ご要望にありましたヒトカゲ篇でこざいます。
7話目だけど、時系列的に0話にしました。
『ヒキガヤハチマン君。ポケモントレーナーにならんかね? 下記の日付にマサラタウンのオーキド研究所に来なさい。君にポケモンを渡そう』
俺がトレーナーズスクールの四年に上がって間もない春のこと。
こんな手紙が俺宛に来た。
どうして俺なのか。
どうして十一歳にもなっていない(何なら十歳にもなっていない)俺が、トレーナーになれるのだろうか。
こんなものは嘘だ。罠だ。スクールの奴らが偽造して俺を騙そうとしているだけだ。
この頃の俺はすでに周りから孤立していた。何かが悪いというわけではない。特に問題を起こしたなんてこともなければ、人に迷惑をかけたということもない。大人しく、教室の端で本を読みふけるただの一男子生徒。成績も悪くはないと思う。うちのクラス内だけで言えば上位にいるのは間違いない。五年生になれば、ポケモンをもらう生徒も出てくるため今まで溜め込んできた知識を実戦で学ぶ特別授業もあるが、まだ俺たちは知識だけをつけていく段階であるため、覚えれば済むような内容の現在では成績が悪いはずがない。唯一苦手な教科といえば体育だな。よくペアを組んで準備運動をさせられたり、ペアになってキャッチボール、ペアになって計測ととにかく何でもペアで行動させられるため、奇数人しかいないこのクラスでは毎回俺が取り残されることになるのだ。他のクラスとの合同授業なら何とか偶数になってペアはできるのだが、単クラスの授業では体育教師とペアになるしかないという拷問が待っている。だから、俺は体育が嫌いだ。
ちなみに合同授業で俺とペアを組んでいるザイモクザという男子生徒も俺と同じ犠牲者となっている。だが、仲間だとは思いたくない。
「どうしたもんか………」
ポケモンをただでくれるというところには魅力を感じる。しかもオーキド研究所とくればあのオーキド博士の研究所のことだ。そんなところから俺宛に手紙がくれば大喜びものである。だが、それを素直に受け取れないのが周りの環境に反発する俺の感情である。ある意味、あいつらのせいだな。人は信用できない。
とりあえず、自分の部屋にぽいっと放っておいた。
✳︎ ✳︎ ✳︎
それから一週間が経ち。
その間に、俺たちの学年では二人の男女がポケモンをもらったという話題で持ちきりだった。何でも男子の方がヒトカゲを、女子の方がワニノコをもらい、スクールで初バトルをしてくれちゃったばかりに、周りが大騒ぎしている。しかもそいつらは学年トップの成績を誇る双頭で話題性も群を抜いていた。有名人というのも大変だな。というかあいつらまだ十一歳になってないだろうが。なんで貰ってるんだよ。
俺はそんな奴らのことには目もくれず、トボトボと帰路につく。
観客ができるほどの賑わいを出して毎日毎日ポケモンバトルに勤しんでいるようだが、何が楽しいのやら。
バトルというものは別に人に見せるようなものでもない。そりゃ、コンテストとかに出るのであれば話は別だが、あれはあれで逆に魅せるものである。
しかし、今のあいつらときたら初めてもらった特にまだお互いによくも知りもしないポケモンを見世物のようにするのはどうかと思えてしまう。もう少しこうお互いを知ってから、ポケモンにトレーナーとして認めてもらい、それからバトルを見せてもいいと思うのだ。
人には人権だなんだと細かいことを抜かしているが、ポケモンにだって人権………もといポッ権がある。そこを忘れてはいけないんじゃないか。
「なんだかなー」
傾く太陽を見ながら人とポケモンの扱いの違いに遣る瀬無い気持ちになる。
確かにポケモンは不思議な生き物だ。人の言葉を理解し、人のような行動をとる。
なのに人ではない。あくまでポケモン。昔は怪獣や魔物と言われていたらしい。
それは人とは決定的な違いあるからだ。
人とは会話ができない。
ポケモン間では会話ができるみたいで、鳴き声が違っても通じるようだ。だがそれを人間は理解できない。
あれ? それじゃポケモンの方が上なんじゃね?
