緋弾とサヤビト   作:ビースト

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頑張りたいと思います。


弾籠め

突然だが『武偵』というモノを説明したいと思う。

武偵とは凶悪化する犯罪に対抗して新設された国際資格で、武偵免許を持つ者は武装を許可され逮捕権を有するなど、警察に準ずる活動ができる。

ただし警察と違うのは金で動くことである。金さえもらえば、武偵法の許す範囲内ならどんな荒っぽい仕事でも下らない仕事でもこなす。つまり『便利屋』だ。

そして俺、『遠山キンジ』は東京武偵高校の生徒だ。

レインボーブリッジの南に浮かぶ南北およそ2キロ・東西500メートルの長方形をした人工浮島(メガフロート)の上にある。

学園島とあだ名されたこの人工浮島は、『武偵』を育成する総合教育機関だ。

東京武偵高では、通常の一般科目に加えて、その名の通り武偵の活動に関わる専門科目を履修できる。

専門科目にもいろいろあって、強襲科(アサルト)狙撃科(スナイプ)諜報科(レザド)尋問科(ダギュラ)探偵科(インケスタ)鑑識科(レピア)装備科(アムド)車輌科(ロジ)通信科(コネクト)情報科(インフォルマ)衛生科(メディカ)救護科(アンビュラス)超能力捜査研究科(SSR)特殊捜査研究科(CVR)などがある。

その中でも酷い専門科目があり、そして俺が現在在籍中の『強襲科(アサルト)』だ。

 

通称、『明日なき学科』だ。

 

この学科の卒業時生存率は、97.1%。

つまり100人3人弱は生きてこの学科を卒業できない。任務の遂行中、もしくは訓練中に死亡しているのだ。本当に。マジで。

それが強襲科(アサルト)であり、武偵という仕事の暗部でもある。

なぜそんな危な過ぎる学科にいるのかというと俺は、うちの家系・遠山家は代々、『正義の味方』をやってきた。

時代によりその職業は違っていたが、とある特殊な遺伝子の力で力弱き人々のため、何百年も戦ってきた。

俺はが物心つく前に殉職した父さんも武装検事として活躍していたし、武偵だった兄さんも活躍していた。俺にとっては人生の目標となるヒーローだった。

だから俺は何の疑いもなく、自ら進んで、武偵高に進学した。

中学では自分の力のせいで酷い目に遭わされたが、いずれ父さんや兄さんみたいに使いこなせるようになるだろうと前向きに物事を考えられていた。

 

だが、今はそんな事は考える余裕がない。

 

 

浦賀沖海難事故。

 

 

日本船籍のクルージング船・アンベリール号が沈没し、乗客一名が行方不明となり……死体も上がらないまま捜索が打ち切れられた、不幸な事故。

死亡したのは、船に乗り合わせていた武偵……『遠山金一』。

 

俺の兄さんだった。

 

いつも力弱き人々のためにほとんど無償で戦い、どんな悪人にも負けなかった兄さんはーーーー警察の話によれば、乗員・乗客を船から避難させ、そのせいで自分が逃げ遅れたのだそうだ。

だが、乗客たちからの訴訟を恐れたクルージング・イベント会社、そしてそれに焚きつけられた一部の乗客たちは、事故の後、兄さんを激しく避難した。

曰く、『船に乗り合わせていながら事故を未然に防げなかった、無能な武偵』と。

 

「……………なんでだよ……ッ」

 

俺は武偵高の寮のこの部屋に一人で暮らしている。

ここは本来四人部屋なのだが、さっき探偵科(インケスタ)に転科届を出して寮が変わったのと、たまたま相部屋になる探偵科(インケスタ)の男子がいなかった事でルームメイトはいない。

だが、これは今の俺には幸運なことだ。

今ここにルームメイトがいて兄さんの事で同情なんかされた日には衝動的に『9条』破ってしまう。

 

武偵法9条。

 

それは『武偵は如何なる状況に於いても、その武偵活動中に人を殺害してはならない』。それが9条だ。当然活動中でもなくても当てはまることだ。

俺はソファーに寝転び、気持ちを落ち着かせる。

………さっきまでマスコミに兄さんのことを聞かれた。

思い出したくない質問の数々が俺を苛立たせる。

 

ーーーー兄さんはなぜ、人を助け、自分が死んだ?

