スティーブンさん少し(?)出てきます
とりあえずは情報収集だな。
荷物の中から必要なものを出しながらうんと頷いた……のはいいが、問題がある。
今のザップは男の姿ではない。
いつもはそこらへんにいるカワイイ女の子を引っ掛けてオタノシミながら情報収集できたのだが、今はそんなことも出来ない。万一出来たとしても女の身体だし、スティーブンからも釘を刺されている。
つまり、今のザップには地道に情報を集めるしかない。
うーん、どうしたものかとザップは首をひねった。
だって普段はあんまり地道にとかやらない。苦手なのだ。
「ん?そういやここって……」
ふと思いつき、ザップはぺらりと何かを取り出す。
パンフレットだ。
受付で見ていた(振りをしていた)ものである。
ザップはそれをパラリと捲り、端から端まで目を通していく。そして、ぴたりとある1点で目を止めた。
____『8F ラウンジ』
ザップはニッと口の端をあげた。
「よっしゃ、決まりだな」
もう用はないというようにパンフレットを投げ捨ててザップは部屋の扉を開いてエレベーターに乗った。
ポーン
軽い音がしてエレベーターの扉が開く。
まず目に入ったのは薄暗い照明に照らされたシャンデリアだった。角度によって様々な光り方を見せるそれの下をザップは歩いて行った。
まだ夕方だからだろうか。人はあまりいなかった。
ザップは適当に席を見つけて座った。と同時に影が差す。ぱっと顔をあげると、中年くらいであろうか。髭を生やした細身のバーテンダーが目の前にいた。なんだかいけすかねぇ、とザップは直感的に思った。だって、なんか番頭っぽい。
「何にいたしましょうか」
やけに流し目で見られる。オイ、イラっとするからやめろ。キモい。
必然的にザップの対応がおざなりになる。
「あー、……ハイボール、ロックで」
「かしこまりました」
ザップが言い終わると、バーテンダーはにっこりとスティーブンに似た胡散臭そーな笑顔で去っていった。バーテンダーが居なくなってからうげ、と顔を歪める。嫌なことを思い出してしまった。先ほどの胡散臭い笑顔を見たせいで出発前のスティーブンのいい笑顔を思い出してしまったのだ。
(あ〜〜〜くそ、忘れてたのに……ん?)
あれ?
ぶるぶるという振動。
尻だ。尻ポケットに違和感。
触ると硬いものが。
携帯だと思い至る。ぶぶぶっと震えている。
ぱかり、と開いてぽちぽち弄る。
『You got mail』
……メールだ。
差出人、スティーブンから。
え、と思う間もなくザップの顔がひきつった。
『凍らすぞ?』
(どこから見てんだあの人はぁぁぁぁぁぁああああああ!!!!!!)
思わずバンっと携帯を閉じる。
心臓がバクバク言っていた。
恐ろしい。
っつーか、タイミングが怖い。怖すぎる。信じられない!アンビリーバボォー!!
ザップは混乱していた。
(っつーか、なん、なんでわかんだよ!実は見てんのか!?千里眼!?千里眼の持ち主なの!?実はあの人の能力ってエスメラルダ式血凍道じゃなくてホントは千里が____)
ぶぶぶっ
びくっ
手の内で震える携帯と同時にザップも震えた。見るとチカチカとイルミネーションが光っている。表示されるメールのマーク。
「…………」
怖い。
どくんどくんと全身が脈打つ。なんか携帯から負のオーラが見える気がした。誰の携帯だよ、これ。あ、俺のか、ハハッ。
ぶぶぶっ
「!!??」
連投!?なにそれ聞いてない!
ザップはもう冷や汗が出ている。
めっっっっさ怖い。が、見ないともっと怖い気がする。
はぁ、ふぅ、はぁ、ふぅ、と深呼吸をして腹を決めた。えぇい、儘よ!と勢いで携帯を開き____
『千里眼とか馬鹿な事言ってる場合か?』
『凍らすぞ?』
(んんんんんんんんんんんんん!!!!!!???)
バァン!と携帯を勢いよく閉じた。いっそ壊れろと思った。しかし、意外にも頑丈な携帯は傷一つつかない。なにゆえ。
(てゆーか、マジで何なんだよあの人!!怖い、怖すぎる!!!!!人超えちゃってんじゃないのか!!??むしろそう言ってくれ諦めがつくからぁぁぁぁぁぁあああ)
ピロピロりんっ
「うっへぇ!?」
びっくぅっ!
思わず出てしまった変な声に、何人かの客が振り返る。ザップはバッと口を掌で覆って小さくなった。なんでもないと判断したのか客はざわざわと雑談を再開した。ザップは胸をなでおろすとそのまま携帯を開け、____驚愕に固まった。
『スティーブン・A・スターフェイズ』
なんとびっくり。着信である。
(で、で、でで出たくねぇぇぇぇええええええ!!!!)
うぉぉぉぉぉお!!!と内心悶える。
だらだらと冷や汗が出る。怖い。なんか、もうやめてください。すみませんでした。
めっさ出たくない。テコでも嫌だ。……だが出ないわけにはいかないのだ。わかるか、この気持ち。オイ。
いつの間にか注文したハイボールを持ってきたバーテンダーが心配そうに声をかけてきた。
鬱陶しいと思ったが、ちょっと抜けるすぐ戻ると早口で捲し立てて席を立った。そのまま脇目もふらずラウンジの端の方____ザップの声が届かないであろう所へ行った。すぐに携帯を構える。まだ携帯は震えていた。
ドッ、ドッ、ドッ……
嫌な意味で高鳴る鼓動を感じるが、ザップ・レンフロ今こそ男を見せる時____!
そぉい!とボタンを押す
ポチッ
『やぁ、ザップ。随分じゃないか?ん?』
出たぁぁああぁぁぁぁぁぁああ!!魔王だぞぉぉぉぉおおおおおお!!!!!
「…………」
『というかお前出るのが遅かったが……どうした?』
「…………なんでもねぇっす、スンマセン」
珍しく言い訳をせず(しても言い負かされると知って)殊勝な態度をとったザップに、スティーブンはふぅんと考えるような間を開けた。
『…………まぁ、いいさ。ところで順調か?』
「えー、えーっと着いたばっかなんs」
『ん?』
「………………」
ゴゴゴゴゴゴ……と地鳴りが聞こえるようだった。
何この人、ちょう怖い。
電話……というか声だけだというのにこの威圧感。ザップには出来るだろうか。……いや、多分無理だと思った。そういえば文字だけでも威圧感が半端なかったのだった。
「……全力で頑張らせていただきマース」
『いい心がけだ』
健闘を祈るよ、と無駄にいい声で言われても恐怖でしかない。……あざーす、というザップの気の抜けた返事を最後に電話は向こうから切られた。ブチっと。
ちょうこわかった。
「うへぇー」
しばらくは大人しくしていよう。
向こうは同僚が女になったとしても容赦が無い鬼のような上司だ。
またあんな恐怖は____
ぶぶぶっ
「……」
『You got mail』
ホラーかよ!!!