人の言葉を理解して、人以上の動きができて、技も出せる。
人間以上にできるじゃないか。
なのに、人間は依然としてポケモンより上の立場を取ろうとしてるわけか。事実、ポケモンを道具のように扱うロケット団なんてのもいるくらいだし。人にはない能力を有しているがために商品や道具として売買されているのが今の世界情勢である。まあ、今ではポケモン図鑑所有者によりロケット団は鎮静されたみたいだが。
「…………」
なんて考えていると、白衣を着た研究者らしき人たちがキョロキョロと辺りを見回していた。巻き込まれたくないので見なかった事にして横を通る。
「くそっ、あのヒトカゲどこまでいった!」
「分からん。だが、まだ近くにいるはずだ。ばらけて探すぞ!」
どうやらヒトカゲが逃げたらしい。
ヒトカゲとはほのおタイプのポケモンで、進化すればゆくゆくはリザードンというひこうタイプが追加されたポケモンへと変わる。また、育てやすいポケモンであるというところから人気は高い。
俺もそのうちポケモントレーナーになるんだろうけど、最初のポケモンを何にしようか迷っているところである。ヒトカゲやゼニガメ、フシギダネといった育てやすいポケモンを手にするか、扱いからして難しいギャラドスなどの上級者向けのポケモンにするか。俺としては最初から扱いにくいポケモンを育てていけば、他のポケモンを捕まえたとしてもそう簡単に苦を感じることはないだろうから、そっち方面でいきたい気もするんだが。
「………おい、お前。家の前で何してやがる」
ずっと考えながら歩いていたら、あっという間に家に着いた。
着いたのはいいのだが、家の前に何か倒れている。何かというかヒトカゲである。さっき研究者の人たちが探していた個体なのだろうか。
「……カッ?」
俺の声でようやく意識を取り戻したのか、体を起こした。そしてキョロキョロと辺りを見渡して肩を落とした。どうやら自分の居場所が分からなくなったらしい。
「おーい」
「カ、カゲェェェェ」
もう一度俺が声をかけると大きくジャンプして距離を取ると威嚇してきた。
よく見ると構える左腕に怪我がある。
「はあ………、そういうの見せないでくれると助かるんだけど」
こうね、怪我とかされてるとどうしても放っておけない。妹のコマチが結構活発的だから普段から怪我をしてないかどうしても目がいってしまうのだ。そのくせがヒトカゲにも発動してしまったらしく、見てしまったからには手当てしてやらねぇと後味が悪い。
「ほら、取り敢えずこっち来い」
玄関の方へと俺が歩いて行くと、後ろからすっごい凝視された。
「………怪我の手当てだよ。それが済んだら好きにすればいいから」
またキョロキョロと辺りを見たかと思うと、ようやく一歩うちの敷地内に入ってきた。
俺がドアを開けて中に入ると、ドアの前まで走ってくる。なんというか俺への警戒心を全て解いたわけではないようで一定の距離を保っているようだ。それでも近づいてくる所を見ると、怪我が気になるのだろう。
「ほら」
ドアを半開にして押さえておくと、隙間からさささっと入ってきた。
こうね、どんな人間にも尻尾を振るようなポケモンだとこういう時楽なんだが、このヒトカゲはちょっと癖が強そうである。
「キズぐすりとかあったっけ」
取り敢えず、中に入ったことを確認して母ちゃんが買い置きしているはずのキズぐすりの在り処を探し始める。
うちの親は二人とも働いていて割と社畜人生を歩んでいる。コマチがまだ小さいことを気にしているみたいだが、いかんせん社畜というものはどうにもできないらしい。
「お、発見。ヒトカゲ…………って、もうそろそろ警戒心解けよ」
壁から顔だけを出してこちらを覗いている。
もうさ、家の中に入ってきたんだから少しは警戒心といてくれよ。気持ちは分かるけどさ。全く知らない奴の家の中に入ったんだぞ。そら、警戒しない方がおかしいとは思うけど。
ポケモンってもっとこう人懐っこいもんだとばかり思っていたが、そういうわけでもないみたいだな。スクールでは先生たちのポケモンは生徒たちとも交流を持っていて接しやすいポケモンも多い。特にヒラツカ先生のカイリキーは男女ともに人気が高い。だからポケモンは人間とは違い、人懐っこいもんだと思っていたけど、こうしてみると人とかポケモンとか言う前に感情を持つ生き物なんだということを改めて思い知らされる。
「ほれ、こういうの見たことないか?」
「カァッ」
キズぐすりのパッケージを見せてみたが、全く警戒心を解こうとしない。なのにフラフラとこちらにはやってくる。
なんなのこいつ。バカなの?
