ボクがヒーロー殺し:ステインのパダワンになってから、訓練の中で刃を向けられたことは何度もある。
だが、本気の殺気を向けられたのは初めてだ。
「ハァ……お前の行動には失望させられた」
「くぅッ! 何をするんです、マスター!?」
振り下ろされる刃を右手のナイフで必死に受けながし、次の攻撃に備える。
個性で動きを読んでいるとはいえ、マスターの動きは早く、そして、多くの判断を要求してくるため、ついていくので精いっぱい。
実力差は……歴然だ。
数回の攻防の後、一瞬の隙を突かれて地面にたたき伏せられてしまった。
「グハッ」
「……
お前は技術的にはもう、一定のレベルに達していると言えるだろう」
後ろ手に拘束された状態で、前回の任務の総評を聞かせられる。
状況とは裏腹に、お褒めの言葉をいただいたわけだけれど、このままで終わるとは思えないな。
「だが……ハァ……お前のとった手段を認めるわけにはいかない」
「ボクの……やり方の、何が?」
ボクのやり方について、怒りのこもった声で批判するマスター。
いったい何が悪かったというのか?
「
だが、その行動のどこにおまえの信念がある?」
ひたすら効率を求め、目的のために動いたボクのやり方が駄目だったらしい。
とくに、サイドキックとヴィランにとどめをさすために、廃ビルを爆破したのは……論外だと。
「自らが血に染まらず、また、爆破という……周囲も巻き込みかねないその行動…………
むやみやたらと社会に力を振りまく犯罪者と何が違う?」
そうマスターに告げられた。
これは、事実上の粛清対象であるという宣告と同義だ。
あぁ、ボクは社会を正す存在に値しないということなのか……。
もう、ボクの心の中は諦観で埋められてしまっている。
絶望してしまったボクは、抵抗をやめた。
そして、マスターの持つ刃が振り下ろされてボクの命はここで終わり。
かと、思ったのだが、刃はのどもとで止まり、皮膚を薄く傷つけるだけにとどまった。
「マスター……なぜ、とどめを刺さないのですか?」
てっきり、これで殺されると思っていたのだけれど……マスターは何を考えているのだろう?
寸前まで命の危機だったにも関わらず、なんだか他人事のような感想が思い浮かぶ。
「俺がお前と会ったとき……お前の中には強く灯る信念の炎が感じられた」
「ボクの……信念?」
相変わらず刃は突きつけたまま、しかし、殺気はきれいに消え失せて静かに語りかけてくるマスター。
「だが……ハァ……今のおまえには、あのとき感じた
何を成し遂げるにも、信念……想いが要る。
それが無い者弱い者が淘汰される。
たしかにおまえは、戦闘技術を学び、戦うすべを身に着けた。
しかし……ハァ……信念を忘れてしまったおまえは、逆に淘汰される弱い者になった……」
ボクの信念とはなんだ?
相変わらず、
それとも、ボクはなにか大切なことを忘れてしまっているんだろうか?
駄目だ……自分の、心が読めない。
わからない……
――――――関東 静岡県 某市
ボクは電車の窓から風景を眺めている。
「来るんじゃねぇええ!」
まぁ、普通の風景じゃなくて戦闘風景なんだけれど。
目的地の田等院駅前で、足止めを食らったのは不幸だが、こうして
じっくり観察させてもらおう。
マスターに信念について指摘されたあの日から、ボクに与えられた任務は
ただし、一切の戦闘行為を禁止する旨を申し渡されている。
マスター曰く、
『今のおまえに、刃を握る資格はない。贋物どもを見ることで、もう一度おまえの信念を……想いを見つけ出せ』
とのこと。
それからは、関東を中心に各地を回り、
だが、ボクの信念とやらは、まだ分からないままだ。
「本日、デビューと相成りました。Mt.レディと申します! 以後、お見シリおきを!」
気がつけば、ヴィランは退治されていた。
新人のヒーローが倒したみたいだけれど。
『うまくほかのヒーローを出し抜いて、手柄をたてられたわ。
最高のデビューと言ってもいいわね。これが、私がビッグになるための第一歩!』
心の中を見てみれば、こんなもの。
国からの収入、人からの名声。
うんざりするほど、私欲に満ち溢れたヒーローの心ばかり見てきた。
そのたびに、
これはボクの信念――――ではないらしい。
ならば……ボクの信念とはなんだ?
