ポケモントレーナー ハチマン   作:八橋夏目

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73話

 季節を司る伝説の鳥ポケモン、サンダー、ファイヤー、フリーザー。

 そして、ダークオーラにより黒い身体になってしまったダークルギア。赤い瞳が恐怖を煽ってくる。

 

「ダークルギア………」

 

 あの禍々しい気配はこいつだったのだろう。

 そしてあのリザードンもその瘴気に当てられ堕ちかけている、ってところか。

 

「くそ、パキラを追いたいってのに………」

「ルギア、エアロブラスト。ファイヤー、ホノオノウズ。サンダー、カミナリ。フリーザー、フブキ。リザ、ゲンシノチカラ」

 

 おいおい、全員でかかってくるのかよ。

 相手は伝説のポケモンが四体にメガシンカが一体。

 対してこちらは伝説が二体にメガシンカが………これ勝てるのか?

 

「ゆきのん、ボーマンダ使って! あたしはクッキーでやるから!」

「分かったわ!」

 

 エスプリの命令が出されると同時にユイガハマがボーマンダから飛び降り、ウインデイに乗り移った。

 宙を走れるウインデイもある意味伝説だよな。

 

「ボーマンダ、メガシンカ!」

 

 こっちもメガシンカさせるか。

 

「リザードン、お前もメガシンカだ!」

 

 俺たちが持つキーストーンと共鳴しだし、二体が白い光に包まれていく。

 

「ダークホール!」

 

 ルギアのエアロブラストをいつもの三倍増しのダークホールで受け止める。

 

「トゲキッス、ひかりのかべ! ミミロップ、ミラーコート! ファイヤーを抑えて!」

 

 メタモンが変身したイベルタルの上でトツカが標的をファイヤーにし、命令を出した。

 

「ボーマンダ、オーダイル、りゅうのまい!」

 

 ユキノシタはメガシンカしたボーマンダの背にオーダイルを出し、二体揃って竜の気を作り出していく。

 

「中二先輩!」

「うむ、いくのである! レールガン!」

 

 でんじほうをぶっ放す二人。狙いはフリーザーらしい。

 

「サンダー、デンキヲヒキヨセロ」

 

 だが、離れてたって避雷針のようにサンダーの方に流れていき主導権を奪われてしまう。一度見ているためかサンダーも手馴れてきており、集めた電気を圧縮し、自分で溜め込んだかみなりのエネルギーを合成し、新たな雷撃を練り上げ始めた。

 

「インファイト!」

「ムーンフォース!」

 

 先生とメグリ先輩がフリーザー目掛けて攻撃を仕掛ける。

 ふぶきを放つ前に背後から現れたエルレイドに気づいたフリーザーは旋回し、エルレイドをサーナイト目掛けて突き飛ばした。そのままふぶきも放たれ、ムーンフォースも同時にかき消された。

 

「ファイヤー、ゴッドバード」

「ギャラドス、躱してハイドロポンプ!」

「ピジョット、ナイフエッジロール!」

「オムスター、げんしのちから!」

 

 ファイヤーに狙われたミウラたちだが、ギャラドスとピジョットが攻撃を躱しきれず、ギャラドスの上にいたミウラが宙に投げ出されてしまった。

 やべぇ、これ間に合うか?!

 

「ユミコ?!」

「ムクホーク!」

 

 咄嗟にトベがボールからムクホークを出し、ミウラを回収させた。ただ自分もやられて落ちていることに気づいているのだろうか。

 

「フリーザー、フブキ」

「イッシキ、そのままリザードンを使え!」

「ボーマンダ、だいもんじ! オーダイル、アクアジェット! クレセリア、サイコキネシスでサポートしてあげて!」

「リザードン、マフォクシー、もう一度だいもんじ!」

 

 三つのだいもんじで壁ができ、その上をオーダイルとゲッコウガが駆け抜けていく。サイコキネシスにより攻撃側の二体への吹雪も抑えられ、道ができた。

 

「カミナリ」

 

 すると、今度は背後から圧縮した雷撃を飛ばしてきた。かみなりと言えど放電しているためザイモクザまで狙われている。倍返しかよ。

 取り敢えず、俺もいつまでもダークライに頼ってばかりいられない。この前やったみたいにどいつか乗っ取るか?

