貞操観念が逆転したインフィニット・ストラトス   作:コモド

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Q.二話前のあとがきでシャルが『俺が本当のあざとさを見せてやる』と言ってるけど、いつ見れるの?

A.記憶にございません。


貞操逆転って精神的BLだよねって言ったやつ絶対許さねえからな

 

 

 長い銀髪に眼帯、スカートではなくズボンの制服の小柄な少女は先日の愛嬌を振りまいていたデュノアさんとは対照的に、取り付く島もない自己紹介をした。

 ドイツ代表候補生らしいお堅い感じ。さすが仕事から帰ってもお仕事のゲームしてるお国柄。

 ふと目が合ったが、フンと鼻を鳴らしてすぐ目を逸らされた。嫌われてるのかな。彼女の席はデュノアさんの隣、僕の右隣ののほほんさんの後ろになった。

 しかし、入学してから間もないのにやけに転校生が多い。しかもウチのクラスにだけ。それも代表候補生が立て続け。いったいどうなってるの?

まあいいや。どうせ考えたところで答えは出ないのだろうから。

 

 鈴さんやデュノアさんとちがって、ボーデヴィッヒさんはクラスにかつての友達がいるわけでも、目当ての男の子がいるわけでもなかったようで自らボッチ路線に進んでいった。

 剣呑とした空気を発して近寄るなアピールをしているので話しかけにいく人もいなかった。

 クラスのみんなも連日の転校生ラッシュで食傷気味だったのもあるかもしれないが、彼女たちの目がボーデヴィッヒさんに向かなかったのは、間違いなく昨日転校してきた金髪の彼女が原因だった。

 

 

 

 まず朝、ぼくと会ったデュノアさんは開口一番こう言った。

 

「おはよう、唯。今日もきれいだね。日本の辞書でかわいいや美しいを調べたら、唯の名前が書いてあるんじゃないかな」

「あ、あははは……」

 

 男が女の子にかわいいと言われても嬉しくない。というか女の子のかわいいをぼくは信用していないのだが、男女が逆転している今だとかなり面倒だ。

 現在、ぼくはデュノアさんに出会い頭から全力で口説かれ続けている最中である。

 前の世界で言うとフランスからやってきた金髪イケメンのデュノア君が、ほかのクラスメートには目も暮れずにクラスのアイドル唯ちゃんに言い寄っている状況だ。

 胡散臭いことこの上ない。少年漫画のヒロインなら「馴れ馴れしくしないでよ!」と拒絶して男性読者の好感度を稼ぐ展開だ。

 だが価値観のちがうぼくからすると、金髪美少女から積極的にグイグイズイズイ来られて複雑だけど気分が良い、そんな状況でもある。

 

 ただ、デュノアさんが何を考えているのかわからない。

 セシリアさんや箒さん、鈴さん、その他クラスメートはぼくの男として生きてきた経験から内面を想像しやすかったのだけれども、デュノアさんはどういう考えでぼくに迫ってきているのかてんで想像もつかないのだ。

 思考を読んで行動することができないのでぼくは常に受け身になった。受け身なのに嫌がることもなく、曖昧にお茶を濁す対応をし続けたので、デュノアさんはますますエスカレートしていった。

 

 

 

「そんなに他人行儀じゃなくて、シャルロットって呼んでよ」

「唯、よかったら学園を案内してくれないかな? まだ慣れてなくて」

「ありがとう! 唯は優しいね。……男の子にこんなに優しくされたの初めてだよ」

「手、つないでもいいかな?」

「いいでしょ? 気分だよ、気分。こうしてると……デート、してるみたいでしょ?」

「あっ、唯、照れてるでしょ? 顔赤いよ? ……まあ、そう言ってる僕も恥ずかしいんだけどね」

「今日はありがとね。あとでフランスの友達に『天使の手を握ったよ』って自慢するよ」

 

 

 

 ……下心? もちろんあったよ。当然だよね。というかシャルロットさんに言い寄られて鼻の下が伸びない男いるの?

 もしぼくが男だったら今頃勘違いして玉砕してたね。それとなに考えてるか全くわからないという潜在的恐怖がなければ。

 一緒にいて、いつまでもいつまでもこの時間が続いてほしいと思う美少女なのに、この屈託のない笑顔の裏に何か黒いものがあるのではないか。

 そんな些細な疑念が混じるだけで意外と人はころっと落ちずに踏みとどまれるものなのだ。いや、理由のわからない好意って恐ろしいよ、実際。

 

 と、まあ、シャルロットさんに戦々恐々のぼくだが、そのシャルロットさんは当然のごとく女子の不興を買っていた。

 こう書くと自惚れていると思われるかもしれないが、ぼくはクラスのアイドルであり高根の花でもある。

 性欲旺盛の高校生。その中で二人しかいない異性。唯一手が出せそうで、グラビアのおかげでオカズにもしているぼくにちょっかいを出したシャルロットさんは目を付けらえており、今回の校内デートもどきで我慢の限界を迎えたようだった。

