「ようこそ、“ヒーロー殺し”。そして、”相棒狩り”。歓迎するよ……悪名高き先輩たちだからなァ」
バーのイスに腰掛け、気怠そうな様子で歓迎の言葉を告げる灰色の髪の男。
掌を模したマスクをつけた姿も相まって、薄気味の悪い印象だった。
インゲニウムの粛清から八日後。
また新たに粛清したヒーローの現場を近くのビルの屋上から眺めていたところを、黒霧と名乗る男の個性で連れてこられたところだ。
あって欲しい人物がいるとのことだったが、こいつのことだろう。
さて、用件はなんだ?
「ハァ……それで? 俺たちを探していたようだが、おまえたちは何者だ? 何の用があってここに呼んだ?」
「おいおい、質問が多いなァ。まぁ、慌てずに一つ一つ答えていこう。
俺は死柄木 弔。ヴィラン連合のリーダーだ。要件は、あんたたちに連合への勧誘さ」
矢継ぎ早に質問するマスターに対して、返事をする死柄木という男。
組織への勧誘が目的みたいだが、ヴィラン連合という名前はどこかで聞いたことがある。たしか――――
「ヴィラン連合、雄英を襲撃した犯人たちが名乗っていたと聞いたが、あなたたちが?」
「そうさ。俺たちが雄英を襲撃した本人だ。……もっとも、結果は残念だったけど。
あんたたちと比べると恥ずかしいね。なにせヒーロー殺しが、殺害38名、再起不能55名。弟子の相棒狩りもヒーローを10名以上殺してる。こっちはヒーローの卵ですら一人も殺せていないのになァ」
「先日の襲撃の際に仲間のほとんどが捕まってしまいました。そこで、実績のあるあなた方に連合に加入していただき、戦力を整えたいのです」
雄英の襲撃犯であることを認め、その結果を残念がる死柄木。
その言葉を補足するように、黒霧が要件を告げた。
「なるほどなァ……おまえたちが雄英襲撃犯……。その一団に俺たちも加われと」
「ああ頼むよ。悪党の大先輩」
「…………目的は何だ?」
何かを探るように尋ねるマスター。
だが、死柄木は相変わらず気怠げな様子で返事をした。
「とりあえずはオールマイトをブッ殺したい。気に入らないものは全部壊したいな。
こういう……糞餓鬼とかもさ……。全部」
気に入らないから壊す。
一言で言ってしまえば幼稚な、こどもの我儘みたいな主張だ。
こんなやつが率いる集団に入る必要は正直感じられないな。
それに、最後に差し出した写真に写っているのは
ボクの理想とするヒーローの精神を持った貴重な人物を狙っているとなれば、なおさら仲間になるなど考えらえない。
いや、むしろボクの敵だ!
「興味を持った俺が浅はかだった……。
おまえは……ハァ……俺が最も嫌悪する人種だ」
「はあ?」
「子供の癇癪に付き合えと? ハ……ハァ。信念なき殺意になんの意義がある」
脇のナイフを引き抜きながら、怒りを滲ませるマスター。
さぁ、戦闘開始だ。
………………………………………………
「ハッハハハ……! いってえええ。強すぎだろ。黒霧! こいつら帰せ。早くしろ!」
マスターに右肩を刺され、左の首元に刃を添えられた死柄木が焦った様子で黒霧に指示を出すが、おあいにく。
「動くな。何かしようと
「ぐっ、すみません。死柄木 弔。こちらも動けません」
黒霧はボクが拘束させてもらっている。
実体部分に左腕のリストブレード突きつけていつでもとどめを刺せる状態にしてある。
ヴィラン連合とやらも大したものじゃないな。
ほら、マスターのナイフがもうすぐ死柄木の首を掻き切ろうと――――
「――――殺すぞ」
――――瞬間、殺気が膨れ上がる。
「口数が多いなァ……。信念? んな仰々しいもんないね……。強いて言えばそう……オールマイトだな……」
なんだこいつ。さっきまでの気怠げな様子が一変して……。
気を取られてボクは死柄木に個性を
「あんなゴミが祭り上げられてるこの社会を滅茶苦茶にブッ潰したいなァとは思ってるよ」
“憎悪”
“嫌悪”
“怒り”
あいつの心を読んで見えたのはヒーローに対する強い否定を煮詰めたようなどす黒い感情。
ボクも今のヒーローたちに対して否定の感情は持っている。その点については同じようなものかもしれない。
だけど、向いているベクトルが逆方向だ。
ボクもマスターも堕落した
だが、
いまのヒーロー社会どころか、ヒーローそのものを憎悪している。
いったい、こいつの過去に何があったんだ?
「それがおまえか……」
死柄木から飛びのいたマスターが告げる。
「おまえと俺の目的は対極にあるようだ……だが、
『
この一点に於いて俺たちは共通している」
「ざけんな。帰れ。死ね。“最も嫌悪する人種”なんだろ」
「マスター、まさか!?」
見逃すというのか。
共通する点があるとはいえ目的の違う相手。しかも、死柄木という男は危険だ!
