戦姫絶唱シンフォギアGX ~破・壊・神・転・生~   作:GGG@ハーメルン

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お待たせしました!

第一話を投稿します。
(Pixivで2015年10月15日投稿した物を一部修正・転載した物になります)

戦姫絶唱シンフォギアGのクライマックス、戦姫絶唱シンフォギアGX第5話『Edge Works』を基にした内容となっております。

ネタバレやオリジナル設定、ゴジラの人間への転生などに抵抗のある方はご遠慮頂いた方が良いかと思われます。

 「それでも良い!」という方は、駄文ですがお付き合い頂けると幸いです。

 では、どうぞ。

OP:Exterminate

劇中歌:ジェノサイドソウ・ヘヴン

    Just loving X-Edge

ED:Rebirth-day


第一章
#01 転生―FUKKATU―


太平洋上空、成層圏――

 

「6人じゃない……!あたしが束ねるこの歌は、70億のぉ、絶唱ーーーー!!!」

 

 【ルナアタック】から3ヶ月後。

 

 当事件を終息させたシンフォギア装者、立花響(たちばな ひびき)は、仲間の装者達と共に己が全てを賭して奇跡の歌を紡ぎ出す。

地球人類70億人の想いを束ねた歌の力は、たった一人の身勝手が生み出した悪鬼の如き完全聖遺物≪ネフィリム≫を打ち破り、≪バビロニアの宝物庫≫と呼ばれる魔窟より現れては人類を脅かしてきた先史文明の負の遺産≪ノイズ≫を全滅させた。

 

 聖遺物に選ばれし6人の少女が世界を破滅から救ったこの戦いは、後に【フロンティア事変】と名付けられ、【ルナアタック】事件と共に歴史に刻まれることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

同時刻――

 

 伊豆・小笠原海溝。

 千葉県房総半島沖から小笠原諸島に沿って南東へ伸びるこの海溝は、北を日本海溝、南をマリアナ海溝に挟まれ、最深部は海面下9780mに達する。

 

 そんな日の光など到底届かない深淵にも、6人の装者が紡いだ奇跡の歌は射し込んだ。

 静寂が支配する闇の世界に、美しき旋律が響き渡る。世界を救う程のエネルギーを秘めた歌。

 だが、その力が予期せぬ副作用をもたらしたことなど、装者達を含めこの世界の誰も予想しなかっただろう。

 

『……グゥルゥゥゥ』

 

 海溝最深部より、鳴り響く歌を掻き消すような唸り声が上がる。直後、海底の堆積物が一斉に巻き上がり、まるで噴煙のように海底を覆い尽くした。

 その中心から、遥かなる海面の更にその先を見上げる黒い影。

 その視線の先にいたのは、天使のような聖なる鎧に身を包んだ6人の少女。

 

 黒い影は本能的に理解する。

 彼女達が、自分を目覚めさせた。彼女達の『歌』が、自身の内から底知れぬ力を湧き上がらせるのだと。

 

 ほどなくして、巻き上がった堆積物は再び海底に降り積もる。だが既に、謎の黒い影は、跡形も無くその姿を消していた。

 

 

 

………………

…………

……

 

 

 

【フロンティア事変】の終息から100日余り。

 

 ≪バビロニアの宝物庫≫が破壊されて以降、世界にノイズ災害が発生することは無くなった。

 これにより、対ノイズの剣たる【シンフォギア・システム】と、その装者達が所属する【特異災害対策機動部二課】は、国連直轄の超常災害対策機動部タスクフォース【Squad of Nexus Guardians】、通称【S.O.N.G】として再編成され、世界各地で発生する災害救助活動に従事していた。

 

 熾烈を極めた二度の大きな騒乱を経て、世界は漸く安寧を取り戻した筈だった。……だが世界は、今また新たな脅威に曝されている。

 

横須賀 【S.O.N.G】指令室――

 

「≪アルカ・ノイズ≫の反応を検知!」

「座標は……ッ!?」

 

 鳴り響いた警報と管制官の切迫した声に続き、【S.O.N.G】の移動本部である潜水艦の指令室は外部からの衝撃によって激しく揺れた。メインモニターが切り替わり、外の様子が映し出される。

 現在【S.O.N.G】は補給の為、大きな発電施設を備える横須賀の海上自衛隊基地に寄港していた。その敷地内を、色鮮やかな異形の軍勢が闊歩している。

 敵勢力は大きく分けて3タイプで構成されていた。人の形をしたもの、イモムシのようなもの、はたまたパイプオルガンを模したもの。

 

 襲撃者の名はアルカ・ノイズ。

 『世界の分解』を企てる新たなる敵、錬金術師キャロル・マールス・ディーンハイムがノイズをベースに錬金術によって生み出した、ノイズの亜種と言える存在だった。

 

【緒川】

「まさか、敵の狙いは――ッ!?」

 

 指令室で懸念を口にしたのは、日本政府のエージェントで【S.O.N.G】主要メンバーの一人、緒川慎次(おがわ しんじ)であった。メインモニターでは、パイプオルガン型のアルカ・ノイズが、電力供給施設のソーラーパネルに向けて頭部の管から砲撃を行った。

 

【緒川】

「やはり、この基地の発電施設!」

【藤尭】

「ここだけではありません!都内複数個所で、同様の被害を確認!」

 

