-常識人視点-
定軍山到着を翌日に控えた野営地にて、作戦内容の確認を行っている。
常識人「―――となり、森から脱出した後は当初とは逆の西に撤退し、霞と合流となる。
大きな変更点は撤退方向と撤退後の合流部隊くらいなものだ。
まぁ基本的に我々のやるべき事に変わりは無い、という訳だな」
隣には、真剣に話を聞いている流琉が居る。
真剣なのは当然良い事だ。ふざけていられては困る。のだが…
些か硬いな。やはり不安は隠せないか。今回は作戦が作戦だからな…
半尻 「霞さんが間に合ってくれてよかったですね。秋蘭様」
常識人「まったくだな。姉者では不安で仕方なかったからな」
半尻 「え?いえ…私はそのようには思ってはいませんでしたよ?」
常識人「おや、そうなのか?私はまたてっきり、姉者では作戦も忘れ、時機も計らず突撃でもしそ
うで心配していたのだと思っていたぞ。流琉はなかなかに剛毅だな、大したものだ」
軽く冗談を挟む。と言ってもほぼ本心でもあるのだがな。
流琉が何とも言いがたい表情を浮かべ、俯きながら口ごもる。
半尻 「………ほんのちょっとは…」
常識人「やはり思っていたのだろう?あぁ流琉は酷いやつだな。
姉者が聞いたらなんと言うか…妹としても悲しい限りだ」
半尻 「え!そんな!?いえ、違います!違いますよ?秋蘭様!」
常識人「ふふっ冗談だよ、そう慌てるな。私とてそう思っていたのだ。
姉者も、もう少しは学んで欲しいものだよ。流琉もそう思うであろう?」
半尻 「…でも…そこが春蘭様の良いところでもあるのですし…」
常識人「否定はしないのだな」
流琉が再び慌てた様子を見せる。
少しからかいが過ぎてしまったかな。
笑みが毀れてしまう。
半尻 「あ!からかってらしたんですね!もう!ひどいですよ秋蘭様!」
常識人「すまんすまん、慌てる様子が可愛くて、な。
からかいが過ぎたようだ。赦せよ、流琉」
頬を緩めながら、流琉の頭を撫で機嫌をとる。
頬を膨らませていた流琉の顔に、照れながらも笑みが毀れる様子が見て取れる。
桂花からの伝令が届いた時は、何事があったのかと思ったが…吉報でよかった。
霞が間に合った為、我々の救出を兼ねた第一波の任は霞が担う事になった。
神速の騎馬隊。これ程心強いものもなかろう。
流琉にも、いつも通り力を発揮してもらわなくてはな。少しは気も紛れたであろうか。
私とて不安が無い訳ではないのだ。頼りにしているのだぞ?
いよいよ明日だな…
なに、問題はないさ。皆、駆けつけてくれるのだ。
私は私の仕事をこなせばよい。いつものように、な。
猫耳 「定軍山から戻った間諜からの報告では、敵からこちらを伺う偵察が出ているようです。
こちらから出る偵察部隊を確認する為に潜んでいるのでしょう。
ですので、まずは囮となる部隊だけで先行してもらう形になります。偵察の目が無くなり
ましたら、残りの本隊含む二部隊も出ます。
仮に一人でもそのままこちらを見張っている様でしたら、その偵察は見張っている私の間
諜に始末させて、翌朝には出る事にします。
まず囮部隊の行程ですが、こちらの本隊の展開に余裕を持たせる事も考慮して、明々後日
の昼前に到着するように調整します。
兵糧に関しましては、本隊も同様となりますがこちらから別動隊を出しますので、必要最
低限に気持ち余裕を持たせる程度で構いません。
囮となる部隊は80。秋蘭の部隊から守衛に優れている者を選別して、連れて行ってもら
います。偵察としては些か多いですが、この程度であれば敵に疑惑…は持たれるかもしれ
ませんが、擬装の確証を持たれる程ではないでしょう。
敵総数は約800。内、半数は涼州騎馬兵、半数が歩兵。率いるは馬超、馬岱、黄忠。
敵が潜んでいる場所から、敵の作戦行動開始は、囮部隊がこの森に入った時となります」
桂花が地図に黒石を置く。
猫耳 「敵は、こちらの進路を塞ぐ形で歩兵の大半を当ててくるはずです。
そして、こちらの撤退を塞ぐ形で、森を脱出した段階で騎馬兵を当ててくるでしょう。
間違いなく馬超、馬岱は騎馬隊を率いておりましょう。そして、黄忠もおそらくそちらの
隊で少数の歩兵を率いているはずです」
ん?兵を分散しているのであれば、黄忠は森の歩兵部隊を率いているのではないか?
