兎虎です。
バニーちゃんを振り回す虎徹さんを書きたかったのですが、どういうわけか小悪魔(笑)に…。
「ちょっと話がある。」
そういって僕を飲みに誘ったのは、相棒の彼だった。
「あの、会社ではダメですか?」
珍しい、と思いながらも僕は今日の予定を思い出していた。____うん、今日は大丈夫だったはずだ。
「あ、悪ぃ。用事あったか?それなら別に今日じゃなくてもいいんだけど。」
「いえ、今日は特に用事はないですよ」
ただ、会社ではダメなものかと思いまして、と軽く笑って言外に了承の意を示すと、彼は勿論了解と受け取り、白い歯を見せた。
「そっか!じゃあ、今日は悪ぃけどオレに付き合ってくれねぇか?」
「えぇ、勿論!」
飲みに誘うといっても、彼が店を指定しない限り大体は僕の家で宅飲みというのが暗黙の了解になっている。
久しぶりに彼と2人。
それも、あんな誘い方をするってことは実は……
『バニー』
きっと、彼なら、
『バニー!飲んでるか?』
『飲んでます。虎徹さんは飲みすぎですよ』
ほろ酔いの彼が、彼の家のソファで僕に頭をあずける。
ふわふわと酩酊する彼はとてもかわいい。
『へへっ』
『もうっ……』
僕が仕方なく息を吐くと、彼がもぞもぞと体を揺する。
『虎徹さん?』
『あ……』
『?』
虎徹さんは僕から視線を外した後、頬を酩酊でない何かに染める。そして、ゆっくりと視線を僕の瞳へと戻す。何か言いたそうだ。
『あ、のさ』
『なんです?……あぁ、そういえば仕事の時言ってましたよね。話があるって』
そのこと、ですか?
と、殊更ゆっくりと彼に問う。____本当はわかっている。彼が僕に
『……うん、そう…』
僕に……
『なぁ、俺……俺な。俺、バニーのこと……』
僕は、それを指で彼の唇を塞ぐことで遮って、ささやく。
『ん、……ばにー?』
『その先は、どうか僕に……』
(ダメだ、ニヤける……)
無意識に口角が上がってしまった。
僕の妄想力に自分で感心する。……けど、ちょっと都合が良すぎたか。
「では、今夜」
「あぁ。」
こんなやり取りも久しぶりでなんとなく懐かしさがあった。しかし、先程までの妄想は表に出さないよう細心の注意を払った。
あのBBJが相棒で妄想しているなんて、下手なゴシップにもならない。
けど、こんなことを思っているからと言って彼とどうこうしようという気はない。が、せめて妄想くらいは許してほしい。
僕は、奥さんと楓ちゃんを愛してる虎徹さんが好きなのだ。
再結成____正しくは再再結成以来、タイガー&バーナビーの仕事は増え、僕達は今まで以上に忙しくなっていた。
その為なかなか時間が合わず、コンビ解消するまではよく僕の家に上がり込んでいた彼も、そんな暇もなく家へ直行するようになって久しい。
僕も僕で彼を誘う暇も飲むこともせず毎日倒れ込むようにベッドに入っていた日が続いたので、仕事が落ち着いてからもなんとなく誘いづらくなっていた。
しかし、
「今夜…こんや、」
ふふ、と無意識に笑い声が漏れ、気づいて恥ずかしくなる。
僕はいくつだ。
「ティーンか、僕は。」
そんな声もどことなく、嬉しそうに聞こえる。
当然といえば当然だ。
だって僕は彼に恋をしているのだから。
「そこ、掛けててな」
ぴっ、と虎徹さんのすらりとした指が示した先はソファである。
僕は、「はい」と答えて上着を脱いだ。
虎徹さんはカチャカチャと食器を漁っている。
「ん」
「あ、ありがとうございます」
「いや、こっちもいきなし悪かったな」
「いえ……あ」
ふわり、と鼻をかすめる挽いた豆の匂い。
彼が出したのはコーヒーだった。
「?どうした?」
「え……いえ、思ったよりも熱かったもので」
嘘である。
僕はといえば、ガクッと心の中で肩を落としていた。
なぜなら、
(僕と飲む気は無い……ってことか)
いつも真っ先にビールやら焼酎やらを出す彼がコーヒーを出したということは、つまりそういうことである。
しかし、はたとする。
この人は僕に話があると言っていなかったか。
(はなし……話、か)
急に居心地が悪くなった。
心臓が変に波打ち出した。
話があるといって僕を自宅に呼ぶのだから、相当大事な話なのだろうことは見当がつく。バーや飲み屋では話せないような、多分そんな話。
(なんだろう、急に嫌な予感が)
無意識に、僕はシャツの胸のあたりをきゅっと掴んでいた。
「なぁ、バニー」
「えっ」
どんっ!と、心臓が鳴った。
「あ……なっ、なんですか?」
思わず、多分声が裏返った。あと、すごく吃った。
「?なんだ?声の調子、わりぃの?」
「いえ、悪いわけでは……」
「ふぅん?バニーちゃんでも声、裏返ったりすんのな」
ははっ、と面白いものを見つけたように笑う彼は、かわいい。すごく。
しかし僕は内心
(良かったぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!)
とても安心していた。
(あなたが鈍くて良かったです!!虎徹さんバンザイ!!)
「そんでさー」
「はい」
今度こそ声が裏返らずに済み、僕は内心ガッツポーズをした。
そして、何かに勝った気で彼の言葉を待つ。
そして、彼は何か決心した顔で僕に向き合う。
その顔に、えも知れぬ違和を感じる僕。
「俺さぁ、」
(あれ?)
と、僕は今更ながらに焦る。
忘れていたのだ。
「好きな奴がいるんだよね」
こういう、嫌な予感は当たるのだと____。
「す……、え?」
いま、……は?え?
虎徹さんの方を見ると、彼は視線をさ迷わせて頭を掻いている。
「あー、……うん。いきなりこんな事言われても困るよなぁ。」
照れているのか、はにかんでいた。
かわいい……
あ、ちがう。
そうじゃなくって。
「あ、の。えっと」
どうしよう。
「いま、あの、」
僕は思ったよりも動揺しているらしい。
いろいろ聞きたいことはあるのに言葉が出てこない。
言葉に詰まるとはこのことか。
「え?あー、……って、何回も言うのはなんか恥ずいなぁ。つーかバニーさ、そんなに動揺するほど意外だった?」
僕の言わんとしていることを察して虎徹さんが照れたように笑う。
いつもより早口なのは照れ隠しなのか。
僕は思わず、ズボンを握りしめていた。
ききたくない。
ねぇ、言わないで。
「俺、好きなやつに告白しようと思っててさぁ」
バニーちゃん、手伝ってよ。
「………」
(……さいあくだ)
神様は、とことん僕から愛した人を取り上げるのが好きらしい。
そんな僕は気づかなかった。
虎徹さんが、ひっそりと笑っているのを。