 

 

 

「オウ、姉ちゃん。ちょっとツラ貸してくれや」

 

 休み時間にチンピラのようなドスの効いた声で谷本さんがシャルロットさんにメンチつけて言った。

 相川さんと布仏さんも顔面神経痛にでもなったかのように顔をしかめてシャルロットさんを睨んで囲んでいる。

 

「なにかな?」

 

 シャルロットさんは一見余裕そうに受け答えしたが、少し声が堅かった。そんなシャルロットさんに相川さんと布仏さんが言う。

 

「オウオウオウ! テメエ、なにウチらの男に手を出してくれてんだアァン!?」

「ネタはもうアガってんだよ! どう落とし前つけてくれんだオーン?」

 

 あ、茶番だな。ぼくが若干白けた目でやりとりを眺めていると、一夏がやって来て「見ちゃいけません」と手を引いてぼくを避難させた。きみはぼくのママか。

 本気で〆ようとしているのではなく、まだ冗談の通じる余地があると知ったシャルロットさんは不敵に微笑んだ。

 

「ふーん。そういうことか。つまりきみたちは唯とデートした僕が羨ましいんだ。でも僕を妬むのは筋違いだよ。きみたちが今ここに立っている勇気を唯に向けていれば、きみたちも唯とデート出来ていたかもしれないんだから。

 まあ、もっとも、僕に嫌がらせをするのにも三人も必要なようじゃあ、結果は見えているけどね」

「聞きやしたか、カシラ」

「おう。びっくりするほど流れるような厭味ったらしい皮肉やったな」

「日頃からそういうことばかり考えていなきゃ、咄嗟の場面であそこまで喋れないっすよね」

 

 三人はシャルロットさんにそう返されるのも想定内とばかりに、芝居がかった口調で仕返しを始めた。

 こう来るのは予想外だったのかシャルロットさんの顔に冷や汗が見える。

 

「やっぱりフランス人が皮肉を交えなきゃ会話できないってのは本当だったんだ」

「幻滅だよね~」

「そもそも、転校してきた瞬間に男を口説くってどうよ? そこまで男のことしか頭にないのって引くわー」

「ドン引きだよね~」

「なっ……!」

 

 一瞬、ムッとしたシャルロットさんが反論しようと口を開いたが、何も言い返すことなく閉口した。

 それをいいことに三人の悪口は止まることを知らない。

 

「ていうかさぁ、フランスってイメージと現実がかけ離れてる国だよねー。遠くから見ると綺麗だけど近くから見ると小汚いみたいな」

「華の都パリも綺麗なのは建物だけで下を見ればゴミや犬の糞だらけだしね~」

「時代が進んだのにどうしてパリは道端にウ●コ投げてた頃に逆行してるの?」

「あたしは旅行に行ったらスリに遭うわ、浮浪者がたくさんいるわ、買い物したら店員に『死ぬ前にパリに来られてよかったな、田舎者! HAHAHA!』みたいな態度取られるわ散々だったよ」

「き、きみたちさあ……」

 

 祖国をぼろくそに言われて、シャルロットさんは顔を引き攣らせていた。どうでもいいけど女の子がウ●コ言うのやめようよ。

 

「お待ちなさい! 聞き捨てなりませんわね」

「セシリア!?」

 

 そこにセシリアさんが颯爽と登場して割って入った。厳しい表情で布仏さんたちと対峙する。

 

「先ほどから聞いていれば、皆で寄って集ってデュノアさんの悪口を言って、見損ないましたわ。個人の悪口だけでも許せませんのに、祖国の悪口まで言うとは何を考えているのですか?」

「うう……」

 

 セシリアさんに棘を刺すような声で責められて三人はたじたじだった。まあ、おふざけっぽくしてたけど普通にやっちゃダメだよね。

 

「だいたい、地球の裏側の日本に住むあなたたちがフランスの何を知っているというのですか。パリはあなたたちが思っているようなところではありません」

 

 胸に手を当てて、思い馳せながらセシリアさんが言う。

 

「いいですか? わたくしは旅行や仕事で何度もパリに滞在して、多くのフランスの方々と長い時間を過ごしてきました。買い物や社交でフランス人と接してきた回数は数えきれません。

 そのうえで申し上げますが、パリはとんでもないクソみたいな街でしたわ!」

「言いやがったな、ちくしょう!」

 

 えぇ……。なぜか割って入って場を収めようとしていたはずのセシリアさんが、今度はシャルロットさんと喧嘩する謎の展開にぼくは困惑した。

 そしてこれにはシャルロットさんも我慢ならなかったのか、「ロンドンも似たようなものだろ」「そもそもイギリスと違ってメシが美味い」「パリジェンヌ、パリジャンはクソだけど多くのフランス人は善良だから」と応戦した。

 

「おいおい、とうとうデュノアまでパリをディスりだしたぞ」

「まあ、日本人も京都人は陰湿とか言うじゃない。そういう感覚でしょ」

「あー」

 

