投稿は気分なのでご了承ください。
チュン、チュンチュン
どこからか鳥の囀りが聞こえてくる。窓からは爽やかな風が優しくベルトの頬を撫で、朝が来たことを知らせる。だが、ベルトはその知らせを受ける前にすでに起き1人悩んでいた。
「どうしよう・・・いきなり会った初日に抱きしめてしまうなんて。こんなの男として最低じゃないか?まあ最低だな」
ベルトは昨日の夜を思い出す。自分の存在を卑下し素直な気持ちをさらけ出して号泣するシルヴィをベルトはつい抱きしめてしまった。
「まずは謝ることが先決だよな。女の子に許可なく抱きついたんだから謝るのが常識だ・・・嫌われてたらどうしよう」
ベルトが1人ベッドの上でもがいていると
コンコン
誰かがドアをノックした。そのノック音を追いかけるように控えめな声も聞こえてくる。
「あ、あの、ご主人様。おはようございます。起きてらっしゃいますか?」
ドアの向こう側からベルトが起きているのか確かめる女の子が1人、シルヴィだ。昨日のことを訴えにきたのかとベルトの焦りはますます悪化する。
「う、うん!おはよ。今開けるね」
ベルトは両手で頬を叩いて一喝。謝ることを決意し、ベッドから五歩程のドアの前に立つ。ドアノブに手をかけ手前へとドアを引くと、なぜか怖がっているのか、少し震えるシルヴィがいた。
「わざわざ起こしに来てくれた、のかな?ありがとね」
目を合わせずシルヴィは華奢な首を横に振った。
「いえ、ご主人様に感謝されることでは・・・」
シルヴィはベルトに一度頭を下げ言葉を続ける。
「昨日は取り乱してしまって申し訳ございませんでした。それにご主人様に多大なご迷惑をおかけてしまいました。申し訳ございません」
「そんな!シルヴィが誤ることじゃないよ!・・・俺こそごめん。急に、その・・・抱きしめたりなんかして」
申し訳なさそうに俯いているシルヴィに、ベルトは深々と誠心誠意込めて頭を垂れる。
「もし俺のことを恨んでいるならこの頬に思いきっりビンタくらいかましてくれ!!・・・」
「え・・・あの・・・」
顔を上げたベルトの両目と口は堅く結ばれていた。ベルトとシルヴィの二人の間には静かな沈黙だけが流れた。
「ご主人様?あの・・・わ、私は別に、そういったことをしに来たわけではなくて、いえ、私なんかがご主人様に手を上げるなんてことできるはずもなく・・・えっと・・・」
「・・・」
「私はただ昨日のお礼とご迷惑をおかけしたお詫びをしたくて・・・」
言葉に詰まってしまい反応のないベルトに困惑するシルヴィの様子が、目の見えていないベルトにも容易に想像できてしまいベルトの口元は微かに微笑みだす。
「・・・ップ、ハハ、あははは。シルヴィちゃん慌てすぎ」
遂に我慢しきれず、ベルトは声を上げて笑い出した。いきなり声を出して笑い始めたベルトに驚きつつも、その純粋な笑顔に釣られてシルヴィの口元も穏やかに微笑んだ。
「あ!シルヴィちゃん笑った!!」
「え?・・・」
シルヴィはすぐさまベルトに顔が見られないよう背を向けた。シルヴィはベルトに指差しで指摘されてから自分が笑っていることに気がついたのだ。
今まで愛想笑いとして笑みを作ることはあった彼女だが、自分から無意識に笑みを作るなんてことなかった。
「今笑ってたよね!?」
「笑ってません・・・」
「じゃあなんでこっち向いてくれないの?」
「そ、それは・・・こんな火傷で醜い顔をご主人様に見せたくないからです」
「またまた~。笑った顔も可愛いよ?」
「え?かわっ・・・そ、そんなことないです!もう私はこれで!」
廊下をスタタと小走りで駆けていくシルヴィをベルトは心から安堵した様子で眺めていた。昨日この家に来てから自分との会話の中で笑顔を見せてくれることなんてなかった。正直、一か月、もしくは一年、このまま心を開いてくれないものかと思っていた。
「さすがに最後のは・・・うかつだったかな」
と、一人呟いていると・・・
ガタ、ガタガタガタガタ、ドス!!
そのものすごい音は何かが階段を転がり落ちていくような打音。その発信源は・・・
「シルヴィ!!??」
ベルトは音の発信元へと全速力で駆けて行った。
お疲れ様でした。