 乗っ取るとしたら、やはりあのデカ物だろうか。

 

「よっと」

「ヒョウテキ、カクニン。リザ、オーバーヒート」

 

 ルギアの上に飛び降りると、すぐにエスプリが駆けつけてきた。来なくていいのに。

 しかもリザードンでルギアに着地とか何考えてんだよ。いつの間にこいつの背中は戦場になったんだ?

 

「させるかよ、来い! ゲッコウガ!」

「コウガ!」

 

 ジュカインを出すべきか迷うところではあるが、まだ粘れる。

 ゲッコウガ、頼むぞ。

 

「みずしゅりけん!」

 

 飛んできたゲッコウガが俺の前で着地し、八枚刃の手裏剣で壁を作って燃え盛る炎を防いだ。

 

「ハイドロカノン!」

 

 あのリザードンはメガシンカしてひでりの特性になっているが、三鳥のおかげで天気は不安定になり、効力を失っている。

 だからみずタイプの技を使っても今は何の影響も受けないのだ。

 

「イクスパンションスーツ、ソンショウ10パーセント。ルギア、ハイパーモード」

 

 水の究極技を受けて吹っ飛んで行ったリザードンが帰ってきて、ルギアの背中に拳を打ち付けた。

 エスプリはスーツの機能なのか、結局一人でも飛んでいられるという。なんかムカつく。

 

「ルギィィィィアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!?!」

「うおっ?!」

 

 リザードンのせいで、ルギアが暴走を始めた。

 翼を大きく開いて雄叫びをあげ出したため、俺が足元を掬われてルギアから落ちてしまうという。

 しかも真下から炎がせり上がってきて、躱すことができない。

 …………いや、身体が躱そうとしないのだ。

 

「ヒキガヤくん?!」

 

 ユキノシタの叫び声が聞こえてくるが、俺の身体はどうにもならず炎を呑み込まれてしまった。

 温かい。

 なんというか生命力を与えてくれるような………、それに俺はこの炎を知っている気がする。この炎に焼かれても火傷すらしない不思議なことを何故か感じ取ってしまっている。

 

「ルギア、ダークブラスト」

 

 雄叫びの後で再度口を大きく開き、禍々しい黒い爆風を生み出してきた。

 

「カメックス、ネイティオ、まもる!」

 

 爆風は皆を巻き込み、暴れていく。

 さらに三鳥がかぜおこしで爆風の威力を高めだした。

 

「くそっ! ゲッコウガ、めざめるパワー!」

 

 ゲッコウガに注ぎ込まれていく聖なる炎をめざめるパワーの炎と融合させ、エスプリへと走らせた。

 

「ナイトバースト!」

 

 上空からは暗黒の衝撃波がルギア目掛けて一直線に降りかかってくる。

 

「ファイヤー、サンダー、フリーザー、ウチオトセ」

 

 風を起こしていた三鳥がエスプリの命により炎と黒の衝撃波を翼で受け止め、地面に向けて叩き落とした。

 なんて素早い身のこなし。

 

「見つけたわよ、バカハヤト! バンギラス、メガシンカ!」

 

 あ、魔王が帰ってきた。

 

「ヒョウテキヘンコウ。ルギア、ダークブラスト」

 

 ぶうんと翼を仰ぎ背後に現れたハルノさんの方に向き直るルギア。丁度俺たちには背中が見えるようになった。

 それでもまだ三鳥が相手として残っている。

 

「バンギラス、いわなだれ! メタグロス、ラスターカノン! ハガネール、かみくだく!」

 

 メタグロスに乗ったハルノさんが次々と命令を出していく。

 彼女と一緒に乗っているバンギラスはルギアの上空から岩を発生させ、メタグロスはバッテン口を開いて鋼が溶けたような光線を、ハガネールは地面から出てきてそのまま頑丈な口でルギアの尾っぽに噛み付いた。

 

「リザードン!」

 

 生きているであろうリザードンを呼びかけると森の中から飛び出してきた。

 どうやらあそこにみんな落ちたらしい。

 

「フャイヤー、サンダー、フリーザー、ゴッドバード。リザ、ソーラービーム。ルギア、ハガネールヲフリオトセ」

 

 三鳥が天気を操るような技を使わなくなったため、夜なのに日差しが舞い戻り、上空から降り注ぐ岩々をソーラービームで打ち砕いていく。

 対して三鳥はこちらに向かって突っ込んでくるという。

 

