翌朝になり、いよいよ準備万端、外史の旅へと向かう。
管路「では予定通りいきますよ。貴方が向かうのは黄巾の乱発生前の陳留、ターゲットは昼過ぎに
接触するはずですから確認してください。
確認が取れた段階で作戦開始となります。作戦の為の書簡はこれです。早すぎてもいけませ
んから、うまくタイミングを計ってくださいね」
エマ「了解してますよ。んじゃいってきま~す」
管路さんから貰った通行パスを片手に、外史に触れる。
そして世界は変わる。
エマ「ほーここが陳留の街か。生で見るとなかなか感慨深いな」
なかなかの活気に溢れている。勿論、自分が居た世界と比べるべくもなくしょぼいのだが、そ
こは比較しても詮無い事である。
エマ「さて、まずはターゲットを探さないとな。道端で歌ってるはずだから歩き回ればすぐ見つか
るだろ」
思った通り、すぐにターゲットを見つける事ができた。三人組の旅芸人だ。三人は場所を確保
したばかりの様で、まだ歌は披露していなかった。
しばらくして、三人組は歌いだす。結構な賑わいを見せる。その様子を遠目で見ているともう
一人のターゲットが現れる。
頭に二つ春巻きを乗せた、小柄な少女。少女は楽しそうに三人組の歌を聞いている。
やがて歌は終わり、三人組の中のメガネが御捻りを回収し始める。
そんな中、春巻き少女が三人組の長女である頭の中までピンキーな女性と楽しげに会話を始め
た。それとなく聞き耳を立てる。
私達の歌はどうだった?とか、歌を覚えたいので教えて欲しい、などの会話の中、作戦開始の
合図が告げられた。
『私の名前は張角っていうんだ~』
その日から三人組に張り付く。彼女達がこの町を出た後でなければ作戦へは入れない。
ここで三人組が確保される様な事態が起きてはいけない。
二日程して三人組は陳留の町を去っていった。作戦開始だ。
次の日からは、食い物街に張り付く。春巻き少女と接触する為に。
程なくして少女が現れた。いよいよ作戦決行だ。
エマ「少し宜しいでしょうか?」
春巻「ん?…僕?」
エマ「ええ、突然失礼致しますが、許仲康様で間違いありませんか?」
春巻「様なんてやめてよ~恥ずかしいじゃない。うん、僕が許仲康だよ?どうしたの?」
エマ「実はですね、旅の途中で荀文若様への便りを預かったのですが…兵隊さんに渡して頂こうか
とも思ったのですが、便りを託された者から間違いなく渡して欲しいと強く言われまして…
誰か信頼できる方が居ないか探していたのです。宜しければお願いできませんか?」
話ながら書簡を取り出す
春巻「これを桂花に渡して欲しいの?」
エマ「それは荀文若様の真名なのですか?」
春巻「あ、うんそうだよ。ん~いいよ!僕が渡してあげる!」
エマ「本当ですか?ありがとうございます。これで私も安堵致しました。お礼という訳ではありま
せんが…ここでお勧めの饅頭屋などありますか?」
春巻「あそこの饅頭屋さんの肉まんがとってもおいしいよ!」
エマ「それでしたら、少々お待ちになっていてください。すぐ戻りますので」
春巻が指差した饅頭屋のおっちゃんから肉まんを十個購入する。
エマ「こちらをお持ちください。心ばかりではありますが…この度はありがとうございました」
春巻「え!いいの?わーい、ありがと~」
エマ「いえ、こちらがお願いしたのですから。それでは荀文若様へ間違いなくお願い致します。そ
れでは私はこれで」
用事が済んだらさっさと立ち去る。名前なんぞ聞かれたらめんどくさい。春巻き少女はよほど
うれしかったのか、にこにこと肉まんを齧りながら城の方へ歩いていった。
よし、これで今回の作戦は完了だ。後は猫耳がうまくやるはずだ。人影の無い場所へ移動し、
外史を去る。
-猫耳視点-
最近、黄色い布の賊が発生して困っている。徐々に拡大傾向にある為軽視できない。方々の伝
も使い、情報を集めている。さっき届いた情報によると賊の首魁は張角というらしい。他の諸
侯もなかなか有用な情報が手に入らず困っているそうだ。
ノック音が聞こえる。このノックというのは精液男の世界の慣習だ。精液男の世界の慣習にし
てはとてもいいものだ。真に遺憾ではあるが。
春巻「桂花~いる~?」
猫耳「あら季衣、どうしたの?」