 男性メインオペレーターの藤尭朔也(ふじたか さくや)が手元のコンソールを操作すると、サブモニターに新たに5つの施設が映し出された。各施設は、それぞれ所々が破壊され、炎や煙を上げている。

 

【あおい】

「被害により各地の電力供給が大幅に低下!このままでは……!」

 

 補足するように、女性のメインオペレーター、友里(ともさと)あおいが、別のデータを見ながら叫ぶ。それと同時に再び指令室が衝撃で揺さぶられる。

 

【緒川】

「……ここもこれ以上被害を受ければ、電力供給が断たれるのも時間の問題でしょう。内蔵電源もそう長くは保ちませんからね」

 

 緒川の言葉に、指令室に緊張が走る。【S.O.N.G】にとって電力が断たれることは、二重の意味で看過できなかった。

 

【翼】

「今、本部への電力が断たれれば、ギアの改修への影響は免れない!」

 

 1つ目の気掛かりを口にしたのは、シンフォギア装者の中でも最古参の(ツワモノ)にして世界的な歌姫、風鳴翼(かざなり つばさ)だった。

 普段は美しい歌声で万人を魅了している彼女だが、今はその美しい顔立ちには似つかわしくない触れれば切れるような鋭い雰囲気を放っていた。

 

 敵の襲撃を受けながらも戦士である彼女が迎撃に出られないのには理由があった。

 翼を始めとした6人の装者は、それぞれアルカ・ノイズ及びそれを操る存在と交戦したのだが、翼を含む3人のシンフォギアはアルカ・ノイズによって『分解』されてしまったのである。

 

 アルカ・ノイズには、キャロルの悲願である『世界の分解』を体現するように、対象を≪解剖器官≫と呼ばれる部位によって、有機物・無機物、果てはシンフォギアに至る全ての物を赤き塵へと分解してしまう能力がある。

 これにより、本来ならノイズの侵食を防ぐシンフォギアのバリアコーティング機能が全く役に立たず、アルカ・ノイズに対してシンフォギアは切り札に成り得なくなってしまったのだ。

 

 だが、光明が無くなったわけではない。

 アルカ・ノイズの脅威に曝された装者達の前に、キャロルの元から脱出してきたホムンクルス、エルフナインによってシンフォギアの改修計画≪プロジェクト・イグナイト≫が始動。現在も改修作業が進められている最中であった。

 

【クリス】

「おいっ!ギアの改修はまだ終わらないのかよ!?」

 

 苛立ちを隠し切れない口調で怒鳴ったのは、翼と同じシンフォギア装者の一人、雪音(ゆきね)クリス。彼女も、逃亡中のエルフナインを保護する任務に当たっていた際、不覚を取ってギアを分解されていた。

 可愛らしい外見とは裏腹に口調や態度は悪いが、それは幼少期を紛争地域でゲリラの捕虜として過ごした暗い過去を持つが故であり、そんな経験から、悪意を持って力を振るう者達を何より許せない強い正義感を持っている。今も、戦うべき時に戦えない自分への苛立ちが表に出てしまっていた。

 

 クリスの声に、指令室へ別室から通信が繋がる。通信元は、開発室(ラボ)で彼女と翼のギアの改修に当たっているエルフナインであった。

 

【弦十郎】

「エルフナインくん、改修完了まであとどのくらいだ!?」

 

 【S.O.N.G】司令、風鳴弦十郎(かざなり げんじゅうろう)。赤い髪を逆立てた筋骨隆々の偉丈夫で、風鳴翼の叔父に当たる人物である。

 彼が改めてモニターに映し出された少女(実際はホムンクルスのため性別は無い)に訊ねるも、あどけなさを残すエルフナインの表情が申し訳なさそうに曇る。

 

【エルフナイン】

『さ、最低でも30分は……!す、スミマセンッ!』

【弦十郎】

「30分――!自衛隊の戦力では、5分保つかどうか……」

 

 敵に攻め入られている状況で、それはあまりにも長過ぎる時間だった。

 弦十郎は再び外部モニターに目を向ける。外では、自衛隊の歩兵部隊がアルカ・ノイズを迎撃をしていた。

 

 アルカ・ノイズは、優れた攻撃性能を獲得する代わりに、本来持っていた≪位相差障壁≫という通常兵器に対する絶対防御を失っている。

 よって、自衛隊の保有する装備でもアルカ・ノイズに対して打撃を与えることができ、今もアサルトライフルや対戦車砲で侵攻を遅滞させていた。

 しかし、超常的能力を持つ相手に対してそれは気休めにしかならず、今も側面に回り込んだイモムシ型の攻撃によって防衛線が崩されつつあった。

 

【未来】

「そんなっ!じゃあ、メディカルルームも!?」

 

 白いリボンで髪を留めた学生服の少女が泣きそうな顔で緒川とその隣に座す弦十郎を見た。

 彼女、小日向未来(こひなた みく)は厳密には【S.O.N.G】の人間では無いのだが、装者の一人、立花響の親友として過去二度の騒乱に関わってきた。今では響だけでなく、他の【S.O.N.G】メンバーの協力者として彼女達の戦いを見守り、時にサポートしている。

 

 そんな彼女が泣きそうになった理由は、2つ目の気掛かりに起因していた。

 現在メディカルルームでは、彼女の親友である響が治療を受けている。響も翼とクリス同様、戦いの中でギアを破壊され、自身も意識不明の重傷を負い、未だ目を覚ましていなかった。