「…………」
「シャアッ」
「…………」
「シャアアア」
「…………」
「シャア……………」
じっと見続けていたら諦めたようだ。
警戒心を解いて俺の前にトボトボとやってきた。
ったく、意地っ張りな奴だな。
「腕、見せてみろ」
俺がそう言うとおずおずと左腕を差し出してきた。
「何をやったらこうなるんだよ」
骨を折ったわけではなさそうだが、擦りむき方が結構ひどいことになっている。
「ちょっと沁みるかもしれんが我慢しろよ」
「カァッ!」
キズぐすりをちょんと垂らすと沁みたらしく、体がブルブルと震えだした。
俺たちみたいな反応を示すヒトカゲの頭を撫でながら続きをやっていく。以前コマチが怪我をして帰ってきた時もこんな感じだった。
「やー、やっぱすげぇなこのキズぐすり。ポケモンの細胞ってのはどうなってんだよ。全くもって不思議だ」
ポケモンはキズぐすりを使うとたちまち傷が塞がっていき、元通りになってしまう。人間だったら時間をかけてカサブタができて、剥がれるとようやく治っているって感じだが、ポケモンはまさに一瞬である。
こういうところも人間とポケモンの大きな違いなのかもしれない。沁みるのはどちらも苦手なようだが。
「で、お前はどこの誰なんだ?」
「シャアァァァ」
「おい、今の大人しさはどこへ行った」
「…………カァ、カゲカゲ、カァ」
「全く分からん」
「カァ…………」
ですよねー、って顔するなよ。
「あ、今のは分かったわ」
「シャア…………」
何故か二度も溜息を疲れてしまった。
まあ通じないのが悪いんだもんな。
「うーん、どうしたもんか」
うーん、と二人して唸りを上げる。
腕を組むポーズまで一緒とか何なのこいつ。
「………そういや、さっき帰ってくる時に白衣を着た研究者たちがヒトカゲを探してたんだが、それとは関係あるのか?」
帰り道のことを思い出したので聞いてみると部屋の端の方までサササッと逃げて行った。
どうやら関係があるみたいだな。となると図らずして俺はあの人たちに巻き込まれてしまったのか。巻き込まれないようにそそくさと帰ってきたというのに。
「お前、文字かけたりできないよなー」
「カゲ………………」
うーん、とまたしても考え込んでいると
「カァッ」
とヒトカゲ何を思いついたようだ。
何をするのか分からんが取り敢えず様子を見ることにする。
「カーゲッ」
ヒトカゲは火の玉を作り出すとそこに文字が浮かび始めた。
え? 何その技術。お前、そんなことできるの。というかポケモンってどうにかして人間と会話できるようになってんじゃん。
やべぇ、ポケモンすげぇ。
「えーっと、『どこかは分からないけど、初心者トレーナー用に育てられていた。だけど、昨日人間の大人たちが俺たちを研究材料にしようとしてきたので逃げてきた」…………逃げたのかよ。それで家の前で倒れてたのか……………。え? なに? お前、腹とか減ってたりするわけ?」
「シャアッ!」
「おい、そういうところは素直なのかよ」
調子のいい奴だな。
そうは言ったけどヒトカゲが食えそうなもんって…………なんかあったっけ?
「お前の好きなもんとかは? この家にあったらの話だけど」
ポッと出してきたのはオレンの実。
無難だな。それならあったんじゃね?
「ちょっと探してみるわ」
ソファーから立ち上がり台所の方へ行くと台に乗って上の方にある戸棚を開ける。
あるとしたらここにあるはず。
それにしてもあの白衣の研究者たちはヒトカゲを研究所送りにするつもりだったのだろうか。それならばどこの研究所だ? 俺が知ってるのなんてオーキド研究所くらいだぞ。けど、そこは違うだろうな。あんな手紙を…………そういや手紙来てたな。うーん、保護してもらう?
