戦姫絶唱シンフォギアGX ~破・壊・神・転・生~   作:GGG@ハーメルン

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第3話投稿します。

物語の黒幕、キャロルが来襲!!
響・翼・クリスはイグナイトモジュールを搭載した強化型シンフォギアで迎え撃つが……。
そして遂に、転生したゴジラの新たな姿が明らかに!

本作では、【ゴジラ】シリーズおよび【戦姫絶唱シンフォギア】シリーズのネタバレやオリジナル要素を多分に含みます。
ネタバレやオリジナル設定、ゴジラの人間への転生などに抵抗のある方はご遠慮頂いた方が良いかと思われます。
「それでも良い!」という方は、駄文ですがお付き合い頂けると幸いです。

 では、どうぞ。

OP:Exterminate

劇中歌:限界突破 G-beat

ED:Reason(玉置成実)


#03 覚醒-HENSHIN-

S.O.N.G移動本部 指令室――

 

 昨日の衝撃冷めやらぬ中、突如として来襲した貴族風のローブを纏った少女の姿に、指令室の空気が張り詰めた。

 

【翼】

「キャロル・マールス・ディーンハイム……!」

【クリス】

「ラスボス本人がご登場かよ!」

 

 思いもよらぬ展開に驚くS.O.N.Gメンバー。そんな彼女達の前で、錬金術師の少女は手元の魔方陣から風や炎を召喚し、基地施設を攻撃し始めた。

 

【弦十郎】

「くぅっ!?(やっこ)さんは、どうしてもこの基地を落としたいらしいな!」

【あおい】

「あの規模の攻撃を受け続ければ、基地は数分と保ちません!」

 

 アルカ・ノイズを上回る破壊力の前に、現代科学の軍施設など積み木の城に等しかった。逃げ惑う自衛隊員を容赦なく爆風が襲うのを見て、響は拳を握りながら決意する。

 

【響】

「……行かなきゃ」

【未来】

「響?」

【響】

「キャロルちゃんを止めなきゃ!どんな理由があっても、こんなことさせちゃいけない!」

 

 大きな力は、正しく使えば多くの人を助けることができる。それをただ自分のために、他人を傷付けるために使うことを、響は肯定することはできなかった。

 

【エルフナイン】

「響さん……」

 

 自身の創造主であるキャロルの強大さを誰よりも理解しているエルフナインは不安な表情を浮かべるが、そんな不安を吹き飛ばす笑顔で響は答えた。

 

【響】

「大丈夫だよ、エルフナインちゃん!私にはエルフナインちゃんから貰った新しい拳があるんだから!」

 

 響は首から下げた赤いペンダントを取り出す。響のシンフォギア、≪ガングニール≫もエルフナインによって強化・改修を施され、響の元へ戻ってきていた。

 

【翼】

「拳だけではないぞ。ここには、君に鍛えて貰った新たな剣と弓もある」

【クリス】

「バカばかりに良い格好させちゃ、先輩の面子が立たねぇしな」

 

 響に続き、翼とクリスも自身の相棒をその手に取る。

 新たな力を得た3つの聖遺物は、装者の気持ちに応えるように煌めいた。

 

【エルフナイン】

「翼さん、クリスさん……」

【響】

「一人じゃない。みんな一緒」

「だから、へいき、へっちゃらだよっ」

 

 それは、挫けそうになる自分を奮い立たせてきた魔法の言葉だった。

 満面の笑みをエルフナインに向けた後、響は表情を引き締めて弦十郎に向き直る。

 

【響】

「……行きます!」

【弦十郎】

「……分かった。その気持ちと新たな力、存分にぶつけてこい!」

【響】

「はいっ、師匠!」

 

 響・翼・クリスの3人は指令室を飛び出していく。3人の背中を心配そうに見送る未来とエルフナインだったが、マリアは二人の肩に手を置きながら安心させるように微笑む。

 

【マリア】

「あの3人なら大丈夫。だから、私達は信じて見守りましょう」

【エルフナイン】

「マリアさん……」

【未来】

「……はいっ」

 

 共に戦う事が出来なくとも、せめて想いだけは一緒に。マリアの言葉の中にある想いに気付いた二人はしっかり頷くと、戦場となるメインモニターに視線を移した。

 

 

 

海上自衛隊基地 敷地内――

 

【キャロル】

「他愛もない。戯れで散り逝くなど、人もそれが作りし物も何と脆いことか」

 

 僅かばかりの本気も出していないにも関わらず、一国家を守る軍隊が逃げ惑うばかりである現状にキャロルは嘆息した。同時に自らの目的に対し、より価値を見出だす。

 こんな不完全な者達の犠牲など、万象を暴くことに比べれば塵よりも小さいと。

 

【キャロル】

「そうだ。オレは何としても≪万象黙示録≫の完成に至る。故に世界よ、砕けて滅べ!」

【響】

「そんなことさせないよ!」

 

 答える者などいないはずの戦場で、異を示す答えが返ってきた。

 ……いや、キャロルは待っていた。自らの前に立ちはだかる者達の存在を。

 

 視線を下に向けると、砕けひび割れた敷地内に3人の少女が立っていた。

 

【キャロル】

「……来たか」

【響】

「もうやめて、キャロルちゃん!世界を壊して得るものに価値なんて無いよ!」

【キャロル】

「それを決めるのはお前ではなくオレだ。壊し暴いた結果が取るに足らないものだったのなら、この世界はその程度だったというだけのこと」

【クリス】

「そんな興味本意の実験、尚更許す訳にはいかねぇな!」

【キャロル】

「お前達の許しなど要らぬ。全てはオレが決め、オレが為す」

【翼】

「あくまで考えを変える気は無いか」

【キャロル】

「知れたこと。ならばお前達はどうする?」

【響】

「……止めるよ。世界が壊れたら沢山の人が死んじゃう。そんなの絶対にダメ!私と私の胸の歌は、誰かを助ける為にあるんだから!」

【キャロル】

「……面白い。なら歌え!オレを満足させられるだけの歌をな!」

 

 話は終わりとばかりに、キャロルは無数のテレポートジェムをばら撒く。

 弾けた宝石より溢れた光から、アルカ・ノイズの大群が召喚された。

 

【翼】

「雪辱戦だ。行くぞ、雪音!立花!」

【クリス】

「おうっ!」

【響】

「はいっ!」

(……行くよ。ガングニール!)

 

「Balwisyall Nescell gungnir tron……」

 

 胸のペンダントを空に掲げ、響は胸に浮かんだ聖詠を口ずさむ。

 すると、赤いペンダントが弾け、聖遺物の放つエネルギーが身体を包み込み、それまで着ていた制服を分子分解後、エネルギーは適合者を纏う鎧に姿を変える。

 

 腹部の露出を始め、健康的な身体のラインがはっきり分かる薄手の装束とブースターを内蔵したスカートアーマー、少女が纏うには重々しい印象を与える籠手(ガントレット)具足(レッグアーマー)、最後に角のような意匠のヘッドギアと2枚の羽のようなマフラーが伸びる。

 

【響】

「ハァァァ……、ハッ!」

 

 功夫のような型を決めた後、気合いの声と共に、白と黄色を基調とした戦姫が戦場に降り立った。

 

【響】

(……おかえり、ガングニール)

 

 自分の纏うギアを見て、胸の中で呟く。

 たった一週間とはいえ、これまで常に共にあった相棒の不在は、響の胸中に不安と寂しさを抱かせていた。

 しかし、完膚なきまでに破壊されながらも自分の元に戻ってきたガングニールは、そんな心の影を一瞬で打ち砕いてくれた。

 

【翼】

「剣と弓、そして拳が再び揃った」

【クリス】

「新しい力で全部平らげてやる!」

 

 翼とクリスも、それぞれ青と赤を基調としたシンフォギアを纏い、響と並び立つ。

 

【響】

「守ってみせる!私の、私達の歌で!」

 

 響の言葉を合図に、3人はそれぞれアルカ・ノイズへと向かっていった。

 

♪限界突破 G-beat

 

 正面の敵に突貫しながら、響は胸に浮かぶ歌を熱く叫びながら右拳を突き出し、目の前の人型ノイズ数体をまとめて殴り飛ばした。

 

 撃槍≪ガングニール≫。

 その名の通り、北欧神話の主神、オーディンが携えた神槍を起源とする。しかし響は、歴代の適合者である奏やマリアのように槍のアームドギアを発現させることができない。

 無意識下で戦うことを忌避する彼女に、ガングニールは武器の形では応えなかった。しかし、戦うためではなく他者を守るため、救いたい者の手を掴むために、ガングニールは彼女の『拳』に力を与えた。

 