 今、電力が失われれば、ギアの改修だけでなく響の命まで危険に曝されることになる。

 

【マリア】

「……ただやられるのを見ていることしか出来ないなんて。私に力さえあればっ――」

【未来】

「マリアさん……」

 

 翼の隣でモデル顔負けの美貌とスタイルを持つ女性が、拳を握り締め、絞り出すように呟いた。

 彼女の名はマリア・カデンツァヴナ・イヴ。装者の中で最年長に当たり、翼と並ぶ人気歌手でもある彼女だが、【フロンティア事変】では自分を慕う二人の少女と共に響たちと敵対していた。

 紆余曲折を経て響たちと和解、共に世界の危機を救ったものの、自身のシンフォギアは響に受け継がれ、今は戦う術を失っている。

 

【あおい】

「地上部隊の損害拡大!撤退を開始します!」

【藤尭】

「アルカ・ノイズ、施設への攻撃を再開!本部への電力供給率40%に低下!」

 

 自衛隊の必死の抵抗も、僅かばかり侵攻を遅らせるに留まった。アルカ・ノイズは敗走する人間達には目もくれず、破壊活動を再開する。基地施設が爆発・炎上する度、指令室にいる全員の胸に無力感が広がっていった。

 

 

 

海上自衛隊敷地内――

 

 自衛隊を蹴散らし、発電施設への進撃を再開するアルカ・ノイズ。

 そんな異形の群れを建物の屋上から見下ろす二つの影があった。

 

【調】

「良かった。まだ、発電所は動いてるみたい」

【切歌】

「自衛隊の人達が頑張ってくれたお陰デス!」

 

 所々が壊れながらも送電が断たれていないことを確認し、月読調(つくよみ しらべ)暁切歌(あかつき きりか)は胸を撫で下ろした。

 シンフォギアを纏う者達の中で最年少である彼女たちは、マリアと共に世界を敵に回した過去を持つ。しかし、幼さの中にしっかりとした信念を胸に宿す彼女達は、自らの過ちを認め、【S.O.N.G】メンバーと同じ道を歩み始めた。

 

 そして今も、自分達の意思で、自分達にできることを成そうとこの場にいる。

 

【調】

「……次は私たちの番だね、切ちゃん」

 

 最も小柄で人形ように可憐な容姿の少女は、決意に満ちた強い眼差しで並び立つ親友に目を向ける。

 その視線を真正面で受け止め、自身の金髪のように明るい心根の少女は、特徴的な口調で応じた。

 

【切歌】

「そうデスね、調!行くデス、一緒に!」

【調】

「うんっ!」

 

 二人は互いに頷き合い、首から下げた赤いペンダントを握り締め目を閉じると、それぞれの胸に浮かんだフレーズを口ずさんだ。

 

【調】

「Various shul shagana tron……」

 

【切歌】

「Zeios igalima raizen tron……」

 

 静かだが、心に響く清らかな祈り。その祈りに共鳴するように、胸のペンダントが光を放った。

 ペンダントはエネルギーを放出し、調と切歌を包み込む。彼女たちの着ていた未来と同じ制服は光によって分解され、代わりに露出度の高めな戦装束が各部を覆う。

 調はピンク、切歌は緑の鎧とそれぞれの固有武器を携え、胸に共通の赤い結晶を輝かせる姿へと『変身』した。

 

 これこそが人類を二度も救済したFG式回天特機装束、【シンフォギア・システム】。

 

 神話や伝承に由来する≪聖遺物≫の欠片をコアとし、装者の≪聖詠≫によって起動・装着して戦う力とする。

 元となった聖遺物によって異なった特性や固有武装≪アームドギア≫を持つが、その全てが『歌』によって生成される≪フォニックゲイン≫をエネルギー源とする点で共通していた。

 

 調と切歌の二人も、それぞれのギアから流れてくる旋律に合わせて歌いながらアルカ・ノイズに向かっていった。

 

♪ジェノサイドソウ・ヘヴン

 

【調】

「やああああっ!」

 

≪α式 百輪廻≫

 

 調は、黒髪のツインテールに装着されたアームドギアから小型の鋸を無数に放ち、地上を這い回るアルカ・ノイズを伐り刻んだ。

 

 彼女のシンフォギア、塵鋸≪シュルシャガナ≫は、シュメール神話の戦女神ザババが振るいし『紅き刃』を起源に持つ。

 このギアの特徴は、脚部ローラーを用いた高速滑走とアームドギアから展開される回転鋸であり、高速機動で撹乱しつつ、対象を轢断する戦法を得意とする。

 

 調は着地すると、今度はアームドギアを大きな回転鋸に変えて近くの敵を裁断する。

 その後方では、切歌がアームドギアの大鎌から3枚の刃を飛ばし、3方向の敵を同時に切り伏せた。

 

≪切・呪リeッTぉ≫

 

 緑の獄鎌、≪イガリマ≫。

 調のシュルシャガナと同様、ザババの振るったもう一つの武器『緑の刃』を起源とする。

 アームドギアは身の丈以上になる大鎌で、その一振りは複数の敵を同時に切り払う。また、肩部アーマーにはワイヤーアンカーとブースターを備え、これを用いた空中機動も可能であった。

 

 切歌が新たな刃で以て別の敵を切り倒すと、同じく敵を伐り捨てながら近寄ってきた調とピッタリ背中を合わせる。

 

