「………ハァハァ…ったく、どんだけいるのよ……ハァ……」
キンジのヤツ、面倒なモノを押しつけて。
私は物陰からチラッと見る。
7台のセグウェイが私を探して辺りを動き回っている。
標的をキンジから私に変えたみたいね。
いま私は、新しい学生寮の建設現場にいる。
なんでも年々、武偵になりたい奴が増えてるみたいで、学生寮を新たに建設するようね。
ところでキンジは助かったのかしら?
まぁ、あのピンクのツインテール少女が何とかしたでしょ。まだ私との契約きれてないし。
「………とりあえず、いまは自分の事ね」
セグウェイはさっきからぐるぐる動き回っている。
UZIの上には小型のカメラがついていて、あれを使って『武偵殺し』が監視してる。
ここで私がセグウェイを破壊して終わらせるものありだけど……それじゃあ『武偵殺し』は捕まえる事ができない。
私は携帯を出してサラに電話をかける。
コールを待っていると、両側から2台のセグウェイが飛び出してきた!
「ちょっ!」
マズった!
あっちは電波を傍受できるんだった!
私は携帯を上へと放り投げる。
2台のセグウェイが一斉に上に向く。
その隙に私の近くにいるセグウェイに向かって走りだす!
「でぇりあっ!!」
セグウェイをドロップキックで破壊し、もう一つのセグウェイはショートソードを投げ、UZIの銃身を破壊した。
セグウェイ後ろへと倒れる。
「ああもうっ!!バカすぎる私っ!」
ショートソードを黒い影に呼び戻して学生寮の壁を蹴り登る。
屋上まで登ると、そのまま走って向かい側のほうに飛び降りた!
空中にいる私は残り五台のセグウェイを確認する。
セグウェイはUZIを私にむけて発砲してくる。私はショートソードを黒い影に戻して銃弾を防ぐ。
私は着地して黒い影を薙ぎ払うようにセグウェイを二台破壊する。
(ーーーーあと三台っ!)
私は走って黒い影をショートソードに変え、三台の銃撃の嵐を避け走る!
ショートソードを大きく横に振りかぶってーーー
「でっりゃあああああああああっっっ!!!!」
ザンッ!!
三台のセグウェイを斬った!
ガシャンと音を立ててセグウェイは地面に倒れ、動かなくなった。
「ハァ…ハァ…終わったっ!」
ぜぇぜぇと息を吐いてショートソードを黒い影に戻して右腕に帰す。
あー疲れた…『武偵殺し』の手がかりを潰しちゃったけど、しょうがないか。
「ーーーふぅ、さてキンジの所に行きますか」
息を整えて歩き出すと、横からさっき破壊したセグウェイが飛び出してきた!
「なっ!?」
もう一台いたっ!?
終わったと油断していた私は咄嗟のことで動けなかった。
ーーーー撃たれる。
パン、パンパンッ!!
銃声が鳴り響く。
……撃たれた、の?
けど、私の体には撃たれた所はなかった。
私を狙ったセグウェイは上のUZIだけが崩れ落ちる。
い、いったいなにが?
「ーーーー間一髪、ですわね」
「レトラ!」
後ろを振り向くとそこにはサラのサヤビト、レトラの愛銃、グロック17を上に挙げて立っていた。
よ、良かった。私、生きてる!生きてるって素晴らしい!
「………まったく、『武偵殺し』に対して最後まで気を抜いてはいけませんわ」
レトラはグロック17を持ったままこちらに来る。
「べ、別に気なんか抜いてないっ、つ、疲れが出ただけっ!」
「だから、そういうことを言ってるんですわ……」
レトラうっさい。
私とレトラが言い合っていると『武偵殺し』のセグウェイが14台が出てきて私達を囲んだ。
うっそ、マジで?
