最後に会ったのは今から一年ほど前。
あのときは学生服で頼りない印象の強かった彼が、今はヒーローの
ボクの
「その左手のリストブレード……まさか、あなたが『相棒狩り』!?」
ボクの武器を見て驚いたように声を上げる出久くん。
驚きながらも、油断なく、むしろ警戒心を引き上げるところなんか、よりヒーローらしくなってきたなァ。
「相棒狩り……そうだね。最近じゃ、ボクもそんなふうに呼ばれるようになったなァ」
「…ッ! 認めるんですね。いったい何の目的でこんなことを? あのとき僕のことをヒーローだと言ってくれたあなたが、真剣な顔でヒーローを語っていたあなたがこんなことをするなんて」
信じられない。
何故? どうして?
そんな気持ちが個性を使わなくても彼から伝わって来る。
そうか、ボクの言葉はそんなに彼の中に残っていたのか。嬉しいなァ。
ならば、包み隠さず話をすることが意図せず影響を与えたボクの誠意というものだろう。
「ボクの目的は一つ。この歪んでしまったヒーロー社会を正すことさ」
「ヒーロー社会を…正す?」
「そう。キミもあのとき見ただろう? 人質が苦しんでいるにも関わらず解決できる“誰か”待っているプロヒーローを。
あの姿を見てボクは彼らをヒーローだと認めることはできない。
あの場でヒーローと呼べたのはオールマイトとキミくらいのものだった」
「そんな……でも、そのことがどうしてヒーローを殺すことに繋がるんだ!?」
理解できないとでも言うように叫ぶ出久くん。
「ヒーローっていうのは人々の理想だ。その理想たり得ないヒーローなんて贋物……理想を汚すゴミ。
その贋物を排除することで、真のヒーローだけがいる、正しき社会を作り上げる」
「そんな理由で、ヒーローを襲っていたなんて。そんなの間違ってる!」
頑張ってボクの考えを主張してみたけれど、共感は得られなかったみたいだ。
ならば仕方ない。ボクとマスターの邪魔をしないよう、しばらく眠ってもらっていることにしよう。
殺さずに無力化してかつ、大きな傷が残らないようにするとなると武器は使えないな。マスターならともかく、ボクの腕では下手すれば殺してしまうかもしれないし。
「残念だよ。ボクの理想のヒーローの精神を持っているキミが賛同してくれればよかったのだけれど」
「どんな理由があったって僕は人殺しに賛同なんかしない。それにあなたに構っている暇なんてない。友達がヒーロー殺しと戦っているかもしれないんだ。
あなたを捕まえてすぐに向かわないと」
そう言って拳を構える彼に合わせてこちらも構えをとる。
「ならますます放っておけないな。マスターの邪魔はさせない」
「噂通り、ヒーロー殺しと相棒狩りは関係があったのか......いや、いまはそんなこと関係ない。あなたを、倒します!」
「ッと、早い!」
猛スピードでこちらに向かってくる彼に牽制のローキックを放つが、飛び上がるようにして避けられてしまう。
思ったより早いし、トリッキーな動きだ。
この間の体育祭ではこんな動きはしていなかったはずだ。
短期間でこれだけ成長するなんて、さすが雄英のヒーロー科といったところだろうか。
彼の跳躍により背後をとられたボクが振り返るときには、彼が拳を振り上げている姿が目に映った。
「5%DETROIT SMASH!!」
拳が風を切り、その数瞬後に鈍い肉を打つ音が響き渡る。
「ガッ......」
「悪いね。キミの動きは読めてるんだ」
彼の右腕とボクの左腕が交差する。
しかし、届いたのはボクの攻撃だけだった。
いくら出久くんのスピードがマスター・ステイン以上といえども、ボクの個性による先読みがあればクロスカウンターを決めるのくらいは簡単なモノさ。
「くっ、まだだ!」
「さすがに、これくらいじゃ倒れないか」
まともに一撃をくらったにもかかわらずすぐに体勢を立て直すところは流石ヒーローの卵といったところ。
スピードに対応されたところから、警戒を強める判断も良い。ただ……
「友達のことを考えながら相手できるほどボクは甘くないよ。キミ、さっきの一撃で終わったと思ってたろ?」
「つ、強い!」
まだ終わっていないのに次のことを考えていたのはマイナスだね。
「動きを読まれた……感知系の個性? いや、動きだけじゃない。僕の考えも読まれた?」
「……すこし、しゃべりすぎたかな?」
彼の真価は分析力だったか。与えたほんのわずかな情報からボクの個性に迫るとは驚きだよ。
「察しの通り、ボクの個性は相手の心を読むことができる個性さ。羨ましいと思うかい? そうだろうね。“無個性”だったキミからしたら」
「そんなことまで! まさか!?」
「アァ、安心してくれていい。オールマイトの秘密は誰にも言わないさ。むしろボクはあんな体になっても戦い続けたそのあり方こそ、“本物のヒーロー”だと思っているからね」
あの自己犠牲の精神こそヒーローにふさわしい。他の凡百のヒーローを名乗る輩なんぞとは違うね。
そして、その精神だけでなく個性すら受け継いだのが、目の前にいる“緑谷 出久”だ。
テンションが上がらないわけがない。そのせいか、多少饒舌ぎみである。
「なんで本物のヒーローにこだわるか疑問かい? それは、皮肉なことにボクの個性が原因さ。
知らないだろう?
個性が発現した四歳のころから人の醜い生の感情を聞き続けることになった苦痛が。
分からないだろう?
正義の心を持っているはずのヒーローに期待して裏切られたときの気持ちが。
憧れたヒーローの心ですら理想でないのなら救われないんだよ! だから要らないんだ。本物のヒーロー以外は、本物のヒーローの精神をもたない贋物は!」
思わず吐露したボクの気持ちに、出久くんは顔をゆがめる。
完全には理解できなくとも、同情はしてくれたらしい。
それでも、彼は曲がることはないみたいだ。
「……正直言って、僕はあなたの気持ちは全部理解できない。少なくとも個性のせいでヒーローを信じられなくなったのは分かる。
それでも、やっぱりあなたのやっていることは認められません」
思いつめたかのように拳を握り、はっきりと告げる。
「あなたが思う“本当のヒーロー”がいないとしても、どうして殺して、排除なんて手段をとったんだ!」
「それ以外の手段がどこにあるんだ! 言葉で伝えたところで、ボクの気持ちなど誰も理解できなどしない!」
皮肉なことに、相手の気持ちを理解できる個性を持ったボクが誰にも理解されない気持ちを抱えてしまった。
そして ボクが理想だとした彼の口から出る言葉は、否応なくボクに届く。
「言葉だけでは伝わらないと思ったなら、その姿で魅せれば良かったんだ。
「なにを言ってる!? ボクが
「
考えたことなかった。
自分がヒーローになって理想のヒーローのあり方を魅せるなんて。
ボクが理想のヒーローに憧れたように、他の誰かの憧れになる。
それは、正しくて、美しくて、まさしくヒーローらしい考えなんだろう。
『ボクを裁いていいのは、ヒーローの精神を持った者だけだ』
前にそうマスターに告げたこの言葉。
この言葉に偽りはない。
だからこの結果も必然だったんだろう。
ボクが理想のヒーローの精神を持っていると認めた、緑谷 出久に敗北するのは。
ボクは彼の
遅くなりました。
次回、完結予定です。
まぁ、オリ主が原作主人公に勝てるわけないよね!