ーーーーなぜ、スケープゴートにさせられた?

 

「………ッ。それは……ッ!!」

 

それは、あの力のせいでーーー武偵なんかやっていたからだ!

ああ。武偵なんて、正義の味方なんて、戦って、戦って、傷ついた挙げ句、死体に石を投げられる、ろくでもない、損な役回りじゃないか……!

 

「ーーーーやめよう」

 

そんなバカなものになるのを。

これからは普通の人間になる。

生きて、無責任なことを言うだけ言って、平凡な日々をのうのうと送る側になる。

 

「ーーーー俺は武偵を辞める」

 

とは言ったものの、直ぐに武偵高を辞めることはできない。

武偵高校から一般校への生徒の転出には、時期的な制約がある。これは生徒が持つ銃器・刀剣を一括して公安委員会に登録するよう武偵法で定められているためで、更新期の四月にでないと、学校を辞められない規則になっているのだ。

さらに転出を希望する生徒はこの申請を転出の一年前から六ヶ月前までの間に教務科に提出しておかねばならない。そして俺はその書類を、すでに作ってある。

転出届を出して受理されれば、来年二年に上がって少し経てば俺は武偵の世界から足を洗うことができる。

 

教務科(マスターズ)に行くか…」

 

ソファーから起き上がり、制服を着て机に置いてある書類を持つ。外を見てみると雨が降っていた。

 

「………雨か」

 

最悪だな…….さっきは雨なんて降っていなかったのに。

溜息を吐いて歩き出そうとして

 

 

『なーに腑抜けに腑抜けたその顔は?アンタの目、死んだ魚みたいね』

 

 

足が止まる。

な、なんだ?突然?耳がおかしくなったか?

 

『これまで二週間アンタの事、視てたけど………気持ち悪いわ、アンタ』

 

………はい?

 

『気持ち悪くてコンビニで買って食べたももまん全部吐きそうだったわ。てか吐いたわよ。どうしてくれんの?』

 

………い、いかん、今の俺ではこの状況についていけん。

一応整理しよう。まず、この天の声?は女性。しかも二週間俺のことを監視していた。そしてももまん吐いた。

ていうかももまんって一昔前にちょっとブームなった、桃っぽい形をしただけの要するにあんまんなのだが……。

………どれだけ食べたんだろうか?

 

『ちなみに食べた数は14個よ』

 

マジか。どんだけ食ってんだよ。

 

『以外と美味しかったわ。生地に桃の味が付いて、それにアンコの控えめな甘さ……75点』

 

なに点数付けてんだよ。ていうかなんで俺を監視してたか理由を言えよ。

 

『………あのね。アンタそれでも武偵?少しは自分で考えなさいよ。ま、でも今のアンタじゃあ無理か。「ヒステリアモード」じゃないアンタには』

 

ーーーーは?い今、なんてーーー

 

ヒステリア(Histeria)サヴァン(Savant)シンドローム(Syndrome)だっけ?アンタはヒステリアモードって呼んでるみたいだけど』

 

「な、なんでオマエ知ってーーー」

 

いるんだ?最後は声に出なかったが、もう一度言う、なんでオマエ知っているんだ?

 

ヒステリア(Histeria)サヴァン(Savant)シンドローム(Syndrome)

 

天の声?も言ったように俺はヒステリアモードと勝手に呼んでいる。遠山家は代々このヒステリアモードを使って正義の味方をやってきた。

この特性を持つ人間は、一定量以上の恋愛時脳内物質βエンドルフィンが分泌されると、それが常人の約30倍もの量の神経伝達物質を媒介し、大脳・小脳・脊髄といった中枢神経系の活動を劇的に亢進させる。