「………ねえ、『武偵殺し』って黒光りしているGみたいね……うおっ!?」
私がそう言うと発砲してきた。こっちの声は筒抜けようだ。
レトラはグロックをホルスターにしまい、私と背中合わせになる。
「さっさと倒して!部屋で寝るっ!」
「違いますわ!倒してキンジさんの所へ行きますわよっ!」
はいはい分かってるって。冗談よ。
それじゃあ、せーの!で行こう。せーの……
「「
「う……っ。痛ッてぇ……」
ーーーここは、どこだ?
俺は確か、体育倉庫に突っ込んで……そこから意識が途切れて……。
俺は何か狭い箱のような空間に、尻モチをついた姿勢で収まっている。
………ああ、分かった。これは、飛び箱の中だ。
どうやら一番上の段を吹っ飛ばして、中にハマってしまったらしい。
しかしなんだろう。身動きが取れない。
身動きが取れないのはここが狭いせいもあるが、座っている俺の前に甘酸っぱい香りのする何かがあるせいでもありそうだった。
なんだろうこれは。あったかくて、柔らかい。
脇腹を、両側から何か心地よい弾力をもったものに挟まれている。両肩に何かがもたれかかっている。さらに額の上には、ぷにぷにした物体が乗っていた。
「ん……?」
額と頬で、そのぷにぷにした何かを押しのけるようにするとーーー
ーーーかくん。
(…………可愛っ…….…!)
いい、と反射的に言ってしまいそうな……
女の子、の顔だった。
女子寮から飛び降り、パラグライダーに乗ったまま戦い、俺を空中にさらって助けた、さっきの勇敢な少女だ。
「………!」
それで気付く。
俺の脇腹を左右から挟んでいるのは、彼女のふともも。
両肩に乗っかっているのは、腕。
ーーー何がどうもつれ合ってこうなったかは分からないが、俺は、彼女を抱っこして、ここにハマってしまっているらしいのだ!
ありえん。
ありえないぞ。
女子と、密着しすぎだ。
じわ……と、俺の体の芯に、熱くなった血液が集まり始める。
や、ヤバい、ヒスるな俺よ!
「…お……おい」
声を掛けてみるが、少女は眠るように気を失っている。
その目を縁取るのは、ツンツンと長いまつげ。
甘酸っぱい香りの息を継ぐピンクの唇は、桜の花びらみたいに小さい。
ツインテールに結われた長い髪は、細い窓から届く光に、キラキラ……と豊かなツヤをきらめかせていた。色は、ピンク。珍しい、ピンクブロンドってやつか。
さっきは俺も必死だったから気づかなかったが……カワイイ。文句なしに可愛い子だ。まるでファンタジー映画から飛び出してきたような、作りものみたいに可憐な少女。
だが……この可愛さはどちらかというと子供とかお人形さんとかに感じる、そっち系の愛らしさで……というのもコイツ、こうやって間近に見るとひときわチビっ子なのだ。因みにリヴィアもそんな感じだ。
この体格はたぶん、中等部。いや、もしかしたら最近始まったインターン制度で入ってきた小学生かもしれないぞ。
ーーーそんな小さな子が、さっきの救出劇をやってのけたのか。
すごい。それはすごい、のだが……
「………くっ………」
この子はいま俺の腹にまたがるような姿勢になって、腹部をきつく圧迫してきた。
息が、苦しい。
なので、なんとか姿勢を変えられないものかと藻掻いているとーーー
ちろ、ちろろ。
「?」
俺の鼻を、少女の名札がくすぐってきた。
今日が始業式なので学年やくらあは未記入だったが、名前はーーー『神崎・H・アリア』
でも、なんでこんな高い位置に名札があるんだ。
そう思って視線を下ろしていくと
「ーーーっ!」
白地にハート・ダイヤ・スペード……トランプのマークがぽちぽちプリントされたファンシーな下着が、丸出しになっていた!
どうやらここに転がり込んだ時の勢いで、ズレてしまったらしい。
『 65A→B 』……?