【切歌】

「悪くないデスッ!」

 

【調】

「うんっ」

 

 二人はお互いの調子を確認し頷き合うと、施設から自分達に攻撃対象を変更した異形の群れに再び突っ込んでいった。

 

【マリア】

『調!切歌!』

【調】【切歌】

「「マリア!」」

 

 更なる出力を引き出す為、歌を紡ごうとした時、ギアの通信機能を介して二人の『家族』の声が聞こえた。敵を倒しながら通信に耳を傾けると、マリアだけでなく指令室にいる彼女の仲間たちの声が流れてくる。

 

【弦十郎】

『お前達!自分が何をしているか分かっているのか!?』

【切歌】

「もちろんデスともっ!」

【調】

「私達が時間を稼いでいる間に、強化型シンフォギアの完成をお願いします!」

 

 弦十郎の怒鳴り声に、切歌と調は即答した。

 勝手なことをしているのは承知の上。黙って出撃した以上、帰ったらキツいお説教が司令や先輩から下されるだろう。にも関わらず二人がここにいるのは、何がなんでも助けたい人がいるからだった。

 

 立花響。

 同じシンフォギアを纏う仲間にして学園の先輩。そして、二人とマリアの心を救ってくれた人。

 今、彼女は戦いの果てに傷付き、いつ覚めるとも分からない眠りに就いている。発電施設がやられたら、彼女の命に関わるかもしれない。

 

【調】

「だから、退く訳にはいかない!」

 

 調と切歌は、気合を刃に乗せて戦場を駆け抜ける。

 そんな二人をアルカ・ノイズの解剖器官による攻撃が襲うが、ギアの特性を活かしたキレのある動きで躱し、反撃に転ずる。

 調はヘッドパーツから分離したギアをヨーヨーのように操り、変幻自在の軌道でアルカ・ノイズを伐り裂いた。

 

 【フロンティア事変】の折り、調は心無い言葉で響を傷付けた。

 何も分かっていない綺麗事だけの偽善者と。……本当に何も分かっていなかったのは自分だとも気付かずに。

 

 そんな調に、響は心からの言葉で向き合ってきた。敵であった時も、仲間となった今も。

 それに救われながらも、改めてお礼を、謝罪を出来ない自分に、調は後ろめたさを感じていた。だからこそ、彼女の窮地にいてもたってもいられず、親友の切歌と共に、今戦場に立っている。

 

【調】

「……強くならなければ。大切な人達を守れるように!」

 

 調は2つのヨーヨーをライフル弾のように射ち出し、敵の戦列に穴を開けると、間隙を縫うように密集地帯に入り込みフィギュアスケーターのように回転した。

 

≪艶殺 Δアクセル≫

 

 回転によって舞い上がったスカートが伸び、硬質な刃となって周囲のアルカ・ノイズを伐り刻む。

 四散したアルカ・ノイズの赤い霞みが漂う中を、調はまるでスケートリンクを優雅に舞うように滑り出た。

 

【調】

(あと20分、絶対に持ち堪える!響さんの為にも!)

 

 

 

指令室――

 

【クリス】

「バカッ、早く戻れ!またギアからのバックファイアで――」

【あおい】

「二人のバイタル、安定?ギアからのバックファイアが低く抑えられています!」

 

 モニターで切歌と調の戦いを見守っていた面々は、あおいの報告に驚きを隠せなかった。

 調・切歌・マリアの3名は、本来ならシンフォギアを纏えるだけの適合係数を持っていない。適合係数が基準に満たない者が無理にギアを纏えば、ギアからの深刻な負荷(バックファイア)によって身体を蝕まれ、最悪纏ったシンフォギアによって殺されることになる。

 

【クリス】

「どういうことだよ!?あいつらの適合係数じゃ、LiNKER無しじゃ――ッ!まさかっ!?」

 

 二人が平然とギアを纏って戦っている様を見て、クリスはある可能性に思い至り、言葉を詰まらせた。他の者も同じ考えに至ったらしく、緒川が緊張した心当たりを口にした。

 

【緒川】

「……さっきの警報、そう言うことでしたか」

【弦十郎】

「ああ。……あいつら、メディカルルームからLiNKERを持ち出しやがった」

 

【翼】

 

「まさか、モデルKを?奏の遺したLiNKERを……」

 

 ≪LiNKER≫。

 適合係数が基準値に満たなくても、ある程度の素質さえあれば、ギアを纏えるレベルまで適合係数を上昇させる、云わばドーピング剤。

 それ故に代償も大きく、耐性の低い者に投与すればショック症状に見舞われ、最悪廃人となるか死亡する。

 

 嘗て翼とデュオを組み、共に歌い戦った天羽奏(あもう かなで)はこの忌まわしき薬剤の被験者であり、シンフォギアを纏うことに成功したモデルケースであった。

 彼女の遺した観測データを元にLiNKERは開発・量産され、調達、後天的適合者を生み出した。

 当初に比べれば幾らか危険性は減ったとは言え、効果時間に限りがあり、使用後は体内洗浄等のリカバリを必要としている。

 

【マリア】

「あの子たち……っ」

【調】

『ギアの改修が終わるまで!』

【切歌】

『発電所は守ってみせるデス!』

 

 決意の刃を携えた二人の少女は、アルカ・ノイズの赤き血霞の中を舞い踊るように駆け抜けた。

 

