「ここは…」
苦しくて、悲しくて、辛かった 心と身体は気付けばふわふわとした優しいものに包まれていた。
見たことの無い天井、部屋。
本が沢山ある所を見るとかなりの読書家なのだろうか。小説だけでなく難しいものも揃っているようで頭も良い人かも知れない。そんな事を考えているとゆっくりと足音が近付いてくる。
思わず目を閉じ眠っている振りをした。
「…起きてるだろ。下手くそなんだよ。」
扉が開き中に入ってくると少しの沈黙の後ため息と共に呆れたような声が落ちてきて言葉とは裏腹な優しい手が閉じたままの目元に置かれた。
「…花宮さんですか。」
久し振りに感じた他人から与えられる優しい手付きに声が震えるのをなんとか落ち着かせながら倒れる前に話をした彼の名を呼ぶ。
「あぁ。…全部話してみろ。」
目元に置かれていた手が優しく梳かす様に髪を撫でていく。
悪童と言われたのは誰だったか。
もう何も考えられなかった。
思わずこれまでの思いが膨れ上がり涙が流れていく。
落ち着くまで随分と時間がかかったがそれすらもただ待ち続け泣き止むまで撫で続けてくれていた。
ようやく涙も止まり上体を起こし見上げれば確かに目の前に居るのは花宮さんだった。今の状態を見てもらったとはいえ誤解されるかも知れない…僕はゆっくりと話を始めた。
「…話は分かった。」
丁寧に話したおかげで誤解されることは無かったのだろう。時折頷きながら話を聞き続けた花宮さんは今、顎に手を当て何やら考え事をしている様だった。
思考の邪魔をする訳にもいかず少しの間目が覚めた時と同様に部屋の中を見回し再び彼が口を開くのを待った。
「…なぁ。」
不意に呼ばれ振り向けば、頬を摘まれていた。よく分からない内に両頬が摘まれて目が合う。
「…いひゃいです。」
呼ばれた事が何だったのか尋ねる前に摘むにしてはやや強めの力で引っ張るこの人を止めなくては。
「……… 黒子。復讐、しねぇか。」
手を離され軽く撫でられた後 再び舞い降りた沈黙に大人しく待てば普段なら到底聞くことのない台詞が耳を通り抜ける。
目を見開きその言葉を受け止めていれば花宮さんは勉強机のそばにある椅子に座り込み本を読み始めた。
考える時間をくれたのだろう。
― 復讐 ―
彼が与えてくれた時間など要らなかったのかも知れない。影 として使えなくなったのなら 闇 として花宮さんの元で本当の僕をあいつらに見せつければいい。
「…花宮さん。」
彼が思っていたより決断が早かったのか 少しだけ滲む驚きの色に思わず微笑んでいた。
「―復讐― の件 喜んでお受けします。」
きっと今の僕らは同じような笑みを浮かべているのだろう。そしてこれから先どうしたらいいのか話し合いを始めた。
僕はこの時から 影 ではなく 闇 になった。
今回は短めでしたが次回は少し長めの投稿となります。もう暫くお待ち下さい。