戦姫絶唱シンフォギアGX ~破・壊・神・転・生~   作:GGG@ハーメルン

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大変遅くなりました!
第5話(#05)投下します!
今回はシンフォギア版ゴジラの謎に迫る説明回になります。

轟(ゴジラ)を仲間に誘おうと動き出す響達。
しかしその思惑の前に、転生しても変わらぬ人間への怒りが立ちはだかる。

※本作では、【ゴジラ】シリーズおよび【戦姫絶唱シンフォギア】シリーズのネタバレやオリジナル要素を多分に含みます。
ネタバレやオリジナル設定、ゴジラの人間への転生などに抵抗のある方はご遠慮頂いた方が良いかと思われます。荒らしや批判などのコメントもご遠慮ください。そういったコメントは無視させて頂きます。
「それでも良い!」という方は、駄文ですがお付き合い頂けると幸いです。

OP:Exterminate

ED:Rebirth-day


#05 異質‐Stranger‐

S.O.N.G移動本部 指令室――

 

 ゴジラとキャロルの激闘から一夜明け、主要機能を失った横須賀基地に停泊する司令本部に、装者達は集められていた。

 弦十郎から状況の整理と重要な案件の為としか聞かされておらず、装者達の表情には固さが見て取れた。

 

【弦十郎】

「全員揃ってくれたな。先ずは連日の戦闘、ご苦労だった」

【クリス】

「前置きはいいからさっさと本題に入れよ」

 

 労いの言葉よりも、用件が気になって仕方無いクリスが急かす。だが、その本音は、労いの言葉が心苦しいからに他ならなかった。

 基地を守るために戦ったのに、キャロル一人に手も足も出ず、結局敵を追い払ったのは、謎多き青年が纏う黒いシンフォギアだったのだから。

 

【弦十郎】

「まあ、そう慌てるな。一つ一つ順番に、な。先ずはイグナイトモジュールについてだ。――エルフナインくん」

【エルフナイン】

「はい」

 

 イグナイトモジュールについての話題に、響と翼が僅かに身を乗り出す。制御に失敗し、暴走まではいかなかったものの闇に呑まれかけた新たなる切り札。昨日の戦闘後、メディカルチェックと同時にエルフナインが改めてギアのデータを収集していた。そこから、制御の為のヒントが得られるかと期待を込めていたのだが――

 

【エルフナイン】

「データを分析しましたが、モジュールに不備は見られませんでした。ただ僕が思っていた以上に、ダインスレイフの呪いが皆さんの心に与える影響が強かったようです」

【マリア】

「新しいコアには呪いを抑制するリミッターが付けられていたはずよ?それをもっと強くすることは出来ないの?」

 

 マリアの至極尤もな指摘に、エルフナインは首を横に振った。

 

【エルフナイン】

「リミッターは破壊衝動だけでなく、モジュール起動後の出力にも影響します。今は全3段階のセーフティーで成り立っていますが、それを増設することは――」

【翼】

「ギアの出力を下げ、戦力増強という本来の目的を果たせない、か」

【エルフナイン】

「その通りです。……でも、何より問題は」

 

 エルフナインは翼の言葉に頷きながら、キャロルに似た顔を陰らせ、続きを口にすることを躊躇した。

 

【響】

「エルフナインちゃん?」

【弦十郎】

「……大事なことだ。遠慮せず事実を話してやってくれ」

【エルフナイン】

「……分かりました。……問題の根幹は、皆さんの心にあります」

【調】

「私達の」

【切歌】

「心、デスか?」

 

 首を傾げる調と切歌。エルフナインはまだ言うのを憚っていたが、弦十郎の言葉を思い出し、装者6人に鋭い言葉を投げ掛ける。

 

【エルフナイン】

「皆さんは、それぞれトラウマとも呼べる心の闇を抱いていますよね?犯した罪や一人残された境遇、どんなに時を経ても決して褪せることの無い暗い過去を引き摺っている」

 

 その言葉は、響達全員の胸に突き刺さった。

 エルフナインの言う通り、6人の心にはどんなに強くなろうとも消えない傷が刻まれている。逆に言えば、彼女達が戦姫としてこの場に立っているのも、その傷が切っ掛けであったのだ。

 

【エルフナイン】

「心の闇を乗り越えない限り、どれだけシステムを見直しても、皆さんに暴走を、イグナイトモジュールを制御することは出来ません」

【未来】

「で、でも、響は何度も暴走から立ち直ってきたよ!?昨日はダメだったけど、次はきっと――」

 

 未来は、響が完全聖遺物≪デュランダル≫を手にした影響で暴走しかけた時、自分や友人達の声で正気を取り戻したことを思い出した。今回は失敗したけれど、次こそは必ず成功してくれる。未来は親友の心の強さを疑わなかった。

 だが、そんな未来の希望を、エルフナインはまたしても首を横に振って否定する。

 

【エルフナイン】

「ダインスレイフの呪いは、手にした者の心を侵食します。まるで悪魔の囁きのように、心の隙間から奥へ奥へと入り込んでいくんです。その魔手は外部からは決して阻むことは出来ません」

「ダウンスレイフに打ち勝つには、皆さん個人の心の強さで、己の弱さをはね除けなければならないんです」

 

【響】

「心の、強さ……」

 

 響達は揃って胸に手を当てる。確かに伝わってくる自分の鼓動。自分達の向き合うべきものは、この胸の更に深奥にある。

 これまでも決して楽な道じゃなかった。寧ろ、苦難の方が遥かに多かったに違いない。それらを仲間と共に乗り越え、自分達は今ここにいる。

 

 しかし、それが自分の弱さから目を背けることになっていたのではないだろうか?助け合うつもりで、実は傷を舐め合っていたに過ぎないのでは無いのだろうか?

 

 自分の弱さ、脆さを自覚しているだけに、そんなマイナスの考えが頭の中をぐるぐると回っていた。

 

【弦十郎】

「……ということだ。とんだじゃじゃ馬な切り札となったが、だからこそ使いこなす価値がある!」

「大体、奥義や切り札が一朝一夕で身に付いたのなら、今頃世の中達人だらけだ」

 

 弦十郎は、努めて明るい調子で語った。功夫映画やその類いのノリが好きな彼らしい励まし。それで心の闇が晴れるわけではないが、少なくても今この瞬間の装者達の心は、確実に軽くなった。

 

【翼】

「全く、叔父さまは……」

【響】

「良いじゃないですか!それでこそ、師匠ですよ!」

【弦十郎】

「おっ、流石に分かっているな、響くん!よしっ!ここは一つ心身を鍛え、モジュールをものにする為にとっ――「特訓はしないからな!」――……ぉぅ」

 

 暑苦しいノリの行き着く先を予見したクリスによって、弦十郎は閉口させられた。

 眉根を下げた姿を見て、不機嫌そうに眉を潜めていたクリスを含む全員が笑い声を上げる。

 

【藤尭】

「……良い感じだな」

【あおい】

「フフッ。司令には申し訳無いけどね」

【弦十郎】

「オホンッ。あ~、何にせよだ。課題があるならそれを解消する為に力を尽くすしかない。焦らず、出来ることからな」

 

「「「「「「ハイッ!!」」」」」」

 

 照れ隠しの後、司令として、少女達を導く大人としての顔に戻った弦十郎の檄に、響達6人はしっかりと頷いた。

 

【弦十郎】

「うむ。じゃあ、この話は一旦ここまでにし、次の話に移ろう。……黒銀についてだ」

 

 活力が表れた装者達だったが、轟の名前が出た途端、その表情は不安や戸惑うの混じった微妙なものとなった。

 昨日の戦闘後に倒れてから本部に収容されて以降の状況を、装者達は誰も知らない。

 

【弦十郎】

「こちらについては色々話題が多いが、先ず容態は全く問題ないとのことだ」

【響】

「そっか。良かった……」

 

 気がかかりの一つであった青年の安否が判明し、響は胸を撫で下ろした。

 

【エルフナイン】

「やはり極度の空腹状態にあったようです。恐らく一昨日以前から何も食べない状態が続いていたんでしょうね」

「収容後、メディカルチェックと並行して栄養剤の投与を施し、まもなく通常の食事も可能になりました」

【藤尭】

「そこからが大変だったみたいだけどな……」

【切歌】

「どういうことデスか?」

【あおい】

「念のため、最初の食事は消化の良い病人食を少量提供したらしいんだけど、全然食欲が満たされなかったみたいでね……」

【藤尭】

「追加に次ぐ追加で食堂は戦場だったらしい。終わってみれば10人分を超える量を平らげ、緊急で食料を補充することになった」

【未来】

「そんなに!?」

【弦十郎】

「ああ。会いに行った時には、食器が山積みだった。食い方も荒々しくて、殆どが手掴みだったらしい」

 

 戦闘だけでなく食事も常識外れとは思わなかっただけに、少女達は報告を聞いても唖然とする以外なかった。

 

【エルフナイン】

「でも、その甲斐あって、あの方は肉類を嗜好することが分かりました」

【響】

「そこ重要なんだ!?」

【エルフナイン】

「勿論です!小さな発見が大きな結論を導き出すことだってあるんですから!」

 

 大真面目に語るエルフナイン。その目は完全に研究者のそれで、今にも科学や錬金術に関する講義が始まりそうな勢いだった。

 勉強が苦手な響と切歌は本能的にそれを察知して、何とか話題を変えようと頭を回転させる。そんな時、切歌の隣の調が手を挙げた。

 

【調】

「あのっ……、今あの人はどうしてるんですか?」

【響】

(調ちゃん!!)

【切歌】

(グッジョブデス!!)