【響】

「……調ちゃん?切歌ちゃん?」

 

 そんな声が聞こえ、全員が指令室の扉に注目する。

 扉の前には、病人服に身を包み、腕や頭に痛々しい包帯を巻いた少女が立っていた。

 

【未来】

「響っ!」

 

 未来は親友の名を呼びながら一目散に駆け寄り、目の前にいる彼女が本物か確かめるように勢い良く抱き着いた。

 響は自分を心配して涙してくれる親友を気遣うように、優しく頭を撫で、抱き返す。

 

【響】

「……ごめん、未来。心配かけて……」

【翼】

「立花!」

【弦十郎】

「響くん、もう良いのか?」

 

 自分を心配してくれるかけがえのない人達に頷き応えると、響は強い光を帯びた瞳で弦十郎を見る。

 

【響】

「……状況、教えてください」

【あおい】

「……見ての通りよ。現在、調ちゃんと切歌ちゃんがアルカ・ノイズと交戦中」

【クリス】

「LiNKERまで持ち出して勝手にな……!」

 

 悔しそうに唇を噛み締めながら絞り出すクリスに、響も胸が締め付けられる想いだった。

 戦うことへの迷いから一時はギアを纏うことができなくなり、未来のお陰で迷いを振り切った矢先、敵によってギアを破壊されてしまった。そのせいで、自分よりも小さい二人に辛い想いをさせることになってしまっている。

 

【響】

「……やっぱり、私の拳じゃ何も守れないのかな?」

【未来】

「響……」

 

 響の心の内を悟り、今度は未来も励ましの言葉をかけることが出来なかった。

 響は心配する親友の視線を知ってか知らずか、頭を振って気持ちを無理矢理切り替えると、奮戦する後輩達に目を向けた。

 

【藤尭】

「アルカ・ノイズ、残存数僅かです!このまま行けば――」

 

 オペレーターの藤尭が、見えてきた希望を口にしようとした時、

 

【???】

『そぉぉぉリャアアアアアッ!』

 

 奇妙な声が聞こえた瞬間、アルカ・ノイズを切り伏せた切歌に向かって何者かが奇襲を仕掛けてきた。

切歌は素早く反応して敵の攻撃を受け止めるも、もう片方の腕に持った鈍器の一撃に吹き飛ばされ、助けに入ろうとした調共々近くの建物に激突した。

 

【調】【切歌】

『『うああああああああああっ!?』』

【マリア】

「調!切歌!」

【翼】

「新手か!?」

 

 切歌の立っていた場所に降り立った存在は、まるでピエロのような振る舞いで、手に持つ赤い結晶状の武器を弄んでいた。

 切歌や調と大差無い小柄な身体に、熊手のような手と燃えるような赤いロール髪。その姿に、【S.O.N.G】のメンバーは見覚えがあった。

 

【響】

「あれは……!」

 

 響は拳を握り締める。あれこそ、自分のギアを破壊した張本人。

 キャロル・マールス・ディーンハイムの従える4体の自動人形(オートスコアラー)の一体、ミカ・ジャウカーン。エルフナインの言によれば、戦闘に特化した最強の自動人形(オートスコアラー)だ。

 

【ミカ】

「ジャリンコども~。私は強いゾ!」

 

 自身の戦闘能力を誇示するように余裕の態度で宣うミカ。その視線の先で、調と切歌が瓦礫を押し退けながら立ち上がる。

 

【調】

『子供だと馬鹿にして……!』

【切歌】

『目にもの見せてやるデスよ!』

 

 言うなり二人は懐から緑色の液体の入った拳銃のような物を取り出す。それを見た指令室の面々は一様に息を飲んだ。

 

【未来】

「更にLiNKERを!?」

 

 LiNKERの投与量を増やせば、適合係数が更に上昇しギアの出力も増大する。しかしそれ以上に、身体に掛かる負担はLiNKER1本とは比較にならず、仮に敵に勝利できても自分の身体も朽ち果ててしまうかもしれない。

 

【弦十郎】

「二人を連れ戻せ!これ以上は――」

【マリア】

「やらせてあげてください!」

【未来】

「マリアさん!?」

 

 弦十郎の声を遮ったのは他でもない、二人と幼い頃から辛苦を共にしてきたマリアだった。

 

【マリア】

「これはあの日道に迷った臆病者達の償いでもあるんです」

【弦十郎】

「臆病者達の償い?」

【マリア】

「……誰かを信じる勇気が無かったばかりに、迷ったまま独奏した私達」

「だから、エルフナインがシンフォギアを蘇らせてくれると信じて戦うこと。それこそが、私達の償いなんです!」

【クリス】

「トンチキなこと抜かすな!それであいつらに何かあったら――ッ!?」

 

 可愛い後輩を想うあまりマリアの胸ぐらを掴み上げたクリスは、マリアが血を流すほど唇を噛み締めているのを見て言葉を詰まらせた。

 できることなら自分が代わりにその責を負いたいのに、戦う術を持たぬ故にそれも叶わない。

 それでも、今為さねばならない最善の為に、必死に屈辱に耐えようとしている。

 

【切歌】

『ありがとうデス、マリア……』

 

 通信で成り行きを聞いていた切歌の言葉に、全員の視線がモニターに戻る。

 調と切歌は向かい合い、互いの首筋に無針式シリンダーを押し当てた。

 

【調】

『二人でなら……』

【切歌】

『怖くないデス!』

 