「ゲッコウガ、ハイドロカノン! リザードン、ブラストバーン!」

 

 リザードンの背中に飛び移ったゲッコウガ共々、三鳥に向けて究極技を放った。だがやはり三対二。サンダーだけが外れてしまった。

 

「カメックス、オーダイル、ハイドロカノン!」

「マフォクシー、ブラストバーン!」

「フシギバナ、ハードプラント!」

 

 だが、下からそれを補うように同じ究極技が打ち出されてきた。

 よかった、あいつら無事だったみたいだ………。

 

「姉さん!」

 

 ユキノシタがクレセリアに乗って上がってきた。

 駆けつけていくのはハルノさんの方。

 だがーーー。

 

『マッテ! ワタシガヒキツケルカラ、フタリデハイゴカラコウゲキシテ!』

 

 ーーー手負いながらもバッサバッサ飛んできたネイティオから発せられた声が聞こえた。

 これ、この口調、まさか………?!

 

「姉さん………」

 

 ユキノシタも気づいたのか、クレセリアを止めた。

 あの人、やっぱすげぇよ。こんな時でもこんな芸当を見せてくるなんて。

 ネイティオに思念を送って、それを音として出させるとか聞いたことがない。せいぜいテレパシーまでだろう。

 

「ゾロアーク、ホウオウに化けて三鳥を誘導しなさい! バンギラス、メタグロス、はかいこうせん!」

 

 ……なるほど、あれはゾロアークだったのか。

 何か黒いポケモンが度々攻撃しているのが見えたが、ホウオウに化けたことでようやく理解できた。

 何がユキノちゃんをよろしくね、だ。絶対今の方が本気を出してるだろ。

 

「ユキノシタ」

「……ええ」

 

 ユキノシタに声をかけると、首を横に振って今は自分のやるべきことに専念する気持ちに切り変えたようだった。

 その横をホウオウに化けたゾロアークが通り過ぎていく。その後ろにはしっかりと三鳥が続いていた。

 

「ダークブラスト」

 

 エスプリが命令を出した。狙うはメタグロスに乗ったハルノさん…………。

 だが、そこにいたのはメタグロスとバンギラスだけだった。

 バンギラスが黒いオーラを出して守りの態勢に入っている。

 

「ハヤト!!」

 

 ーーーああ、そういうことか。

 ユキノシタの読みは当たらずも遠からず。

 自分自身が囮になることが最もエスプリの気を引けると確信していたらしい。中身が中身なだけに。

 

「リザ、レンゴク」

「姉さん!?」

 

 その証拠にエスプリがリザードンに命令を出した。激しく燃え盛る炎が一気に押し寄せハルノさんを呑み込んだ。

 だが、これでエスプリにはもう攻撃できるポケモンはいない。

 

「ダークライ、あくのはどう!」

「〜〜〜!! クレセリア、ムーンフォース!」

 

 これが彼女が捨て身で作り出そうとしていた隙だというのなら無駄にしてたまるかよ!

 黒いオーラを弾丸にして、ルギアの背中を狙う。

 ユキノシタもクレセリアに月の光を取り込ませて、光の一閃を走らせた。

 見事、技は命中。

 だが、まだ落ちる程ではない。

 

「マニューラ! ユキメノコ!」

「リザードン! ゲッコウガ!」

 

 いつの間に二体を送り込んでいたユキノシタには驚いたが、さすがと言っていいな。倒すなら立てないくらいに倒してしまわないとな。

 マニューラのつじぎり、ユキメノコのシャドーボールと切られ撃たれて、ゲッコウガの巨大なみずしゅりけんとリザードンの直接のブラストバーンが叩き込まれ、ようやく雄叫びではなく悲鳴をあげた。

 そして崩れるように地面に向かって落ちていく。

 三鳥はまだホウオウに化けたゾロアークの相手をしているため助けには来ない。ゾロアークもほとんど躱してるだけだが、一体であの三体を引きつけられるのも相当の育て方をされているのが伺える。

 

「ルギィィィィアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!?!」

 

 おいおい、嘘だろ………。

 これでもまだ起き上がってくるのかよ。

 

「イクスパンションスーツ、ソンショウ50パーセントヲケイカ。ファイヤー、サンダー、フリーザー、ルギア、モドレ」

 

 だが、攻撃してくることはなかった。

 エスプリが伝説の四体をボールに戻したからだ。

 それに気がついたゾロアークは姿を元に戻し、地面に向かって一直線に落ちていく。おそらくハルノさんのところへ向かったのだろう。

 

「リザ、タイキャク」

 

 そう言ってエスプリはリザードンのメガシンカも解き、いきなり影に消えた。

 はっ?