 

 心の中で称賛の叫びを上げる二人の視線に、調は小さくVサインで応えた。だが、轟のことを気にする気持ちも本物で、エルフナインと弦十郎を交互に見やる。

 

【弦十郎】

「飯を食い終わるなり医務室(メディカルルーム)で爆睡だ。お陰で大して話も出来ず終い。今も緒川に確認に行かせているが、まだ眠ったままのようだな」

【調】

「そうなんですか……」

【クリス】

「随分残念そうだな?」

 

 肩を落とした調にクリスが訊ねると、調は切歌の手を握りながら口を開いた。

 

【調】

「……私が今もこうして切ちゃんと一緒にいられるのは、あの人のお陰ですから」

【マリア】

「調……」

【未来】

「調ちゃん……」

 

 言いながら調の手は震えていた。

 一昨日、もし轟の乱入が無かったら、調はアルカ・ノイズによって惨殺されていただろう。調を喪ったなら、切歌も今までのような明るい性格ではいられず、深い深い闇の底へ堕ちていたかもしれない。

 偶然だったとしても、今この瞬間ここにいられることに調は心から感謝していた。そして、それは切歌も同じ。

 

【切歌】

「そうデス!それに、あの人は私と調のお願いを聞いて、ちゃんと先輩達を助けてくれたデス!」

【調】

「切ちゃん……」

【切歌】

「私も調と同じ想いデス。ちょっと怖いデスけど……あの人はきっと良い人デスよ!」

 

 思い出すのは、医務室でのやり取り。無力さに涙する自分達を撫でた大きな手と優しい瞳が轟の本当の姿だと、二人は信じていた。……だが、

 

【エルフナイン】

「……そう結論付けるのは危険だと思います」

 

 まさかのエルフナインが、調と切歌の考えを否定した。

 

【切歌】

「ど、どうしてデスか!?」

【調】

「悪い人なら、身体を張って見ず知らずの私達を守ろうなんてしないはず!」

 

 納得できない、と切歌と調も反論するが、エルフナインの表情は変わらなかった。その様子からは、確固たる理由を持っていることが伺え、翼達は黙ったまま成り行きを見守っていた。

 

【エルフナイン】

「……あの方、黒銀さんが皆さんを助けたのには、ちゃんと理由があるんです」

【翼】

「理由?」

【エルフナイン】

「はい。彼が皆さんを助けた理由――」

 

「それは、皆さんがシンフォギア装者だったからです」

 

 エルフナインの語った理由に、響達は驚きを隠せなかった。

 

【響】

「ど、どういうこと、エルフナインちゃん!?なんで、私達がシンフォギアを使えることが、轟くんが私達を助ける理由になるの!?」

【エルフナイン】

「それを説明するには、先ずはこれを見て頂く必要があります」

 

 そう言って、エルフナインは手に持った端末を操作する。すると、指令室のメインモニターに映像が映し出された。

 

【エルフナイン】

「これは一昨日、調さんと切歌さんの前に黒銀さんが乱入した時の記録です」

【マリア】

「例の暴走状態で現れた時ね」

 

 モニターの中で暴れまわる赤黒い影を纏った轟を見ながらマリアが言うが、エルフナインは首を横に振った。

 

【エルフナイン】

「あれは恐らく、暴走ではありません」

【クリス】

「何だと?」

【翼】

「バカな。あれは間違いなく聖遺物の暴走だ。私と雪音が見間違うわけがない」

【エルフナイン】

「そのことについては、もう少し後で触れます。今は続きを見てください」

 

 響の暴走を実際に目の当たりにしてきた翼とクリスは納得のいかない様子だったが、とりあえずエルフナインの仮説を聞くことにした。

 モニターでは轟に一蹴されたミカが、ファラに救出され離脱する。その後、轟を包んでいた赤黒い影が消え去り、一糸纏わぬ姿となった青年は調と切歌に近付いていった。

 

【調】

「~~~~////」

【切歌】

「はわ~~////」

 

 近付いた轟は調の腕を引き寄せ、顔を近付け匂いを嗅いだりしている。

 当時のことを思い出し、調は真っ赤になりながら俯き、切歌は手で顔を覆いながら、指の隙間からその様子を覗き見ていた。

 

【エルフナイン】

「この時、黒銀さんは調さんの身体を見て触れて、何かを確かめていました。そして、自分の求めていたものが無いと分かり、焦りを露にしたんです」

【マリア】

「そう言えばそんな感じだったわね」

 

 マリアが頷く中、モニターでは漸く到着したクリスが、轟の画面に強烈なキックを見舞っていた。

 

【翼】

「……あれは本当にやり過ぎだぞ、雪音」

【クリス】

「し、仕方ねぇだろ!?後輩達(こいつら)を襲っているようにしか見えなかったんだから!」

【響】

「ま、まぁ、結果的に轟くんは何とも無かったんだし、良かったんじゃないかな~」

【エルフナイン】

「……そもそもその時点でかなり異常なのですが、それは一旦置いておきましょう」

「次に注目してもらいたいのはここです。立ち上がった黒銀さんが、駆け付けたクリスさんと翼さんを捉えた瞬間、二人に猛然と飛び掛かっていきました」

【未来】

「言われてみれば、反応が違うね。調ちゃんの時みたいに戸惑う様子が全然無い」

【エルフナイン】

「それもそのはずです。お二人は既に、黒銀さんの求めるものを身に付けていたのですから」

【藤尭】

「それが、シンフォギア?」

【あおい】

「確かに、調ちゃんと切歌ちゃんは自動人形(オートスコアラー)にギアを破壊され、一時的とはいえ装者では無くなっていた」

【響】

「でも、これだけで目的がシンフォギアっていうのは……」

【エルフナイン】

「いえ、間違いありません。極めつけとなる映像が、これです」

 

 エルフナインは映像を昨日のものに切り替えた。

 キャロルの炎に焼かれた轟は抱き留めた響を押し倒し、二人を引き離そうとした翼とクリスが肩に触れる。その瞬間、3人は揃って声を上げ始めた。

 

【エルフナイン】

「この時、響さん達のフォニックゲインが流出を始めました。流れ出したエネルギーの行き先は一つしか考えられません」

【翼】

「黒銀に、吸収された?」

【エルフナイン】

「そうです。そして、エネルギーを吸収した後、黒銀さんはシンフォギアへと変身を遂げました」

 

 モニターではゴジラへと変身した轟が、覚醒の咆哮を轟かせていた。

 

【クリス】

「自分が変身する為の力をあたし等から奪ったってことかよ!」

【マリア】

「シンフォギアとしては異質ね。装者のフォニックゲインではなく、他者のフォニックゲインを起動トリガーとするなんて」

【未来】

「でも、事前の検査では、この人はシンフォギアを持っていないって話だったんじゃ……」

【エルフナイン】

「そこです!」

 

 未来の一言にエルフナインは強く反応した。エルフナインは映像を巻き戻し、轟が青い光に包まれ、ゴジラへと変身する瞬間を映し出す。

 

【エルフナイン】

「ここを見てください。黒銀さんを包んだ光、よく見ると小さな粒子の集まりなんです」

 

 映像を止め、一部を拡大する。拡大部をトリミングすると、確かに光は無数の蛍火のような光源が集まった物であることが分かる。

 

【調】

「これがシンフォギアの正体?」

【切歌】

「でも、どこから出てきたデス?」

【エルフナイン】

「……この光の正体、ボク達は既に知っていたんです」

 

 エルフナインは端末を操作して、別のデータを映像の隣に出した。それは、轟のメディカルチェックの結果。その中から色分けされピックアップされていたのは……

 

【クリス】

「こいつは……」

【翼】

「黒銀から見つかった、未知の細胞?」

【エルフナイン】

「そうです。当初の予想通り、これが黒銀さんのシンフォギアを形成していました」

 

 エルフナインの答えに、指令室は驚きに包まれた。響という聖遺物との融合症例はあるものの、全身に、細胞レベルで融合しているなど到底信じられることでは無い。

 

【響】

「でも、エルフナインちゃん言ってたよね?この細胞からは聖遺物の反応はしないって」

【エルフナイン】

「確かに、シンフォギアを発現した今も、黒銀さんの身体からは聖遺物の反応は見られませんでした。これが指すところは只一つ」

 

「黒銀さんのシンフォギアは、シンフォギアであってシンフォギアではない。聖遺物とは異なる超常を起源とする力なんです」

 

 エルフナインの出した驚愕の結論に、響達は言葉を失うしかなかった。

 

【弦十郎】

「聖遺物とは別の、人知を超えた力、か」

【エルフナイン】

「僕も信じられませんでしたが、こう考えるのが一番現実的なんです。事実、黒銀さんの変身した姿や能力に該当する存在は、どの神話や伝承にもありませんでした」

【藤尭】

「となると、聖遺物と区別するために何かしらの呼称が必要になりますね」

【弦十郎】

「そうだな。エルフナインくん、何か良い案はないかね?」

【エルフナイン】

「……実は、データ収集にあたってボクの方でつけた名前があるんです」

 

 エルフナインは遠慮がちに呟きながら、モニターに細胞のデータファイルを表示した。ファイル名をあおいが読み上げる。

 

【あおい】

「≪Generate X≫?」

【エルフナイン】

「ハイ。『シンフォギアを超えるエネルギーを生成する未知の細胞』という意味です。ボクは≪GX細胞≫と呼んでいます」

【翼】

「GX細胞……」

 

 聖遺物以上の謎と力を内包する物質。

 その正体が≪G(ゴジラ)細胞≫の変異した物だということを、流石のエルフナインでも知る由が無かった。

 

【切歌】

「何だか色々いきなり過ぎて、頭が付いていかないデスよ~!!」

【マリア】

「でも、これで一つハッキリしたわね」

【調】

「マリア?」

 

 混乱して頭を抱える切歌を置いて、マリアは厳しい顔だった。調が問いかけると、マリアは彼女と騒ぐのを止めた切歌を見て一瞬躊躇したが、キッと瞳に力を戻して口を開く。

 

【マリア】

「あの男が調と切歌を助けたのは、単純な善意からではない、ということよ」

【翼】

「……黒銀自身も言っていたな。私達を指してハッキリ『餌』と。全ての行動は、フォニックゲインという自身のエネルギー源を得る為だった」

【マリア】

「そう。だから、直前までフォニックゲインを発していた調と切歌に危害を加えようとした自動人形(オートスコアラー)やアルカ・ノイズに、敵意を剥き出しに襲いかかった」

【クリス】

「そしてそれは、あたし達の時も同じってことか」

【エルフナイン】

「皆さんの推察通りだとボクも思います。特に、最初に姿を現した時は、エネルギーが尽きかけ、かなり切迫した状態だったはずですから」

【クリス】

「そうか。あれは暴走じゃなくて……」

【翼】

「鎧を形成するだけのエネルギーがなく、GX細胞の固着が不安定になっていたから、というわけだな」

【切歌】

「そんな……」

 

