もえかが艦長を務める櫛名田は総理大臣の娘である小橋若葉の海外公務の為、公務地への送迎と護衛任務を行った。
しかし、その途中、カラケチル海峡にてラムとレムの双子のテロリストの襲撃を受け、共に護衛をしていた夷隅が落伍し、櫛名田は廃棄された海上プラントに追い込まれた。
廃棄された海上プラントで、櫛名田の電探は原因不明のノイズで使用不可となり、そこへテロリストの飛行船部隊が襲い掛かって来た。
しかもそれは最新型の飛行船で、ブリッジの部分が、切り離しが可能となり、ブリッジだけの時は攻撃型オートジャイロとなる構造になっていた。
電探が使用できず正確な射撃が出来ず、逃げるにも周囲が海上プラントの廃墟や瓦礫で櫛名田は思うように速度が出せない、まさに絶体絶命な状況に追い込まれていた。
もえかは先に哨戒へ出た海鳥に対して、妨害電波を出している発信源を叩くように命令を下す。
「とは言え、機長、この広い海域からどうやって電波妨害装置を発見するんですか?」
「‥‥」
園宮が機長である桜野にどうやってこの広い廃墟の名から目標物を探すのかと問う。
もしかしたら、妨害電波発生装置は複数あるかもしれない。
さまざまな憶測が桜野の中をめぐらす。
(そう言えばさっき‥‥)
桜野は先程、赤外線センサーが廃墟内で熱源らしきモノを捉えた事を思いだした。
敵の襲撃で忘れていたが、もしかして思い、
「園宮、さっき赤外線センサーで妙な熱源を捉えたところがあったでしょう?」
「は、はい」
「其処かもしれない」
「っ!?確かに、廃棄されたプラントなのに稼働している形跡がありましたものね」
「すぐに櫛名田に通信」
「了解」
海鳥から櫛名田へ通信が入る。
「海鳥より通信、『敵システムらしき痕跡を発見、これより当該海域へ向かう』です」
「そこに妨害電波発生装置があればいいんですが‥‥」
幸子が通信を聞いて海鳥が向かう先に妨害電波を発生させている装置があればと不安げに思う。
煙幕も永遠に続くわけでは無い。
出来れば煙幕が発生中に相手のオートジャイロの燃料が尽きてくれればいいのだが、どれくらいの燃料が残っているのかも不明。
こうして追い詰められているとマイナス思考が強くなる。
「今は、海鳥を信じよう」
しかし、もえかは海鳥を信じ、大人しく冷静に待つ。
「暖められた海水が冷たい海水へと流れ込み対流形成している‥‥確証はないけど、この流れを逆にたどれば敵システムを見つける事が出来るかもしれない」
赤外線センサーで暖流を見つけ、その流れとは逆に飛行する海鳥。
「櫛名田は現在、煙幕の中にいるみたいですが、長くはありません。櫛名田事態にも損傷が出ているみたいです」
「敵システムらしき構造物は発見次第攻撃し、破壊する。櫛名田がまだ戦っている内に‥‥」
「了解‥ありました!この先に高熱源を発する熱源ポイントを発見!!」
「よし、きっとそれだ!!熱源ポイントにマーカーを設定」
「了解、熱源ポイントにマーカーを設定します」
海鳥が確実に妨害電波を発生させている装置へと近づいている中、当然妨害電波発生装置に海鳥の接近はラムとレムの二人も気づいた。
「姉様、邪魔な鳥が電波塔に近づいています」
「それなら、撃ち落してあげなさい。五月蝿くさえずる鳥は落とし、焼いて、食べるのが常道よ」
「はい、姉様」
「機長、IRスキャンが妨害システムの熱源らしきモノを探知」
「よし、攻撃態勢にはいる」
桜野が爆弾のハッチを開きいつでも爆撃できるようにする。
すると、
