気まずい。
ライブラのソファに腰掛けているザップ・レンフロはそう思う。
というのも、先刻から誰も口を開こうとしないのだ。
皆が皆、ザップを見て口を開こうとするが、すぐに閉じてしまうのである。それはあのクラウスでさえも同様に、……いや。
クラウス以外の彼らは呆れていたが、彼だけは掛ける言葉が見つからないとでもいうように所在無さげにしていた。
流石はクラウス・V・ラインヘルツである。こんなクズにも気遣いを忘れないとは。
とは、いつだったか、我らが氷の副官に報告書を溜め込んでいたザップがソファと氷とで一体化し、腕と顔だけは自由にして頂いた時の、同じく、我らが氷の副官からザップが賜った言だ。
その時、恨みがましく呪いの言葉を吐きながら机に向かっていたザップに、クラウスが気遣いの言葉とギルベルト手ずからの温かい紅茶を用意したのだ。それを見て我らが氷の副官……こと、スティーブン・A・スターフェイズは笑顔でそう仰った。
ザップからすれば、いい加減氷を解かしてほしいし、クラウスは優しさを少し……いや、大分履き違えている気がする。まずこの状況を見たらこの束縛を解こうとするのが優しさではないのかと。
……まぁ、解いた瞬間逃げ出すのが目に見えているからだろうが。
というより、番頭が旦那に何かしら吹き込んだのだろうが。
と恨みが増しく思ったものだ、あの時は。
と、そんなかつてのことを考えていた渦中の人、ザップはいつもの軽口を叩くようなことも無しに、彼らよりも幾ばくか弱りきった顔をして気まずそうに座っていた。
「……」
「…………」
「………………」
「……………………」
「…………………………」
・・・。
誰も何も言わない。
メンバーの本心は呆れているか、これからのことを憂いているか、そのどちらかだろう。
____と、
「……ザップ」
「……う、うす」
ぽつり、とザップの名前を呼んだのはスティーブンであった。
ザップは思わず、来た、と身構えた。
しかし、
「……」
「…………」
「…………はぁ、」
あろうことか、スティーブンはため息をついてまた黙ってしまった。
そこで黙るなよ、と思ったザップだったが、相手が相手なだけに口をつぐんだ。
これはもう、自分が言うしかないということか。
「……あ、あのぉ、」
「……わかってる。今考えてるんだ、口を出すな」
「……はい」
怒られてしまった。
弁明すらいらないということか。
「……ザップ」
「は、はい」
考えがまとまったのか再びザップを呼ぶスティーブンに思わず敬語。加えて、背筋もピンっと伸ばした。条件反射である。
スティーブンはケータイをカコカコといじりながらため息混じりに
「……とりあえず、暫くはそのままだ」
と言った。
これがザップレンフロの体が女になってしまった1日目のことである。