 マリア達の話に、切歌はショックを受けている様子だった。

 轟は、ヒーロー……とは言えないかもしれないけれど、それでも身を呈して自分の、自分達の大切な人を守ってくれた。でも、それは優しさや正義等ではなく、ただ自らの欲求を満たす為だったと言われ、切歌の心にはこれまで自分達を散々利用しようとして来た大人達に抱いた想いと同じものが膨らみ始める。

 

【エルフナイン】

「以上のことだけでも、黒銀さんへの対応は慎重を期す必要があると考えます。……キャロルの元にいたボクが言えた立場ではありませんが、安易に仲間と判断し、あの強大な力が皆さんに向いたらと考えるとゾッとしないです」

【弦十郎】

「その事だが、エルフナインくん。君の所見では、仮に黒銀が敵に回った場合、俺達の戦力で対抗できると思うか?」

 

 弦十郎の言葉に、エルフナインは僅かだが言葉を詰まらせた。そして、弦十郎と装者達を交互に見やった後、一つ息を吐いてから告げる。

 

【エルフナイン】

「……不可能です。昨日の戦いを見るだけでも、キャロルと同等以上の力があるのは明らか。加えて、フォニックゲインをエネルギー源とする以上、シンフォギアの攻撃では、逆にエネルギーを与える結果になりかねません。……キャロルのダウルダブラが打撃を与えていたことを考えると、一応ダメージは通りそうですが」

【クリス】

「ラスボスと同等クラスの戦闘能力に加えてネフィリムに似た特性とか、チートかよ……」

【翼】

「だが、昨日の戦いを見ればそれも納得せざるを得ない」

【弦十郎】

「イグナイトモジュールの発現に成功した場合はどうだ?」

 

 まだ成功もしていない切り札を算段に入れることは現時点では無意味だが、仮に勝率が上がるのならば、制御を目指す上でモチベーションの向上になると弦十郎は考えた。

 しかし、エルフナインは無常にも首を横に振る。

 

【エルフナイン】

「仮にダメージが通るという仮定もプラスして見積もっても、状況は変わらないでしょう。1vs1で黒銀さんを倒すことはまず不可能。……おそらく、希望的に見積もって、イグナイト状態の装者3人がかりでやっと互角かと」

 

 切り札を実現させたとしても及ばない戦力差を突き付けられ、装者達は重苦しい緊張感に押し黙った。

 だが弦十郎は、エルフナインの分析結果をある程度予測していた。現時点では轟が味方と断じられないこと、敵対した場合の力の差が歴然であることを敢えて装者達に突き付けたのは、これから出す提案の応否を彼女達に委ねようと思ったからに他ならない。

 

【弦十郎】

「ここまで聞いた上で、諸君に問いたい。黒銀を仲間として、共に戦ってくれるよう頼むか、それとも敵或いはそれに類するイレギュラーとして警戒対象とするか」

【翼】

「……叔父さまは、黒銀を仲間に引き入れたいとお考えなのですか?」

【弦十郎】

「ああ。キャロルは元より、今の戦力では自動人形(オートスコアラー)に対抗することも難しい。イグナイトモジュールが使えない以上、それに代わる切り札は必要だ」

 

 キャロル一派は、S.O.N.Gや世界に対し、明確な敵意を示している。底知れぬ彼女達の錬金術に対抗する力を得ることこそ、防衛の要である自分達には急務。大局を見据えた上で、弦十郎はそう考えていたが……

 

【クリス】

「冗談じゃねぇ!あたしは絶対反対だ!」

 

 真っ先に拒否を示したのは、クリスであった。

 

【弦十郎】

「理由は?」

【クリス】

「言わなくてもだろ!あいつ、自分を満たすためにあたし達を利用しただけじゃねぇか!仲間にしても、あたし達を燃料タンクとして扱うに決まってる!そんな女を食い物にするような奴に背中なんて預けられるかよ!」

 

 烈火の如く捲し立てるクリス。そこには、轟個人に対して以外の思いが渦巻いているように見えた。

 それを感じたのか、翼が冷静な口調でクリスに同意する。

 

【翼】

「……司令、私も雪音と同意見です」

【響】

「翼さん……」

 

 感情的になっているクリスは仕方ないにしても、冷静な翼まで轟との共闘に難色を示した。

 

【翼】

「確かにあの力が味方になってくれれば、キャロル達との戦況は飛躍的に好転するだろう。だが、それは極めて危うい賭けだ」

「雪音の言うように戦闘中にフォニックゲインを吸収されれば、私達はすぐには身動きが取れなくなる。それは立花も分かっているだろう?」

【響】

「それは……。でも、翼さん!轟くんの歌を聞いて、真摯な心を持つ人って思ったんですよね?それでも信じることは出来ないんですか?」

【翼】

「確かに、嘗て黒銀の歌を聞いた時はそう思った。……だが、あの時の黒銀と今の黒銀は、どこか違う気がする。姿は同じでも、(こころ)にあの時の面影を感じ得ない」

 

 翼自身、歌から伝わってきた黒銀轟という人間の印象から、彼を仲間として信じてみたい気持ちはあった。しかし、昨日の獣もかくやという暴れっぷりに、今はその気持ちが揺らいでいる。

 

 実際、翼の抱いた印象は的を得ていた。

 轟の中にあるのは、夢を追いかけていた若人ではなく、自らの運命を捩じ曲げた人間(げんきょう)への怒りを燃え盛らせる破壊神なのだから。

 

【未来】

「マリアさんはどう思っているんですか?」

 

 クリス、翼と共に轟への警戒を露にしていたマリアに、未来は敢えて問いかけた。

 マリアは、これまでの話の流れですっかり俯いてしまっている調と切歌を悲しげな視線で一瞥しながらも、自分の抱いている想いを偽ることなく吐露した。

 

【マリア】

「私も翼やクリスと同意見よ。調と切歌を助けてくれたことには感謝しているし、信じてみたい気持ちはある。……でも、昨日の彼の戦い方、周囲への被害を全く考慮に入れていなかった」

「おそらく、彼の目に写っているのは、倒すべき敵の姿とエネルギー源であるシンフォギアのみ。それ以外のものはどうなろうと気にも留めない。例え敵を倒せたとしても、もたらされる代償は大きなものとなる。……そんな気がする」

【切歌】

「マリア……」

【マリア】

「切歌、調、あなた達の気持ちも分かるけど、彼には人としての信念が感じられない。ただ暴虐の限りを尽くすなら、それはノイズやキャロル達と変わらないわ。そんな相手と私は手を取り合うことはできない」

 

 翼と同様、マリアの意見は冷静に轟の戦いを見た上でのものであった。感情に流されない正論に対抗できるだけの材料は今のところ見当たらない。

 内容だけで判断すれば、クリス・翼・マリアの意見で方針は決まったと言って良いだろう。

 

 しかし、人間は感情の生き物なのだ。例え論理に欠け、説得力が無くても、感情の籠った力に人の心は動かされる。

 

【調】

「……それでも」

 

 静まった指令室に、これまで俯き沈黙を守っていた調の声が響く。親友を含めた全員の視線が集まる中、最も小さな装者は揺るぎない自分の想いを打ち明けた。

 

【調】

「それでも、私はあの人を信じたい」

【切歌】

「調……?」

【クリス】

「お前、まだあいつが助けてくれたって思ってるのか!?あいつが助けようとしたのは――」

【調】

「私のシュルシャガナ。そうだったとしても、あの人は私を守ってくれました!切ちゃんだけを助けて、私を見殺しにすることも出来たのに」

【切歌】【響】

「「――――ッ!!」」

 

 調の言葉は、心に靄のかかった切歌と響にとっては黎明に等しかった。

 

 あの時、戦場にいたのは調と切歌の二人。調はアルカ・ノイズに取り囲まれていたが、切歌はそこからかなり離れた所で倒れていた。

 調を気にせずにミカと戦っていれば、余計なエネルギーや時間を使うことなく、切歌=イガリマというエネルギー源をものに出来たにも関わらず。

 

【エルフナイン】

「それは、より多くのエネルギー源を確保する為だった、とも見れます」

【調】

「そうかもしれない。でも、そこに汚い感情は無かったと思う。……マリアはあの人に信念は無いって言ったよね?あの人の瞳、強くて鋭くて怖かったけど、欲望にまみれた嫌な感じはしなかった。自分の目的のためにただ純粋に行動する、それって昔の私達と同じだと思う」

【マリア】

「調……。そう、かも知れないけれど。でも――「……私もあの人を信じるデス」――切歌……」

 

 もっと慎重になるべきと諭そうとしたマリアの言葉を遮ったのは、調によって自分の心に踏ん切りがついた切歌であった。

 

【切歌】

「何でみんな、あの人の悪いところばかり見るデスか?確かに発電施設を壊したりしたけど、人を傷付けたりはしてないデス!」

【翼】

「それは結果論だ。偶々、施設からの避難が完了していただけで、避難が間に合っていなければ――」

【切歌】

「それこそ"たられば"話じゃないデスか!」

【調】

「切ちゃん……」

【切歌】

「……あの人は、調を助けてくれたデス。偶然でも何でも、それが全てデス!」

 

 切歌は感情のままに想いの丈をぶつける。

 元々感情表現豊かな彼女が放つ感情論。それは、この場では正論以上の熱となってマリア達の心に訴えかける。

 

【切歌】

「……それに、あの人は優しかったデス。クリス先輩達がやられそうになって、でも私達には何も出来なくて。自分達の無力に泣く私達のお願いを聞いてくれたデス!」

 

 昨日の医務室でのことを話す切歌に、調も追随する。

 

【調】

「……私達を撫でてくれたあの人の手から伝わってきた温もりは、きっとあの人の心の温度だと思う。……もしかしたら、私達の姿を誰かと重ね合わせていたのかもしれない。それでも、それはあの人が、他人を思いやって行動できる人だってことの証だと思う!」

【クリス】

「お前等……」

【響】

「……自分の感じたことが全て。そうか、そうだよね……」

【未来】

「響?」

【響】

「私も信じたい。……ううん、信じる!轟くんのこと!」

 

 後輩二人の訴えに、響も自分の心が感じた印象を信じる決心を固め、それを全員の前で打ち明けた。

 

【翼】

「立花……、お前のそういう姿勢は今までも私達の気持ちを一つにしてきた。だが、今回は――」

【響】

「違わないですよ」

 

 翼の言葉を先取り、否定した後、響は更に自分の想いを語り続ける。

 