「下方より噴進弾」
「っ!?」
下から海鳥目掛けて小型の噴進弾が近づいてくる。
「くっ‥‥敵もバカではなかったか‥‥」
大事な目と耳を潰す装置を無防備で置いてある筈が無く、周辺には対空防御陣地があった。
「よく見つけられましたね。でも、ちゃんとそう言う事は見越してあるんですよ」
レムは慌てる様子もなく、ポツリと呟く。
「機長、敵システムの本体の設定ポイントを特定。先程の高熱源マーカーから西に480m、南に640m‥‥あれです!!あの電波塔です!!」
「あれか‥‥」
海上プラントの廃墟の中にまるで溶け込む様に一本の電波塔が立っていた。
その電波塔及び周辺には色々な機械が取り付けられていた。
元々この廃墟にあった電波塔に妨害電波発生装置を取り付けたのだろう。
パット見ただけでは分からないようにカムフラージュされている。
攻撃したくても対空防御陣地があり、海鳥は攻撃できずにいた。
その頃、煙幕の中にいる櫛名田も敵のオートジャイロの攻撃を受けていた。
煙幕があろうとなかろうと、煙幕の中に確実に櫛名田は居るのだから、撃てば当たるかもしれにない。
煙幕を吹き飛ばせるという思いがあるのだろう。
更に櫛名田に当たらなくても降り注ぐ瓦礫が櫛名田にわずかながらもダメージを与える。
「敵、オートジャイロの攻撃により、後部甲板に損傷。ダメージは軽微」
「応急修理要員は損傷個所の確認と被害調査を急いで!!」
「煙幕もあと十分ほどで消えます」
オートジャイロの攻撃が周囲の瓦礫に当たり、その衝撃が櫛名田にも伝わり、船体は大きく揺れる。
「なかなか手ごわかったですが、よく頑張りました‥‥でも、この勝負、最初から私達の勝ちで決まっていたのよ」
ラムは既に勝利を確信していた。
一方、電波塔の防御を担当していたレムはイラついていた。
海鳥がなかなか撃墜出来なかったからだ。
「くっ、五月蝿い雀め!!さっさと墜ちろ!!」
その間も櫛名田を包む煙幕はだんだんと薄れて行き、時間が経つにつれ、ラムの言う通り、状況はラムたちに傾きつつある。
そんな中、櫛名田に近づきすぎたオートジャイロ一機が櫛名田のCIWSの餌食となる。
「ちっ、一機落とされた‥‥ド素人が‥‥でも、まだ奥の手はあるのよ」
ラムの方は余裕だが、レムの方はちょっと劣勢で、海鳥は対空防御の一瞬の隙を突き、電波塔に爆弾を投下する。
海鳥からの急降下爆撃を受けた電波塔は崩れ落ち、海へと落下する。
「あっ!!妨害システムが!!」
「大丈夫よ、レム、今更レーダーが使えたところで私の勝利に揺るぎないわ」
妨害電波発生装置が破壊され、レムは少々慌てるがラムは冷静に自分達の勝利は揺るぎないものであると、慌てるレムを落ち着かせるように言う。
海鳥が妨害電波発生装置を破壊した事で妨害電波が消えて櫛名田の電探の機能が回復した。
「電探回復!!敵オートジャイロを捕捉!!」
「海鳥がやってくたようです!!」
「うん‥これより反撃に移る!!各砲、ン式弾任意の目標に照準!!」
「あっ、新たにもう一機捕捉!!熱源を確認!!噴進弾を発射した模様!!」
「迎撃!!」
櫛名田のン式弾と主砲、使用可能なCIWSが一斉に火を噴き、迫りくる噴進弾及び敵のオートジャイロを次々と攻撃し、噴進弾、オートジャイロを撃墜していった。
「‥‥周辺に敵機影なし‥‥敵部隊全滅した模様」
「はぁ~‥‥終わった」
敵のオートジャイロを全て撃墜した事でやっと危機を乗り越えたと櫛名田の艦橋に安堵した空気が流れる。