その結果、ヒステリアモード時には論理的思考力、判断力、ひいては反射神経までもが飛躍的に向上し、うんたらかんたらがどうたらこうたらで………

まあ、一言で言うと。

この特性を持つ人間は性的に興奮すると、一時的にまるで人が変わったようなスーパーモードになれるのだ。

このヒステリアモードのせいで中学のころに俺の体質を知った一部の女子が、俺を利用することを覚えやがったのだ。

ヤツらは俺をあの手この手のイタズラでヒステリアモードにし、こき使った。ある者はイジメを受けた復讐に俺を使い、ある者はセクハラ教師への制裁をさせたりもした忌々しい中学時代だった。

そんな理由から地元を避け、東京武偵高を受験したのだが、運の悪さに定評のある俺は色んな所でヒステリアモードになる事が多々あったのだ。

この俺の体質を知っているのは中学のヤツらを除けば、俺の祖父さん、祖母さん、そして兄さんくらいなのに……なんで知ってる?

 

『考えれば分かることなのに……ほんっと今のアンタはダメダメね。これは先が思いやられるわ』

 

「うるさい!今の俺はただの高校生だ!どうしようもない」

 

と俺がそう言うと、んー……と天の声?が唸る。

 

『よしっ!分かった!』

 

いや、俺が分からん。

ブツッ!とスピーカーの電源が切れ、静かになる。

 

「………何がどうなっているのか理解できん」

 

というよりも俺がこの状況に追いついていないと言ったらいいのか?

とりあえずもう一度ソファーに座ると制服の胸ポケットにある携帯が鳴った。

画面を見るとそこには知らない番号が映っていた。

恐る恐る電話に出るとーーー

 

『やっほーキンジ』

 

さっきの天の声?だった。

 

「………おい。なんで俺の電話番号知ってんだ」

 

『さっきも言ったでしょ。アンタを監視してたんだからアンタの個人情報くらい持ってるわよ』

 

なにそれコワイ。

 

『あ、そうそう。アンタ今部屋の何処にいる?』

 

「は?」

 

何言ってんだコイツは?

 

『いいから答えて』

 

「………リビングのソファーに座ってる」

 

あー分かったと言って一方的に切られる。

いやだから俺に分かるようにしてくれないか?

だがこの一分後、俺は理解することなる。何故ならーーーー

 

 

ガシャァァァアアアアアアアンッ!!!!!

 

 

「うおおおッ!?」

 

俺はソファーから顔から転げ落ちた。な、なんだ!?襲撃かっ!?

いきなり窓ガラスが爆弾か何かで吹き飛ばされたような音が部屋中に響き渡る。

部屋の中に風と雨が入って俺やソファーが濡れる。

ソファーから転げ落ちた俺は身体を起こして目線を上げるとそこには13、4歳のブルーの瞳にプラチナブロンドの少女がいた。

 

「さっきぶりね。キンジ」

 

俺は声が出せなかった。驚愕で出せなかったのもあるが、その少女の雰囲気だった。

存在が希薄かと思えば、何故か存在が二重三重にも感じられるのだ。今の俺でも、だ。

 

「おまーーーッ!?」

 

なんとか喋ろうするがまた声を発することができなかった。

何故なら、キス、されてしまったから、だ。

 

ああ。ああーーーーこれはアウトだ。

 

いくらなんでも不意打ちだ。

 

体の芯が熱く、堅く、むくむくと大きくなっていくようなーーー言いようのない感覚。

 

ドクン、ドクンーーー!

 

火傷しそうに熱くなった血液が体の中央にあつまっていく。

なってしまう。なっていく。

 

ヒステリアモード、に………!

 

「ッ!?」

 

バッ!と少女に直ぐさま離れる。

 

「さっすが。やっぱりそのモードなると何でも分かっちゃうみたいね」

 

コイツの言うとおり、今の俺には全て分かる。分かった。コイツがなんで俺を監視してたか、何で会いに来たのか。

 

「説明が省けて楽になってちょうどいいから単刀直入に言うわ」

 

少女はニッコリと笑みを浮かべてこう言った。

 

 

「私の主人(アド)になってくれない?」

 

 

 

これが俺、遠山キンジと。『サヤビト』、リヴィアの雨と風の冷たい出会いだった。




次の話は遅くなると思います……読んでくれた方どうもすいません
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