このヒーロー調査に意味はあるのだろうか?
あぁ、駄目だね。本来持つべきではない、
ただ、マスターにとって、このボクが上げる報告書はたいして重要ではないのは確かだ。
ボクの調査とは関係なしに、マスターは
いや、そもそもボクの存在自体、マスターにとって必要と言えるわけではないのだ。
……やめよう、これ以上は悪い方向にしか考えが向かない。
いまは……ハァ……任務を済ませることだけを考えろ。それで、いいんだから。
その後、動き出した電車で田等院駅に降りた。
この街にも多くのヒーローがいるため、調査対象には事欠かない。
まぁ、いまどきはどこもヒーローが溢れ返っているのだから当然と言えば当然だが。
特筆することなく調査が進んで、時刻は午後三時を回ったところ。
強いて言うならば、正午ごろに現れた強盗のヴィランを追ってオールマイトが現れたということくらいか。
No.1ヒーローのその心。
ぜひとも覗いてみたいけど、すでに別の場所に移ってしまっているだろうな。
オールマイトともあろうものが、たかが強盗程度に後れを取るとは思えないし。
残念だが、またの機会を待つとしよう。
「ん? なんだ?」
遠くから爆発音が聞こえた。
煙がもうもうと立ち上っており、かなりの爆発のようだ。
「また
でも、ヒーローを観察するには……もってこいだ」
今日だけで少なくとも三件のヴィランの事件とは、この街もずいぶんと治安が悪いらしい。
ボクの目的のために利用させてもらうとしよう。
爆発の起きた方へ足を向けた。
「おおォオオオ! こぉんのお!!」
吼えるような叫び声、そして爆発。
現場に着いてみれば、ヘドロの個性を持ったヴィランが爆発系の個性を持った少年を人質にとって暴れていた。
ボクと同じくらいかな? 人質にされている少年の抵抗がすさまじくて、静かな商店街だった場所は炎に囲まれた危険地帯に変わってしまっている。
なるほど、これはかなり厄介な状況だ。
そんな中、ヒーローたちは手も足もでないでいる。
「私二車線以上じゃなきゃムリ~~~~~~!」
論外だ。なら、なんでここに来た。
「爆炎系は我の苦手とするところ……! 今回は他に譲ってやろう!」
譲る譲らないって、ヴィランはゲームの得点かなにかじゃないんだぞ?
自分の得意不得意で戦う相手を選ぶのか?
「ダメだ! これ解決出来んのは今この場にいねえぞ!!」
「誰か有利な“個性”が来るのを待つしかねえ!!」
何故、諦めてるんだ。
出来る出来ないじゃなくて、やらなきゃいけないことだろ。
「それまで被害をおさえよう。何! すぐに誰かくるさ!」
何故、自分でどうにかしようとしない。
誰かって誰だ? ヒーローを待つ?
おまえがヒーローだろ。ヒーローが人頼みなのか。
「あの子には悪いがもう少し耐えてもらおう!」
何故、
あまつさえ、人質にさらに苦しみを強いることを望むなんて!
あぁ……アァ、言い訳ばっかりだ。
たとえ力及ばずとも、人質に希望を与えるような言葉を投げかけるくらいはできるはずなのに。
口に出す言葉、全部、自己保身に満ちた言葉ばかりだ!!
こんな有様で、どいつもこいつもヒーローを名乗りやがって……
ボクは……こんなヤツらをヒーローと呼びたくはない。
――――こいつら、どうしてやろうか。
そんな暗い感情に気持ちが染まりかけた時、
「馬鹿ヤローー!! 止まれ!! 止まれ!!!」
ふと、顔を上げるとヴィランに向かって走る少年の姿が。
必死の形相でヴィランの懐に飛び込み、人質を救い出そうとヘドロをかき分けている。
彼は、どうしてあんなことを?
ここからでは声は聞こえない。
ならば、ボクの“個性”で彼の心を読むだけだ。
『理由なんてわからない』
『足が勝手に動いてた』
『君が
これは、これが、これこそが――――
“ボクの求める
名も知らぬ、彼の行動、そしてその心にボクの
そして――――
「プロはいつだって命懸け!!!」
DETROIT SMASH!!
