ヒーロー殺しの継承者   作:知ったか豆腐

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ヒーロー殺しの弟子が初仕事をします。


弟子:パダワン

 時間が経つのは早いもので、師匠(マスター)のヒーロー殺し:ステインと出会って三ヶ月。

 

 ヒーロー殺しの弟子(パダワン)となってから、修行の日々で、多くのことを学んだ。

 

 戦闘・生存に適した体作りや身体操作術。

 格闘術をはじめとした殺人技術。

 刃物・鈍器・暗器・飛び道具などの各種武器の習熟と理解。

 そして、ボクの“個性”の強化と戦闘への応用――――

 

 独自に積み重ねられてきた戦闘技術と、その目でヒーローを見極めてきた観察力も合わさって、師匠(マスター)の教導は的確そのものであった。

 実際に教えられているボク自身が、成長を感じ取れるくらいなんだからすごいものである。

 

 師匠(マスター)がもし、ヒーロー科の教職に就いたらさぞ、評判の教師になるに違いない。

 ……もっとも、自分からすすんで贋物を育てようとするはずはないからありえない妄想だね。

 

 ついでに言えばかなりのスパルタだったりするんだよなぁ。

 格闘訓練は本物のナイフだったり、刀だったりを使ってたせいで切り傷が絶えなかったし……

 

『お前の個性を生かして戦う際に目指すべきは……心を読むことで相手の動きを先読みし、カウンターをきめるスタイルだ。

 ハァ……そのためには戦闘をこなしながら常に個性を自然に発動したままにできるようにならねばならない』

 

 そんなお言葉を貰って、組手をしていたんだけどね?

 

 先読みしてカウンター仕掛けたはずなのに、なんでボクの方がカウンターくらってるんだ?

 てか、動きを読めてても体が追い付かないんですが、師匠(マスター)ホントに人間なんですか!?

 というより、いちいち説教するときに個性発動させないでくださいよ!

 身体が動けない状態で刃物を首筋に当てられる恐怖は――――――思い出したくないなぁ。

 

 マジで、先端恐怖症になるかと。

 そんなこんなで、トラウマを作りつつも実力を身に着けてきた三ヶ月。

 ついに実践の場へと向かうことになる。

 

 

 ――――――関東 某県 唐鞠市(からまりし)

 人口の多い、比較的都会といえるこの街。

 それだけに犯罪者の数もヒーローの数も多く、粛清の対象には困らない場所だ。

 

 そんな多くのヒーローを抱える唐鞠市(からまりし)において、ボクに師匠(マスター)から与えられた任務(ターゲット)は、“投擲ヒーロー”「ブル=ヒット」。

 とはいうものの、ぼく自身がブル=ヒットと直接戦うというわけではない。

 

『贋物とはいえ……ハァ……お前にはまだ相手をするには早すぎる』

 

 というのが、師匠(マスター)の判断だ。

 そこで、ボクの役目は、師匠(マスター)がブル=ヒットを粛清するための下調べをして段取りをすることである。

 本来なら師匠(マスター)一人でこなしていたことではあるのだけれど、効率よくコトをなすためと、ボクに経験を積ませるための一環として任せてもらうこととなった。

 

 やり方に関しては、ヒーロー殺しの信条から外れない限りは、自由にしてよいと言われている。

 ボクの理想の実現のための、これは第一歩。

 

 失敗は……許されない。

 

 

 さて、まず最初に取り掛かるのは情報収集と状況の整理だ。

 ターゲットのブル=ヒットについて、世間に公開されている情報をまとめてみる。

 

 “個性”「ダーツ」

 指先からダーツで使うものによく似た矢を打ち出すことができる。

 連射性と精確な狙撃が特徴の、遠距離型ヒーローだ。

 

 相棒(サイドキック)は所属は五人。

 全員が近接型の個性もちで、彼らを前衛に、ブル=ヒットが狙撃で仕留めるといった連携を得意としているとのこと。

 

 となれば、課題はどうやってブル=ヒットを誘い込むかということと、いかに連携ができない環境を作るかということになる。

 

 

 表面的なデータの分析はこのくらいにしておくとして、やはり調査といえば実際に街を歩いて情報収集をすべきだろう。 

 足で稼ぐっていうのは重要である。

 

 聞くところによると、ブル=ヒットは毎日定期的にパトロールに出かけるとのことなので、様子を伺うために尾行をすることにした。

 気配の殺し方をはじめとした尾行術は、師匠(マスター)から教えられている。

 ついでに言えば、ボクの個性で周りに干渉すれば、ボクに対する認識を薄くすることもできるため、よっぽどのミスをしない限り相手に気取られるようなことはない。

 難易度はベリーイージーってとこだね。

 

 しかし、尾行術まで独学で覚えたって、師匠(マスター)って、ホント何者なんだろうか?