 なんだ、今のは………?

 一瞬、何かに見られていたような………。

 

「姉さん!?」

 

 ユキノシタはハヤマを追いかけることもせず、真っ先にゾロアークが落ちていった方へと走っていく。

 気にはなるので、俺も後を追うことにした。

 地上に降り立つとゾロアークがハルノさんを抱えて木々をかき分けて出てきたところだったようで、奴の腕にはぐったりとしたハルノさんの姿があった。

 

「姉さん?!」

「ユキノ、ちゃん………」

「無茶しすぎでしょ」

「あー、ヒキガヤくんだー」

 

 なんだよ、その甘えたような声は。らしくもない。

 

「………あーあ、やっぱりヒキガヤくんには敵わないなー」

「はっ? 何言ってるんすか」

「時間を超えてまで助けられちゃ、お姉さんもさすがに無理かも…………」

「言ってる意味が全く伝わって来ないんですけど」

「今はそれでいいんだよ………」

「怪我はないの?」

「あははー、それねー、ほんとそれ」

 

 ダメだ、なんか話のテンポが普段と違いすぎてやりにくいんだけど。

 何なのこの人。こんな人だっけ?

 

「………怪我はないよ」

「そう………よかった………」

「心配してたんだー」

「うっ………あ………そ、それは………」

「ゆきのん!」

 

 三人で話していると遅れてユイガハマたちもやってきた。俺的にハルノさんよりもこっちの方が心配なんだけど。

 

「ユイガハマさん! あなたも怪我はないの?!」

「だ、大丈夫だから! ちゃんとみんなかすり傷程度から!」

「怪我してんじゃん………」

 

 こいつの頭の中ではかすり傷は怪我に入らないのだろうか。何それ、ちょっと慢心。怖いわー。

 

「ハルノ………、お前………」

 

 先生が何かに気がついたようだ。

 

「あはははー、さすがにシズカちゃんには隠せないかー。そういうのだけは鋭いんだから。そうだよ、そもそも未来を見るのに何の代償もないわけないじゃん」

「ッ!?」

 

 ーーーああ、そういうことか。

 この人もポケモンと契約してるんだな。

 

「……そ、それって………」

「ま、まさか記憶を…………」

 

 ユキノシタが俺の顔を見たかと思うとハッとして、ハルノさんに詰め寄った。

 

「………ユキノシタさんは何を代償に?」

 

 契約の相手はネイティオ。

 普通にトレーナーとポケモンの関係ではあるが、ネイティオが見る未来や過去を時間を特定して見るために契約をしたってわけだ。

 でなければ、気まぐれに見せられた未来や過去が、あんなピンポイントで使えるはずがない。

 

「私の時間だよ。未来や過去を見通してる間の時間分を後から支払わされるの。つまりは活動時間を奪われて夢の中」

 

 記憶がなくならない分、時間を奪われる、か。

 確かにダークライほどの代償ではない。だが、このタイミングで時間を奪われるというのも痛いリスクではある。こんな力を使うのも危機が迫ってる時が多いんだし。

 

「………それにしても何か今回はぐったりしてるように見えるんですけど?」

 

 眠気、だけとも思えない。

 いつもの快活な魔王の姿がここまで急変するとちょっと心配になってくる。

 

「ピンポイントの未来をたくさん見せてもらったからね。ちゃんと眠れてないし、ちょっと力を使い過ぎちゃった」

「………その割にはネイティオと変な芸を仕込んできてたような気がするんですけどね」

「あれはついでだよ。どうせ私はもうすぐ眠りにつくから。あれくらいちょっと寝る時間が長くなるだけだよ」

「バカですね………」

 

 ほんと、バカだな、この人は。

 一体どんな未来を見てきたんだよ。

 

「だから言ったじゃん。ユキノちゃんは任せるよって」

「ならもう少し明るく言ってくれると助かるんですが。変に考え込みましたよ」

「………それで、どうしてあんなバカな真似をしたのかしら?」

「……バカな真似ね。今からバカな真似をする人もいるから、私もそれくらいやらなきゃなーって思っただけだよ。………でも私の未来はハヤトのリザードンのれんごくを受ける直前までしか見えなかったの。だからあそこが私の最後、だって思ってたんだけどねー」

 

 未来が見えない。

 つまりはあそこで死を迎える。

 だが、彼女はこうして生きていてる。

 一体どういうことなんだ?

