ヒーロー殺しの継承者   作:知ったか豆腐

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遅くなりました!


相棒狩り

 保須市に構えたアジトへもどり、ヒーローの調査結果をマスターに報告する。

 報告書を真剣な目で読み進めるマスター。

 

 この報告書とマスターの価値・判断基準で今後の粛清対象が決まるのだ。

 

 そうしているうちに紙のめくられる音がやむ。

 どうやら、決まったようだ。

 

「……ハァ…。。この保須市を正すのに必要な最初の犠牲は……やはりこいつだろう」

「……アァ……ヒーロー『インゲニウム』、やはり彼ですか」

 

 マスターから報告書の一ページを渡されてみてみれば、記載されているのはヒーロー「インゲニウム」。

 彼ならばヒーローの資質を試すという意味でも、粛清した際の社会への影響力という意味でも妥当な相手だろう。

 

「そうだ。おまえの言うとおりやつが強い信念を持っていないならば、社会を歪めるガンだ……ハァ……それを、試す」

「えぇ、彼が真の英雄たるかどうか……英雄に足りえないのであれば、正しき社会への供物となってもらうまでです」

 

 トップヒーローと呼ばれる者ほど、社会へ与える影響力は強い。

 それだけに、その本質が本物ではなく贋物であるならば……

 

「ハァ……やつを粛清するには邪魔も多い。おまえにも働いてもらうぞ」

「……承知しました。マスター」

 

 マスターの言葉に頭を下げる。

 多くの相棒(サイドキック)が所属するインゲニウム事務所。

 マスターの邪魔になるであろう、その相棒(サイドキック)の妨害・排除がボクの役目となる。

 

「相棒65名……ことごとくを木偶人形に変えてみせましょう」

 

 

 

 

 ――――インゲニウムヒーロー事務所

 

 消防車のサイレンが鳴り響き、人々のざわめきが聞こえる。

 ヒーロー事務所前での小火騒ぎ。

 目の前となれば中にいる相棒たちも無視はできないらしく、大半が外に出払っている。

 おかげで、侵入は容易だったよ。

 

 煙幕用の発煙筒を使った囮がこうもうまくいくとは、拍子抜けだな。

 まぁ、ボクみたいにこうしてヒーロー事務所を襲撃しようなんてバカはいないだろうしねぇ。

 そのぶん、仕事がやりやすくて助かるが。

 

「う、うぅ……」

「ぐ、あぁ……」

「Zzz……」

 

 大人数の相棒を抱える事務所なので、管理・指示のためにオペレーターを用意している。

 ボクが侵入して真っ先にしたのは、このオペレーター室の占拠だ。

 いつもの麻痺毒に腕時計に仕込まれた麻酔針によって相棒と非戦闘員の事務員を無力化。

 オペレーターシステムを逆に利用させてもらっているわけだ。

 

「マスター、インゲニウムを誘い出すことに成功しました。座標を送るので、そちらに向かってください」

『了解だ。よくやった……』

 

 インゲニウムへ嘘のヴィラン出現情報を送り、キリングポイントへの誘導に成功。

 あとは、マスターが上手くやるだろう。

 なら、ボクのやるべきことをやるまでだ。

 

 相棒への嘘の情報・間違った指示を送り、現場を混乱させる。

 いるはずの無いヴィラン・要救助者。

 あるはずの無い災害・事件。

 

『どうなってる!? どこにもヴィランなどいないぞ』

『なんだこれは! 建物のあちこちにブービートラップが!!』

『本部、本部! 情報は本当に正しいのか!? 応答してくれ!!』

 

 次々と入る相棒たちの悲鳴にも似た通信を、ボクは無感動に聞き流す。

 こんなもの、想定通りどころか予定通りの状況だ。特に改めて思うことなど何もない。

 それよりも、そろそろかな。

 

「おい、オマエ! そこで何してる!!」

 

 相棒たちがオペレーター室の異常に気が付いて駆けつけるのは。

 

「アァ……やはりあなたでしたか。インゲニウムの一番の“相棒”さん」

 

 真っ先にやってきたのは、この事務所のNo.1サイドキック「ランドスピナー」

 脚部に付いたローラーの個性により、高速戦闘を得意とするヒーローだ。

 同じく高速移動を得意とするインゲニウムについていける個性を持った、真の相棒と言える存在だ。

 

「インゲニウム不在の際にリーダーシップを発揮するあなたを無力化すれば、サイドキックをまとめる者はいなくなる」

「なにぃ!? 目的は何だ!!