敵部隊全滅の知らせは海鳥にも伝わる。
「機長、櫛名田周辺の敵影は全て無し、どうやら危機を脱した様です」
「はぁ~良かったぁ~‥‥」
桜野も櫛名田が無事な事に深いため息を漏らす。
しかし、そんな中、海鳥の対空電探が何かを捉える。
「ん?今、何か反応が‥‥」
「どうしました?機長?」
「今、対空電探に何か反応が‥‥ちょっと調べてみて」
「は、はい」
桜野に言われ、園宮は対空電探のモニターを見ると、時折、電探に反応がある。
「反応あり、やはり何かいます」
「高度は?」
「推定高度15000の高高度です」
「‥‥行ける所まで行くよ。櫛名田にも連絡」
「了解」
哨戒任務がある以上、その正体を確かめなえればならない。
もし、民間の飛行船が迷い込んできたのであれば、警告を送りこの空域から退避させなければならない。
敵ならば、その情報を詳しく櫛名田に通達しなければならない。
海鳥は全速で高度を上げる。
「15000の高高度に機影?」
「はい。海鳥からの連絡で、現在海鳥が高度を上げ、確認に向かっています」
とは言え、海鳥の速度、性能からして高度一万までにはいけないし、高度を上げるにしても時間もかかるだろう。
しかし、ここら辺の空域は飛行船の飛行禁止空域となっている。
そんな空域を飛行しているのはどう考えても民間の飛行客船とは思えない。
「‥‥念の為、噴進弾の発射用意」
「は、はい」
もえかは万が一の事を考え、噴進弾の発射準備を指示した。
その頃、15000の高高度にはドイツのツェッペリン級飛行船並みの巨大な飛行船が航行していた。
「カラスを追っ払ったぐらいで安心しているなんておめでたい連中ね」
オートジャイロ部隊を失い、妨害電波装置を壊されたにもかかわらず、ラムはまだ勝負を諦めていなかった。
「せいぜい、束の間の勝利を味わっているがいいわ。その間に死神は天高い大空から貴女たちの頭上から鎌を振り下ろすわ」
ラムは見下す様な目でパソコンのモニターを見ながらポツリと呟く。
空の果てを飛ぶ海鳥。
園宮と桜野念の為、酸素マスクを装着している。
「赤外線センサーで上空を探知」
「了解」
桜野はせめて機影を捉えようと赤外線センサーで上空の機影を探す。
すると、
「見つけました!!大型の飛行船です!!‥‥飛行船、高度を落としています!!」
上空の飛行船は高度を徐々に降ろして来た。
「チャンスだ!!このまま上昇を続ける」
「了解」
その頃、上空の飛行船では、
「艦長、此方に近づいてくる飛行物体があります」
「爆撃はこのまま続行する。各銃座は射撃体勢をとれ」
「ハッ!!」
海鳥は分厚い雲海を抜け、赤外線センサーで捉えた機影を目指して突き進む。
飛行船も徐々に高度を落とし、間もなく接敵する高度に達する。
そして、桜野と園宮の目に移ったのは巨大な飛行船だった。
「敵機捕捉!!」
「撃ち方始め!!」
飛行船の銃座からは機銃が海鳥に向けて襲い掛かってくる。
「くっ、やっぱり敵か!?櫛名田に通信」
「は、はい!!」
海鳥から上空の飛行船は敵だと櫛名田へ伝わり、もえかは海鳥へその空域からの退避を命じた。
櫛名田からの噴進弾が海鳥を敵と誤認してしまうかもしれないからだ。
「敵機が逃げて行きます」
「構うな!!フィーゼラー投下用意、ハッチを開け!!」
飛行船のブリッジより後方にある格納庫の床下部分のハッチが開かれる。
「爆撃手、ターゲットをよく確認しろ」
「ハッ」
爆撃手は照準器越しに櫛名田を確認し、
「目標を確認、捕捉」