「お、あったあった」
オレンの実が結構な量で置いてあった。いつの間にこんなに大量買いしたのやら。
幾つか取り出して、ペタペタとやってきたヒトカゲに投げるとそのまま口で受け止めた。お前はサーカスにでも入る気かよ。
「で、お前はこれからどうするんだ?」
「カァ?」
「うん、悪かった。俺が悪かったから。そのまま気がすむまで食べててください」
だからそんなに睨まないで。
睨んだ時の目つきが超怖いんだけど。
「ただいまー」
あ、コマチが帰ってきた。
さて、困ったぞ。この状況をどう説明したもんやら。
「お兄ちゃーん?」
「おー、おかえりー」
考えてる暇も与えてはくれない我が妹。
床を鳴らしてリビングへと入ってきた。
「およ、お客さんがいる」
「招かれざる、がつくけどな」
ヒトカゲを見てお客さんはないだろ。
「………捕まえたの?!」
「いや、帰ってきたら家の前で倒れてたから。怪我もしてたし取り敢えず連れてきた。で、腹が減ったらしく集られた」
「ほえー」
ありのままに説明するとコマチはヒトカゲに寄っていった。
「あんま近づかん方がいいぞ。警戒心旺盛だし」
「え? 何か言った?」
「お前、ほんと調子いいな。ムカつくわー」
さっきはあんなに警戒心を剥き出しにしてたのに、なんでコマチには自分から頭を差し出すんだよ。何なの、この扱いの差。ヒトカゲのくせに。ヒトカゲのくせに!
「お兄ちゃんが怖いんじゃない?」
「その割には食いもんを集ってたけど?」
「うーん、そういう懐き方もあるのかもね」
「やだよ、そんなの。そもそも懐いてるのか、それ」
「愛にもいろんな愛があるし」
「もらっても嬉しくないな」
取りあえずヒトカゲの相手はコマチに任せることにした。
✳︎ ✳︎ ✳︎
六時か。
そろそろ晩飯の用意でもするかね。
そう思って読んでいた本を閉じるとコマチたちが床で寝ていた。
お前ら………。
「ただいまー」
あれま、今日はなんてお早いことで。
母ちゃんが珍しく帰ってきたではないか。いつもならもっと遅いのに。
「おー、お帰りー」
「あれ? あんただけ? コマチは?」
「あっち」
リビングから出て出迎えるとコマチの心配をしてきた。まあ、こうも早いとコマチが駆け寄ってくるはずだもんな。
「……ヒトカゲ?」
「俺が帰ってきたら家の前で食い倒れてた」
「ああ、そう」
へーっといった感じでコマチと寝ているヒトカゲを廊下から覗く。
「野生なの?」
「いや、どっかの研究所で初心者トレーナー用に育てられていたらしい。けど、研究目的の方に移されそうになったから逃げ出してきたんだとか」
「よく分かったわね」
「ポケモンってのは人間と上手くコミュニケーションができるように進化してるみたいだわ」
ポケモンの凄さを目の当たりにしたことを言うと「へー」とあまり関心を示さなかった。
「あいつ、どうしようか」
「どうって、あんたが拾ったんだから、あんたが育てたら?」
「え? やだよ、いつ研究所の大人に狙われるか分からんのに。で、考えたんだけど、オーキド研究所に預けらんねーかなって」
だって、元々はあの白衣の男たちのところのだろ。勝手に連れてたら捕まるだろうし、変なことに巻き込まれないとも限らんだろ。
だからやおおあ預けるのが一番いいと思うわけよ。
「あんたの口からオーキド研究所が出てくるとは思わなかったわ。何かあったの?」
「これ」
母ちゃんが帰ってきたら調べてもらおうと部屋に放り投げておいた手紙を差し出す。
「手紙………? 差出人はオーキドユキナリ………ってオーキド博士!?」
「そう、嘘かもしれんが」
「あんたも随分と捻くれてきたわね」
「なあ、そこに書いてある番号がオーキド研究所のもので合ってるのか?」
「ちょっと調べてみるわ」
そう言うと母ちゃんは電話帳か何かを探しに行った。
しばらくしてようやく戻ってきた。
「合ってるみたいよ。なら電話しとく?」
「おう、任せる」
人とのコミュニケーションを上手く取れない俺が電話とかハードル高すぎるって。
電話をかけにいってから三十分。
俺はその間に飯の用意をして待っていた。
連絡するだけで何をそんなに時間をかけているのだろうか。
「後で、レッドって人が来るみたいよ?」
ようやく戻ってきたかと思う今度は有名人の名前を出してきた。
「はっ? レッド? マサラタウンの?」
「有名なの?」