 響の四肢を包むプロテクターには、パワージャッキが内蔵されている。

 これを打撃の瞬間にパイルバンカーの如く撃ち込むことで、ガングニールの『投擲すれば万の軍勢をも打ち破る』と云われる無双の一撃を再現できるのだ。

 

【響】

「打ち破る!!」

 

 響は動きを止めず、周りを囲むアルカ・ノイズに向かって拳を向け、足を振り抜く。

 アームドギアに頼らない戦い方を身に付けるにあたり弦十郎から学んだ徒手空拳を、響は完全に自分のものにしていた。

 

 1つの集団を全滅させると、スカートアーマーのブースターを吹かせ、別の一団へ向かい己が拳を振るう。

 自分の信じる正義と想いを哀しき世界の破壊者に届けるために、優しき少女は平和を脅かす異形の群れを次々と蹴散らしていった。

 

 

 

S.O.N.G移動本部 指令室――

 

 未来達は、戦闘を開始した響達3人をモニター越しに見守っていた。そこへ、指令室のドアが開き、二人分の足音が駆け込んできた。

 

【マリア】

「調、切歌!?」

 

 足早に入室してきたのは、入院服を着た調と切歌だった。二人の頭や腕には包帯が巻かれ、可愛い容姿をしているため余計に痛々しい印象を与える。

 

【未来】

「二人とも大丈夫なの!?」

【エルフナイン】

「ダメですよ、まだ安静にしていなきゃ!」

【切歌】

「大丈夫デス!」

【調】

「私達もここにいさせてください!」

【弦十郎】

「ダメだ!お前達の身体は、LiNKERの過剰投与で見た目以上のダメージを受けている!無理をすれば戦士としてだけでなく、普通の人間としての生活もできなくなるぞ!」

 

 弦十郎は敢えて大きい声で二人に接したが、調も切歌も一歩も引く気を見せない。

 

【切歌】

「もう勝手なことはしないデス!だから、私達も一緒にいさせて下さい!」

【調】

「私達はちゃんと見届けたいんです!響さん達の戦いを!」

 

 これ程まで二人が食い下がるのには理由があった。

 指令室に来る前、二人は病室を抜け出し、出撃する響達の元へ向かっていた。

 自分達に力がなく、肝心な時に役に立てないことを謝るために。そんな二人に響は、

 

【響】

『ありがとう。調ちゃん、切歌ちゃん。私達がこうやってまた戦えるようになったのは、二人が守ってくれたお陰だよ』

 

 そう笑顔で告げていた。翼もクリスも、同じように二人の頑張りを認め、感謝する言葉を贈っていた。そして、

 

【響】

『だから、今度は私達が二人の分も頑張る!だから、二人は安心して待ってて!』

 

 別れ際のその言葉が、二人には嬉しかった。そして同時に、同じ志を持つ仲間として自分達にできることをしようと思い立ったのだ。

 共に刃を振るえずとも、心だけ想いだけでも一緒に戦おうと。

 

【未来】

「調ちゃん、切歌ちゃん……」

 

 二人の想いを聞き、反論する者は誰もいなかった。懇願するような眼差しの調と切歌。それに真っ先に応えたのは、やはりマリアだった。

 

【マリア】

「……司令、私からもお願いします。この娘達は命懸けで翼達にバトンを繋いでくれた。その成り行きを見守る権利をどうか……」

【未来】

「……私からもお願いしますっ」

【エルフナイン】

「僕も同じ想いです。お二人のお陰でシンフォギアの改修が間に合いました。だから、その功績に報いてあげてください」

【緒川】

「……司令」

 

 弦十郎は腕を組み瞑目していたが、緒川に声をかけられると、溜め込んでいた息を吐き出し、目を瞑ったまま口を開いた。

 

【弦十郎】

「……勝手にしろ。どうせ言っても聞かんのだからな」

【調】【切歌】

「「――ッ!ありがとうございます(デス)!」」

 

 その言葉に含まれた許容の意に、調と切歌は手を取り合って喜ぶと、マリアの近くまで移動しモニターを見上げた。

 モニターでは、中央突破をかける響の背中と、左右からアルカ・ノイズを掃討する翼とクリスが映し出されていた。

 

【翼】

『破ァァァァァッ!』

 

≪蒼ノ一閃≫

 

 翼は手持ちの刀を身の丈より遥かに大きい大太刀に変形させると、空中で袈裟懸けに振り下ろす。すると、刀から蒼き光の刃が放たれ、地上のノイズをまとめて消し飛ばした。

 

 絶刀≪天羽々斬(アメノハバキリ)≫。

 日本神話に登場する大蛇、八岐の大蛇を討ち滅ぼした須佐之男命(スサノオノミコト)の剣を起源とする。故にアームドギアは大小様々な刀剣を象り、鋭い斬撃で敵を斬り伏せる他、それに乗せて放つ光刃や炎で複数の敵を纏めて薙ぎ倒すこともできる。

 幼い頃から研鑽を続けてきた翼は、これ等の特徴を隅々まで掴んでおり、多種多様な技とその応用で装者中でも最高の戦闘技術を身に付けていた。

 

 翼は地上に降り立つと、大太刀を振るって近くのアルカ・ノイズを纏めて斬り倒す。だが、その後ろから数体の武士を思わせる個体が3体、接近していた。

 

【マリア】

「あれは前に翼のギアを破壊した――!」

 

 ロンドンで天羽々斬を、横浜でイチイバルを破壊したこのアルカ・ノイズは、赤いボディに髷や着物のような部位を持ち、両腕を鋭利なブレード状に変化させて襲ってくる。その攻撃力は高く、干渉破砕効果も他の個体以上の出力を持っていた。

 

 翼は背後から接近してきた武士型に気付くと、大太刀を盾のように構えた。直後、3体の武士型の刺突が刀の横っ腹に炸裂する。

 一度はこの攻撃で手折られた絶刀であったが、武士型のブレードから発せられる分解効果は、刀身表面の不可視のバリアによって阻まれ、本体に届くことはなかった。

 

【藤尭】

「システムに異常無し!バリアフィールドが解剖器官の攻撃を中和しています!」

【あおい】

「凄い……。これが強化型シンフォギア?」

【エルフナイン】

「そうです。プロジェクト・イグナイトはシンフォギアシステムの修復だけでなく、出力の向上と同時に解剖器官の分解効果を減衰するようバリアフィールドを調整しています」

 

 エルフナインの説明を裏付けるように、翼だけでなくクリスと響も、パイプオルガン型と人型の攻撃を受けてもギアが分解されることはなかった。

 

【翼】

『これならば……行ける!』

 

≪逆羅刹≫

 

 翼は武士型3体を押し退けると、倒立して横回転し、脚部アーマーに備え付けられたブレードで斬り刻んだ。

 

【クリス】

『ドンパチじゃ遅れは取らねぇ!』

 

≪BILLION MAIDEN≫

 

 翼に続き、クリスも両腕に装備した3銃身ガトリング砲計4門を放ち、アルカ・ノイズを蜂の巣にする。

 両腕を左右に開きながら敵の戦列を薙ぎ払うと、今度は腰部アーマーを展開、収容されていた小型ミサイルも同時発射し、響や翼以上の敵を瞬く間に消し炭に変えていった。

 

≪MEGA DETH PARTY≫

 

 クリスのシンフォギア、魔弓≪イチイバル≫は、響のガングニールと同じ北欧神話にその名を残す狩猟・決闘の神、ウルの携えし長弓を起源とする。

 その為、本来ならばアームドギアは弓の形で具現化されるはずであるが、クリスは幼少期をゲリラの捕虜として過ごした経験から、ゲリラの携えた銃火器への恐怖と憎しみが深層心理に焼き付き、そのイメージがアームドギアとして反映されている。

 それ故に、当初はイチイバルの力を嫌悪していたが、響や翼との出会いを経て、守るべきものの為に引き金を引く覚悟を持ち、今に至る。

 

 銃火器の形態を取る性質上、遠距離攻撃による面制圧を得意とし、対空戦及び集団戦で多大な戦果を挙げてきた。その火力は、現装者の中でも最強と言って差し支えない。

 今回もその殲滅力を遺憾なく発揮し、いち早く自分の割り当てを片付けると、響と翼の背中を守るべく援護射撃を開始していた。

 

【翼】

『雪音、後詰めは任せた!』

【クリス】

『了解だ、先輩!』

 

 クリスの援護射撃を見てとった翼は目の前の敵を斬り倒すと、残りの敵には目もくれずに大刀を携えて響の方へ走った。

 その背中を追おうとするイモムシ型は、クリスの弾幕によって塵へと還る。

 

【翼】

『立花!』

【響】

『翼さん!』

 

 後ろから声をかけられ振り向いた響は、翼の視線から意図を汲み取って頷く。目の前の武士型を発勁の要領で吹き飛ばすと、その場から大きく飛び退いた。

 