 歴史が書き換えられたってことなのか?

 

「君はほんとにずるいなー………」

 

 手を伸ばして俺の頬を撫でてくる。

 一体れんごくを受けた時に何があったと言うのだろうか。

 

「……ね、ねえ、あれ………なん、なの…………?」

「えっ?」

「な、何あれ………?」

「き、綺麗ですね………」

「どうやら時間、の、よう、だね………」

「間に、合わなかった………」

 

 ミウラから始まり、次々と何かを見つけて声を上げだした。

 ユキノシタだけは真っ青な顔をしているが。

 ま、何かなんてのは見なくても分かる。

 とうとう時が来てしまったようだ。

 

「いや、ヒキガヤ。エルレイドを使え」

 

 彼女の不安を払拭するかのように先生が提案してきた。

 

「………いいんすか? 下手すればエルレイドが死ぬかもしれませんよ?」

「元より覚悟はできている。離れ離れになったとしても、それでもやはり世界が滅ぶのだけは阻止しなくては………」

「はあ………、全くそういうかっこいいセリフは言わないで欲しいんですけどね」

 

 どこまでかっこいいんだよ、この人は。

 ほんと誰かもらってやれよ。

 

「ひ、ヒッキー?!」

「お兄ちゃん!?」

 

 コマチとユイガハマが心配そうに俺を見つめてくる。

 

「………大、丈夫………だよ…………彼は……………死な、ない…………ヒキガヤハチマンは…………死なない、よ……………すー………………」

「姉さん?!」

 

 だが、それもハルノさんの寝言のような言葉に一掃された。

 というかマジで死ぬみたいな寝方やめて欲しいんだけど。

 

「………なあ、ミウラ。一つだけ答えてくれ。ハヤマが最後、急に消えたんだが、何か心当たりはないか?」

「えっ………、それ、あ………多分、ヨル、かも………」

「ヨル?」

「ヨノワールのヨル」

「ッッ!?」

 

 そういうことか。

 あれはゴーストタイプ特有の影に潜る性質を使ったってことなんだな。

 確かにあいつがボールから出したポケモンは五体。伝説ばかりに気を取られていたが、まだ一体ボールから出すことができたんだった…………。

 ということは見られていたというのも……………くろいまなざしか。

 自分たちを追ってこないように仕掛けをしたってわけかよ。おかげで追いかけるなんて気力が湧いてこなかった。

 

「次、会った時が決着の時か………」

「ヒキガヤくん………」

「………お前はちゃんと姉貴を見てやれ」

「ん………」

「お前らも、無理だと思ったら身を引くことも大事だからな」

「ヒッキー………」

「お兄ちゃん………」

「せんぱい………」

「んじゃ、エルレイド。セキタイまで頼んだぜ」

「エル!」

 

 リザードンとゲッコウガを一度ボールの中に戻し、ダークライと共にエルレイドの肩を掴んだ。

 すると一瞬で目の前の風景が変わった。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

 一瞬で変わった風景には。

 煌びやかな光を放つ巨大な蕾が咲いていた。

 

「あ………、なん、なの、……………こんな、こんな……………」

 

 ふと声がしたように思えたので草陰を見ると…………見たことのある顔がいる。

 自殺はしてなかったんだな。

 

「エルレイド、お前はあいつを守ってやれ」

「エル」

 

 シュタッと消えたエルレイドに何しに来たのか分からないサガミを任せ、俺はリザードンをボールから出した。

 

「ライ」

「あ? なんだ?」

 

 リザードンの背に乗ろうとしたら影から出てきたダークライが何かを差し出してきた。

 受け取ってみるとそれは黒い菱形のクリスタル? でいいのだろうか…………?