猫耳 「本来はそうしたいでしょうけど、黄忠の役処を考えるとそうはできないはずよ、秋蘭。
今回の黄忠の役割としては、参謀を望まれているはず。謂わば馬超、馬岱、両名の…特に
馬超の手綱取りを、諸葛亮から頼まれているはずだわ。
先の、劉備領へ放った間諜が得てきた情報から考察した黄忠の人物像からも、これはまず
間違いないでしょう。
故に、仮に単独で動く事があるとすれば、それは馬岱となるはず。
だけど、率いるのが歩兵となると畑が違うわ。
それに、この歩兵隊はあくまで陽動として動くのだし、その後は包囲の壁としての役割を
担うのだから、そちらに将を割くよりは、殲滅目的の本隊騎馬を率いさせた方が効率が良
いと考えるでしょう。
秋蘭はこちらの作戦行動開始まで、この歩兵300~400を相手に防御に徹して欲しい
の。秋蘭達が森に入った時点で、こちらの二部隊も配置に付いているはずだからそれほど
の時間ではないわ。
作戦開始の合図は、私の潜ませている間諜隊が煙矢を放つから見逃さないで。位置的には
この森から東北東のこの位置」
同様に黒石を置く。
なにやら聞き慣れない単語が耳をつく。煙矢とはなんだ?
種馬 「俺が真桜に話して作ってもらったんだよ。
矢を撃つとその軌道上に煙が出る仕掛けなんだ。この間できたばっかりなんだよな」
ほう…それは便利なものだな。北郷の世界の知識という訳か。
それを形にする真桜も、相も変わらず大したものだな。
先程は何やら不安そうな様子ではあったが…
北郷も、北郷にしかできん事で華琳様の御為に力を尽くしてくれているのだ…
私も負けてはおれんという事か。
猫耳 「そうね。その点だけは褒めてあげるわ、北郷。その点だけはね。
秋蘭達の行動開始はここから上がる赤い色の煙矢よ。それが上がるまでは防御に専念して
頂戴。
そして、煙矢を放った直後に私の間諜隊から馬超らへ向けて一斉に矢を放つから、その混
乱に乗じて、包囲から脱出するよう動いて。
森を出た頃には東から春蘭の部隊(霞が作戦に加わった為、これは霞の部隊となり、方角
も西となった訳だ)が向かって来ているから、敵の動きに対応しながら合流して頂戴。細
かな現場の判断は任せるから」
覇王 「ふむ……秋蘭、いけるわね?」
常識人「は!万事お任せください、華琳様」
猫耳 「では、それに伴う本隊含む二部隊の動きですが――――」
今回の作戦では、我々の役割が最も危険であり困難なのだ。
だが私であればやってのける、と…桂花は勿論だが、華琳様も信頼してくださっている故、異
論を挿まれなかったのだ。であるならば…示さねばなるまい。
不安は勿論ある。万事において完璧も絶対も有り得んのだ。
だが私にとって、華琳様の信頼にお応えする事は当然の責務。
それが私の矜持。
そして責務であると同時に満悦。
華琳様から信頼を頂き、それにお応えすることができる…それは私にとっての至上の悦び。
なればこそ…
常識人「明日の出立は早い。休める時に休んでおくとしようか、流琉」
半尻 「はい、秋蘭様」
最上の結果を献上してご覧にいれます、華琳様。