【翼】

『ハァァァァァッ!』

 

≪蒼刃罰光斬≫

 

 裂帛の気合いと共に、大太刀から新たな刀を居合い抜く。神速の速度で抜かれた十文字の斬撃は蒼い光となって空を翔け、キャロルを守る異形の壁を薙ぎ払った。

 

【翼】

『雪音!』

 

 敵陣に穴が空いたことを見定め翼が叫ぶ。クリスは既に大型ミサイルを2機を両肩に展開、発射体勢に入っていた。

 

【クリス】

『持ってけダブルだっ!!』

 

≪MEGA DETH FUGA≫

 

 放たれた2発のミサイルは、白き尾を引きながら標的としては不釣り合いな少女へと向かい、直後巨大な爆発に包み込んだ。

 

【調】

「凄い……」

【切歌】

「ナイスな連携デス!」

 

 ユニゾンを主軸とする自分達のお株を奪うような戦い方に、調と切歌も目を奪われていた。

 

【クリス】

『やったか!?』

 

 確かな手応えに、クリスは爆煙の向こうを凝視する。指令室でも、3人の強化型シンフォギアの確かな威力に期待が高まった。……だが、

 

【キャロル】

『なるほど。中々どうして悪くない』

 

 煙の中から現れたのは、黄色い障壁で攻撃を防ぎきったキャロルの姿だった。

 

【マリア】

「無傷!?」

【弦十郎】

「やはりそう簡単にはいかせてくれんか」

【クリス】

『だが、団体さんはいなくなった!』

 

 アルカ・ノイズは既に殲滅している。数の上では3対1、圧倒的に装者側の優位であった。……にも関わらず、キャロルは表情一つ変える様子を見せない。

 

【キャロル】

『どうと言うことはない。この身一つでお前等3人を相手取るくらい造作もないこと』

【翼】

『その風体でぬけぬけと吠える……!』

 

 錬金術という未知の力を究めていようと、その外見はエルフナインと同じ戦闘には向かない少女そのもの。一撃でも入れば勝負は着くと翼は考えていた。

 だがキャロルは、何が可笑しいのか無表情だった顔に微笑を浮かべる。

 

【キャロル】

『そうか。ナリを理由に本気を出せなかったなどと言い訳される訳にはいかないな』

 

『――ならば、刮目せよ!』

 

 キャロルの瞳に強い光が灯った瞬間、翼達だけでなく指令室のメンバーにも戦慄が走った。

 

 キャロルは左腕を突き出し魔方陣を出現させると、その中から何かを召喚する。

 現れたのは、紫を貴重とした竪琴(ハープ)であった。豪奢な見た目とは異なり、威圧するような雰囲気を放っている竪琴。その弦を、キャロルは撫でるように弾く。

 戦場に流れる麗しき旋律。だが、それは指令室にけたたましい警報を鳴らす引き金となった。

 

【切歌】

「な、何デスか!?」

【藤尭】

「……バカな、これは!?」

 

 藤尭は信じられないといった様子で端末を操作し、サブモニターにあるデータを写し出す。そこに表れたのは、S.O.N.Gメンバーなら誰もが見覚えのあるものだった。

 

【弦十郎】

「アウフヴァッヘン、だとぉ!?」

【あおい】

「……いえ、違います!ですが、非常に近いエネルギーパターンです!」

 

 シンフォギアが放つ特徴的なエネルギー波形。それに類するものが観測されたのは、記憶に新しい。

 だが、キャロルの奏でる竪琴から放たれるものは、それとも異なる波形パターンであった。

 誰もがその正体を計り知れぬ中、ただ一人、キャロルの分身たるエルフナインが厳しい表情で呟いた。

 

【エルフナイン】

「≪ダウルダブラ≫のファウストローブ……!」

 

 ≪ダウルダブラ≫とは、ケルト神話の最高神、ダグザが用いたとさせる竪琴である。その音色は天候を自在に操り、聴いた者の感情に干渉することさえ可能と云われている。

 

 キャロルによって起動されたダウルダブラは、まるで呪われた仮面のような形へと変貌し、更に各部を展開しながら無数の鋼糸を主へと伸ばした。

 キャロルの小さな身体は傀儡人形(マリオネット)のように吊られる。弦が巻き取られ、キャロルの身体は引き裂かれんばかりに引っ張られるが、破れたのは小さな身体を包む赤いワンピースのみで、その下の身体は引かれるままに体積を増す。

 

 見る間に成長を遂げていく肢体に、ダウルダブラは鎧となって各部を覆う。

 帽子のようなヘッドギアに4色の宝石が飾られると、キャロルは自らを吊っていた鋼糸を引き千切り、新たな姿で戦場に舞い降りた。

 

【響】

『シン、フォギア……?』

【エルフナイン】

「……いえ、確かに似ていますが、両者は限り無く近くて遠い存在です。ファウストローブは、聖遺物の欠片よりもたらされるエネルギーを、錬金術によってプロテクターへと錬成した物。故に起動と戦闘に歌を必須としません」

「更にダウルダブラには、その音色で自然の摂理をも支配下に置く魔力を秘めています。自然を操ることは、すなわち錬金術の基本となる四大元素を掌握するに等しく、キャロルの錬金術をより強大なものにします」

 

 エルフナインによって明かされたキャロルとダウルダブラの超常の力に、先程までの勢いは完全に鎮まりつつある。

 聖遺物の中でも屈指の潜在能力を持つと言って差し支えない神器が、最強の敵として今まさに牙を剥こうとしていた。

 

【キャロル】

『これくらいあれば不足は無かろう?』

【翼】

『大きくなったところで!』

 

 成長した姿を見せつけるように、自らの胸を掬い上げ、不敵な笑みを浮かべたキャロルに、翼が疾風のように斬り込む。それを見たキャロルは、紫のオペラグローブを纏った左腕を振るった。

 すると、不可視の何かによって基地の舗装路が(なます)の如く切り裂かれた。

 裂波のように迫る斬撃を、翼は間一髪躱す。

 

【キャロル】

『ゥルァッ!』

 

 キャロルは攻撃の手を緩めず、今度は右腕を横に薙ぐ。翼は目を凝らすと、陽光を反射しながら迫る3本の斬糸を認め、その場に伏せた。

 風を切り裂きながら頭上を通過したそれは、背後にあった燃料タンクを裁断し、辺り一面を爆炎で彩った。

 

【響】

『翼さん!』

【クリス】

『張り合うのは望むところだ!』

 

 翼の逃げる隙を作ろうと響が突っ込み、クリスも両腕のガトリングを斉射する。キャロルは翼からあっさりと視線を外すと、両肩のパーツを展開、現れた弦を弾く。

 すると、キャロルの左右に赤と青の魔方陣が現れ、それぞれから魔方陣と同じ色の火焔を噴出させた。

 

【響】

『うわぁっ!?』

【クリス】

『チィッ!?』

 

 響とクリスはそれぞれ横に飛び退き難を逃れたが、2色の火焔は基地内を駆け抜け、巨大は炎の壁を立ち昇らせた。

 

 これがファウストローブ、殲琴≪ダウルダブラ≫のアームドギアに相当する能力。

 竪琴を構成する極細の鋼糸を自在に操り、如何なる物をも切断せしめるだけでなく、束ね編み込むことで様々な形へと姿を変える。

 その力は攻撃だけでなく防御にも転用でき、本来の弦として用いれば、キャロルの錬金術を強化する増幅機(ブースター)としても機能する万能の宝具となるのだ。

 

【藤尭】

「……歌うわけでもなく、これだけの膨大なエネルギー、一体どこから?」

【エルフナイン】

「≪想い出≫の焼却です」

【あおい】

「≪想い出≫?」

【エルフナイン】

「キャロルや自動人形(オートスコアラー)の力の源、脳内の電気信号を変換・錬成したものです。造物である自動人形(オートスコアラー)達は、当然ながら戦闘に足るだけの想い出を有してはいません。故に他者……人間の想い出を奪取し、自身のエネルギーへと変換しています」

【緒川】

「……それでは、最近頻発している変死事件は?」

 

 巷では、まるで生気を吸い取られたように、髪や肌の色を真っ白に染めて息絶えた死体が発見されていた。

 因果関係を確かめるべく訊ねた緒川に、エルフナインは首肯する。

 

【エルフナイン】

「……自分達の活動のため、自動人形(オートスコアラー)達が想い出を貪っているんです」

【調】

「……酷い」

 

 悲痛に顔を歪める調を見て、エルフナインは俯きながら更なる事実を突き付ける。

 

【エルフナイン】

「……そんな自動人形(オートスコアラー)達の力もキャロルには遠く及びません。数百年を永らえて相応の想い出を蓄えたキャロルの力は――」

【マリア】

「……より強大な力を秘めている?」

 