「いやいや、超有名だから。あ、でもそれなら安心か。変装でもしてない限り、顔バレしてるから見間違えることはない。すなわち危険度もない」
逆に知らない方がおかしくね? レッドだよ、レッド。ポケモンリーグの優勝者だよ。超のつく有名人だよ。
「無駄に用心深いわね」
「大人は信用できんからな」
下手に知らない大人が来るよりはレッドさんがきてくれた方が断然いい。
それからコマチを起こして飯を食ってるとチャイムが鳴った。
「はいはーい」
「こんばんわー、オーキド博士に頼まれてきたんですけど」
この声はレッド、のはず。
「ごめんなさい。お手数おかけして。それにしても若い子ね。有名人って聞いたんだけど」
「いやー、それほどでも………」
テレテレとしているのはまさしくあのレッドだった。
「取りあえず、ヒトカゲを」
「うん、確かに。それにしても何の研究に回されそうになったんだろ」
うーんと考える彼はあまり強者という風格を感じられなかった。なんというか物腰が柔らかい。
「にしてもヒトカゲか。懐かしいな。あいつのヒトカゲだった頃を思い出すよ」
「あいつ?」
「ああ、オレの幼馴染なんだけど、そいつがリザードンを連れててさ。ヒトカゲの頃から知ってるんだ」
リザードンか。
有無を言わせないかっこよさがあるよな。
「それじゃ、オーキド博士のところで責任を持って育てますから」
「お願いします」
「カゲ」
レッドの腕の中にいるヒトカゲが手を伸ばしてきた。
「取りあえず、安全であるのは確かだ。ここにいるよりはいいと思うぞ」
「カゲェ」
握り返してそう言うと少し寂しそうな顔を浮かべる。
なんだかんだで心を開いてくれたのだろうか。
「では」
そう言って、レッドはプテラに捕まり何処かへ飛んで行った。
「来週、オーキド研究所へ行くわよ」
「はっ? 何いきなり」
「博士が言ってたわ。あんたにポケモンを渡したいって。それで手紙を出したって。もう決定事項だから」
「マジかよ」
こうして俺はオーキド研究所へ行くことになってしまった。
嫌な予感しかしない。
✳︎ ✳︎ ✳︎
そして、オーキド研究所へ行く当日。
母ちゃんは休日出勤することなく準備をしていた。
コマチは遊びに行くようでついてこないらしい。
「さあ、行くわよ」
「はあ…………」
ヒトカゲを引き取ってくれたお礼も兼ねて行くんだとか。
ほんと嫌な予感しかしない。
母ちゃんに連れられて指定の場所に行くとバスが来ていた。それに乗り込み揺らされること数時間。何時間経ったのかは全く覚えていない。途中から風景が同じで体内時計が狂ってしまった。
「ほんとに何もない」
ついたところは同じカントー地方とは思えない田舎だった。
見渡す限り野原である。
何もない。
「みなさん、よく来てくれましたな」
出迎えてくれたのは今回の主催者、オーキド博士だった。
どうやら俺たち以外にもいくつかの親子連れが招かれたらしい。
「……………」
いるね。これ絶対いるね。というか見てるよね。
「では子供さんはこちらに。お母様方はこちらにおねがします」
母ちゃん達は助手だと思われる人に連れて行かれた。どうやら別室で話でもあるらしい。
「さて、行こうか。ついてきなさい」
オーキド博士に連れられて施設の方へ行くとポケモンが結構いた。
「すいません! 博士! ニドキングがいきなり暴れ始めました!」
何て思ってたら、白衣を着た女性が切羽詰まったような顔で駆け寄ってきた。
「なんだと? レッドやグリーンは」
「今は他へ出向いていて不在です!」
「すまんの、君たち。ちょっと待っておってくれ」
そう言って博士は女性と何処かへ行ってしまったが、残された俺たちはどうすればいいのかさっぱり分からない。
多分、周りは俺よりも上の奴らだろう。落ち着いているわけではないが、置いてあるモンスターボールに触ろうとまではしていない。
「カゲ」
「よう、久しぶりだな」
服の裾を引っ張られたのでそちらを見やると案の定ヒトカゲがいた。
「カゲカゲ」
「あ? マジで?」
どうやら博士の後を追えと言っているらしい。追ってどうしろと言うんだよ。
「あ、ちょ、まっ」
迷っているとヒトカゲに引っ張られて後を強制的に追わされた。
え? 何こいつ。すげぇ力で振りほどけないんだけど。
「カゲカゲカゲ」
事件の場所に着くと、中がめちゃくちゃにされていた。犯人はニドキング。何があったっていうんだ?