【響】

「調ちゃんと切歌ちゃんの言う通り、轟くんは二人を、そして私達を守ってくれた。その事実に変わりはありません!」

【調】

「響さん……」

【響】

「それに私も轟くんの目を見たとき、感じたんです。私達と同じ、何かを必死に守ろうとしている強い意思を!」

「今は分からないことも多くて、すれ違うこともあるかもしれないけど、きっと分かりあえる!一緒に戦う仲間になってくれるはずです!」

 

 響の言葉に、翼達は何も返すことが出来なかった。今まで和解など不可能と思われた自分達を繋いでくれたのは、他でもない響だったのだから。

 

【未来】

「……もう、相変わらずなんだから」

 

 親友の言に一瞬苦笑した後、未来はいつの間にか固く拳を作っていた響の手を握る。

 

【響】

「未来?」

【未来】

「……私も信じてみる。黒銀……くんのこと。正直、あの人のことは全然分からないし、危ない気もするけど、響の人を見る目は確かだもんね」

【響】

「未来ッ!ありがと~!」

 

 お礼を言いながら抱きついた響を、未来は照れながらも抱き返す。先輩二人が味方になってくれたのを見て、切歌と調も表情を明るくした。

 

【切歌】

「デスデス!私達だって散々すれ違ったけど、最後にはこうして仲良くなれたデス!」

【調】

「そうだね、切ちゃん。……あの時は響さんがきっかけを作ってくれた。今度は、私達も頑張らないと!」

【響】

「うんっ!」

【切歌】

「デスッ!」

 

 後輩二人と頷きあった後、響は未来から離れ、弦十郎を真っ直ぐ見据えて、

 

【響】

「私達は轟くんを信じます!一緒に戦ってくれるように、話をさせてください!」

 

 と告げた。

 反対派の翼・クリス・マリアはその様子を黙って見つめる。あおいや藤尭、エルフナインが沈黙を守り続ける中、腕を組んだ弦十郎はフッと口許を緩ませた。

 

【響】

「師匠?」

【弦十郎】

「響くんならそう言うと思っていた。……4人とも、黒銀が目を覚ましたら、俺と一緒に話をしに行こう」

【響】

「師匠!」

【翼】

「司令!?」

【クリス】

「本気かよ、オッサン!?」

 

 弦十郎の言葉はつまり、轟を仲間にする方針に決定したと言っているのと同義だった。これには流石に、翼達反対メンバーは抗議の声をあげる。

 しかし、弦十郎はそれを片手で制し、言い聞かせるように語り出した。

 

【弦十郎】

「翼達の懸念も分かる。だが、響くん達が言うように、俺達は黒銀轟という男のことを知らなすぎる。それで敵と、危険と決めつけるのは早計だろう?」

【マリア】

「だからと言って、仲間としてすぐに信用するのは迂闊です!」

【弦十郎】

「確かにな。なら、マリアくんは、何時になれば黒銀を信用していいと思える?」

 

 弦十郎の返しに、マリアは言葉に詰まってしまった。

 

【弦十郎】

「信頼とは時間をかけて培われていくものには違いない。しかし、それがいつ確かなものへと醸成されるのか、それは誰にも分からない」

「ただ一つ言えるのは、スタートが遅くなればなるほど、信頼を確立する時は遠ざかっていく。なら大事なのは、始めの一歩をどれだけ早く踏み出せるかじゃないか?」

 

 若者を導く大人としての意見。それに反論できるほど、クリスは勿論、翼もマリアも人生を歩んではいなかった。

 

【マリア】

「……エルフナイン、それに藤尭さんと友里さんはどう思っているの?」

【エルフナイン】

「……ボクはあくまで慎重に対応する必要があると考えます。しかし、さっきも言いましたように、ボクもキャロルの下から逃げてきた身です。だから、黒銀さんのことを好きに言える立場にはないです」

【藤尭】

「俺達は司令に一任しているよ。……というより、昨日の内に皆の反応を見て対応を決めようってことで話は着いていたんだ」

【あおい】

「あくまで戦うのは皆だものね。私達にはバックアップしか出来ない。……でも、嘗てクリスちゃんやマリアさん達がそうだったように、黒銀くんが心強い仲間になってくれたらって思っているわ」

 

 エルフナインは同じ境遇として、藤尭とあおいは弦十郎とは違った角度から、大人として少女達の判断を見守るつもりでいる。

 

 よって、轟を巡る話し合いは装者+未来の7名に託され、賛成4、反対3で決着を見ていた。

 

【弦十郎】

「……ということだ。納得がいかなければそれでも構わん。だが、先ずは歩み寄ってみるという方向でいかないか?」

 

 各々の意見が出揃った上で、弦十郎は翼・クリス・マリアに最後の確認を取る。

 クリスは明らかに不満そうな表情を崩さなかったが、翼とマリアは瞑目してから深く溜め息を吐いた。

 

【翼】

「司令が決めたのであれば、私は従うだけです。元より、立花が賛成に回った時点でこうなるとは思っていました」

【響】

「翼さん!」

 

 翼が賛同してくれたことに、響は表情を輝かせる。それに釣られて、翼も幾分か表情を緩くした。

 

【翼】

「だが、私は正義を貫く剣!黒銀が正義にもとる行いをしたなら、防人として奴を斬る!……それを忘れるなよ?」

【響】

「はいっ!分かってますとも!」

 

 不敵な笑みの翼に敬礼で答える響。装者の中では最も長い付き合いとなるは二人の様子を見て、マリアもフッと笑みを溢した。

 

【マリア】

「全く……。多数決なら仕方無いわね」

【調】【切歌】

「「マリア!!」」

 

 不安そうだった調と切歌と笑顔を浮かべ、マリアも本来の優しい表情で応えた。

 

【マリア】

「司令の言う通り、一歩踏み出さなければ始まらない。それに、いくらすれ違っていても、ちゃんと向き合えば分かるって、私達は教えられたものね」

【調】

「うんっ」

【切歌】

「デスッ!」

 

 頷き合う3人の視線の先、そこには自分達に大切なことを教えてくれた日だまりのような[[rb:少女 > ひびき]]の笑顔があった。

 

 これで残すところ反対の意を示すのはクリス一人となった。

 

【弦十郎】

「クリスくん、君はあくまで反対か?」

【クリス】

「あ、当たり前――」

【響】

「クリスちゃん……」

【調】【切歌】

「「クリス先輩……」」

【クリス】

「うっ……」

 

 意地を貫こうとした矢先、後輩3人にとても切なげは視線を向けられ、クリスは言葉を詰まらせる。

 

【マリア】

「もう良いんじゃない?」

【翼】

「雪音。どうしても黒銀が信じられないのなら、それでも良い。その代わり、あの男に手を伸ばそうとしている立花達を信じてやらないか?」

【クリス】

「先輩……。…………ああっ、もう!分かったよ!」

 

 何だかんだ言いながらも仲間への情が最も厚いクリスが、仲間を信じろと言われて断れるわけもなかった。

 腕を組み、そっぽを向きながらも了承したクリスに、響達は悲しげな表情から一転、嬉しそうに笑顔を綻ばせる。

 

【響】

「クリスちゃん!」

【クリス】

「べ、別に納得した訳じゃねぇよ!……ただ、あいつが後輩達を助けてくれたのは事実だからな」

【未来】

「フフッ、素直じゃないんだから」

【クリス】

「う、ウルセー!」

 

 顔を赤らめながら怒鳴るクリスを見て、指令室は笑い声に包まれた。

 

【弦十郎】

「良し!何はともあれ、これで方針は決まったな!先ずは話し合いだ。緒川から連絡が入り次第、全員で黒銀に会いに行くぞ」

【響】

「了解です、師匠!よぉ~し、絶対轟くんと友達になりますよ!」

【未来】

「もう、響ったら」

 

 明るい調子で音頭を取る響を先頭に、装者6人と未来、弦十郎、エルフナインの9人が指令室を後にしようとした――その時だった。

 

【???】

『黙って聞いていれば、随分勝手なことばかり言ってくれるじゃないか』

 

 突然、指令室のドアの向こうからそんな声が聞こえ、全員が歩みを止める。

 視線が閉ざされたドアへと集まる中、突如自動スライド式のドアが、響達に向かって吹き飛んできた。

 

【未来】

「きゃっ!?」

【響】

「未来ッ!」

【弦十郎】

「ヌゥゥゥンッ!」

 

 悲鳴あげた未来を響が庇い、それを守るように弦十郎が岩盤すらも穿孔する掌底で受け止める。

 

【響】

「大丈夫、未来!?」

【未来】

「う、うん。ありがとう、響」

【翼】

「皆、怪我はないか!?」

 

 翼の声に、全員が頷いて返した。それを見て、弦十郎は一瞬だけ安堵の息を漏らした後、すぐに表情を引き締め、受け止めたドアを床に下ろす。

 開けた視界の先、そこに立っていたのは――

 

【轟】

「流石は傲慢な人間様だな。……反吐が出る」

 

 今まさに会いに行こうとしていた黒銀轟本人であった。

 

 

 

【翼】

「黒銀轟!?」

 

 まさかの本人の登場に、翼も取り乱していた。だが、当の轟も、呼ばれた自分の名前に首を傾げる。

 

【轟】

「クロガネ、ゴウ?……それは俺のことか?」

【響】

「え?」

【クリス】

「何言ってやがる!テメー、昨日自分で名乗ったんだろうが!」

【轟】

「俺が?」

(……もしや、この(にんげん)の名前か?)