 続きを予想したマリアに、エルフナインは頷いた。数百年分に渡り蓄えてきた戦う力。その程度を推し量る術はS.O.N.Gには無い。

 改めて明らかとなったキャロルの地力。だが弦十郎には、一つ気掛かりとなることがあった。

 

【弦十郎】

「エルフナインくん。力へと変えた後、想い出は一体どうなる?」

【エルフナイン】

「……どんな技術でも、無から有を産み出すことは出来ません。絶大な戦闘力へと燃焼された想い出は、文字通り燃え尽き喪われます」

 

 ある種の痛みを伴う表情で告げられた事実に、指令室は重い沈黙に包まれた。

 

 自身の記憶を対価とする、その大き過ぎる代償を払うことでもたらされる力が響・翼・クリスを襲う。

 近付くことすら叶わず逃げ惑う装者3人。だが、キャロルは容赦なく、六角形の魔方陣を新たに6つ作り出し、そこから無数の光の矢を放った。

 

【翼】

『うああああっ!?』

 

 直前の斬糸による攻撃を辛うじて躱していた翼は回避が間に合わず、光の矢の爆発に巻き込まれた。

 

【クリス】

『先輩ッ!』

【キャロル】

『その程度の歌で俺を満たせるなどと!』

【クリス】

『うわあっ!?』

【響】

『クリスちゃん!』

 

 キャロルは鋼糸でクリスの足場を賽の目に切り刻む。飛び退こうとした時には既に遅く、足場の建物が内側から爆発・炎上し、クリスを地に叩き落とした。

 

【響】

『てやぁああああああっ!』

【キャロル】

『フン……』

 

 爆煙を突っ切り、響は両腕のアーマーを組合わせ肥大化させた右拳を叩き込む。

 キャロルはそれに対し、右掌から鋼糸を逆巻かせ、ぶつかり合った強烈な拳打と鋼糸の渦は激しい火花を散らした。

 

 響はブースターを吹かせ防御を穿とうとするが、装者随一の突破力を前にしてもキャロルは表情を崩さなかった。

 涼しい顔のキャロルに対し、響の表情が段々と焦りに染まる。無双の槍拳は徐々に押し戻され、表面に傷を刻んでいった。

 

【キャロル】

『脆い拳だな。本当の拳突とは、こうやるものだ!』

 

 キャロルは響を弾き返し、鋼糸を自らの腕に巻き付けた。束ねられた無数の糸は、元から一つであったように形を無し、鈍く輝くドリルへと変貌する。

 

【キャロル】

『ハァッ!』

 

 ドリルを回転させながら突きを繰り出すと、逆巻く空気が緑の竜巻となって放たれる。

 至近距離で体勢を崩していた響に避ける術はなく、激しい気流の檻に囚われてしまった。

 

【響】

『ぐぐっ――ッ!?』

 

 四肢が引っ張られ、身動きを封じられる響。そんな彼女に向かって、キャロルは竜巻の中をドリルを構えながら突撃してきた。

 気付いた響は、渾身の力で両腕を胸の前でクロスさせ防御の構えを取る。

 直後、竜巻を消散させる程の衝撃が襲い掛かり、ガントレットを砕かれた響は為す術なく墜とされた。

 

【響】

『がはっ!?』

【未来】

「響ッ!!」

 

 叩き付けられ息を詰まらせる響。強化されたガングニールに助けられ、身体への直撃は免れたものの、視界が歪む程の痛みが全身を駆け抜けていた。

 

【マリア】

「まだよ!まだ立ち上がれるハズよ!」

 

 マリアの言葉に応えるように、響は腕を路面に突きながらゆっくりと身体を起こす。その近くに、腕や腹部を押さえた翼とクリスもふらつきながら近寄ってきた。

 

【エルフナイン】

「……≪イグナイトモジュール≫の可能性はここからです」

 

 圧倒的な実力差を見せつけられる中、エルフナインはまだ勝機はあると、強い眼差しを響達に送る。

 

【翼】

『……大丈夫か?雪音、立花』

【クリス】

『正直しんどいな。……クソッタレ』

【響】

『……でも、まだ倒れる訳にはいきません。エルフナインちゃんから貰った力、まだ全部使えていませんから!』

【キャロル】

『フンッ。弾を隠しているなら見せてみろ。俺はお前等の希望を全てブチ砕いてやる!』

 

 地を這う自分達を超然と見下ろし宣う最強の敵。あの高みから引き摺り降ろし、状況を覆す為に残された手は、たった一つしか無かった。

 

【響】

『翼さん、クリスちゃん!』

【クリス】

『ああっ。付き合ってやるぜ!』

【翼】

『無論。一人で行かせるものか!』

 

 3人は頷き合うと、胸の中央で光る矢尻のような赤い結晶に手をかける。それは、修復によって形状の変わったシンフォギアのコアであった。

 この新たなコアには、装者を更なる力を点火せしめる機構が組み込まれている。

 

【響】

『……≪イグナイトモジュール≫!』

【響】【翼】【クリス】

『『『抜剣!!』』』

 

 コアの両端を押し込みながら起動トリガーを叫ぶ。『ダインスレイフ!』の電子音と共に装者からコアが分離し、空中で3片の花弁のように展開され、その中心から赤き楔が伸びた。

 そして、怪しげな形状に変わった結晶は、適合者である3人の元へ勢い良く舞い戻り、起動前に座していた胸の中心へと()()()()()()

 

【響】

『あ゙ぁ!?……ア゙ア゙ア゙ァァアアァァッ!!』

 

 響達はおよそ少女のものとは思えない呻きを上げた。だが、その痛みは胸を貫くモジュールではなく、より身体の奥底から沸き上がっていた。

 

【クリス】

『私の中で……何かが暴れ狂ってやがる……!』

【翼】

(ハラワタ)を掻き回すような……これがっ……この力が……!』

 

 3人を襲う赤黒い衝動、それこそがシンフォギアの新たなる決戦機能の根幹を為すものであった。

 

 元々、全てのシンフォギアには共通して3種の決戦機能が存在している。

 

 一つは、装者の生命に関わる負荷(バックファイア)と引き換えに、必殺のダメージを与える≪絶唱≫。アームドギアを介して放たれる為、各ギアによって特性が異なるものの、自らも滅ぼしかねない捨て身の一撃であることに変わり無かった。

 

 2つ目は限定解除、≪エクスドライブ(XD)モード≫。

 元来シンフォギアシステムには、総数301,655,722種類もの機能制限(ロック)が設けられている。XDは、幾重にも束ねられた歌による高レベルフォニックゲインによりそれらの機能を一時的に解放し、文字通りシステムのパフォーマンスを限界まで引き出すことができるのだ。

 その出力は≪絶唱≫を上回り、必殺級の大技をエネルギーチャージ無しで連発できる。

 他にも、単体での飛行能力や念話による意思疎通と歌唱中断というシンフォギアの弱点の無効化などメリットを挙げればキリがないが、発動する為には【フロンティア事変】のように70億人の歌が一つとなるような『奇跡』が不可欠であり、戦術に組み込むにはあまりに不確定な機能であった。

 

 そして、最後にしてプロジェクト・イグナイトが着目した機能が≪暴走≫である。

 シンフォギア、もとい聖遺物がもたらすものは戦う力だけではない。装者の心に巣食う負の感情や戦闘・破壊衝動をも増大させてしまう。

 通常はロックによって制御されているが、何らかの要因で心の闇が限界を超えた時、理性を失い制御から外れた闘争本能の塊と化す。

 他の2機能同様、通常時とは比較にならない攻撃力を発揮するも、理性のタガが外れたことで目に写る者を見境なく攻撃するようになってしまう。

 

 プロジェクト・イグナイトは、この≪暴走≫のメカニズムを解析・応用することで、暴走時の出力を維持しながら理性を保ち、戦術的運用を目指すというものであった。

 その為に搭載されたのが≪イグナイトモジュール≫。聖遺物の一つ、魔剣≪ダインスレイフ≫を中核としたシステムである。

 

【エルフナイン】

「ダインスレイフは伝承にある通り、犠牲者の生き血を喰らい、全てを吸い付くすまで鞘には収まらないとまで云われた殺戮の魔剣」

「その呪いは誰もが心の奥に眠らせる闇を増幅し、人為的に暴走状態を引き起こします」

「無論、このままでは制御は到底不可能ですが、ギアの改修に当たり、暴走を制御するための3段階のセーフティーを増設しています」

【弦十郎】

「後は、人の心と英知が破壊衝動を捩じ伏せることできれば……」

【キャロル】

「シンフォギアはキャロルの錬金術に打ち勝てます」

【未来】

「心と、英知……」

 