 

 

 

 ブル=ヒットたちの尾行を開始して三日。

 読心も使いながら情報を集めた結果、彼らのパトロールのルートやローテーションを把握することができた。

 パトロールは、ブル=ヒットに四人のサイドキックたちで行い、一人が事務所で留守番をするのがほとんどだ。

 ただし、週に一度だけブル=ヒットが留守番を担当するときがあることを、サイドキックの心を読んで知ることができた。

 ブル=ヒットとサイドキックたちが別行動を取るのは、絶好のチャンスといえる。

 これを活かさない手はないはずだ。

 

 サイドキックの内の一人が、パトロールに対して愚痴っていたので、ちょっと深く読み込んでやったらあっさりと情報を漏らしてくれたので、ラッキーだったな。

 まぁ、週一で留守番をする理由が、たまった書類仕事を片付けるためなんていうどーでもいいこともわかったけど。

 

 書類仕事に追われるヒーロー……なんだろう。またボクの理想(ヒーロー)が壊されてしまった気がする。

 ブル=ヒット、許すまじ!

 

 ちなみに、次にブル=ヒットが留守番をするのは五日後。

 それまでに、サイドキックを足止め、もしくは無力化する方法を見つけないといけない。

 

 

 

 調査を開始してから五日目。

 二日間、街の情報を集めなおしたところ、役に立ちそうな情報を手に入れた。

 ブル=ヒットに敵対する(ヴィラン)の存在だ。

 

 その敵対ヴィランの名は『ペガッサ』

 かつて唐鞠市(からまりし)に存在していたマフィアが母体のヴィランチームの残党で、ブル=ヒットたちによって組織を壊滅させられた恨みから襲撃を仕掛けては毎回返り討ちにあうということを繰り返している。

 

 このヴィランをうまく使えば、サイドキックたちの足止めどころか抹殺も不可能ではなくなるかもしれない。

 

 

 そう思って実際に会ってみれば、慕っていたマフィアのボスの仇を討とうと考えるような、ある意味義理堅い性格をしている人間だった。

 

 正直言って、復讐心なんていう分かりやすい動機を持っている相手だったので、コロッとこちらの心理誘導に引っかかってくれたものである。

 

「あなたが、ペガッサさんですね」

「なんだァ、てめェは!」

 

 顔を見られないよう、パーカーのフードを目深にかぶって声を掛ければ、当然のごとく警戒された。

 まぁ、警戒もしないようならヴィランなんてやっていないだろう。

 そこはこちらも織り込み済みなわけで。

 

『ボクもボスにはお世話になった』

『マフィアだのやくざだの言われていたけれど、情に厚い人で懐に入れた人間は大切にしてくれた』

『そんなボスを、ブタ箱へ送り込んだブル=ヒットが許せない』

『だから、あなたに協力してブル=ヒットに一泡ふかせてやろう』

 

 などなど、ヤツの慕うボスの恩人という共通項から親近感を持たせて、味方のふりをさせてもらった。

 もちろん、ボク自身はそのボスとやらとあったこともない。

 ただ、ペガッサの記憶から人柄だとか言動をトレースして、話を合わせているだけだ。

 ボクに好印象を持たせるように微妙に干渉もしていたので、気がつけばヤツはボクのことを数年来の友人のように扱うまでになっている。

 チョロいものだね。心の中で、チョロインならぬチョロヴィンとでも呼んでやろう。

 

 こうして、“ブル=ヒットに一泡吹かせる”という考えに共感させることに成功した。

 次は、方法を提案するだけ。

 

『ブル=ヒットは確かに強いヒーローだ。まともにやり合えばタダではすまない』

 

 度重なる襲撃の失敗で、ブル=ヒットに対する恐怖心や忌避感が芽生えていたようなのでこれを利用させてもらう。

 

『だが、一泡吹かせるならば別に本人を狙う必要はない』

『ヤツより実力の劣るサイドキックどもを狙えばいいのさ』

 

 ヒーローではなく、サイドキック程度なら何とかなる。

 そう思わせれば、失っていた自信も少しは奮い立つだろう。

 

『ヒーローにとって相棒(サイドキック)を失うのは……とても、とても辛いことだろうねぇ』

 

 そして、コトを為した時の愉悦を想像させる。

 

『そのために必要な調査は終わってるし、作戦と必要な物も用意できる』

『あとは、あなた次第だ。さぁ、一緒に“ボス”の仇を摂りましょう』

 

 最後に一押ししてやれば後はもう完成。

 さぁて、材料はそろった。あとは細工を仕掛けるだけ。

 

 

 

 ――――――the X day

 

 かねてより把握していた、ブル=ヒットとサイドキックたちが別行動をとる日となった。

 ペガッサとヴィランチームの残党との協力作戦の開始である。

 

 

 荒れ果てた廃ビル。

 一つに固まりファイティングポーズをとるサイドキックの五人と、周りを取り囲むようにして武器をかまえるヴィランチーム六人。

 そしてボクは、縄で縛りあげられてペガッサに拘束されてしまっていた。

 

