見て頂けている方、お久し振りです。
更新するのはいつぶりでしょうか。亀更新すぎて自分でもびっくりです。
更新が不定期ですが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。
「今回の任務は尾行、及び身辺調査だ。」
「はぁ」
「対象は、こいつだ」
ぽいっと投げられたのは男の写真と、男の情報であった。
「えーと、……アンディー・ミラー?」
「そうだ」
金髪に黒縁眼鏡。
目元には隈があり、頬も痩せこけている。人相が悪いのも手伝って、一目見ると堅気には見えない。
「なんすか?ソッチの人すか?」
「いんや、全然」
「ふーん……あ、ほんとだ」
パラパラと捲っていくと、確かに男の経歴はクリーンなものだった。両親は共働き。勿論、クリーンな会社で。アンディーもスクールを出てそのままクリーンな会社に就職。その後結婚し、子宝にも恵まれている。
しかし、
「こっから、変すね」
「あぁ」
アンディーの経歴がおかしくなっていったのは、7年前からだ。
7年前、彼は子供と妻を事故で亡くしている。生きていれば子供は青年になろうかという年であった。
それからの経歴が、会社を辞めたり暴力沙汰でしょっぴかれたり、その後もなけなしの金がなくなると生活にドンづまり、終には盗みに手を出し警察から逃げる毎日だという。
「けど、こんくらいじゃよくある話じゃないっすか?」
「そうだな。……けど、問題はその後だ」
「あと?」
スティーブンの言葉にザップが資料を目で追うと、あぁ。……あった。明らかにおかしな箇所が。
「これっすか」
「それだ」
「確かに、羽振りがめっちゃいいっすね」
「あぁ。それに、オトモダチもふえたようだしな」
ニィ、とスティーブンが口元を釣り上げた。ザップも同意する。
……しかし。
ふと、違和感を覚える。
「じゃあ、話はこれくらいにして、……真面目に働くんだぞ、ザップ?」
それも、スティーブンの一言で霧散した。
____
「はーっ、食った食った〜」
喫茶店のドアを開けたザップは、そのまま歩いて行く。
飯の後は宿だ。
スティーブンに渡されたメモにはここらへんの宿を予約してあると書いてあった。
「えー、……サングリア?ってとこか」
メモに書かれた地図にはこの近辺と記されている『ホテル・サングリア』。
その地図通り、しばらく歩いていると歩道に植えてある木から飛び出すようにして1本の背高い建物が見えた。
「あぁ、あそこか」
見上げてみると、ヘルサレムズロットのビル群に見慣れているせいだろうか。そこまで高くは感じない。しかし、周りが背の低い家屋に囲まれているせいで遠くから見ると、このビルだけ突きぬけて高く感じる。
真っ白いビルに黒く『Sangría』と書かれている。どうやらここであっているようだ。
「ここだな」
ここ『ホテル・サングリア』に、アンディー・ミラーが働いているのだ。従業員として。
「わざわざこんな目立つとこで働いてるとはな」
まぁ、何か理由があるのだろう。ザップの知るところではないが。
「さーて、んじゃそのツラ拝んでやりますか」
落ち葉一つない綺麗に掃除されたロータリーを進み、ザップは無駄に大きい自動ドアをくぐった。
中へ足を踏み入れると、思ったよりも高い天井に清潔感のある内装。どうやら宿泊代は高そうだ。これも給料から天引きだろうか。
うげ、とザップは苦い顔をするが、とりあえず泊まらないと後が怖いので受付嬢に声をかける。
「すんません、予約したんですけど」
「はい。お名前をお伺いしても宜しいでしょうか?」
「えー、スティーブン・A・スターフェイズです」
「スターフェイズ様ですね」
少々お待ちくださいと言われたのでそのまま待つ。傍にパンフレットが置いてあったのでパンフレットを見て待つ振りをしながら受付嬢を盗み見する。
……かわいい。
ザップが今こんなでなければ口説いたであろう可愛さだ。声も可愛い。胸もそこそこ。まつげも長い。唇も____
「お待たせしました。ザップ・レンフロ様ですね。只今ご案内いたします」
「あぁ、はい……」
「では、彼がお荷物をお持ちいたします」
彼?
すっ、と出てきたのは細身で長身の男。金髪だ。
口元がやや上がるだけで、ホテルの従業員にしては愛想のない男だ。
それどころか目元にメイクで隠しきれない隈があり、頬は痩せこけ、はっきりいって口元が上がっているのが逆効果だ。
そしてその細身を包んでいるスーツについている名札には
〈アンディー・ミラー〉
ザップはにやりと気づかれないよう、にやりと笑った。
「それではレンフロ様、お荷物をお持ちいたします」
しかしそれはおくびにも出さず、お願いしマースと荷物を差し出した。
「ではこちらに」
「へーい」
アンディーがくるりと背中を向ける。
縦に長い背中は意外にも姿勢が良かった。……一応ホテルマンだからだろうか。顔色と人相は悪いが。と大変失礼なことを考えていた。
ザップはその背中について行く。女の身体だと歩幅が違うので歩くのにいつもより労力を使った。
豪勢なエレベーターの扉がボタンを押した瞬間、チンと音を立てて開く。おぉ、待ち時間ゼロ。
そんなに客がいないのかと疑ってしまった。余計なお世話だ。
「どうぞ」
促されてエレベーターに入ると、扉と反対側に大きな鏡があった。
なんとはなしにそれを見ていると、やはり自分の背の高さに違和感を感じた。
普段であればアンディーと同じくらいだろうに、今のザップはそれより幾分か、……いや、頭一つ分くらいは違うだろう。
男として、なんとなく悔しい。
そうこうしてる間に、エレベーターがチンと音を立てて止まった。4階。
アンディーがボタンを押し、どうぞ。と控えめに降りるよう促された。
ザップが降りるとアンディーはエレベーターのボタンから手を離して降りてきた。目の前に部屋が連なる。ルーム番号は全て金の文字で書かれている。
それを見ながらアンディーについていくと、一番端の部屋で止まった。
「こちらでございます」
300号室。
アンディーが鍵を開ける。
向かって右にユニットバスがあり、レストルームは別だ。部屋はベットが1つ。だいぶ大きい。それにふかふかしている。おぉ、と思わず声を出してしまう。中は思ったよりも広い。アンディーが我がホテルのベットはうんちゃらーと言っていたがよくわからなかった。
「荷物はこちらに置いておきます」
「あーはい。あざっす」
「それでは、何かありましたらフロントまで」
ひとしきり説明らしきものが終わると、アンディーはトスっと荷物を置いていってしまった。
なんとも素っ気ない。終始一貫してニコリともしなかった。いや、してもなんというか、恐ろしいだけだが。
まぁいいか。
ザップは大して気にせずに荷解きを始めた。明日には部屋が足の踏み場がなくなっていることだろう。
「さぁて、どっから始めっかな」
ザップは唇を舐めた。