 イグナイトモジュールを起動させる最大の鍵は、装者の意志の強さにある。これまで幾多の苦難を乗り越えてきた3人なら、魔剣の呪いを屈伏させることは十分可能とエルフナインは踏んでいた。

 しかし、苦しむ響の姿に未来は不安を隠せなかった。実際に響の暴走した姿を目にしたことのある未来には、そんな簡単にあの赤黒い衝動を御せるとはどうしても思えなかったのだ。

 

 ……そして、その不安は的中することとなる。

 

【藤尭】

「3人のバイタルに異常!」

【あおい】

「システムから逆流する負荷に、3人の精神が耐えられません!」

【未来】

「響ッ!」

 

 モニタリングをしていた藤尭とあおいから、続けざまに響達の異常が伝えられる。戦場では、3人の装者が更に苦しみながら、各々の抱える闇を吐露していた。

 

【翼】

『ぐぅぅぅっ!?……私の、歌を聴いてくれるのは、敵しかいないのか……?』

【マリア】

「翼!?」

【クリス】

『守らなきゃいけない、後輩に、守られて……、私なんかが、大切なものを欲しがっちゃ……いけない……、うあ゙あ゙っ!?』

【切歌】

「クリス先輩!?何を言ってるデスか!」

【響】

『……助けるために、握った手、……でも、その手はいつも、誰かの血に……イヤァアアアッ!?』

【調】

「響さん!?しっかりしてください!」

 

 マリア達の呼び掛けにも応えず、3人は目を赤く爛々と輝かせながら、心身ともに自らが生み出した影に呑み込まれようとしていた。

 

【マリア】

「呪いなど斬り裂け!」

【切歌】

「撃ち抜くんデス!」

【調】

「恐れずに砕けばきっと……!」

 

 再度響き渡る仲間の声。しかし、無情にもその声は赤き衝動に掻き消され、3人は全身を影に呑み込まれる。

 球体状になった赤黒い影は、まるで胎動するかのように脈打つ。そして、最も大きな胎動を響かせた瞬間、赤黒い影は弾け、内包されていた響達は力なく倒れ伏してしまった。

 

 

 

【藤尭】

「装者3名、バックファイアによってバイタル低下!フォニックゲインも減衰!」

【あおい】

「これ以上の戦闘続行は危険です!」

【緒川】

「やはりぶっつけ本番では……」

 

 傷付き荒く息を吐く響達の様子に、指令室は騒然となった。戦場では、キャロルも3人を見下ろしながら『不発?』と眉をひそめている。

 3人とも辛うじてギアは纏えているものの、とても戦えるような状態ではなかった。

 

【翼】

『……剣であるこの身では、愛する者を、抱き締めることもできない……っ』

【クリス】

『一人ぼっちが、温もりを求めたばっかりに……っ。残酷な世界が、大切なものを壊して、本当に独りになってしまう……』

【響】

『……やっぱり、私の手は、何かを壊すことしかできない……!……何で、いなくなっちゃったの?……お父さん……っ』

【マリア】

「翼!司令、このままでは3人が!」

【弦十郎】

「藤尭、支援砲撃用意!友里、自衛隊にも救援を要請しろ!その隙に響くん達を撤退させる!」

【藤尭】【あおい】

「「ハイッ!」」

 

 マリアの進言に、弦十郎は響達を救助するため動き出す。だが、それを予見したかのように、竪琴の聖遺物を纏った錬金術師が、手を天に翳した。

 モニターがキャロルの手の先へスライドすると、上空に巨大な赤い紋章が浮かび上がる。それはアルカ・ノイズ召喚の際に出現するものと同じもので、光の中から脚の無い豚か獏を思わせる巨大な個体が現れた。

 

【キャロル】

『立ち上がれぬと言うのなら、その力くらいオレがくれてやる』

【響】

『……キャロルちゃん?何を……』

 

 嫌な予感に響は上空を見上げる。巨大アルカ・ノイズは、脚の代わりの4つの孔から蝙蝠のような小型のアルカ・ノイズを無数に放出し始めた。

 

【翼】

『空母型?……まさか』

 

 翼は青くなった顔を更に凍らせながら呟く。直後、『正解だ』と言わんばかりに蝙蝠型が身体をドリル状に丸め、近くの市街地に向けて落下し始めた。

 建物を穿ち、内側から爆発する蝙蝠型。たちまち市街地は、幾つもの炎の柱に彩られた。

 

【藤尭】

「基地周辺の市街地、爆撃により被害甚大!尚も範囲拡大中!」

【あおい】

「横須賀市全域に避難勧告発令!しかし、この爆撃の規模では十分な避難は困難です!」

【藤尭】

「……政府より厚木基地航空部隊に緊急発進(スクランブル)要請!神奈川の各部隊はこれを支援し、本艦も戦列に参加せよとのことです!」

【未来】

「そんな!じゃあ、響達は!?」

【緒川】

「……最大の脅威の排除を優先、ということでしょうね」

【弦十郎】

「クソッ、俺が話を着ける!回線を繋げ!」

 

 キャロルの暴虐に、指令室も大荒れとなった。

 基地内では、クリスがクロスボウを上空に群れるアルカ・ノイズに向けるが、腕が震え、引き金(トリガー)を引くことができない。

 

【クリス】

『このっ、止まれよっ!……止まってくれっ』

【キャロル】

『どうした?立ち上がるにはまだ力が足りないか?ならば、分解される者共の悲鳴をもっと聞くがいい!』

 

 悪意溢れる笑みを浮かべ、更に爆撃の範囲を広げるキャロル。

 破壊されていく街と、塵へと変えられていく人々の叫びに、響達は身体を引き摺りながらも立ち上がる。

 

【キャロル】

『そうだ、立て。立って歌え!消え逝く者共に贖いたくば、歌ってオレを止めてみろぉ!』

 

 叫びながら腕を振るい、斬糸を奔らせる。響達の目の前の路面が瞬く間に裁断され、抉り飛ばされた破片や粉塵が3人を呑み込んだ。

 

【響】【翼】【クリス】

『『『うあああああああああっ!?』』』

【調】

「響さん!」

【切歌】

「ど、どうするデスか!?このままじゃ……」

 

 再び地に転がされる3人。だが、ギアを破壊された調と切歌には、彼女達を助けることは叶わなかった。

 無力感に苛まれ、込み上げる涙に抗うことしか出来ない。……そう思っていた時、調の中に電撃ような感覚が走った。

 途端に浮かんだある閃きに従い、一目散に駆け出す。

 

【切歌】

「調!?」

【弦十郎】

「お前達、何処へ行く!?」

 

 調の様子に気付いた切歌は彼女を追って走り出す。その背に弦十郎の大声が飛ぶが、構わず走る調に、切歌も足を止めなかった。

 

【切歌】

「どうしたデスか、調!また勝手なことしたら……」

 

 調の横に並びながら問いかける。昨日の無断出撃でこっぴどく叱られたことを思い出し、切歌は内心穏やかではなかった。

 しかし、調はそんなことは頭に無いのかひたすらにある場所を目指していた。

 

【調】

「響さん達を助ける。自衛隊じゃアルカ・ノイズには敵わない」

【切歌】

「そんな!?無理デスよ!今の私達にはギアも無い!今度こそ本当に全くの無策じゃないデスか!」

 

 昨日もこうやって走りながら同じやり取りを交わしていた。でも、状況は昨日よりも更に悪い。纏うべきシンフォギアを失った自分達に、戦闘介入は不可能なのだから。しかし――

 

【調】

「……無策じゃないよ、切ちゃん」

 

 今度も調は、確信を持ってそう告げた。

 調の考えにまるで見当がつかない切歌は、困惑しながらも調に追従する。やがて二人が曲がり角を曲がった先に、目的の部屋が見えてきた。

 

【切歌】

医務室(メディカルルーム)?」

 

 昨日まで響が横たわり、自分達がLiNKERをくすねた場所。

 調は昨日の部屋ではなく、その隣の部屋に駆け込んだ。……そこにいる、響達を助けられる可能性を持つ人物に会うために。

 

 

 

医務室(メディカルルーム)――

 

 部屋一面が白で覆われ、消毒液の匂いが充満する室内。だが、普段ならそこにいるはずの医師や看護師の姿はなかった。

 昨日の基地襲撃に際し多くの怪我人が出たことで、S.O.N.G常駐の医療メンバーも応援に駆り出されていた。

 

 静かに機器の作動音のみがするはずの医務室。しかし、中央に鎮座するベッドの主により、沈黙は破られていた。

 

【轟】

「があああっ!ガゥ!グルゥ……!」

 

 ベッドには機械仕掛けの拘束具で男が縛り付けられていた。

 黒銀轟。昨日、翼とクリスによって捕縛された謎の青年。

 キャロルとの戦闘開始に呼応したかのように目を覚まし、暫くは薬の余韻もあって大人しくしていた彼だが、響達が危機に陥ったと同時に、自らを縛る戒めを解こうと暴れ始めた。

 

【轟】

(クソッ!こんなもので俺を縛るとは!人間共め!)