 トリガーを引くと、緑の薬液が二人の身体に注入されていった。するとすぐに薬が全身に回り、二人はよろめく身体を支え合う。

 何かが込み上げてくる感覚に鼻を押さえると、掌に鮮血が付着していた。

 

【調】

過剰投与(オーバードーズ)……』

【切歌】

『鼻血がなんぼのもんかデス!』

【調】

『行こう切ちゃん。一緒に!』

【切歌】

『切り刻むデス!』

 

 二人は、LiNKERを投与する間も高みの見物を決め込んでいたミカに向き直る。

 切歌は両肩のアーマー内から二振りの鎌を新たに取り出すと、2本を合体させ、三日月を背中合わせにしたような形状の大鎌を作り出した。

 

≪対鎌・螺Pぅn痛ェる≫

 

 調もツインテールのギアから大型の回転鋸を展開、高速回転によって威嚇するような音を響かせる。

 

【ミカ】

『オォッ!面白くしてくれるノカ~!?』

 

 言うなりミカは赤い結晶状のカーボンロッドを投擲してくる。それを合図に、二人はミカに向かって突撃した。

 

♪Just loving X-Edge

 

 迫り来るカーボンロッドの砲弾を、切歌は合体鎌で弾き飛ばし、間合いに入るなり横一文字の斬撃を放った。一瞬受け止められはしたものの、その威力はカーボンロッドを粉砕し、ミカは後退する。

 その隙に、今度は調が大型化した回転鋸2本を投擲した。

 

≪γ式 卍火車≫

 

 回転刃の連撃は野球のバットのように振り回したカーボンロッドに弾かれるも、調は間を開けず、ギアを自身を中心に回る車輪状に変形させ、そのまま敵に突っ込む。

 その膂力は小柄の調のものとは思えず、ミカも今度は弾けずカーボンロッドを破壊された。

 

【藤尭】

「更なる適合係数の上昇で、ギアの出力も上がっています!」

【あおい】

「二人のユニゾンが数値以上の効果を発揮しています!」

 

 ≪シュルシャガナ≫と≪イガリマ≫は同じ神格武装を起源とする。故に同時運用、歌を共鳴させることで更なる力を発揮することができる。

 

【弦十郎】

「だが、この輝きは時限式だ」

【マリア】

「それでも調と切歌なら、目の前の茨を切り刻み、道を拓いてくれる!」

 

 二人はその後も一糸乱れぬコンビネーションでミカを攻め立てた。同時攻撃で防御を崩すと、調は2つのヨーヨーを合体させ、巨大な2枚刃の回転刃に変えてミカに叩き付ける。

 

≪β式 巨円断≫

 

 ミカは掌から発生させた炎の障壁でそれを弾くも、二人は既に次の攻撃に移っていた。

 ≪巨円断≫は囮。真の切り札は、親友二人の合体攻撃。

 

 調と切歌は手を取りながら跳躍し同時に回転すると、それぞれの脚部アーマーから鋸と鎌を出現・巨大化させ、落下の勢いを乗せて同時に蹴り込んだ。

 

【切歌】【調】

『『ハァァァァァァァァァッ!!』』

【ミカ】

『――ドッカーン!!』

 

 二人は更なるユニゾンで敵の障壁を突破しようとするも、ミカは球体状に膨張させた障壁内に炎を溢れさせ、内側から炸裂させた。

 大爆発が起こり、余波が基地の施設を壊していく。停泊中の本部にまで衝撃が届き、指令室の面々も近くにあるものに掴まって何とかやり過ごしていた。

 

【クリス】

「クッソォ!あいつらは!?無事なんだろうな!?」

【マリア】

「調!切歌!」

 

 藤尭とあおいが急いで乱れたモニターを復旧させる。そこには、爆発に巻き込まれ、真っ黒になりながら倒れ伏す調と切歌の姿があった。

 

【響】

「調ちゃん!切歌ちゃん!」

【調】

『うっ……、響、さん……?』

【切歌】

『……良かった。無事だったんデスね?』

【響】

『――ッ。うんっ、うんっ!二人が守ってくれたお陰だよ!』

 

 響の声に気付き、二人は互いを支えながら何とか立ち上がる。

 しかし、二人の身体とギアは既に限界を迎えつつあった。

 

【弦十郎】

「もういい!二人とも下がれ!」

【切歌】

『まだ、デス!』

【調】

『まだ、もう一つの目的が果たされていません。強化型シンフォギアの完成までは……!』

【翼】

『その身体でこれ以上の防衛は無理だ!後は我々に任せて――』

【調】【切歌】

『『それじゃ、嫌なんです(デス)!』』

 

 弦十郎と翼の説得、調と切歌は悔しげな顔で首を振った。

 

【調】

『折角、響さんが目覚めてくれたのに、発電所が守れなかったら意味がない。結局、何も変えられない……!』

【切歌】

『こんなに頑張っているのに!……どうしてデスか?こんなの嫌デスよ!変わりたいデス……!』

 

 切実な二人の叫び。だが命の無い戦闘人形は、二人の想いをただ嘲笑う。

 

【ミカ】

『なかなかだったゾ~。でも、そろそろ遊びは終わりだゾ!』

【切歌】

『遊び?……ふざけるな、デス!』

【調】

『切ちゃん!?ダメッ!』

 