 

「えっと………、これは?」

『ダークホールヲキョウカスルモノ』

 

 鬼火でゆらゆらとした炎に文字を浮かべ、説明をいれてきた。

 ダークホール、技を強化するアイテムか。

 これが、ね…………まさかな。

 

「分かったよ。お前がこんなものを出してくるということはすでにあの力のヤバさを感じ取ってるってことなんだよな。いいぜ、存分に使わせてもらう」

 

 リザードンに跨ると綺麗な光を放つ最終兵器を見据える。

 そこにはすでに到着していたジムリーダーたちの姿と、バラを含めたフレア団の姿があった。

 あれ? まだパキラは着いていないのか?

 それとも他にやることがあるというのはここではなかったということなのか?

 

「知るかってな。いくぞ、リザードン!」

 

 向かうは最終兵器の先端が向いている上空。

 もうここまできてしまったら中で起動を止める時間もないだろう。

 だからやはり最終手段を使うしかない。

 

「ヒキーー!!」

 

 はあ………、思い返せば中々に濃い一ヶ月だった。毎日が騒がしいし、問題ごとは次々とやってくる。

 だけどまあーーー

 

 ーーー少しは楽しかったかな。

 

 思い出が消えるのはいつものことだし、慣れてしまったが。

 どこかにこの一ヶ月を忘れたくないと思っている俺もいるみたいだ。

 ダメだな、だいぶあいつらに毒されちまった。

 でも………………、それでも。

 死しかない未来なんてごめんだ。

 生きていれば記憶もいつか戻ってくる。

 その時まであいつらには辛い思いをさせることになるが…………。

 

「リザードン、こいつらのことはお前に任せたぞ」

「………シャア」

 

 リザードンの首にモンスターボールを三つくくりつけていく。

 ゲッコウガとジュカインと、あとリザードンのと。

 

「ーーーきた」

 

 天高くまで昇ると地上では花が開き始めた。

 ふっ、来いよフラダリ。

 お前の計画なんざぶち壊してやる!

 

「それと、俺たちの回収も任せた! いくぞ、ダークライ!」

 

 リザードンに後のことは任せ、飛び降りた。

 やばい、スカイダイビングってめっちゃ怖い。

 最終兵器とかよりもこっちの方が怖いとか、なんかめっちゃやばい。

 語彙がなくなるくらいにはやばい。

 

「どう使うか知らねぇけど」

 

 ダークライからもらった黒いクリスタルを右手で花に向けて突き出す。

 

「技を強化ってんなら、やっぱ名前はこうだよな!」

 

 光を帯び始めたクリスタルが俺の隣にやってきたダークライと結び合っていく。

 力を注ぎ込んでいる、そんな印象である。

 

「ダークライ、ブラックホール!」

 

 さっき使った三倍増しのなんかとは比べものにもならない、巨大な黒い穴を作り出した。

 ちょうど花から撃ち出されたレーザーは黒い穴へと吸収されていく。

 爆風が生み出され、地上では建物や置物が舞い上がり、ひどい惨状になっていっている。

 しかもその爆風はセキタイだけにとどまる気配はなく、山を越え。カロスの半分くらいには影響が出たことだろう。

 ………しかし、なんというか、きつい。

 やはり最終兵器は生で受けるようなものではない。

 

「シャア!」

「コウガ!」

「カイ!」

 

 ちょっと脂汗をかいていると別方向から水と草と炎がレーザーを押し返そうと割り込んできた。

 あいつら…………。

 ブラストバーンにハイドロカノン、リーフストームか。ジュカインにもハードプラント覚えさせておけばよかったな。

 

「ダークライ、俺の全部を持っていけ!」

 

 もう何が何でもこれを吸い込んでしまう他ない。

 それが俺の役割なのだから。

 

「ラーイッ!」

 

 吸引機能が働き始めた。

 うわ、これマジモンのブラックホールだ。

 

「ぐぅ………」

 

 頭がいかれちまいそうだ。

 身体も軋むし…………。

 だが、ハルノさんは言っていた。俺は死なないと。

 多分あいつらを安心させるためにも必死に未来をかき集めていたのだろう。俺だけではない。おそらく全員分の未来を。

 だが自分のだけが何故か見えなかった。一番最初にでも見たのだろう。だからハヤマの脱走を機に俺にあんなことを言ってきた。別に何か考えがあったわけではなく、自分の役割を全うするための演出だったのかもしれない。

