマスターの来歴と思想が載せられている。聞けば、こうしたメディアの報道によって、ヒーロー殺しの思想に共感し始めたものも出てきているという。

 

「おまえが“ヒーロー殺しの継承者”か?」

「アァ。あなたは?」

「……俺は荼毘。いまはその名で通している。ヒーロー殺しの意思を全うするのは俺だと考えている者だ」

 

 そう、今、目の前にいる彼のようなシンパが。

 

「それで? ボクを訪ねてきた要件は?」

「おまえの大義を確かめに来た。それに、巷で話題になっている『(ヴィラン)連合』とやらが本当にヒーロー殺しと組んでいたのか疑問に感じた。

 だから、事情を知るだろうおまえに話を聞きに来た」

「なるほど。そうだね――――――」

 

 荼毘と名乗る青年に、(ヴィラン)連合との関係について話す。

 ヴィラン連合とヒーロー殺し側がすべて納得のいく関係でなかったこと、そして、相手の首魁の死柄木が信用ならないことを告げた。

 

「そうか。いまの状況はヒーロー殺しの名がヴィラン連合に利用されている状況か」

「その通り。彼らはボクたちの思想・信念に共感したわけではなく、一時的な利害関係から休戦協定を結んだような関係さ。それが、逮捕されて本人がいないことをいいことに、勢力拡大の道具にされているわけだ」

「なら、ヴィラン連合に入っても、彼の意思を全うすることは叶わないな。 それで? おまえはどうするつもりだ?」

 

 このまま手をこまねいてみているのか?

 そう目で尋ねる荼毘。

 

「残念ながら、ボクもまた修行中の身だからね。一人でできることには限りがある。

 ……だから、仲間を集める。幸いにして思想は広まりつつあるから、組織を作り、より粛清を加速させる」

「なるほどな。だったら、俺もそこに参加させてもらおう。ヒーロー殺しの意思を継ぐ者の一人として。で、なんて名前の組織にするんだ?」

 

 組織の立ち上げに賛同した荼毘が組織名を聞いてきた。

 そうだな。まだ決めていなかったけれど……

 

「マスター・ステインによって、ヒーロー殺しの思想はこの社会の染み(ステイン)として跡を残した。ならボクたちの手で、社会をその思想に塗り替える……彼の信念に従って動く教団。“リペイント教団”なんてどうだろうか?」

「重要なのは大義があるかどうかだ。名前は適当でいい」

 

 なら、聞くなよ。そうツッコミたいのを我慢して席を立つ。

 

 

「フッ、まあいいよ。じゃあ始めようか。すべては、正しき社会の為に」




これにて本編完結です。
気がつけば始めてから4か月。なかなか更新できなくてお待たせしたこともしばしばでした。
まともなプロットもなく始めたため、最後はグドグドになった感じも否めませんが、なんとか完結までできました。

とりあえず、ここまで読んでくださりありがとうございました。


良ければ活動報告も目を通していただけると幸いです。

『ヒーロー殺しの継承者』完結と次回作
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