「おい、待てって」
「カーゲッ」
いつかの火の玉を作り出し、何かメッセージを送ってくる。
「『かえんほうしゃ、メタルクロー、かみつく、えんまく、おにび』………あ、これおにびか」
要するに自分を使ってニドキングをどうにしろとのことらしい。分かりにくいわ。技を教えるならついでにそこも言えよ。
「バトルなんて初めてだからお前を使いこなせるか分からんぞ」
「カゲッ」
「あーもう、分かったよ。まずはえんまくだ」
「カーゲッ」
黒い煙を口から吐き、部屋の中を埋め尽くす。
「な、なんだいきなり」
「博士、下がっててください。どうもヒトカゲがやりたいようなんでちょっと使わせてもらいます」
「君は、ハチマンだったな。そうかヒトカゲか。やはり君を選んだか。ガルっち、ここは少し様子を見よう」
「ヒトカゲ、おにび!」
火の玉を作りだし、ゆらゆらと煙の中を移動させる。バトルとか全くやり方を知らんが、技自体は習ったものばかりだ。やってみるしかない。
「かえんほうしゃ!」
確か、ニドキングの体は毒が廻っているんだとか。触ると毒にかかる恐れもある。ならば離れたところから攻撃するのがベストだろう。
「おにびで気をひいて遠距離からの攻撃か。………いい運びだ」
「ヒトカゲくるぞ! メタルクローで弾け!」
爪を立てるとこっちに気がつき、腕を振り上げて迫ってくるニドキングを待ち構える。アニメとかでは攻撃を剣で弾くシーンとかもよくあるし、できなくはないだろう。
「今だ!」
どくづきと思われるパンチを竜の爪で弾こうとするが、やはりタイミングだけの問題ではなかったらしい。
ーーーヒトカゲの腕っ節じゃ足りない。
「カゲェ!?」
力任せに打ち付けられたヒトカゲはバウンドして俺の前にまで帰ってきた。
どうする、出しゃばったものの何か策があるわけでもない。
しかも俺初バトルだし。
「カーゲッ!」
え?
何この白い光。
「し、進化じゃと!?」
下がって見ていた博士がそんなことを口にした。
これが進化。
初めて見た。
綺麗というかなんというか。
神秘的である。
「リザード………」
これなら、いけるかもしれない。
「もう一度くるぞ!」
弾いた後はどうしようか。
何か、何かないのか?