ピンチを腕の一振りでひっくり返す。
悪をくじく、圧倒的な力。
いや、力だけじゃない。その精神も
『ぐっ、限界時間が。だが、
私は、“平和の象徴”!
恐れ知らずの笑顔で人を救ける、最高のヒーローであらねばならない』
彼の心を読んで、思いもかけず知ってしまった彼の秘密。
今までの戦いで、彼の体はもう既にボロボロだったのか。
それを、微塵も見せることなく平和の象徴であり続けた気高い精神。
あぁ、これが“本物”か……
暴れていたヴィランは無事捕まり、人質になっていた少年もヴィランに向かっていった少年も無事だった。
めでたしめでたし、大団円といったところ。
しかし、ボクには納得できないことが一つある。
飛び出した彼の評価。
あの時、どのヒーローもしり込みした場面で躊躇なく飛び込んでいった彼の勇気を誰も褒めることなく、逆に彼を叱り飛ばしている。
逆に、人質になっていた少年の“個性”ばかりを誉めそやす。
ボクからすればナンセンスだ。
強い“個性”を持った者がヒーローなのだろうか?
いや、そうじゃない。そうじゃないんだ……
だから……そんな悲しい顔をしないでくれ。
名も知らぬボクの
「なぁ、ちょっと待ってくれないか」
「は、はい!? 僕ですか?」
思わず追いかけて走り出していた。
追い付いたのは住宅街の静かな交差路の前。
ボクは彼と対峙していた。
「あの時、ヘドロのヴィランに向かっていったのはキミだよね?
ボクは、どうしてもキミに一声かけたくて追いかけてきたんだ」
「え、あの、どどんなご用でしょう?」
さんざん叱られた後だからか、おっかなびっくりした様子で返事をする彼。
「あ、いや、そんな変なことじゃないんだ。
ただ、ボクの思ったことを伝えたいだけで……」
「えっと、なんでしょうか?」
「ああ、うん、なんていうか、あの時……
誰もが、それこそ一般人だけでなくプロヒーローと呼ばれる者もみんな手が出せなかった場面で、迷いなく飛び込んでいったキミの姿はボクには
ただ、それを伝えたいと思ったんだ」
ボクの言葉に彼は驚いたような顔をして、そして悲しそうな顔をして言う。
「そんな、僕は結局何かできたわけじゃなくて、何か変わったわけでもないし……」
「ボクはキミが何かを成し遂げた姿に
誰よりも、最初に救けようと飛び出していったその勇気をすごいと感じたんだよ」
心を読んだからこそ分かる。
あの時、彼の心にあったのは“人を救ける”という純粋な気持ちだけ。
そこに、自己保身や私欲はなかった。
あれこそ、ボクが求める
「でも、僕は“無個性”で、本当のヒーローになんか……なれないん、です」
彼は苦しげに絞り出すような声で告げる。
“無個性”? だからなんだというのだろう。
「ボクはね、救ける人や倒すべき敵を前にして、迷いなく行動できる人間を
あの場で真っ先に動くことができたキミは、確かにヒーローだったよ」
ボクが重視するのは、その心だ。
「なぁ、ヒーロー。キミの名前を教えてくれないか?」
「ッ!……緑谷、緑谷出久です!」
「緑谷……出久…………覚えたよ。
いつか、キミがヒーローとして活躍するのを楽しみにしてるから」
そう言って、彼に背を向けて歩き出す。
彼に出会えてよかった。
今回の件でよく分かったことがある。
いまの社会は、ヒーローの個性や活躍ばかりが注目されて、その精神性は誰も気にかけていない。
ならば、心を読む“個性”を持ったボクがその心の是非を判断しよう。
――――真の
『純粋に人を救けようとする心を持った者こそが、
これをボクの信念としよう。
それに沿って動くことがボクの信条だ。
そして、
この信念に従って動く限り、何者にもボクを裁くことは許さない。
ボクを裁いていいのは……
思ったより筆が進まなくて苦労しました。
今回は原作主人公の出久と出会い、信念を確立させました。
そんなに登場させてないのに、原作キャラの取り扱いに悩みに悩みました。
原作の出久のイメージが崩れてないといいんですが(汗)
どうなんでしょう?
次回予告、
「覚がステインと一緒に保須市に行くぞ!」
次回もお楽しみを。