「く、卑怯な。人質を解放するんだ」

「はッ、寝言は寝て言ェ。クソヒーローの犬どもめ」

「た、助けて」

 

 ボクという人質を取られ、手出しが出せないサイドキックたちを楽しげに見下ろすペガッサ。

 そんな状況にボクは、不安そうに助けを求めるしかなかった。

 

 

 ――――もちろん、演技なんだけどね。

 

 作戦はいたって単純。

 サイドキックたちの目の前で、ワザとボクが人質に取られたように見せかけておびき寄せただけ。

 あとは手出しのできないサイドキックたちを、集団で嬲るだけの簡単なお仕事。

 念には念を入れて、近接型の個性を活かせないよう遠距離からの攻撃に終始する徹底ぶりである。

 

 気がつけばサイドキックたちはボロボロ。虫の息状態だ。

 サイドキックの無力化に成功。ボクの目的は達成されている。

 

 さんざん煮え湯を飲まされていた相手を、一方的に倒せたことで、ヴィランチームは歓声をあげて喜んでいる。

 

「はッはッァ! おめェのおかげでうまくいった。これでブル=ヒットの野郎に一矢報いたぜ」

「えぇ、おめでとうございます」

 

 ご機嫌な様子でボクに語りかけてくるペガッサ。

 ボクも自分に掛けられた縄をほどきながら返事をする。

 

「これでェ、次はとうとうブル=ヒットの野郎だな。おめェさん、期待してるぜ?」

「そうですね。次はブル=ヒットだ」

 

 肩を叩きながら話しかけてくるペガッサに笑みを浮かべる。

 

「ただ、その前に…………」

 

 ペガッサに秘密の話をするように体を近づける

 

 

「あなたたちには、消えてもらわないと」

「なにィ……ガッ!?」

 

 隠し持っていたナイフをペガッサの腹に突き立てた。

 そして、すぐに残りの六人のヴィランに向けてベルトから小型ナイフを投擲する。

 六人同時なので、正確な狙いが付けられず、当たった場所も手足、肩、腹などとバラバラになってしまった。

 

 それで、十分効果は発揮されるのだけど。

 

「クソ、体が動かねぇ」

「チッ、痺れ薬か」

 

 倒れて動けなくなるヴィランどもの悪態に思わず口角が吊り上る。

 正解。

 先ほどのナイフには効果の持続時間は短いが、超即効性の高い痺れ薬が塗ってある。

 軽く切りつけただけで、身体を動かせなくなるほどの強力なモノだ。

 少しでも攻撃を当てれば、相手を動けなくできる師匠(マスター)へのリスペクトだね。

 

「てめェ、これはいったいどういうつもりだ」

 

 証拠を残すのも嫌なので、ナイフを回収し出口へと向かう。

 すると、背後からペガッサの怒りのこもった声が聞こえてきた。

 

「どうもこうも、たんに“ヒーロー殺し”のためにキミたちを利用させてもらっただけの話さ」

「キッサマァ、おれたちは、同じ目的のために動いていたんじゃなかったのかよ!」

 

 痺れた身体で、怒鳴り声を上げるペガッサ。

 ハァ……なにを言っているんだ……こいつは。

 ボクは振り向いて、ペガッサの間違いを正してやる。

 

「違うよ、全然違う。

 ヒーローを殺すことは手段であって目的じゃない。

 ただ単に、ヒーローを殺せれば満足のオマエらなんかと一緒にするなよ。

 

 ボクたちの目的は、この歪んだ社会(ヒーロー飽和社会)を正すこと。

 そう、その目的のためには…………

 

 “英雄(ヒーロー)を歪ませる贋物も、徒に力を振りまく犯罪者も粛清対象だ”

 

 だから、死ね。正しき、社会のために」

 

 

 それだけを告げて、ペガッサに背を向ける。

 サイドキックの持つ端末を回収するのも忘れない。

 これは、あとでブル=ヒットをおびき寄せるのに必要だ。

 

 十分距離を取ったところで、もともと持っていたボクの端末を操作して廃ビルの爆薬を起動させた。

 これで、生き残りはいなくなり、ボクがいた証拠も残らない。

 

 あとは、ブル=ヒットを先ほど奪った端末でおびき寄せて師匠(マスター)に任せるだけ。

 

 初仕事は……ハァ……無事終了といったところか。

 

 

 

 

 

 

 翌日、“投擲ヒーロー”ブル=ヒットが路地裏で殺害され、彼のサイドキックとヴィラン『ペガッサ』が死亡しているというニュースが流れた。




サブタイトルは、原作で土地の名前にスター・ウォーズの土地名をもじったものが使われていると知って弟子=パダワンの発想からとりました。
まぁ、ジェダイではなくてシスの弟子でしょうけれど(苦笑)

ついでに上記にならって、今回の舞台となった場所の名前もスター・ウォーズから撮ってきてます。

今回、主人公の覚の狂気というか、異常さみたいなところが描けていたらと思ってます。


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