「……まぁ、そんなことはどうでもいい」

 

 

 当初は認められなかったものの、ゴジラは何故か自分が人間の姿になってしまっていることを自覚していた。

 何故こんなことになっているのか?疑問は尽きないが、考えても拉致が明かないことと、轟は早々に深くは考えるのを止めていた。

 

 轟は指令室へと一歩踏み出してくる。それを見た弦十郎は、内心の焦りを押さえながら気掛かりを問いただす。

 

【弦十郎】

「何故ここにいる!?緒川はどうした!?」

【轟】

「オガワ?……ああ、俺を見張っていた奴のことか?人間にしては骨があったが、俺の敵ではない」

 

 そう言って轟は手首を撫でる。よく見ると、検査着の袖からは血が滴っていた。

 

【翼】

「まさか、緒川さんを!?」

【未来】

「そんな……」

 

 最悪の事態を想像し、轟以外の表情が強張る。そこへ、本部内からの通信を告げる電子音が鳴り響いた。

 警戒しながらも藤尭が通信を開くと、頭から血を流し、肩を押さえたスーツ姿の男性が映し出された。

 

【響】

「緒川さん!」

【弦十郎】

「緒川!無事だったか!」

【緒川】

『……申し訳ありません、司令。彼が一向に目を覚まさず、不審に思っていたら、急に心拍停止を報せる画面が出まして、それで……』

 

 暴れ出した時のことを鑑み、医師や看護師といった非戦闘員は轟から遠ざけ、装者と弦十郎を除けば最も戦闘能力の高い緒川を様子見に向かわせていた。

 故に、咄嗟の事態に対応できる者が緒川しかおらず、轟を収容した医務室のロックを解除してしまったのだった。

 

【轟】

「コソコソと目障りだったんでな。潰す前に道を開けてもらった」

【エルフナイン】

「まさか、自分で心拍を停止させることが出来るなんて……」

【緒川】

『迂闊でした。何とか初撃を躱して、≪影縫い≫で押さえようとしたのですが――』

【轟】

「そうそう。そこの青いのが前に見せたのと同じ技を使ってきたな」

 

 轟は言いながら翼を血に濡れた指で差す。流血の理由は、翼の時のように縫い付けられた影を無理矢理引き剥がした為であった。

 

【轟】

「人間にしては大したものだったが、所詮は小細工。二度は通じない。さっさと振り払ってブッ飛ばしたから、てっきり死んだと思っていたが生きていたとは。褒めてやる」

【クリス】

「テメー、何をいけしゃあしゃあと!」

 

 全く悪びれた様子の無い物言いに、クリスは我慢の限界とばかりに胸元から赤い結晶(イチイバル)を引き抜く。

 それを見た翼と弦十郎は、クリスを止めようとするが、それよりも早く動いた者がいた。

 

【クリス】

「――ッ!うわっ!?」

 

 クリスが気付いた時には、轟が目の前に立っており、その目は握り締めるイチイバルのコアに注がれていた。

 轟は素早い動きでクリスの手からコアを奪い取ると、空かさず飛び退いて距離を取る。

 

【切歌】

「クリス先輩のイチイバルが!」

【クリス】

「テメー、返しやがれ!」

 

 クリスは轟に駆け寄り様に殴りかかる。しかし、クリスの拳を脇腹に受けながらも、轟は気にも留めずに目の前にぶら下げたイチイバルを覗き込んでいた。

 

【マリア】

「まさか、シンフォギアを奪いに来たというの!?」

【轟】

「……コイツだ。この匂い、間違いない。コイツさえあれば――」

【エルフナイン】

「無駄ですよ」

 

 イチイバルからフォニックゲインを吸収する轟の目論みは、エルフナインの静かな一言に遮られた。

 

【轟】

「無駄、だと?どういう意味――お前!」

 

 エルフナインの顔を認めた瞬間、轟の放つプレッシャーが鋭くなった。キャロルと瓜二つの容姿に、轟は意識を戦闘モードへシフトさせる。

 途端に指令室の空気が重苦しいものに変わる。しかし、それは長くは続かず、轟は何かに気付いたように殺気を収めた。

 

【轟】

「……違う。お前は昨日のガキじゃない。普通の人間とも違う。……お前は何だ?」

 

 一目で、エルフナインがキャロルとは別人であることだけでなく、ただの人間ではないことに気付いたことに、S.O.N.Gメンバーは驚きを隠せなかった。

 

【エルフナイン】

「……ボクはエルフナインといいます。あなたが昨日戦ったキャロル・マールス・ディーンハイムによって生み出されたホムンクルスです」

【轟】

「ホムン、クルス?」

【エルフナイン】

「……錬金技術の奥義が想像した、人工生命体。それがボクです」

【轟】

「人工……。フンッ、ようは紛い物か」

【エルフナイン】

「――――ッ」

【調】

「エルフナイン……」

【マリア】

「……よくもそんな酷いことが言えるわね。撤回しなさい!」

【轟】

「酷い?笑わせるな!」

 

 悲痛に顔を歪めるエルフナインを見て、マリアが険しい顔で声を荒げる。しかし、それ以上の怒りを轟は吐き出した。

 

【轟】

「命の創造だと?命は自然より生まれ出でる神聖なものだ。それを自分達の手で生み出した?そんなもの自然に対する冒涜だ!」

「俺が酷い?ならお前達人間はおぞましいな!自分達の思うままに命を弄ぶ。……変わらない。お前達は、()()()から全く変わっていない!」

 

 轟の剣幕に、マリアは反論することが出来なかった。

 轟の脳裏に浮かぶもの。それは嘗てゴジラであった……いや、ゴジラになってしまった時の記憶。

 

【轟】

「……やはり、お前達人間はこの星の為に滅ぶべきだ。俺の力で、全てを焼き尽くし、無に還してやる!」

 

 そう言うと、轟は奪ったイチイバルのコアを握り締めた。怪獣時代のように、東京を、日本を火の海に変えるべく、その力を引き出そうとする。

 しかし、どれだけやっても、イチイバルからエネルギーが流れてくることは無かった。

 

【轟】

「……何故だ?何故力が流れてこない?」

【エルフナイン】

「いくらやっても、シンフォギアから直接エネルギーを得ることは出来ませんよ。あなたの求めるフォニックゲインは、シンフォギアと装者、この2つが揃って初めて引き出されるのです」

【轟】

「シンフォギア?装者?」

 

 やはり、その辺りの知識は有していないらしく、エルフナインと藤尭、あおいの3人は、シンフォギアと装者について簡単に解説した。

 

【轟】

「……そうか。つまり、昨日のように、(そいつ)等が着込む姿にならなければ、コイツはただの石ころ同然ということか」

【エルフナイン】

「そういうことです。コアをシンフォギアの姿に変換するためには、装者の強く欲する想いが必要。更に、あなたがフォニックゲインを吸収するには、いくつかのパターンと条件がいるんです」

【轟】

「条件?」

 

 その事については、弦十郎を含めS.O.N.Gメンバーも初耳であった。エルフナインは、昨日轟の変身の際に得た仮説を元に、エネルギー獲得方法について確証に足る結果を得ていた。

 説得の際、材料(カード)の1つとして提示するつもりでいた為、「ちょうど良い」とこの場で説明を開始する。

 

【エルフナイン】

「黒銀さんがフォニックゲインを得る方法は、主に3つ。先ず1つ目は、昨日のようにギアを纏った装者に触れることです」

【響】

「触るだけで良いの?」

 

 響の質問にエルフナインは頷く。

 

【エルフナイン】

「歌によって変換・生成されたシンフォギアはフォニックゲインの塊。それに直接触れることで、GX細胞が鎧からフォニックゲインを吸収します」

「直接エネルギーを獲得する為、吸収効率が良く、変身可能状態に至るまで数秒しかかかりません。昨日は響さん、翼さん、クリスさんの3名から同時に吸収した為、より短時間で多くのエネルギーを獲得しました」

【あおい】

「待って、エルフナインちゃん。昨日の響ちゃん達は、イグナイトモジュールの起動に失敗してフォニックゲインがかなり減っていたのよ?そんな状態からアルカ・ノイズやキャロルを撃退できるだけのエネルギーを得られるものなの?」

 

 装者のステータスをモニタリングしているあおいには、戦闘すらままならない3人から莫大なエネルギーを得ることは不可能と考えていた。

 

【エルフナイン】

「確かに元となったフォニックゲインはお世辞にも多量とは言えませんでした。吸収したフォニックゲインをそのまま使うのであれば、あれだけの戦闘を行うことは不可能でしょう」

「しかし、GX細胞にはそれを可能にする特性があるんです」

【弦十郎】

「特性?」

【エルフナイン】

「はい。GX細胞はフォニックゲインを吸収し、それを更に増幅させ、自身のエネルギーとして生成します」

「つまり、ある程度のフォニックゲインを得られれば、それを起爆剤として戦闘が可能な程のエネルギーを生み出すことが出来るんです」

 

 多種多様な特性を持つGX細胞。それは全て、元となったゴジラ細胞から継承・発展した脅威の能力であった。

 

 GX細胞の万能性に全員が息を飲む。しかし、完全無欠というわけではなく、エルフナインはその事についても語り出した。

 

【エルフナイン】

「勿論、弱点もあります」

「戦闘中にエネルギー補給を行おうとすれば、数秒とはいえ、明確な隙を作ることになります」

「特に吸収される装者側は、フォニックゲインが減少することで戦闘力が一時的に低下してしまいます」

【響】

「その事なんだけど、キャロルちゃん。昨日轟くんに触られた時、力が抜けるような感じ以外に、その……へ、変な感覚がしたんだけど、それって何だったのかな?」

 

 響の質問に翼は頷き、クリスは顔を赤くして俯いた。

 フォニックゲインを吸収されるという体験もこれまで無かったが、響達が感じた別の感覚は、ある種の高揚をもたらすものであった。

 

【エルフナイン】

「……それについては当事者でない僕には何とも言えません。ただ、あくまで仮説の域ですが、シンフォギアと皆さんが適合、つまりはある種の一心同体関係にあることが起因しているのではないかと……」

 

 響の質問に、エルフナインも答えを濁すしか無かった。しかし、シンフォギアは適合者の心の影響を多分に受ける。

 槍の聖遺物であるガングニールを纏う響に槍のアームドギアが発現せず、弓の聖遺物であるイチイバルを携えるクリスのアームドギアが主に銃火器の形を取ることからもそれは明らかであった。

 

【藤尭】

「何にせよ、戦闘中のフォニックゲイン獲得は、命取りになる可能性があるって訳か」

【切歌】

「あと2つはどんな方法デス?」

 

 思案顔になっていたエルフナインは、切歌の声で我に返り、自分の発見した残りの方法について説明を始める。

 

【エルフナイン】

「2つ目は、戦闘によって発生した、フォニックゲインの残滓を吸収する方法です」

【調】

「残滓?」

【エルフナイン】

「はい。翼さんの光刃にしても、クリスさんのミサイルにしても、フォニックゲインを攻撃用に変換したものです。これ等は役目を終えて消えたとしても、暫くの間、周囲の空気中に滞留します」