「フィーゼラー投下用意‥‥投下!!」
飛行船の格納庫からフィーゼラーと呼ばれる誘導噴進弾が投下された。
一方、櫛名田も海鳥からの報告を受け、上空の飛行船が敵だと分かると海鳥を退避させ、用意していた噴進弾を発射する。
「対空電探に反応!!前方から高速飛行物体接近!!」
「二機いたの!?」
もえか、幸子は双眼鏡で確認する。
しかしそれは飛行船ではなく、その飛行船が放った噴進弾だった。
「右舷前方に敵噴進弾接近!!距離3800!!」
「電波妨害弾発射!!」
櫛名田からアルミ箔が詰まった特殊弾が櫛名田の周りに多数発射される。
チャフを撒いて、誘導装置を妨害しようとしたのだ。
「ダメです!!効果ありません!!」
しかし、相手の噴進弾は進路を変える事無く、櫛名田に突っ込んで来る。
「熱源放射弾を撃て!!」
続いて熱源を放つ特殊弾を討つ。
噴進弾は熱を探知して向かう性能があるからだ。
「これもダメです!!」
しかし、相手の噴進弾は熱源放射弾をスルーして接近して来る。
「どうあがいた所で、フィーゼラーからは逃れる事などできん」
飛行船の爆撃手は照準器越しに櫛名田の行為を笑う。
「防御手段、すべて効果がありません!!」
「煙幕弾発射!!取舵一杯!!」
櫛名田はもう一度、煙幕弾を撃ち、何とか相手の噴進弾を撒こうとする。
「無駄だ、無駄だ‥‥ハハハ‥‥」
噴進弾は煙幕の中を突っ切って櫛名田へと迫る。
「敵噴進弾は無線誘導の様です!!方向を変えて突っ込んできます!!回避は不可能!!」
「何かに掴まれ!!」
「迎撃!!」
「なんとしてでも撃ち落とせ!!」
櫛名田の主砲、CIWSが迎撃の為、射撃を開始するがオートジャイロよりも早い噴進弾を撃ち落とすのはあまりにも至難の技であった。
「命中まで‥‥」
「下方からミサイルが!!」
「なにっ!?」
その頃、飛行船にも櫛名田の噴進弾が近づいていた。
「回避!!」
「‥‥ダメです!!間に合いません!!」
櫛名田の噴進弾は飛行船の船底中央部に命中した。
無線誘導を行っていた飛行船が撃墜され、コントロールを失った敵噴進弾は櫛名田に命中する事なく、針路を変え、海へと墜落した。
「こちらの噴進弾の発射が少しでも遅れていたら、撃沈されていたのは此方でしたね」
「うん、そうだね」
海に落ちた噴進弾を見て、生きた心地がしないもえか達だった。
「くそっ」
その頃、用意した全ての罠を突破されたラムはパソコンを床に叩きつけ、
「二度も同じ艦にやられるなんて‥‥認めない‥‥認めないわよ!!」
ラムは更に追い打ちをかけるようにラムはパソコンが壊れているにもかかわらず、足蹴りをする。
レムも悔しい思いはあったが、ラムの様に表立ってそれを見せることはなかった。
波乱の航海ながらも櫛名田は無事に目的地へ若葉を届ける事が出来た。
そして、若葉が目的地に到着したその頃、日本では天童家に東京地検特捜部の家宅捜索が入り、天童家がこれまで行ってきた不正の数々が暴かれることとなった。
カラケチル海峡にて魚雷艇と戦い、撃沈された夷隅の乗員も近くを航行していた船舶の救助を受け、川崎も無事に救助された。
あの海峡が船舶の往来が多かった事が幸いした。
しかし、川崎達よもいの一番、自艦と多くの乗員を見捨てた相模たちを救助した船舶はおらず、彼女らは行方不明となった。
櫛名田は今回の航海で中破となり、少しの間、ドック入りとなり、帰りの護衛に関しては別の艦が手配されたが、復路は海賊・テロリストの襲撃はなく若葉は無事に日本へ帰国した。