 ……いや、なんでもいい。オマエをここで拘束する!!」

 

 脚部のローラーによる高速移動で攻撃を仕掛けてくるランドスピナー。

 加速・急旋回・急転換を利用してこちらを惑わすように接近してくる。

 早いな……アァ……さすが、No.1サイドキック。このスピードで大半のヴィランはやられてしまうのだろう。

 

「まぁ、読めてるんだけどね」

「なんだとッ!」

 

 猛スピードの回転蹴りを半身になるだけで回避した。

 どんなに速度があろうと、最後にどう攻撃してくるのかさえ分かっていれば避けるのは容易い。

 そもそもスピードだけの攻撃なんて怖くないんだよ。ワンアクションごとに複数の選択肢を突きつけてくるようなマスターの攻撃に比べれば、単調すぎてあくびが出る。

 そして渾身の一撃を躱され、晒した隙を逃すほどボクは甘くない。

 

「安らかに眠れ、ランドスピナー」

「……ゴフッ!」

 

 左手のリストブレードで喉を掻き切った。

 喉を押さえ倒れるランドスピナー。

 

「あ、ああ! ランドスピナーが!」

 

 振り返れば、ちょうどタイミングよく次の相棒(エモノ)が来たらしい。

 でも、もうオペレーター室(ここ)はボクの狩場。

 異変という“餌”におびき寄せられ、オペレーター室のという狩場にきた相棒(エモノ)を狩る。

 

「た、助けて」

 

 命乞いに対する返答に、鞘からナイフを引き抜く。

 

「全ては……正しき社会の為に」

 

 

 

 

 救急車とパトカーが並び、野次馬による人だかりが事務所の前にできている。

 

「おい、聞いたか? 事務所の中でランドスピナーが殺されたらしいぞ」

「いや、ランドスピナーだけじゃないらしい。死亡・重傷で30名の犠牲者になるんだとか」

「30ぅぅ! 事務所の半数近くじゃねぇか!」

「相棒といえど、ヒーローだぞ! どんな個性なんだ?」

「分からねぇ。個性は使わずに刃物で殺傷していたらしい。まさか、噂の“ヒーロー殺し”か!?」

 

 ザワザワと五月蠅い群衆を抜けて、携帯端末を操作する。

 数コールの後に電話がつながった。

 

「もしもし、こちらはうまくいきました。そちらは?」

『ハァ……インゲニウムは粛清した』

 

 マスターにより、インゲニウムは粛清されてしまったらしい。

 アァ……彼もまた真の英雄ではなかったのか。

 人としては好きだったんだけどなァ。

 

「そうですか。それで、彼はどうだったんですか?」

『やつもまた贋物……ハァ……ヒーローを歪めるガンでしかなかった。弱かった……』

「彼の信念が……ですか」

『最後の言葉が弟への謝罪の言葉だ。間違いなく善い人間・善い兄なのだろう……ヒーローでなければな』

 

 彼の人間性は好みだったけれど、理想(ヒーロー)足りえないならばこの結果は仕方のないことだ。

 マスターも完全に息の根を止めずにきたという、珍しく()()をかけたようだから何かしら感じるものはあったらしいけれど。

 

 そうしてもう一言二言話してから通話を切る。

 ふと見上げれば、ビルの大型ディスプレイがなんとなく目に入った。

 アァ、そういえば雄英体育祭の真っ最中だったな。

 幸運にも、以前に出会った緑谷くんの姿が映っていた。

 

 そうか、彼は雄英に進んでヒーローを目指しているのか。

 彼みたいな真の英雄の精神を持ったヒーローだけでいいのに、世の中は贋物が多すぎる。

 

 早く、彼のヒーローの姿を見たいなァ……

 

 

 

 

 翌日、朝にテレビに流れた、ターボヒーロー「インゲニウム」が“ヒーロー殺し”に襲われたニュース。

 そして、そのヒーロー事務所が何者かに襲われ、「ランドスピナー」をはじめとした10名が死亡。27名が重傷を負った事件。

 

 

『――――なお、警察は被害者の殺傷方法が似ていることから、犯人と“ヒーロー殺し”の関連性を疑っているとのことです。

 警察はこの犯人に対して、

 

相棒狩り(サイドキック・ハンター)

 

 の呼称をつけ、事件の情報を集めているとのことです』

 




インゲニウムの粛清まで来ました。
本当は死柄木を登場させたかったんですけど、キリが良かったのでここまでです。
結果的に、嘘次回予告になってしまい申し訳ないです。

次回、覚が次世代と遭遇するぞ! お楽しみに
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