 

 世の中で最も憎悪する存在に怒りを燃やしながら更に激しく暴れるも、拘束具を破る力は()()彼にはなかった。

 

【轟】

(……早く!早く行かなければ!でないと……!)

 

 本能に突き動かされるまま、自分の身が傷付くことも厭わず全身に力を込める。

 そんな時、ずっと沈黙を守っていた扉が開き、2人分の足音が駆け込んできた。

 

 轟は動きを止め、扉の方を見る。そこには、昨日居合わせた黒髪と金髪の少女が立っていた。

 

【轟】

(……昨日の人間?何しに来た?)

 

 疑問に思ってジッと見つめると、二人は気圧されたように肩を震わせたが、黒髪の方の少女が意を決した様子で近付いてきた。

 金髪の少女が狼狽える中、黒髪の少女は轟の頭の方に回り、備え付けの端末を操作し始めた。

 

【切歌】

「し、調!?何やっているデスか!?」

 

 予想だにしなかった行動に出た親友に、切歌は慌てて駆け寄る。調は端末から目を離さずに、自分の考えを口にした。

 

【調】

「……この人なら、自動人形(オートスコアラー)にも勝ったこの人の力なら、アルカ・ノイズに勝てる!」

【切歌】

「た、確かにそうデスが……」

 

 調も切歌も、結果だけ見れば目の前の男に命を救われている。しかし、敵を撃退した後、自分達やクリスや翼に襲いかかろうとしたことから、切歌は男を自由にすることに抵抗を覚えた。

 

【調】

「……他に方法がないもの。このままだと、多くの人達が犠牲になってしまう。そんなのは絶対、ダメだから……!」

【切歌】

「調……」

 

 調の瞳には涙が溜まり、唇はきつく噛み締められていた。

 今この瞬間にも、自分達のような咎人にも優しく接してくれた大切な人達と、彼女達が命懸けで護った世界が危機に瀕している。

 自分達が戦えなくても何かをしたい。例え無茶なことだとしてもがむしゃらに突っ走る。

 

 そんな一生懸命な調が、切歌は大好きだった。

 

 切歌は心を決め、調の横に並ぶともう一つの端末を操作し始めた。

 

【調】

「切ちゃん?」

【切歌】

「助けたいと思う気持ちは私も同じデス」

「それに、二人でやった方がその分早く先輩達を助けられるデスよ」

 

 そう言って優しく微笑みかけてくれる切歌。それだけで調の心は軽くなった。

 

【調】

「……うんっ」

 

 調は微笑み返しながら頷くと、視線を画面に戻し端末操作に集中した。

 一心不乱に頭の上で作業をする調と切歌を、轟は暴れるのを止めて窺っていた。

 

【切歌】

「……あ」

 

 操作の手を止め、切歌が声を上げた。

 代わり映えせず文字やグラフが表示されていたディスプレイに、それらとは明らかに違うアイコンが表れたのだ。

 

【調】

「切ちゃん!」

【切歌】

「きっとコレ、デスッ!」

 

 勢い良く表示されたアイコンをタップする。すると、機械音を立てて電子ロックが解除され、轟は身体の自由を取り戻した。

 

【轟】

「――ッ!」

 

 轟はベッドから勢い良く飛び上がり、床に降り立った。

 自分の両の掌を見ながら閉じたり開いたりを繰り返す。手首と足首は皮が破れ血が滲んでいたが、痛がる様子はなかった。

 

【調】

「……あのっ」

 

 身体の具合を確認する轟に、意を決して調が声をかける。

 轟は動きを中断し、調と切歌に目を向ける。その視線は鋭く、射抜かれた二人は咄嗟に言葉が出なかった。

 

【轟】

「何故、俺を自由にした?」

 

 不信感を隠さない口調で訊ねる。断片的に聞いた限り、自分の力を利用しようとしているようだが、人間らしく無理矢理従わせようという感じがなかったことが轟を更に困惑させていた。

 一方、切歌達は初めて轟の喋ったところを見て驚いていた。しかし、すぐに自分達の目的を思い出し、縋る想いで切り出す。

 

【切歌】

「お、お願いがあるんデス!」

【轟】

「願い?」

 

 その言葉からは、やはり無理強いする気配は感じられなかった。しかし、必死に望みを通そうとする感じは伝わってくる。

 

【調】

「私達の仲間が、アルカ・ノイズに襲われているんです」

【轟】

「アルカ・ノイズ?」

【切歌】

「昨日戦った顔がキラキラ光る敵のことデス!」

【轟】

(奴等か……。確かにうじゃうじゃチカチカと目障りだったな)

 

 轟が心の中で頷いていると、調と切歌は同時に頭を下げた。

 

【調】

「あなたの力ならアルカ・ノイズに勝てる。お願いします、力を貸してください!」

【切歌】

「このままじゃ沢山の人達が死んじゃうんデス!」

【轟】

「……断る」

 

 轟は首を横に振った。

 憎しみの対象でしかない人間を助けるなど有り得ない。寧ろ減ってくれるなら万々歳と思っていた。

 断られた調と切歌は悲壮に染まった顔を上げるも、諦めずに瞳に涙を溢れさせながら懇願し続ける。

 

【調】

「……お願い、しますっ。もう、頼れる人が、他に、いないんですっ!……グスッ」

【切歌】

「私達にできることなら何でもするデスから!……だから、ヒグッ……お願い、デス……ッ」

【調】【切歌】

「「大切な人達の命を、助けてください!」」

【轟】

「――ッ!」

 

 調と切歌の大きな瞳から流れた雫と、『大切』、『命』という言葉。それらが轟の心の奥底にあるものを揺さぶった。

 

 嘗て、自分にも命を賭してでも守りたい存在がいた。

 臆病だが好奇心旺盛で、自分によく甘えてきた小さき同族。自分にとってその者は、世界で唯一の仲間であり、兄弟であり、息子でもあった。

 その者の最も大きな特徴であった愛くるしい瞳。轟には、それが目の前の二人とダブって見えた。

 

【切歌】

「えっ……」

 

 流れ落ちる涙と共に俯いていた頭に、何かが置かれた感触がして、切歌は声を漏らした。

 恐る恐る顔を上げると、さっきまでとても怖い顔をしていた青年が、若干和らげた表情で自分と調の頭に手を置いていた。

 

【切歌】

「え、えと……////」

 

 突然のことに赤面する切歌だったが、轟の行動はそれで終わりではなかった。

 調の目から新たに頬を伝った涙を自らの指で拭い取る。

 

【調】

「あっ////」

 

 熱の籠った肌にほんのり冷たい感触が触れ、調は更に頬を上気させた。

 【F.I.S】という名のテロ組織に身を置いていた彼女達にとって、一部の者以外から厚意をもって接されることはなかった。

 特に男性は自分達より遥かに歳上の人物としか関わったことが無い。見た目だけは自分達とそう変わらない轟に接されることは、二人にとって初めての経験だった。

 

 火が点いたように赤くなって戸惑う調と切歌。

 一方、轟の内には別の感情によって熱い炎が灯っていた。――"怒り"という炎が。

 

【轟】

「……赦さん」

【調】【切歌】

「「えっ?――あっ!?」」

 

 轟の呟きに調と切歌が顔を上げた時、轟は猛然と走り出していた。

 驚く二人を意に介さず、ドアを潜って本能のまま走る。……自らの『敵』の元へ。

 

【轟】

(あいつを……あいつと同じ眼をした奴等を泣かせる存在(てき)は、絶対に赦さない!!)

