―― お昼休み ――
ただでさえ少ないお昼ご飯を少し早めに食べ終わり、外靴へと履き替え彼女の話を聞くために校舎が立ち並ぶ横の中庭へやって来た。
秘密の話をするのなら屋上ではなく中庭。中庭とは名ばかりのただの裏道だから。秘密と言われていなくともあの瞳を見れば分かる。だからこそキセキの皆さんに、赤司君に伝えること無くここへ来たのだから。
「ごめんね。待たせちゃったかな」
「いえ、大丈夫です。」
彼女は少し小走りで駆けてきた。俯きながら詫びの言葉を言い何度か深呼吸をすると勢い良く顔を上げて笑った。嗤ったのだ。
「黒子君、黒子君も昨日見たよね。もう少しで当たったのに凄く勿体無かったと思わない!?」
少々興奮気味で話す彼女から感じたのは恐らく桃井さんが感じたそれと同じ 歪んだ笑み、光の無い瞳。
「どうして桃井さんを部から追い出すような事をしたんですか。」
腹が立ったとはいえ顔に出してはならない。手の内が分からないのなら尚更。赤司君に言われ習得したものがここで活きるとは思わなかった。
「まぁまぁ、それはその内分かるから急かさない急かさない。ところで黒子君。部活楽しい?」
いつの間にか普段の笑顔に戻ると到底この中庭で話す必要の無い様な話題が小さな胸騒ぎとして僕の胸を侵食していく様な感覚に一瞬強く目を瞑り、開けると幾分胸騒ぎは落ち着いていた。
「はい。とても。坂城さんはどうですか?」
何の気なしに聞いたつもりだった。
「……最っ悪。」
普段の笑顔、声色は、どこへ消えたのかと思う程の地響きの様な低い声。今までの物が全て造り物だったのかと自らの耳を疑う程の圧倒的な恨みの声。
「どうして貴方ばかりなの?どうしてさつきちゃんばかりなの?大した役割も、顔もセンスも無いのに!」
地響きの様な低い声かと思えば今度は耳が劈く様な、高く鼓膜に響く声。感情の昂りが自らの意思を持ち発せられているかの様な感覚に陥る、錯覚。
「…だからね、私考えたの。どうしたら皆に私だけを見てもらえるか。」
彼女は呟くと自身の胸ポケットからカッターを取り出し自分のYシャツを引き裂きそのカッターを僕に押し付けるまでの自然な流れを僕は呆気に取られながらただ見ている事しか出来なかった。
「い、一体何を…」
「きゃーっ、誰か助けて!!!」
いつの間にか普段の声色へ見事に変貌を遂げていた声が中庭から全校舎へ響き渡る。
「なっちゃん?どーしたんスか…ってこれは……?」
「うるせぇなぁ、鼓膜が破れちま…」
「どうした…坂城…黒子…?……事情を説明してもらおうか、黒子…」
「どーしたの…って黒ちん…」
「こちらに来い。坂城。」
緑間君のブレザーを羽織り蹲って泣く彼女
その彼女を護るように立ちはだかるキセキ
やがて小さなその声が聞こえてしまった。
「…最悪。」
「強姦野郎だな。」
キセキの世代を筆頭に現れる全生徒。
一瞬の惨劇に立ち尽くす僕の視界は楽しく過ごしてきたはずの仲間達、クラスメイト、キセキの世代で埋め尽くされてゆく。
「黒子テツヤ。何か弁解の余地があるのなら今ここで証言するんだ。」
「違うんです…僕は。やっていません」
生憎、僕はそこで気付いてしまった。
彼女がカッターを僕に押し付けた意味を。
普段お昼を食べる場所とは違い体育館の側だった意味を。
「それでは坂城本人がシャツを切り裂いたことになるのだよ。それはおかしい。」
緑間君が眼鏡を押し上げ告げれば、もう僕に逃げ場はない。いくら影が薄いとは言ってもこの状況では意味が無くただ黙って俯く他なくなってしまった。
その刹那、僕は見てしまった。大きな紫原君に隠れこちらを嘲笑う彼女が。
(ああ 、全て仕組まれていた。こうなることは誰も避けられなかったんですね。)
桃井さんがこの場に居たのなら変わったのだろう。
それとも、もう少し早く僕が赤司君にこれまでの事を報告出来ていたならば。
酷くあの時の選択を後悔した。
植木鉢事件の時のあの瞬間を。
「…ました。」
「黒子っち…?」
「僕がやりました。」
この瞬間、僕は 思い出した 。
彼ら【キセキの世代】も人間であることを
1度書いた物が消えてしまい想像していた運びではなくなってしまったのですが 暖かい目で見ていただけると非常に有難いです。