 ふざけた調子で今までの戦いはお遊びと断じたミカに、ふらついていた切歌は足に鞭打ち、がむしゃらに突っ込んでいった。

 

【切歌】

『でやぁああああああ!』

【ミカ】

『……ニヒャ』

 

 気合いとは裏腹に、切歌の突進はミカにとっては止まっているのと同義だった。

 相変わらずの道化師のような笑みを浮かべた後、ロール髪内に搭載されたブースターを点火し、一気に切歌に迫った。

 

【ミカ】

『バイナラ~!』

 

 一瞬で目の前に現れたミカに驚き、目を見開く切歌。

 動きが鈍った彼女に向かって突き出した腕から高硬度カーボンが飛び出し、切歌の胸に命中する。痛烈な一撃はイガリマのコアを的確に捉えていた。

 コアはまるでガラス細工のように粉々に砕け散り、切歌の身体も道端の小石のように軽々と飛ばされ、何度も地を跳ねた。

 

【切歌】

『あぐっ!?……がはっ』

 

 漸く止まった瞬間、切歌のギアは解除され、一糸纏わぬ姿となってしまった。

 

【調】

『切ちゃん!!』

【響】

「切歌ちゃん!!」

 

 一部始終を見ていた全員が切歌の安否に固唾を飲む。響の時のように重傷ならすぐに救助しなければ命に関わる。

 調は親友のいち早く駆け寄ろうとシュシャガナを駆った。しかし、その進路はミカの放ったカーボンの砲弾に阻まれる。

 

【ミカ】

『余所見してると後ろから狙い撃ちだゾ~?』

【調】

『邪魔をしないで!』

 

 親友を危機に陥れた相手を涙が滲んだ瞳で睨みながら、調はギアから4本もの回転鋸を展開した。

 

【ミカ】

『仲良し小好しでオマエのギアも壊してやるゾォ~!』

【切歌】

『……うっ。しら、べ……?』

【調】

『――ッ!切ちゃん!……良かった』

【切歌】

『調……、早く、逃げるデス……』

【ミカ】

『逃がさないゾ~。マスターから好きにしていいって言われたし、コイツらで可愛がってやるゾ!』

 

 ミカは両手一杯にアルカ・ノイズ召喚用ジェムを取り出すと、全てバラ撒いた。

 ジェムは地面に落ちると赤い召喚陣を描き、そこから無数のアルカ・ノイズが競り出してくる。

 

【翼】

「これ以上は危険だ!」

【マリア】

「逃げなさい、調!」

 

 傷付いた身体にはあまりに絶望的な物量差。

 切歌だけでなく仲間達全員が撤退を指示するが、調は頑としてその場を離れようとしなかった。

 

【調】

『切ちゃんを置いて逃げるなんてできない!私の命は切ちゃんに救われた命だもの!』

『切ちゃんを救う為に全部使うんだ!!』

 

【ミカ】

『始まるゾ……。バラバラ解体ショー!!』

 

 ミカの叫びを合図に、一方的な蹂躙が始まった。

 調は寄せ来るアルカ・ノイズを片っ端から伐り刻む。だが、伐っても伐っても異形の波は収まることが無かった。

 解剖器官による攻撃で回転鋸の一つが破壊される。調は代わりにヨーヨー鋸を手に取り、攻撃の手を補おうとしたが、敵が調のギアを破壊するスピードの方が遥かに速かった。

 

【クリス】

「やめろぉ!!それ以上、あたしの後輩を傷付けたらぶっ殺すぞ!」

【未来】

「お願いっ!もう逃げてよぉ!」

【弦十郎】

「クソッ、緒川!!」

【緒川】

「はいっ!!」

 

 ボロボロになっていく小さき背中を見て、悲痛な叫びが指令室に溢れる。

 弦十郎の指示で緒川が救援に向かおうとした時、ドアが開き、肩で息をしたエルフナインが入ってきた。

 

【エルフナイン】

「お、お待たせしました!翼さん、クリスさん!これを!」

 

 彼女が差し出したのは2つの赤い結晶。修復・強化を終えた翼の≪天羽々斬≫とクリスの≪イチイバル≫のコアだった。

 

【エルフナイン】

「これならアルカ・ノイズの分解能力を無効化できます!」

【翼】

「良くやった、エルフナイン!行くぞ、雪音!」

【クリス】

「おうっ!待ってろよ!今すぐ――」

【マリア】

「調!!」

 

 マリアの悲鳴にも似た声に、飛び出していこうとした翼とクリスは慌てて振り返る。

 視線の先では、アルカ・ノイズの攻撃でコアを破壊され、群れの真ん中に倒れる調の姿が克明に映し出されていた。

 アルカ・ノイズは自分達の前に転がる弱った獲物を見下ろしながら、主の命令を待っている。

 

【ミカ】

『すぐに壊しちゃダメだゾ。……虫みたいに手足を1本1本千切ってから()るんだゾ!』

 

 無邪気に放たれた残酷な命令。それ聞いた色鮮やかな解体者達は、その魔手を生まれたままの姿で横たわる少女に伸ばした。

 

【響】

「調ちゃん!!」

 

 ここの場にいる誰にも彼女を救うことは叶わない。ただ何もできない自分達を呪いながら、仲間が無慈悲に陵辱される様を見ているしかいない。

 

 指令室が絶望感に包まれようとした――その時、

 

【あおい】

「な、何?これ……」

 