 

 怒りの炎を更に燃え上がらせ、轟は戦場を目指して疾走した。

 

 

 

海上自衛隊基地 敷地内――

 

 キャロルのダウルダブラの斬撃によって蹴散らされた響達は、何とか身体を起こし、戦う構えを取っていた。

 

【響】

「……もう、やめて、キャロルちゃん……。これ以上、罪の無い人達を苦しめないで!」

 

 響は傷付いた身体を引き摺りながら、あらん限りの力を宿した瞳で立ちはだかる錬金術師を見据える。

 

【キャロル】

「オレが虚勢に慄く程度の度量だと思うのか?吠えるのなら、力を見せてみろ!」

 

 キャロルは、今度は魔法で響達を攻め立てた。

 3人の頭上に描いた魔方陣から巨大な氷の塊を落下させる。響達が散開して躱すと、路面に激突した氷塊は砕け散り、辺りに冷気を撒き散らした。

 

【クリス】

「クソッ!いつまでもやられてばっかでいると思うな!」

 

 クリスは両手に携えたクロスボウから赤き光の矢を斉射する。しかし、キャロルは避けることなく、響の時のようにダウルダブラの鋼糸で矢を弾いた。

 

【キャロル】

「ブンブンと五月蝿いだけの蚊が。その程度でオレの肌を刺すことは叶わんと知れ!」

【クリス】

「お前――!」

【翼】

「やめろ、雪音!熱くなってはますます奴の思う壺だ!」

 

 がむしゃらに飛び出しかけたクリスを翼が嗜める。先輩の言葉に、クリスは悔しがりながらも足を止め、再びクリスボウを構えた。

 歴戦の(ツワモノ)である翼は、3人の中で最も早くイグナイトモジュールの失敗から立ち直り始めていたが、それでもキャロルへの対抗策は全く無かった。

 攻めあぐねる装者達に、キャロルは深い溜め息を吐く。

 

【キャロル】

「……つまらん。少し本気を出せば容易く牙をもがれ、遠巻きに吠えるだけの負け犬と化すとは」

「オレが求めるのは血沸き肉踊る戦いの歌!お前達も自らを戦士と謳うなら、オレに抗う牙を見せてみろ!」

【クリス】

「黙って言わせておけば――」

【響】

「違う」

【キャロル】

「……ん?」

 

 キャロルの再三に渡る挑発にクリスが噛み付こうとした時、正面に立つ響が呟いた。

 訝しむキャロルに、響は声を張り上げ、続きを告げる。

 

【響】

「私達が歌うのは戦うためじゃない!命を助けるため、人と人との心を繋ぐためだから!」

【翼】

「立花……」

【クリス】

「お前……」

【キャロル】

「何を言い出すかと思えば……。くだらん」

 

 冷たく切って捨てるキャロルだが、響は訴えることを諦めない。諦めたらそこで何もかも終わってしまう。

 これまでの人生を思い返し、彼女はそう強く感じていた。

 

【響】

「くだらなくなんかない!伝える術があるのにそれを使わず力だけを振るうなんてそんなの虚しいよ!」

「お互いに歩み寄れば、この世界の誰とでもきっと分かりあえる!キャロルちゃんとだって!」

【キャロル】

「……オレと?」

【響】

「そうだよ!だから――」

【キャロル】

「そうか……。ならば、歌え!歌い戦うことこそがオレの望み!歩み寄る術は戦いしか有り得ない!」

【響】

「キャロルちゃん!!」

【キャロル】

「くどい!」

 

 キャロルは怒号を上げると、響の足許に風の魔法を発生させ、天高く放り上げた。

 

【響】

「うああああっ!?――くっ!」

 

 空中に巻き上げられながらも、響は腰のブースターで姿勢制御を試みる。

 しかし、キャロルはそれを許さず、伸ばした鋼糸を響に巻き付け、自分の近くへと叩き付けた。

 

【響】

「がはっ!?」

【翼】

「立花!」

【クリス】

「テメー、それ以上は――!」

【キャロル】

「お前達はこいつらと遊んでいろ」

 

 響を助けるために飛び出そうとした翼とクリスだったが、キャロルは彼女達の周りに新たなアルカ・ノイズ群を放った。

 

【クリス】

「クソッ!また懲りずにうじゃうじゃと!」

【翼】

「だが、ここに来てこの物量は……」

 

 自分達を取り囲む異形の群れに、翼とクリスは背中合わせに立って武器を構える。その間に響は身体に鞭打って立ち上がろうとしたが、その頭をキャロルの足が踏みつけた。

 

【響】

「うぐっ!?」

【キャロル】

「戦わなければお前も仲間も消えるだけだぞ?」

【響】

「それでも……。言葉を交わさず殴り合うしかできないなんて、そんなの悲しすぎるから……!」

【キャロル】

「あくまで綺麗事を謳うか。なら、その妄言に殉じるがいい!」

 

 キャロルは響の頭を更に踏みにじると、左腕を鋼糸のドリルに変え、振りかぶった。

 

【未来】

『響ーッ!!』

 

 ヘッドギアを通して親友の声が届くも、キャロルを振り払うだけの力は出なかった。

 殺されることを覚悟し、目を固く閉じた――その時、

 

【???】

「があああああっ!!」

 

 戦場に獣のような咆哮が響き渡った。

 響は驚き目を開けると、翼とクリスを取り囲んでいた一部のアルカ・ノイズがこちらに向かって飛んできた。

 自分とキャロルに激突するかと思われたが、キャロルは何の躊躇いもなく自らの呼び出した兵隊を切り刻む。

 

【キャロル】

「……何だ?」

 

 目を細めるキャロル。

 視線の先では群れていたアルカ・ノイズが再び蹴散らされ、視界が開けると、そこには病人服を着た白髪の男が立っていた。

 

【クリス】

「あいつは!?」

【翼】

「黒銀、轟……?」

 

 翼とクリスも乱入者の姿を見て唖然とする。

 轟は自分よりも大きな鉄骨を軽々と振り回し、アルカ・ノイズを薙ぎ倒すと、響を踏みつけるキャロルに飛び掛かった。

 キャロルは響から飛び退くと、入れ替わりに近くへ着地した轟は、手に持った鉄骨をキャロルに向けて放り投げる。

 

【キャロル】

「フンッ」

 

 飛んできた鉄骨をダウルダブラで軽々と裁断する。その間に轟は距離を詰め、キャロルの顔面を狙って拳を突き出した。

 だが、キャロルが目の前に作り出した障壁に、素手の轟は逆に自らを傷つけられキャロルから距離を取る。

 

【轟】

「ガルゥゥゥ……!」

【キャロル】

「……ミカを退けた(ケダモノ)か」

 

 唸る轟を見て、キャロルは合点がいったとばかりに頷く。その間に、翼とクリスは倒れたままの響に駆け寄り、その身体を抱き起こした。

 

【翼】

「大丈夫か、立花!?」

【響】

「翼さん……、私は何とか。でも……」

 

 響の視線は、自分達に背を向ける青年に移る。

 轟は変わらずキャロルと睨み合っていたが、その沈黙を意外なことにキャロルの方から崩した。

 

【キャロル】

「随分と野蛮な登場じゃないか?……まぁいい、それより聞きたいことが山程ある。……お前は何だ?見たところ聖遺物を所持している訳でもない。なのにこのパワー、普通の人間には有り得ん」

【轟】

「……当然だ。俺を下等な人間共と一緒にするな」

【クリス】

「あいつ、言葉を?」

 

 轟の喋ったところを初めて見たクリスは目を丸くする。だが、キャロルは特に気にした風もなく、より轟に興味を引かれた様子だった。

 

【キャロル】

「ほう、面白い。人間でないなら、お前は一体なんだ?」

 

 キャロルの問いに、クリス達も聞き耳を立てた。謎の多い青年の素性が、本人の口から語られるかと期待してのことだったが……

 

【轟】

「俺は俺だ。それ以上でも以下でもない」

 

 何とも要領を得ない答えが返ってきた。

 

【キャロル】

「成る程。なら、質問を変えよう。何故、オレと敵対する?」

 

 キャロルは特に深く追求せずに、新たな問いを口にした。

 それを受け、轟は視線に力を込め、目の前の錬金術師を射抜く。

 

【轟】

「……気に入らない」

【キャロル】

「何?」

【轟】

「気に入らないんだよ。お前もチカチカも人形も。()()()を泣かせ、オレのエサを横取ろうとした。お前達を壊す理由はそれで十分だ」

【翼】

「餌?」

 

 翼は轟が口にした言葉を繰り返す。

『あいつ』も気にはなったが、それよりも『エサ』という言葉が引っかかった。

 

【翼】

(自衛隊の基地なのだから食糧は当然備蓄してある。……だが、この者の言う『エサ』はそれとは違う気がする)

【キャロル】

「何にせよ、オレと敵対する意思に変わりはない、ということか。ならば、オレもこれ以上問うことは無い。邪魔をするならば分解せしめるだけのこと!」

 

 キャロルはダウルダブラの弦を鳴らして魔力を増幅させ、頭上に出現させた魔方陣から灼熱の炎を放った。

 生身の人間など全身黒焦げでは済まない熱量が迫る中、轟は一瞬肩越しに振り返る。その視線が響と交差すると、轟は胸の前で腕をクロスさせ、防御の姿勢を取った。

 

【響】

(まさか、私達を庇って?)