 それにしても言葉遣いが汚い。さっきから何回ウ●コとかクソとかファッキンとか言ってるんだろう。

 ただ人を悪く言うにしても、本人に直接言ってる分だけ陰湿でネチネチした部分が少なくて清々しい気がした。人が陰口を叩いてるのを見るのも聞くのも気分が悪くなるから、前の世界の女子よりそこらへんはマシなのかもしれない。

 まあ何かしら綺麗なところが垣間見えたとしても、この世界の女子は浅ましいのに代わりはないのだけど。

 

 

 

 

 

「ああ、そういえば、一月後に学年別トーナメントが行われます。二人一組のタッグマッチなので、それまでにペアを見つけてください」

 

 思えば、このあとに起こった騒動は、SHRでの山田先生の発言がきっかけだった。

 

「試合は各国の首脳もご覧になるイベントですので、皆さん恥ずかしい姿を見せないよう努力を怠らないようにしてくださいね」

 

 SHR終了と同時に――いや、『ペアを見つけてください』の時点でにわかに色めき立ち始めていたクラスメートは案の定――ぼくに殺到した。

 

『天乃くん!』

「はい!?」

『私とペアを組んでください! お願いしゃす!』

 

 ずらりとぼくの周りを囲んだ女子は、まるで示し合わせたかのように手を差し出すと息を揃えてペアを申し込んできた。

 視界一面に握られることを待っている手が並んでいる。勢いと迫力に呑まれていたぼくだが、選べるわけがないのでこう答えた。

 

「気持ちは嬉しいけど、ぼくは一夏と組もうと思ってるから……ごめんなさいっ」

「あー、そうなんだ」

「それならしょうがないね」

 

 はっきり断ると一様に納得して去っていく。……紳士協定ならぬ淑女協定でも結んであったのか疑う女子の団結ぶりにぼくは小首をかしげたが、穏便に済んだので胸を撫で下ろした。

 が、

 

「唯、唯」

 

 背中を指でつつかれ、振りむくとシャルロットさんが口元で人差し指を立て、悪戯っぽくウィンクしていた。

 

「ね、僕と組まない?」

「え?」

「さっきのは断るための方便でしょ? まだ誰とも組む気がないなら、僕と組んで。色々教えてあげるよ」

 

 内緒話でもしているかのようにひそひそと囁かれ、耳年増みたいなことを思い浮かべてしまう。

 確かにシャルロットさんの言う通り、咄嗟に一夏の名前を出して断ったのだが、冷静に考えてみると一夏とペアを組む以上にベストな選択肢がない。

 一夏は女嫌いだし、彼も出来るならぼくとやりたいだろう。ぼくにしても同性を選ぶのが自然だし、何より角が立たない。

 偉い人たちが観に来るということは世間の目に触れるということだ。そのような場で入学早々セシリアさんとかシャルロットさんのような金髪美少女とペアを組んでいる姿を見られたら、『金髪イケマンに靡くクソビッチ』という悪評が流れかねない。

 というか確実に流れる。ネットでぼくがアイドル視されているのを見れば、今の信者の好意が悪意に反転してアンチに回るのが容易に想像できる。ぼくを嫌いな同性も叩く材料を見つけて歓喜しながらボコボコに叩くだろう。

 ゆえに、ぼくには一夏を選ぶほかないのである。だから誘いは断ることにした。

 

「ほんとうに一夏と組もうと思ってるんだ。だからごめんね」

「……え?」

 

 すると、それまで艶笑を浮かべていたシャルロットさんの顔が突如色を失った。

 

「な、なんで? いいでしょ? ほら、僕、代表候補生だし操縦の仕方とか何でも教えてあげられるよ?」

「一夏は友達だから……それに男同士で組むほうが自然だと思うし」

「こ、国家の威信を懸けて行われる大事な行事なんだよ!? 学年別トーナメントは世界中に自国の技術力をアピールする重要な場なんだ。そのペアを友達だからなんて理由で決めるだなんて――」

「しつこいですわよ、フランス代表候補生さん。あなた、IS学園にナンパしに来たのですか?」

「な――!」

 

 狼狽して縋り付くような目でぼくを見ていたシャルロットさんに横からセシリアさんが釘を刺してきた。

 

「それに、そんなにISの技術を披露したいなら、初心者同然の唯さんではなく、技量に優れた人と組んで勝ち上がれば良いのでは? それとも、どうしても唯さんと組まなければいけない理由でもあるのですか?」

「……他意があるかのような言い方はやめてくれるかな」

 

 シャルロットさんはセシリアさんをじろりと睨んだが、しばらくすると頭を冷やしてくると言って教室を後にした。

 その背を見たセシリアさんは満足げにふふんとドヤ顔した。

 ちょっとかわいかった。

 




勘違いされるとアレなので否定しておきますが、別に少女漫画ばかり読んでるわけではないです。

雑食なので何でも読んでますよ。最近は2/22に最新刊が発売されるわたモテにハマってます!(ダイレクトマーケティング)
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