「それを、黒銀さんのシンフォギア、つまりはGX細胞は呼吸などと同じ生命活動の一環として、自動的に吸収することが出来るんです」

【マリア】

「そういえば、昨日の戦闘中にも、急にフォニックゲインが上昇した時があったわ」

【エルフナイン】

「それこそ、第2の方法によるものです。昨日は黒銀さんの参戦前に、響さん達が大規模な戦闘行動に出ていましたから、大気中のエネルギー残滓も多かったものと推察されます」

「それを吸収し、増幅(ブースト)することで、急激な出力アップを果たしました」

【藤尭】

「その方法であれば、隙を見せずに戦闘中でもエネルギー補給が可能だ」

【あおい】

「でも、それなら何故、最初から変身した状態でキャロルに挑まなかったのかしら?」

 

 あおいの疑問は尤もであった。最初から変身した状態で戦えば、無用な傷を負う必要など無い。

 

【エルフナイン】

「変身しなかったのではなく、出来なかったんです。そしてその理由こそが、第2のエネルギー補給手段の弱点」

「この方法は確かに隙は少ないですが、大気中のフォニックゲイン残滓は言葉の通り量も力も微弱です」

【マリア】

「そうか、分かったわ。大気中のフォニックゲインだけでは、シンフォギアを起動するだけの量には至らなかったのね?」

【エルフナイン】

「その通りです。お世辞にもエネルギー効率が良いとは言えないため、余程大きなフォニックゲインが照射でもされない限り、急激なエネルギー回復は望めません」

【轟】

「大きなフォニックゲイン……」

 

 轟の脳裏に朧気な光景が蘇る。光すらも射さない海の底で眠りに就いていた自分を目覚めさせた、温かく力強い命の歌。轟はそれを求めて世界を放浪した。

 

【轟】

(あの(うた)をもう一度浴びれば、俺は元の力を取り戻せる。……だが、昨日のこいつ等から得た力は、アレには到底及ばない。どうしたら、もう一度あの力に巡り会える?)

【響】

「轟くん?」

 

 考え込んできたところに声をかけてられ、轟は思考の海から浮上すると共に、大きな瞳で自分を見る少女を睨み返した。

 

【轟】

「……気安く呼ぶな。馴れ馴れしい」

【響】

「ご、ごめん……」

 

 明るい雰囲気に似合わずシュンとショボくれる響を見て、何故か轟の心はざわつく。戸惑いつつも、振り払うように鼻を鳴らすと、響から視線を外し、エルフナインに目を向ける。

 

【轟】

「で?今ので2つ目だろ?最後の方法ってのは何なんだ?」

 

 轟の質問に、他のメンバーの視線もエルフナインに向けられる。しかし、これまでは勧んで判明した事実を披露してきたエルフナインは、集まった視線から目を背け、明らかに言い淀んでいた。

 心なしか、その頬が僅かに朱に染まっているようにも見える。

 

【調】

「エルフナイン?」

【切歌】

「どうしたデスか?」

【エルフナイン】

「あっ、え……とですね。その…………」

【クリス】

「何だよ?勿体つけずに教えろ、よっ!ああっもう!いい加減返せよっ!」

 

 話の合間に何度かギアを奪い返そうとして、身長差もあってあしらわれ続けていたクリスは苛立ちを滲ませながら問い詰める。

 エルフナインは、遠慮がちに装者達の顔を見やると、ブツブツと消え入りそうな声で話始めた。

 

【エルフナイン】

「さ、最後の方法は、実証もしていないですし、あくまで分析をする中で浮かんだ仮説でしかないのですが……」

「GX細胞には、他の細胞に干渉する作用があり、それによって黒銀さんはギアを纏わなくても超人的な身体能力を発揮できることが分かりました」

【翼】

「纏う前から影響を及ぼすとは……。驚異的な治癒力もその為か」

【クリス】

「でも、んなこと話すのに躊躇ってた訳じゃねぇだろ?」

【マリア】

「しかも、エネルギー獲得とは関係無いわよね?」

 

 止まない追及に、エルフナインも腹を括るほかなくなり、半ば破れかぶれになりながら最後の方法を明かした。

 

【エルフナイン】

「干渉できるのは黒銀さんの細胞だけでは無いようです。他者の細胞と結び付き、その力を得ることも出来ると推察されます。この方法でエネルギーを吸収する場合、その効率は前者2つの比ではありません」

「そ、そして、肝心なその方法は……」

【未来】

「方法は?」

【エルフナイン】

「うぅ……。ね……」

【響】

「ね?」

 

【エルフナイン】

「粘膜接触。……つ、つまり、キス……です」

 

【クリス】

「な゙っ!!?////」

【調】

「キス……////」

【切歌】

「デス!?////」

 

 エルフナインの語った最後の方法は、予想外どころか、突拍子もない、ともすればブッ飛んだ方法であった。

 当然、装者全員は赤面し、エルフナインを問い詰めにかかる。

 

【クリス】

「テメ~、な、何トンチキなことぬかしてやがる!?」

【翼】

「ゆ、雪音の言う通りだ!そ、そそそんな破廉恥な方法があるものか!////」

【マリア】

「だ、大体、全くシンフォギアと関係無いじゃないの!////」

【響】

「み、みみ皆さん、ちょっと落ち着きましょう!!////」

【未来】

「ひ、響も動揺し過ぎだから!////」

【響】

「み、未来だって顔真っ赤じゃん!////」

 

 年頃の、それも同年代の男子とはあまり接点の無い少女達の取り乱し方は尋常ではなかった。

 エルフナインが自身の羞恥心以外に、こうなることを予見して憚っていたことを知り、弦十郎やあおい達大人は納得しつつも、嘆息せずにはいられなかった。

 

【弦十郎】

「……エルフナインくん。君のことだから何の確証も無しに発言した訳ではないと思っているが……、マリアくんの言う通り、そういう行為とシンフォギアがどう関係する?」

 

 弦十郎の落ち着いた口調に、色めき立っていた少女達も若干の落ち着きを取り戻し、再び視線をエルフナインに向ける。

 

【エルフナイン】

「し、シンフォギアは聖遺物と歌によって成り立っています。歌は、身も蓋もない言い方をすれば空気の振動。それが特定の波長パターンを形成したものになります」

「空気の振動は、ごく一部の物を除いて、その透過性を妨げられるものはありません。それは、生物の身体も同じです。音は表皮を通過し、その奥に眠る細胞にも届きます。そしてその結果、細胞に影響を及ぼすこともあるんです」

【マリア】

「つまり、シンフォギアを運用する際の私達の歌が、知らず知らずの内に私達の身体にも影響を及ぼしていると言うの?」

【エルフナイン】

「はい。……突拍子の無い話に聞こえるかもしれませんが、似た事例は近代科学の分野でも多々報告されています」

「例えば、こんなお話を聞いたことはありませんか?植物を育てる時、水や太陽の光以外に音楽を聞かせるようにすると、成長が早く、花を咲かせる種ならより綺麗な花を咲かせると」

【未来】

「……そう言えば、人間だって、赤ちゃんがお母さんのお腹にいる時にお話や音楽を聞かせると良いって言うよね」

【あおい】

「それと同じことが、シンフォギアでも起きている?」

【エルフナイン】

「そうです。更に聖遺物も、人との融合が可能という事例があります」

 

 エルフナインの言葉に、視線が響へと集まる。聖遺物と人間の生体融合。その生き証人の一人が、ガングニールを纏って戦う響その人であった。

 

【エルフナイン】

「以上のことから、シンフォギア装者の皆さんの細胞は、知らず知らずの内にシンフォギアとの親和性が高まり、フォニックゲインを内包できるようになっていた」

「そして、それがGX細胞と接触した時、膨大なエネルギーを生成する最強の起爆剤として作用する。……今あるデータから、ボクはその可能性を見出だしました」

 

 装者達は一様に無言となった。

 当初は全く意味不明に思えたエルフナインの説も、深く聞いてみれば一応の筋が通ってしまっている。

 シンフォギアという神秘の力と、GX細胞という未知の力。この二つの前に、彼女達の常識など到底通用するはずがなかった。

 

【エルフナイン】

「……ですが、この方法は現時点では実現不可能と言って良いでしょう」

 

 何とも言えない沈黙が指令室を包む中、それを打ち破ったのは、沈黙の原因を唱えたエルフナイン本人であった。

 

【弦十郎】

「まあ、確かに。この説を実証するのは中々……いや、かなりハードルが高いな」

 

 弦十郎は、装者達の気持ちの問題が立ちはだかると考えたようだ。確かに、思春期真っ盛りの少女に、異性とのキスはハードルが高過ぎる。

 しかしエルフナインは、「それもありますが……」と、弦十郎の懸念では不十分と考えているようだった。

 

【エルフナイン】

「おそらく、ただ単に細胞同士を接触させただけでは、エネルギーを得ることは出来ないでしょう。この方法の最も重要な鍵は、黒銀さんと皆さんの心が通い合っている必要があります」

【クリス】

「ハァッ!?」

【轟】

「心を通わす?こいつ等と?」

 

 あからさまに嫌そうな顔をするクリスと轟に、エルフナインは至って真面目な顔で頷く。

 

【エルフナイン】

「先程も言いましたが、シンフォギアは装者の心に反応し、起動します。つまり、気持ちが通じあった状態でないと、そこにフォニックゲインは生まれません」

【クリス】

「それこそ何の証拠も無いんじゃねぇのか!?」

【エルフナイン】

「いいえ。古来より、キスという行為は親愛を相手に伝える手段。その起源は先史文明以前にまで遡ると言われています」

【翼】

「先史以前……。聖遺物の起源もまた――」

【エルフナイン】

「そうです。奇しくも、同じ時代から現代まで残っているもの。心に起因するシンフォギアと気持ちを重ねるキス、その因果関係は決してこじつけ等ではないとボクは思っています」

【弦十郎】

「……また凄い話になってきたな。……なら、エルフナインくん。もし片方、或いは双方が気持ちを無視した状態で行為に及んだ場合、何か影響は?」

【エルフナイン】

「……おそらくシンフォギアと同じ。バックファイアによって、心身に深刻なダメージを負うことになるでしょう」

 

 呈示されたデメリットに、再び指令室は静まり返る。ハードルも高ければデメリットもデカイ。しかも本当に力を得られる確証もないとなれば、エルフナインの言う通り、実現も出来なければ試そうとも思えないだろう。

 

 心を通わす。長年苦楽を共にしてきた仲ならいざ知らず、これまでの経緯や目的も不明瞭、そして仲間ですらない男とキス――。

 装者全員が、「そんなこと無理」と頭の中で想像しては、それを振り払った。

 

 それと時を同じくして、白髪の青年は不意に溜め息を漏らす。

 

【轟】

「……無理矢理、力尽くで従わせても意味はない、か。……チッ」

 

 轟は盛大な舌打ちをかますと、奪ったままだったイチイバルをクリスに投げ返し、その場を後にしようと身を翻す。

 

【弦十郎】

「待て、黒銀!何処へ行く!?」

 

 弦十郎の制止に轟は足を止め、肩越しに振り返った。

 

【轟】

「お前達にエサとしての価値は無いのだろう?なら、ここにいる意味は無い」

 

 これまでの話から、無理強いしてもエネルギーを得ることは出来ないと、轟は悟っていた。仮にこの船を沈めると脅したところで、それは自分のエサを海に葬ることになる、とでも返されるだけだろう。

 そして轟が我慢ならなかったのは、3つ目の方法だった。

 

【轟】

(人間なんかと交わるだと?……想像しただけで吐き気がする。死んでもそんなおぞましい真似出来るか!)