 手元のモニターを見ながら、あおいが呟いた。その声には明らかな戸惑いの色が滲んでいる。

 

【弦十郎】

「何だ!?」

【あおい】

「な、何かがこの基地に急速接近中です!」

【緒川】

「何か?」

【藤尭】

「まさか、別の自動人形(オートスコアラー)じゃないだろうな!?」

【あおい】

「違うわ!この反応は――≪アウフヴァッヘン波形≫!?」

 

 それは、シンフォギアが発する特殊なエネルギーを示すものだった。

 

 

 

海上自衛隊敷地内――

 

 切歌は傷付いた身体をおして、無情にも命を刈り取られようとしている親友を助けようともがいた。しかし、身体は言うことを聞いてくれず、辛うじて上体を持ち上げるに留まった。

 

【切歌】

「誰か、助けて欲しいデス……。私の、大好きな調を……」

 

 切歌は必死で助けを乞う。

 調を喪いたくない。誰よりも側にいてくれて、これからもずっと隣にいるはずの彼女を誰でもいいから助けて、と。

 

 だが、彼女の懇願を聞き届ける者は誰もいない。

 脳裏に浮かぶのは、月の光のように儚くも美しい笑みを自分に向けてくれる親友の顔。自分の命を捨ててでも守りたい笑顔。

 

 それが、永遠に喪われようとしていた。

 

【切歌】

「誰かぁぁぁ!!」

 

 切歌の絶叫が戦場に木霊する。あまりにも非情な運命に、閉じた彼女の目からは涙が止まらなかった。

 

………………

…………

……

 

【切歌】

「…………え?」

 

 固く目を閉じ、目の前で繰り広げられるであろう惨劇から目を背けていた切歌だったが、微かな物音すら聞こえてこないことを疑問に思い、恐る恐る目を開け唖然とした。

 調に襲いかかったはずのアルカ・ノイズが、1体残らずその場で停止していたのである。まるで石にでもなってしまったかのようにピクリとも動かない。

 

【切歌】

「一体、どうしたデスか?……調!?」

 

 呆気に取られていた切歌は、調の安否を確認しようと視線を巡らせる。すると、立ち並ぶアルカ・ノイズの足の間から、怯えて蹲る少女の姿が目に留まった。

 

【切歌】

「調っ!!」

 

 生きていた。親友が無事だったことに、切歌は安堵しながら涙する。

 その声が届いたのか調もおずおずと涙の溜まった目を開き、何が起こったのか分からないといった顔で、自分を取り囲む敵を見上げていた。

 

【ミカ】

「オマエ等どうしたんだ!?何で勝手に止まるんだゾ!?」

 

 ミカも流石に困惑し、アルカ・ノイズへ近付いていった。

 その時、突如として全てのアルカ・ノイズが動き出し、ミカの方を振り向いた。……正確には、ミカの後方を。

 

【ミカ】

「オワッ!?いきなり動くな、びっくりしたゾ――!?」

 

 言い終わるか終わらないかといったそんなタイミングで、基地敷地内に激しい衝撃音が響いた。ミカはビクッと身体を跳ねさせ、上半身だけを真後ろに向ける。

 

 音がしたのは、海に面した岸壁だった。

 だが、そこは綺麗に舗装・整備されていたのが嘘のように抉り上がっており、東京湾の奥の方に位置する土地とは思えない高さの水柱が立っていた。

 予想だにしない光景に、ミカも調も切歌も固まっていた。

 そんな彼女達の前で、水柱がアスファルトに向かって滝のように叩き付けられ、当たりに海水が散乱する。

 

 その丁度中心に、『ソレ』は佇んでいた。

 

【切歌】

「きょう、りゅう……?」

 

 現れた存在を見た切歌は、調と響と未来、そしてその友達と一緒に観に行った映画に出てきた遥か昔の生き物を思い浮かべていた。

 彼女の言は半分正しい。ソレは嘗て恐竜()()()存在なのだから。

 

 海から現れた存在は、身長約2mと恐竜にしても小型な体躯だった。

 その身体は不気味な赤黒い霧のようなもので覆われ、輪郭がハッキリとしていないが、その色合いは奇しくも、死ぬ間際のそれと同じであった。

 小さめの頭部にがっしりした手足を備えた直立二足歩行骨格を持ち、背中には3列の鋭い背鰭が身長以上の強靭な尻尾まで連なっている。

 この特徴を聞けば、元いた世界の人間は誰もがこの存在を思い浮かべるだろう。

 

≪ゴジラ≫

 

 不死身の生命と無双の強さを誇る怪獣の王。本来ならばこの世界には存在しないはずの破壊の神。

 

 半年前の【ルナアタック】。この世界に様々なパラダイムシフトをもたらしたかの大事件は、並行世界との境界線までもを歪め、この大いなる者の魂をこの世界に呼び込んでいたのだ。

 

『ガァアアアオオオォオォォォンッ!!』

 

 天を仰ぎゴジラは咆哮する。雄々しく高らかに、己が存在をこの新世界に誇示するように。

 

 何者にもまつろわぬ王の咆哮は、以前と変わらず地海空、全ての領域に轟いた――。




次回、ゴジラが最強の自動人形(オートスコアラー)、ミカと激突します。

Pixivではアンケートを実施していましたが、ハーメルンでは実施致しません。興味のある方はPixiv版へお越しください。

でわ、また次回お会いしましょう!

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