「真意を試した。死線を前にして人は本質を表す。
異質だが……“想い”……歪な信念の芽がおまえに宿っている。
おまえがどう芽吹いていくのか……始末するのはそれを見届けてからでも遅くはないかもな……」
ちぃ、良くも悪くも“信念”のある人間に甘いのがマスターの悪い癖だ。
何かを為すには強い信念が必要というのがマスターの持論。だからこそ、そういった信念を持った人間を気に掛けるわけだ。
しかし、相手は選んでほしいものだけどね。
まぁ、ボクもそのおかげで拾ってもらったようなものだから強く文句も言えないが。
「了解しました。マスターの言うとおりに」
「おいおい、了解じゃないね。俺は。
自分のことを始末するとか言ってるやつをパーティに入れるなんざありえないぜ」
「死柄木 弔。彼らが加われば大きな戦力になる。交渉は成立した!」
嫌そうに声を上げる死柄木に対して、黒霧が強引に話をまとめた。
二人の関係がなんとなく察せそうなやり取りだ。
黒霧、なんだか苦労してそうだなぁ……。
どちらにせよ話はまとまったので、突きつけていた刃を引っ込める。
「要件は済んだ! さァ“保須”へ戻せ。
さて、
――――――東京 保須市
元いたビルの屋上。
そこの物陰にボクは身を潜めていた。
数分前、死柄木たちのもとから離れたふりをして近くに戻っていた。
去り際に、読んだ死柄木の心中に『“脳無”を暴れさせる』という言葉が気になったからだ。
マスターには悪いが、死柄木という男を信用していない。
あのこどものような男が、やられっぱなしですごすごと引き下がるような奴には思えないのだ。
この懸念は当たっていたようで先ほどの場所から黒霧と死柄木、そして
あの化物が“脳無”? とんだ化物だな。
異様な姿に驚いていると、死柄木の声が聞こえてきた。
「大暴れ競争だ。あんたたちの面子と矜恃、潰してやるぜ大先輩」
思った通りこちらへの害意を顕にした死柄木。
マスターは見逃すつもりだったようだが、もういいだろう。
徒に力を振りまく犯罪者、やつも粛清対象だ。
「そうか……ならば死ね! 死柄木!!」
「なっ、避けなさい。死柄木 弔!!」
物陰から飛び出し、死柄木に刃を向けて走りだした。
が、しかし、
「ポッペイホゥ!」
「ちっ、邪魔な」
奇声を上げる四本腕の脳無の一体に邪魔されてしまった。
「ああ、いたのか。相棒狩り。ちょうどいいや。おまえのことも気に入らなかったんだよなァ……。
その脳無に遊んでもらいなよ……殺せ、脳無」
「ポッポヘイホゥ!」
目の前の脳無の攻撃を躱していくが、死柄木から離されてしまう。
くそ、ほかの三体の脳無は街に放たれるのをただ見ていることしかできないとは。
このことをマスターに伝えないと。だがそのために。
「ポッパイフゥ!」
「まずはおまえを倒してからだ!」
服の下に隠してある左脇の鞘から大型ナイフを右手で引き抜き、構えを取り戦闘に突入した。
―――――――――――――――――――――――――――――
「ハァ、ハァ、これは……だいぶ遠くにまで離されてしまったか」
倒れた脳無から刃を引き抜くと鮮血が飛び散り、あっという間に辺りは血の海となった。
どんな処置をされたのか知らないけれど、思考能力をもたない脳無の相手をするのはボクの相手の心を読むという個性との相性が悪くていささか苦労した。
まぁ、逆に言えばパワーがあるだけの単純な動きなど、見切ってしまえばそこまで敵ではなかったけれど。
むしろ、問題なのはここまで来る途中で多くの人にボクが戦っているところを見られてしまったことだ。
あまり目立つことはしたくない。なにせ、ボクにとってろくなことにならないからだ。
「これは、キミが倒したのかい? いったい、キミは……」
「待て、左腕のリストブレード……こいつ、“相棒狩り”だ!」
駆けつけた二人組のヒーローがボクに気が付いて声を掛けてくる。
だから嫌なんだよな目立つのは。こうやって、ヒーローと出くわす羽目になったりするから。
しかし、未熟だな。
戦場と化したこの場で呆けている余裕があるとは。
「遊びにでも来たつもり? 対応が遅いぞ」
「痛ッ!」「ぐああ!」
振り向きざまに投げナイフを投擲。二人の腕と足にそれぞれ当たり、即効性の麻痺毒が体の自由を奪う。
他愛なし。これでプロだというのだから笑わせてくれるよ。
状況が状況だから命まではとらないけれど、しばらく眠っていてもらおう。
そう思って意識を刈り取るべく近づこうとした瞬間、
「やめろ! なにしてるんだ!」
叫び声をあげて殴りかかってきた人物がいた。
ラインの入った緑のジャンプスーツに白いグローブ。肘と膝を守るプロテクターと口元を守るマスクにフードがついたコスチューム。
そして緑がかった癖毛と同じ緑の瞳が、ボクのことを映し出していた。
「そんな……あなたは!?」
驚愕に目を見開く彼。
「嬉しいなァ。覚えていてくれたんだね……。
久しぶり、緑谷 出久」
混沌とした場で、あの時と立場を違えてボクは“
今回投稿が遅れたわけ。
1.台詞がまるまるコピペになりかねず、調整に苦労した。
2.時系列が把握に時間がかかった。
雄英体育祭当日にインゲニウム粛清⇒二日間休み⇒ヒーローネーム仮決定&職場体験指名⇒「先週の授業後」相澤「今週末までに提出」瀬呂「あと二日しかない」
といった具合に、インゲニウム粛清から時間が経っている。
しかし、ステインが黒霧と接触したのはいつなのか不明。描写としてはインゲニウムのすぐ後のように書かれているが……だとすると、保須市に戻って来た日にちがががが
そのほか、脳無貸し出しの交渉を死柄木が先生といつしていたのかなどなど。
もう、わけわかんね(泣)
とりあえず、難産でした。
この作品も、もう2話ほどで完結予定です。それまでお付き合いください。
一応、次回作の案もあったりはするんですが、それは完結させてからということで。
次回予告
緑谷くんが覚の精神にダイレクトアタックを仕掛けるぞ。