「っ!?」
あった。
「今だ、弾け!」
今度は上手く攻撃を弾くことができたみたいだ。進化するとここまで変わるのか。ポケモンってマジですげぇわ。
「ヤドン、コイル。力を貸してくれ。みずでっぽう、でんきショック!」
ニドキングから逃げるように部屋の片隅に避難していたヤドンとコイルに命令を出してみる。聞いてくれるかは知らんが取りあえず、だ。
「ヤー」
「ジー」
どうやら聞いてくれたらしい。
これならあのデカブツもなんとかできるだろう。
「リザード、かえんほうしゃ!」
ちょうど一週間前、読んでいた本に水を電気で分解して炎を撒き散らすと爆発が起きるというシーンがあった。
原理は知らんが、やってみたら本当に爆発した。
ニドキングは爆発に巻き込まれて気絶している。
「ハチマン、君は一体………」
「はあ……はあ…………、きつ………」
博士が何か言ってたが疲れてよく聞こえなかった。
✳︎ ✳︎ ✳︎
「いやー、済まなかったね。では今日の本題。君たちはどのポケモンを選ぶのかな?」
戻ってみると一人の女の子がみんなを纏めていた。
力ではなく空気がすでにそういう風にさせていた。なんてすごい子なんだ………。ほんわかしてるのに。名前はメグリとか言うらしい。知らんわ。
「……で、君は誰にするかね」
女性に任せて俺の方へと博士がやってくる。
「誰って、俺に選ぶ権利ないでしょ。あっちから選んできたんだし」
「そのようじゃな」
俺の横ではリザードが居座っている。
はあ…………やっぱりこうなったか。
「じゃが、そのヒトカゲはまだお前さんのポケモンになったわけじゃないぞ」
「え? どゆこと?」
「このヒトカゲは元々ボールに入ってなかったからの。あっちのポケモンたちみたいにボールがないからまだ君のポケモンになったわけじゃない」
「マジかよ」
「ポケモンを貸すからバトルしてみないかえ?」
「いや、どうやらこいつは俺と一対一でやりたいみたいっすよ」
俺を自分のものにしたくば、自らゲットしろというのがこいつの言い分らしい。火の玉でそんなことを言っている。
「ほれ、これがモンスターボールじゃ」
「はあ………、んじゃちょっと行ってきます」
「うむ」
そう言って、リザードを連れて表に出た。
外は何もないから暴れるにはいい場所である。
「さて、お前が何を企んでるのかは知らんが、そこまで言われたら意地でもお前をゲットしてやるよ」
風で運ばれてきた木の棒を手にとってリザードと対峙する。まさかバトルをした後で、ポケモンとバトルすることになるとは………。今日は初めてづくしだな。
「シャアッ!」
ますはかえんほうしゃで俺を丸焦げにしようと思ったらしい。俺は横にずれて炎を躱し、突っ込んでいく。
突っ込んでくるのならと、今度は爪を立てて構えをとってきた。
「ふんっ」
木の棒を振り下ろすと、爪で受け止められた。
そりゃ、さっきニドキングの腕を弾いたしね。
「おっと、あぶなっ」
俺を切り裂こうともう一方の腕で振り回してくる。
俺は後ろに下がって距離を取ると、リザードが逃すまいとかえんほうしゃで木の棒を焼いてきた。火がまだ残っているためそのまま棒を投げてやると、爪で切り刻まれてしまう。そしてジャンプして口を大きく開いて突進してきた。
「かみつくか。なら」
あっちから突っ込んできてくれるようなのでボールを投げてみた。ボールは開いた口の中に入り、リザードはボールの中に入っていった。
「はっ? マジで? そりゃないだろ」
揺れに揺れてカチッとなってしまったのを確認して、ボールからリザードを出す。
ふふんっとしてやったりの顔を浮かべていた。
「お前、俺の意気込み返せよ。もう少しやり合うつもりだったのに。何あっさり入ってるんだよ」
なんか腹立つわー。
あんなに俺を警戒してたくせに、一週間も経てば簡単にボールに入っちゃうとか何なんだよ。
「おお、どうやら上手くいったようじゃな」
「上手くというか、こいつに嵌められた感が半端ないっすけどね」
「ポケモンの方からトレーナーを選ぶのは珍しいことじゃ。お前さんはトレーナーとして誇ってもいいと思うぞ」
「そんなもんっすかね」
リザードの頭を撫でながらそう返した。
なんだかんだで結局俺のところに戻ってきたヒトカゲ改めリザード。
やっぱり予感は当たってしまったようだ。
「はあ………まあその……なんだ? これからよろしくな」
「シャアッ」
ちなみにあのほんわかしたメグリって子はフシギダネの雌をもらっていた。どうでもいいな。
行間
手持ち
ヒキガヤハチマン
・リザード(ヒトカゲ→リザード) ♂
覚えてる技:かえんほうしゃ、メタルクロー、かみつく、えんまく、おにび
同級生の女子
・ワニノコ ♂
同級生の男子
・ヒトカゲ ♂
メグリというほんわかした女の子
・フシギダネ ♀