 

 怨敵である人間と信頼関係を築くことなど、あり得ない。クリス達以上に、轟は第3の方法に拒否反応を示していた。

 

 言い終わるなり、もう話すことは無いと立ち去ろうとする轟。その背中に、先程とは異なる制止の声がかけられる。

 

【響】

「待って、轟くん!」

【轟】

「あ゙?」

 

 苛立ちながらも再び立ち止まり、振り返る。自分を呼び止めた声の主は、先程も馴れ馴れしく自分の……ものらしい名前を呼んだボブカットの少女であった。

 

【轟】

「何だ!?」

【響】

「あっ……えっと、ど、何処に行くの?」

 

 引き留めて何を聞くかと思えば、何とも下らない質問に、轟は更に苛立った。

 

【轟】

「お前に言う必要など無い」

【響】

「そう、かもしれないけど……。行く所あるの?行く所ないなら、ここにいない?」

【翼】

「立花!?」

【クリス】

「お前、まだ!?」

 

 緒川に暴行をくわえ、自分達をエサとしてしか見ていないと分かってもなお、響は轟を説得する気であった。

 翼とクリスが止めようとするが、弦十郎も当初の方針に従うつもりのようで、二人を制止自らも一歩進み出る。

 

【弦十郎】

「響くんの言う通りだ。……言いにくいことだが、お前の故郷は壊滅している。他に親類もいないお前に行く宛など無いだろう?」

【轟】

(こいつ等――!俺の棲む場所を奪ったのは自分達だろうが!……いや、こいつ等が言っているのはこの人間の棲み処のことか?――ええい、紛らわしい!)

 

 轟はゴジラであった時の記憶と、僅かに内に遺る生前の黒銀轟としての記憶が自身の中で混在していることに、困惑と苛立ちを禁じ得なかった。

 

【弦十郎】

「……ここで、暮らすつもりは無いか?不自由の無いように、出来るだけ便宜を図ろう。そして、願わくば俺達と共に戦って欲しい。――この世界を守るために」

 

 その様子を行く宛がなく迷っていると見て取った弦十郎達は、当初とは大分予定が狂ったが、轟をS.O.N.Gへと勧誘しよう話を持ちかけた。

 

【轟】

「世界を、守る?」

【弦十郎】

「――ああっ、そうだ!」

 

 引っ掛かったワードを繰り返した轟に、弦十郎は現在自分達が置かれている現状を説明した。

 

【轟】

「世界を壊す……。それが、昨日のガキの目的か」

【エルフナイン】

「そうです。世界の分解装置、チフォージュ・シャトーが完成してしまえば、この世界とそこに生きる全ての生命は無に帰してしまいます!」

【響】

「私達は何としてもキャロルちゃんを止めないといけない!でも、今のままじゃ力が足りない……。だから、轟くんの力を貸して欲しい!一緒に戦って欲しいの!」

【未来】

「お願い!響達の力になってあげて?……私には戦う力が無い。響達が苦しみながら戦うのを見ていることしか出来ない!そんな私がこんなことを言う資格なんて無いけど、あなたの力で皆を守ってあげて欲しい」

【マリア】

「私も同じよ。……嘗て大罪を犯し、その贖罪すらもままならない私。出来ることならこの身を賭して悪と戦いたい。……でも、それすらも叶わなず、大切な家族をまた目の前で喪いそうになった」

「そんな時、二人を助けてくれたのがあなただった。どんな目的があったにせよ、見ず知らずの調と切歌を助けてくれたあなたを私も信じたい!……お願い、力を貸して!」

 

 響に続いて、未来・マリアの二人が轟に訴えかける。

 相変わらず不機嫌そうな表情を変えない轟。そこへ昨日も自分に泣きながら懇願してきた幼い雰囲気を残す少女二人が、またしても頭を下げながら頼み込んできた。

 

【調】

「……昨日は、私達のお願いを聞いてくれてありがとうございました」

【切歌】

「デス。……例え私達をエネルギー源としか見ていなかったとしても、約束を守ってくれたことには変わりないデス!……嬉しかったデスよ、とても」

【調】

「……これからも力を貸してくれませんか?私達も今はギアを持っていません。でも、ギアが直ったなら」

【切歌】

「私達のこと、エサとして、自由にして構わないデス!だから――」

【調】【切歌】

「「私達と一緒に戦ってください。お願いします(デス)!」」

 

 昨日は健気な二人の様子に心動かされた轟。しかし、今日は頭を下げる小さな戦姫を見ても、心が揺れ動くことはなかった。

 

【轟】

「お断りだ。世界を壊すだの救うだの……、そんな下らないこと、お前達人間同士で勝手にやれ」

「俺には関係無い――!」

 

 一切の遠慮なく吐き捨て、轟は今度こそ指令室を後にしようと身を翻した。

 本当に世界の、人類の行く末などどうなっても構わないといった態度に、人類救済、ひいては正義を重んじるマリアは表情を険しくした。

 

【マリア】

「下らない?関係無い?よくそんなことが言えるな!?」

「お前には守れるだけの、戦えるだけの力があるのだろう!?何故それを、正義を貫く為に使おうとしないんだ?」

【轟】

「正義?……ハッ、笑わせてくれる」

 

 そう言いながらも、轟の顔には笑みではなく、どうしようもない嫌悪感が溢れた険しい表情を浮かべていた。

 轟は半身を振り向かせると、まだ食って掛かろうとするマリアに、鋭い一言を投げかけた。

 

【轟】

「そんな"血塗られた"力で、何を守れると言うんだ?」

 

 "血塗られた"。その言葉に、装者達は息を飲んだ。

 最初は、殺戮の魔剣にしてイグナイトモジュールの根幹たるダインスレイフのことを指しているのかと思った。

 しかし、シンフォギアのコアを見ながら轟が続けざまに放った一言はそれを否定すると共に、装者達の心を無慈悲に斬りつけることとなった。

 

【轟】

「言っていなかったが、ソイツからは血生臭い匂いがプンプンする。正義の為とソイツを振るい、その度に幾多の血が流れてきたからだ。違うか?」

 

「「「「「「ッ!!」」」」」」」

 

【轟】

「図星、みたいだな」

 

 悲痛に歪み、青ざめた装者達の顔を見て、轟は呆れた様子で呟いた。

 

 装者達の脳裏に浮かんだのは、助けられなかった大切な人や巻き込んでしまった者達の顔と流れる血。

 自分達の(シンフォギア)は、数多の人々の犠牲を糧としている。……実際はそんなことはなく、助けられた者達も大勢いるのだが、彼女達の脳裏にハッキリ浮かぶのは、助けられなかった者達の顔であった。

 

【轟】

「世界を壊すあのガキも、それを止めようとするお前達も、所詮は自分達のエゴを正当化するために力を振るうことに変わりはない」

「それを正義と、大切な者を守るためと嘯くのは勝手だが――」

 

「それに、他者(おれたち)を巻き込むな――!」

 

 鋭い瞳で装者達を射抜いた後、轟は彼女達に背を向けて歩き出す。その歩みを止めようとする者は、今度は誰もいなかった……。

 

 

 

【響】

「轟くん……」

 

 立ち去った青年の後ろ姿を思い出し、響は弱々しく呟いた。

 結局、まともに話すことも出来なかった。轟の心は固く閉ざされていて、自分達の入る余地など無い。そればかりか、自分達のしてきたことをただのエゴとして切り捨てられた。

 

 打ちのめされ、肩を落とす響に、優しく声がかけられる。

 

【翼】

「立花」

【響】

「翼さん……。私……」

 

 言いたいことは分かっているとでも言うように、翼は響の肩をポンポンと叩く。

 

【翼】

「そう、落ち込むな。……あの男は、人間というものを嫌悪している。何故なのかは分からないが」

【クリス】

「どのみち、あんな訳分かんねー野郎と一緒に戦うなんて無理なんだよ!……所詮、あいつも薄汚い男の一人ってことだろ」

【響】

「クリスちゃん?」

 

 最後の部分は聞き取れなかったものの、クリスの態度は最後まで頑なだった。

 

 正直、響も自信を無くしつつあった。轟とは友達になるとか分かり合うとか以前に、そもそも価値観が違いすぎる。人間同士のはずなのに、全く違う存在を相手にしているような気さえする。

 そんな相手と、仲間になることなんてやはり無理なのだろうか?