 それならそれでいい。

 あの人はこれでゆっくり休むことができる。いくら魔王といえど、こんな汚れ仕事をくれてやるわけにはいかない。

 

「うぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!?!!」

 

 あらん限りの気をクリスタルに送り込む。

 すると一気にレーザーの吸収を加速させ、全てを吸い取りやがった。

 

「終わっ、た……………」

 

 あー、もうダメだ。

 力がでない。

 顔は濡れてないけど力がでない。

 ふらふらと落ちているであろう俺の身体………とダークライもだな。すぐにリザードンが拾い上げてくれた。

 いやー、すまないねー。

 

「…………リザー……ドン………はあ、はあ……………あそ、この………高台、へ………はあ、はあ……………」

 

 一人、まだ接触しておかなければならない奴を見つけてしまった。

 まさかここにきているとはな。

 

「………お前も無茶をするな」

「はあ………はあ……………、生憎、これが…………俺の、やり方なんでね…………」

 

 降り立った高台にいたのはカントー地方マサラタウン出身、トキワジム現ジムリーダーの初代図鑑所有者、グリーンだった。

 

「ふん、それにしてもゼルネアスにイベルタルまで出てくるとは」

「………それに、関しちゃ………………俺だって、驚いてる、わ……………」

 

 いつの間にか地上ではゼルネアスとイベルタルの戦いとなり、ゼルネアスの方が身を引いてジムリーダーたちを連れて何処かへ飛び去っていった。

 パキラ、やはりきてたんだな。

 

「あいつらが…………戦っても、勝負はつかん……………ぐぅ………」

「勝負はつかない、か。ちがうな。勝負をつける方法はあるはずだ。X・Yにつづく、Z。そいつが本当にいるならば………!」

 

 ………なんだ、知ってたのか。

 それなら、これから先はこの人がどうにかしてくれるだろう。

 

「ヒキガヤ!?」

 

 げっ。

 忘れてた。

 なんで連れてきちゃったのエルレイド。

 

「後は、任せたぜ」

「回復したらお前も働け」

「ひどい、な………、俺、結構………頑張ったぞ」

「ふ、知ってるさ」

「そう、かよ…………んじゃ、な」

「ああ」

 

 リザードンに合図を送り再び飛ばせる。気づいたらジュカインはボールの中に戻っていた。自分でも俺の隠し球であることを理解しているんだろう。

 ゲッコウガはダークライを担ぎ、

 まずはエルレイドを回収しないとな。

 

「ヒキガヤ?!」

「………………」

「なんで………、なんで…………」

 

 おいおい、なんでいきなり泣きだすんだよ。

 怠すぎて喋るのすらキツイんだから俺どうすればいいんだよ。

 

「と、り、あえず………帰る、ぞ………」

「うん…………」

 

 メガニウムに乗ったサガミは小さく頷いてきた。

 声、ちゃんと出てたんだな。

 

「あんた、なんで、あんな…………」

「わかっ、た、だろ………………。これ、が、現実………だ」

「こんな、こんなのってないよ!」

「でも、現実だ………」

 

 どうやら半信半疑だったらしく、ここに来て実際にこの目にしようと考えてたみたいだな。

 だが、それはとても衝撃的なもので心が耐えかねているって感じか。

 

「あんたは………ずっと、こんな世界を、生きてきてたの……………?」

「あ、あ……」

「……………………怖く、ないの………?」

「怖、い………けど……………やる、しか、……ない。………だから、……はあ………、戦う」

 

 怖くないわけがないだろ。

 いつ命が狙われるかも分からん裏社会なんざ、ほんとは足を洗いたいくらいだっつの。

 でもしょうがないんだよ。

 それが俺の運命なんだから。

 

「……………ごめん、うちが、漏らさなかったら、こんなことにはなってなかったよね」

「…………過ぎた、ことだ……。はあ………はあ……………これが、俺の、運命………だ、から……………」

 

 ああ、もう無理だ。

 眠気とかいうより意識が薄らいできている。うとうとじゃなく、なんて表現すればいいかわからんが、もう無理。

 

「も、むり…………ねる」

「………うん」

 

 最後の最後に喋った相手がサガミになるとは。

 俺の意識はここで途切れた。

 目が覚めた俺よ。どうか心乱すなよ。




いよいよ最終章へ突入って感じですかね。
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