春巻「お便り預かってきたんだ。はい、これ」
猫耳「わざわざ済まないわね、ありがとう。誰からかしら…」
春巻「じゃーね~」
季衣が去り、書簡を見る。きれいな花の形の封がされた書簡。なかなか雅だわと思いながら書
簡を開く。そして、驚愕する。書簡の内容はこうだ。
現在、世を騒がせている黄色い布の賊徒、その首魁は張角、張宝、張梁という名の三姉妹であ
り、旅芸人として各地を転々としている事。
この三姉妹の旅芸人の一人が張角である事は、季衣も知っているはずだから確かめてみて欲し
いとの事。
この二点のみが簡潔に記されていた。
そして、この情報を表に出す場合は、私が放った間諜が掴んだ情報という事にして、自分の存
在は表に出さないで欲しい旨が記され、最後によく分からない印が刻まれていた。
今さっき、首魁が張角という者である、と知り得たばかりなのに、この書簡には私が知り得な
い、他の諸侯すら知り得ていない情報が書かれていた事に愕然とする。
私は慌てて部屋を飛び出し、季衣を呼び戻した。
猫耳「季衣!ちょっと待って!」
春巻「ん?どうしたの?桂花」
猫耳「…あなた張角って名前に心当たりあるかしら?」
春巻「んにゃ?うん、知ってるよ」
猫耳「どんな奴だった!?」
春巻「どんな奴って…旅芸人さんだよ。ついこの間まで陳留に居たんだ。…どうしたの桂花?変な
顔して」
変な顔って…私今どんな表情してたのかしら…
しかし、この情報の信憑性が増してしまった。
何処の誰とも分からない情報を鵜呑みにする訳にはいかないけど…あ、そうだわ
猫耳「季衣?この書簡をあなたに頼んだ人ってどんな人だった?覚えてる?」
春巻「良い人だよ!僕に肉まんくれたし!」
いや、そーいう事ではなくてね…
猫耳「風貌とかはどうなの?」
春巻「おっちゃん」
これはダメかもしらん…
猫耳「ねぇ季衣?この書簡を預かった時の遣り取りと、後、張角との経緯を出来るだけ詳しく教え
てくれない?」
春巻「え?んーっとねー…」
春巻説明中…
猫耳「…そう、わかったわ。呼び止めて済まなかったわね。ありがとう」
おかしいわ…季衣が張角を知ったのはつい最近の話。書簡には季衣が張角を知っている旨が記
されていた。その事自体は問題ない。
問題はこの書簡を旅の途中で預かったとその男が話した点。預けた人物が居るのだとしたら、
その人物は陳留の街で季衣と張角の遣り取りを目撃している筈…
その人物が他の街へ向かい、書簡をしたため、旅の者にそれを預け、私に届く…そんな事をす
る意図が分からない。そもそも時間的に考えても不可能に近い。
となると、季衣に書簡を預けた人物こそがこの書簡を書いた、或いはそれに類する人物、と考
えた方が話が通りやすい。
つまり嘘をついたという事。なぜ嘘をつく必要があった?存在を知られたくないという事?情
報源を誤魔化して欲しい旨も書簡には記されていたし…
存在の秘匿という事を考えると、季衣に書簡を託した理由にもある程度説明がつく。その男は
季衣の事を知っている節がある。普通であれば、頼み事をする際に名を名乗らないなんていう
無礼は働かない。話し方が丁寧だったことを考えると尚更に。
しかし男は名乗っていない。礼儀礼節などに疎い季衣であれば、ある程度の話術で不自然でな
い方向へ話を持っていくこともできる。組みし易いと考えたのだろう。
おまけにお礼が肉まんて…明らかに季衣の好みを把握しているし、季衣風に言うところの良い
おっちゃんという心象を強くする事で、具体的は風貌を有耶無耶にさせている。
季衣を知っている、季衣が知らない人物…陳留の街の住人?いや、違うか…陳留にいてはこれ
だけの情報を集めることはできないはず。
情報を集める人間が他にいて、この男が総括しているのか?今の段階では明確な答えが出せな
いか…今この男について考えても埒がないわ。まずは三姉妹の方ね。
とりあえず今は情報を集めなければ…賊の動きがあった地に間諜を放って、旅芸人の三姉妹と
賊との関連性が判明すれば真偽も見えてくる。
もしこの情報が正しければ、他の諸侯を出し抜けるわ。そうすれば華琳様に褒めて頂ける…そ
して…………
猫耳「よーし!やるわよ!」
猫耳の快進撃が始まる