 

【調】

「……諦めちゃうんですか?」

 

 俯く響の耳に、静かだが意思の強さが感じられる声が届く。視線を巡らせると、声の主である調は響の元へと歩み寄り、優しくその手を取った。

 

【調】

「……響さん。私達も、最初は敵同士でしたよね?お互いに背負うもの、信じるものが違っていて、そのせいで戦って……。私は、響さんに酷いことも言いました」

【響】

「調ちゃん……。いいんだよ、そんなこと!私だって、迷ってた。自分のしてきたことが本当に正しかったのかなって。……調ちゃんに言われて、それが自分の戦う理由を見つめ直すきっかけになった」

「それがあったから、こうして響ちゃんや切歌ちゃん、マリアさんとも友達になれたんだもん!」

【調】

「なら、今度だって諦めないでください!」

 

 自分の手を握り返す響に、調は瞳に力を込めて訴えかけた。

 目を瞬かせる響。そこに、切歌も調と同じように響の手を包みながら自分の気持ちをぶつけてきた。

 

【切歌】

「そうデス!一回ダメだったからって諦めるなんて、響先輩らしくないデスよ!」

「私達の知っている響先輩は、諦めが悪くて、学習能力が無いのかってくらい、私達との和解を諦めなかったデス!今回も、拒絶されたって何度も何度も話しかけるべきデスよ!」

「当たって砕けろ、デス!!」

 

 響の諦めの悪さに、自分達も救われた。その事を自分の持てる最大限の言葉で伝えられた。

 言い終わった後、切歌は内心自信を持ってそう思っていた。……しかし、

 

【響】

「ぅぅ~~。切歌ちゃ~ん……」

【切歌】

「あ、あれ?何で泣くデスか、響先輩!?」

【調】

「……切ちゃん」

 

 情けない涙目の表情になった。何故響がそんな顔になったのか分からない切歌は慌てるが、彼女以外の全員が、励ましの言葉以上に彼女の心を抉るような単語が多かったからだと、内心溜め息を吐いていた。

 

【マリア】

「全く……。励ましてるのか貶してるのか、分からないじゃない」

 

 見かねたマリアが3人に歩みより、切歌の脳天に軽いチョップを振り下ろした。

 

【切歌】

「あうっ!?……ぅぅ、ごめんなさいデス」

 

 反省する切歌を見てマリアは苦笑すると、次に涙目のままの響の頭に手を置き、その柔らかい髪を鋤くように撫で始める。

 

【響】

「マリア、さん?」

【マリア】

「……正直、さっきのを見た限りじゃ、私も翼やクリスと同じ想いになるのを禁じ得ないわ」

 

 マリアもやはり轟との和解が難しいと考えていることに、響はまた視線を落としかける。しかし、マリアの言葉はそこで終わらなかった。

 

【マリア】

「でも、そんな状況を変えられるのが、君という人間だとも思っている」

 

 落としかけた視線を上げた響の目に写ったのは、慈しみに溢れたマリアの優しい笑顔だった。

 

【マリア】

「君の言動は、凍てつき閉ざされた心の扉さえも溶かし、こじ開けるだけの熱を秘めている。それを私達は身をもって知っている」

 

 マリアの言葉に、調と切歌も頷いた。

 

【マリア】

「だから、それが届くまであなたは声を上げ続けなさい。生きることを諦めないように、分かり合おうとする気持ちを諦めないで!」

 

 『生きることを諦めないで』。

 それは、響が奏から受け継いだ、そして今の自分の信念にもなっている言葉だった。

 

 ハッとさせられる響。そこに、彼女の背中をいつも押してくれるかけがえのない存在の声が届く。

 

【未来】

「皆の言う通りだよ、響」

【響】

「未来……」

【未来】

「人間、すぐには分かり合えないよ。どんなに仲の良い間柄だって、擦れ違って、傷つけちゃうことだってある。……私達だってそうだったでしょ?」

 

 嘗て、響がシンフォギア装者として覚醒したばかりの時、国家機密であったシンフォギアに関することは、身内にさえ明かすことは出来なかった。当然、親友である未来にも……。

 そのせいで、仲の良い二人の間に些細な誤解が生まれ、それは一時、深い確執となって二人の心を遠ざけた。

 

【未来】

「それでも、今私達は、これまでと変わらない親友であり続けている。ちょっとのきっかけがあれば、人と人は分かり合えるんだよ」

【響】

「……でも、私、轟くんのこと、ほとんど知らない。何を考えているのか全然分からない……!」

【未来】

「そんなの、これから分かっていけば良いんだよ!」

 

 未来は瞳の顔を両手で挟み、自分の方を向かせた。まだ自信が取り戻せない響の瞳と、彼女を信じる未来の瞳が交差する。

 暫く視線を交わしあった後、未来は唐突に、響の額に自分の額をコツンと合わせた。

 

【響】

「あうっ――」

【未来】

「もう、難しく考えないの!……響、いつも言っているでしょ?どんなに大変なことに直面しても、それを切り抜ける魔法の言葉」

 

 そう言われ、響の頭に浮かんだ言葉は一つ。

 『生きることを諦めないで』。それよりも昔から自分の中で息づく、立花響を奮い立たせる聖詠。

 

【響】

「……へいき、へっちゃら?」

 

【未来】

「もっと元気良く!はいっ!」

【響】

「へ、へいきへっちゃら!!」

【未来】

「そう!……それでこそ響だよ?挫けそうになってもその言葉と私が響を支えるから。だから、響は自分の想う通りにやってみて!……ね?」

【響】

「未来……。ありがとうっ」

 

 込み上げてきた熱いものを、両目を擦って拭い去る。

 未来の皆のお陰で思い出せた。自分がシンフォギアを纏って届けたいのは拳ではなく、心であることを。例え弾かれても、何度も何度も、心の殻を破るまでぶちかまし、自分の想いを届ける。

 そうやって、自分はこれまで戦い続けてきたのだ。

 

【響】

「……そうだね。今回がダメなら次に!100回やってダメでも、101回目にこの気持ちが届けば良いんだ!」

 

 何をするにも遅いことなんて無い。大切なのは、ちゃんと相手に伝えられるかどうか。

 

 思い返してみれば、助けて貰ったお礼もちゃんと言えていない。それを含めて、自分の気持ちを伝えよう。響は、そう心に誓った。

 

【響】

「よぉし!じゃあ、善は急げ!轟くんの後を追いかけなきゃ!」

【翼】

「今から追う気か!?流石に逸りすぎではないか?」

【響】

「何言ってるんですか、翼さん!轟くんが何処に行くか分からないんだし、見失ったら次がいつになるか分からないじゃないですか!」

【弦十郎】

「確かにそうかもしれんが――」

【???】

『なら、響さんの言う通り、早めに動くのが吉ですね』

 

 突如響いた若い男性の声。先程の轟の声とは違う、柔和で穏やかな声の持ち主。弦十郎達に心当たりは一人しかいなかった。

 

 指令室の扉があった場所。そこに立っていたのは、

 

【翼】

「緒川さん!?」

 

 頭に包帯を巻き、右腕を吊った痛々しい姿をした緒川であった。

 

【弦十郎】

「緒川!」

【未来】

「怪我は大丈夫なんですか!?」

【緒川】

「ええ。多少の不都合はありますが、大事には至っていません。……彼、そうならないように配慮したようにも感じられました」

 

 緒川は真面目な顔で告げた。その気になれば自分を即死させることも簡単だったと。それを敢えてしなかったとなれば、轟はただの暴虐な人物ではないはずである。

 

 その言葉は、轟を信じる響や調の背中を押す。

 

【調】

「響さん、私も行きます!」

【切歌】

「皆で頼んだ方が上手くいくデスよ!」

【緒川】

「彼の所在を掴んでおくことは、今後どう転ぶにせよ必要です。そしてその役目は、エージェントである僕が適任のはずです」

【マリア】

「……司令!」

【弦十郎】

「……分かった。緒川、響くん達を連れて黒銀を追え!」

【翼】

「正気ですか、叔父さま!?緒川さんは手負いの身!にも関わらず隠密としての責務を果たせなどと――」

【クリス】

「止めとけよ、先輩。……さっきと同じで、こうなったら止められねぇよ」

【翼】

「雪音……、ならば私も行きます!護衛は多いに越したことはありませんから!」

 

 家族同然の存在である緒川の身を慮り、翼も同行を進言すると、弦十郎は深く頷いた。

 

【弦十郎】

「クリスくん」

【クリス】

「分かってるって。……こいつ等だけじゃ不安だからな。あたしがお[[rb:守 > も]]りしてやんねーと」

【弦十郎】

「頼む……!」

「良いか!?接触したら先ずは交渉だ。それで決裂、向こうが実力行使に出た場合、即座に退け。キャロル戦で消耗しているだろうが、それでもあの力は脅威だ」

【緒川】

「そうなった場合は、僕達情報部が秘密裏に彼を追跡します」

【響】

「分かりました!よし、行きましょう!」

 

 段取りを決め、響達は轟を追うべく走り出す。しかしその時、指令室に非常事態を報せる警報が鳴り響いた。

 

【弦十郎】

「どうした!?今度は何があった!?」

 

 弦十郎の声に慌てて状況把握にかかる藤尭とあおい。

 轟の追走に動き出そうとしていた装者達の前に、新たな脅威が立ちふさがろうとしていた――

 




第5話は以上になります。

今回紹介したオリジナル設定、≪GX細胞≫について、以下に記載して後書きとしたいと思います。

ゴジラのシンフォギアを構成するGX細胞。これは言わずもがな、ゴジラ細胞のことになります。
ゴジラの肉体は前世界のメルトダウンで失われていますが、G細胞はビオランテやスペースゴジラのように舞い散り、それ等がシンフォギア世界に転生する際、魂と共に轟の体内に宿りました。
特性は、核エネルギーを吸収する性質がシンフォギアを対象にすることに変わっただけで、再生能力等含めて、その超常性は健在です。
vsゴジラシリーズでも、度々注目されたG細胞。本作でも、様々な場面でその神秘を垣間見せることになるでしょう。

そして次は、皆さん突っ込みどころ満載だと思いますが、ゴジラのフォニックゲイン獲得方法です。
ギアを纏った装者に触れる、戦場に残ったフォニックゲインを取り込む、これ等は核エネルギーを吸収するゴジラに通じるものがあるので違和感が無いと思いますが……問題は最後の一つ。

『粘膜接触』

これが最後にして最強のエネルギー回復手段になります。

本作でのシンフォギアは、聖遺物と歌の他に、装者の心が大きくファクターとなるように設定しています。
心の力が戦う力となって身に宿る。力と想いが密接な関係にあり、心を通い合わせることで、更なる強大な力を引き出す要因となります。

そして、その心を通い合わせる手段を、粘膜接触とした訳です。

……とまあ、もっともらしいことを述べてきましたが、早い話が恋愛要素を盛り込むのに適当な設定をぶち込んだ形になります。
今は装者達とはそういう関係はおろか、まともに共闘出来るのかも怪しい雰囲気ですが、ここからどのように心を通わせるのか、また先陣は誰が切るのかにも注目して読んでいただけると嬉しいです。


さて、本文が長かったので、あとがきはこの辺で終了にしたいと思います。

今回も駄文にお付き合い頂き、ありがとうございました。また次回お会いいたしましょう!
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