「ダメ!逃げ――」

【轟】

「があああああああああああっ!?」

 

 響が叫んだ時には、轟は紅蓮の奔流をまともに受けた。激しい炎は薄い病人服を一瞬で灰にし、その下の肉体も容赦なく焼き焦がす。

 

【轟】

「――がはっ!」

【キャロル】

「この炎で塵と消えぬとは大したものだ。……だが、もう終わりだな」

 

 普通の人間なら影も形も残らない温度の炎でも、轟の身体は原型を保っていた。

 しかし、炭化したといっても過言ではないほどの火傷の前に、轟は力なく斃れようとしていた。

 

【響】

「轟くんっ!!」

 

 調と切歌を救ってくれた青年が、今もまた自分達を身を呈して守ってくれた。響は崩れ落ちる轟の名を呼びながら、その身体を抱き止める。

 既に自らを支える力など無い轟の体重が、響の腕にのしかかる。

 腕に感じる重みは、轟の命の重さ――。

 

【響】

「わた、しは……」

 

 また守れなかった。

 自分達を助けようとしてくれた人がやられるのを見ていることしか出来なかった。

 胸を苛む悔しさと悲しさが、雫となって頬を伝う。

 流した涙が焼け爛れた黒い皮膚へと落ち、弾けた……その瞬間、

 

【轟】

「――ッ!!」

 

 死に体だった轟が、カッと目を見開いた。身体とは対照的に活力に満ちた瞳が響を捉える。

 目の合った響も突然のことに驚くが、轟の行動はそれだけに留まらなかった。

 瀕死だったのが嘘のような速さで腕を伸ばし、響の胸、その中央に輝くガングニールのコアを掴みながら響の身体を押し倒す。

 

【響】

「わわっ!?」

【翼】

「お、おいっ!」

【クリス】

「お前、何やって――!?」

 

 いきなりのことに面食らっていた翼とクリスは、我に返るなり響から轟を引き剥がそうとその身体に触れた。――その瞬間、

 

【響】【翼】【クリス】

「「「あああああああああああああっ!?」」」

 

 3人は、未体験の感覚に襲われた。

 

【翼】

「なん、だ、これは?――ああっ!?」

【クリス】

「胸が、身体が、熱い……ッッ!」

【響】

「強い、鼓動を感じるっ。これは、轟、くんの……?」

 

 ある種の快感にすら似た感覚に戸惑う響達。

 そんな彼女達の前で最強の存在が、復活に向けて胎動を始めていた。

 

 

 

S.O.N.G移動本部 指令室――

 

【未来】

「響ッ!!」

【弦十郎】

「翼!クリスくん!」

【調】

「……どうなってるの?」

【切歌】

「あの人、一体何をしているデスか!?」

 

 響達の異変に、指令室も騒然となっていた。

 医務室から戻った後、キャロルの業火に斃れる轟の姿に口許を覆っていた調と切歌も、今は目の前の光景に狼狽えている。

 そんな中、原因を調査していた藤尭が、装者達のパラメーターを見ながら驚愕した。

 

【藤尭】

「な、何なんだ、これ!?」

【マリア】

「何が起きているの!?」

【藤尭】

「装者3人のフォニックゲインが低下……いえ、流出していきます!」

【緒川】

「流出?」

【エルフナイン】

「……まさか」

【あおい】

「エルフナインちゃん?」

 

 エルフナインは一つの可能性に思い至った。黒銀轟の語った『エサ』とは、フォニックゲインを指すのではないか、と。

 彼が調や切歌、響達を守ったのは、彼女達が自分のエネルギーを産み出す存在だと本能的に察知したから。

 突飛な発想かもしれないが、そう考えれば全ての辻褄が合う。

 

【エルフナイン】

(そうだとしたら、フォニックゲインを吸収し自らの力に錬成する器官が存在するはず。……考えられるとすれば――)

 

 エルフナインが更に思案を巡らせていた時、傍観に徹していたキャロルが動いた。

 

【キャロル】

『何を遊んでいる?死に損ないはとっとと消えろ!』

 

 叫ぶなり3体のイモムシ型アルカ・ノイズをけしかけた。イモムシ型は車輪のように回転し、解剖器官の刃を唸らせながら迫る。

 翼達はエネルギーを吸われているせいで迎撃できない。……そう思われた。

 

 響を見下ろしていた轟が、迫るイモムシ型を見据えた。

 その瞬間、指令室の面々とキャロルまでもが寒気のようなものを感じ、たじろぐ。

 直後、イモムシ型3体は横から何かに殴られたように身体を押し潰された。

 

【クリス】

『せ、先輩……』

【翼】

『……雪音も見たのか?今のは、一体?』

 

 朧気ながら見えたもの。それは、巨大な生物の尻尾のようであった。

 

【キャロル】

『……貴様、一体何をした?』

【響】

『轟、くん?』

 

 全員が戸惑う中、轟はふらっと立ち上がり、響から離れた。数歩歩いた所で止まり、無言で立ち尽くす。

 言い知れぬ威圧感に沈黙する戦場。

 

 その沈黙は、唐突に破られた。

 

【轟】

『うおおぉぉぉぁぁああああああ!!』

 

 轟は天に向かって野獣のように咆哮した。

 すると、焦げていた表皮が弾け飛び、内側から青白い光が溢れ、轟の身体を包み込む。

 

【マリア】

「何なの、あの光は!?」

【エルフナイン】

「あれは……。そうか、やっぱりそうだったんですね!」

 

 光を見て、エルフナインは得心がいったように叫ぶ。

 青白い光は無数の粒子、轟の体内を巡る未知の細胞の集合体であった。

 轟の身体を包み込んだ光の粒子は、通常の人間とは異なるシルエットを象ると、手足の先端から轟の身体へと固着していった。

 

 美しい光の演出(イリュージョン)。しかし、S.O.N.Gメンバーは、似た光景を目にしたことがあった。

 それを証明するデータが、指令室のサブスクリーンに表示され、弦十郎は呟いた。

 

【弦十郎】

「フォニック、ゲイン……」

 

 直後、轟の全身が眩く発光した。全員が視界を奪われ目を庇う。そして光が収まり、モニターに目を戻した全員は言葉を失った。

 

 轟が立っていた場所に佇んでいた存在(もの)

 それは、青白い光とは対照的な漆黒の鎧に身を包んだ【怪獣王】の姿であった。

 

【調】

「あれ、は……」

【切歌】

「昨日の、きょう、りゅう?」

 

 調と切歌の言う通り、その姿は昨日の赤黒い影と非常に酷似していた。

 頭部は顔面に至るまで黒い装甲で覆われ、双眸のみが黄色く輝く。太い四肢の先端には、鉄をも紙切れのように引き裂く鋭利な爪を備え、重厚なボディーはミサイルの直撃にも傷一つ付くことはない。

 何より特徴的であったのは、背中に並ぶ剣のような3列の白い背鰭とそれに連なるように伸びた長く強靭な尻尾を持つことであった。

 

【キャロル】

『……その姿は何だ?お前は本当に、何者なんだ!?』

 

 キャロルは明らかに動揺し、目の前の存在に語りかける。そこに、数百年の永き渡って身に付けた英知を以て、S.O.N.Gメンバーを追い詰めた強敵としての余裕はなかった。

 

 キャロルはまだ知らない。

 目の前の存在が、別世界の地球を震撼させた大怪獣であることを。

 そしてその姿と力を、フォニックゲインを基にシンフォギアとして新生させたということを。

 

【ゴジラ/轟】

『ガァァオオオオオオォォォオオオォォゥゥンッ!!』

 

 キャロルの問いに応えるように、新たな姿へと『変身』を遂げたゴジラは、逆襲の狼煙となる咆哮を天高く轟かせた――。




第3話は以上になります。

今回のメインとなったのが、黒銀轟ことゴジラの新たな姿への覚醒です。轟のキャラとしては、外見イメージとしては【Fate/staynight】のアーチャーのような長身色黒の強気キャラとして設定しています。

既にお分かりかと思われますが、第1話第2話に登場した赤黒い影のゴジラはエネルギーが不足した不完全体でした。

今回登場した漆黒の全身鎧姿が、ゴジラ本来の姿を模した本作における真の姿になります。
イメージとしては【ハイスクールD×D】の赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)、【カードファイト!!ヴァンガード】のジェノサイド・ジャックが近いですね。ゴジラシリーズならメカゴジラ(機龍)のカラーリングをマッドブラックにした感じです。
露出が多い響達のシンフォギアと対照的なデザインですが、これは男の『変身』と言えばウルトラマンや仮面ライダーのイメージから全身を覆う形にしました。その方がゴジラらしいですしね。

今回は顔見せ程度に終わりましたが、次回は最初からキャロルとの激闘を演じることになります(ちなみにEDに玉置成実さんのReasonを選んだのも、【ガンダムSEED Destiny】の第1話のラストを意識してのことです)。

それでは、今回はこの辺りでお開きにさせていただきます。また次回もお読みいただけると幸いです。
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