下着の縁からぴょろっと出ていた妙なタグの表記に、ああ、と思いつく。
これはプッシュアップ・プランジ・ブラ。いわゆる「寄せて上げるブラ』だ。
俺の兄はとある事情でこういう事に詳しく、小さいころ教えてもらった……というか、聞かされていたので一応覚えている。言っておくが、断じて自発的に憶えたわけではない。
………しかし、このアリアとかいう少女、AカップをBカップに偽装しようとしているらしい。だが気の毒だが、その偽装は失敗としか言いようがない。
寄せて上げる元手に乏しすぎて、寄りも上がりもしていない。
リヴィアも同じことをやっているのを偶然見てしまい、思わず気の毒で泣きそうになった。
……まあ、そんな事は置いといて、これは、俺にとっては不幸中の幸いだったかもしれない。
もしこの胸がもっと大きくて顔に押し付けられたりしていたら、間違いなく俺はヒスっていただろう。
「……へ……へ……」
「ーーー?」
「ヘンタイーーーー!」
突然聞こえてきたのは、アニメ声というかなんというか、この声だけでもファンがつきそうな、おいお前その顔その姿でその声は反則じゃないか?ってぐらいの、ちょっと鼻にかかった幼い声だった。
「さっ、さささっ、サイッテー!!」
どうやら意識を取り戻したらしいアリアさんは、ぎぎん!と俺を睨んで、ばっ!とブラウスを下ろすと腕が曲がったままで力の籠ってないハンマーパンチを、俺の頭に落とし始めた。
「おっ、おい、やっ、やめろ!」
「このチカン!恩知らず!人でなし!」
どうやらアリアは、自分のブラウスを俺がめくり上げたと勘違いしている!?
「ち、違う!こ、これは、俺が、やったんじゃ、なーーーー!」
そこまで、殴られつつの俺が言ったとき。
ガガガガガガガガガガンッ!!
突然の轟音が、体育倉庫に響いた。
ーーー何だ!?
それは外から聞こえてきた。
俺を殴っていたアリアも殴るのを止めている。
まるで、銃撃されているようなーー!
「だあああっ!鬱陶しいっ!斬っても斬っても出てくる!」
「相変わらずしつこいっ!このセグウェイはっ!」
外で聞いた事のある声が、轟音とともに聞こえてくる。
するとその二つの声は段々とこちらに近づいており、そして
ガガガガガガガガガガンッ!!
うおっ!?今、飛び箱にも何発か、背中の側に激しい衝撃があった。
「はぁはぁ……ったく、これじゃあ埒がないわ……ん?あっ!キンジを助けたピンクのツインテール!」
「あ、あんたは!セグウェイの囮になった!?」
アリアが飛び箱から体を乗り出すが、銃撃されないようにすぐに前のめりになる。
ていうか声は……
「リ、リヴィアかっ!?」
「えっキンジ?いるの?アンタどこにーーってなんで飛び箱の中にいるのよ」
そう言ってリヴィアが一緒に入っているアリアをごめんねーと言ってみぎゃ!と呻くアリアを退かして俺を飛び箱から出した。
やっと飛び箱から出られた俺はリヴィアに襟元を引っ張られて壁側に隠れる。
「キンジさん、大丈夫ですか?」
と言ってきたのはレトラだった。
何でお前が……?
「私達が『武偵殺し』の動きを察知したからですわ」
なるほど。
……ていうことはさっきの銃撃は『武偵殺し』のセグウェイか!?
おいリヴィア、お前に何とかしろと言ったんだが、どういうことだ。
「最初のは全部破壊したわよ。けど、後からウジャウジャ出て来てキリがないからアンタの所まで来たの。14台出てきて、その半分を破壊する事は出来たけど」
「……どうやら『武偵殺し』はどうしても私達を潰したいようですわね」
おいおいマジか、それは。
「ちょっとアンタたちっ!戦いなさいよ!仮にも武偵高の生徒でしょ!」
アリアは防弾性のある飛び箱の隙間から応射している。
セグウェイは全部で7台。サブマシンガンが7丁もこちらに向けられている。
戦えと言われても、今の俺ではどうする事もできない。
俺が普通の俺モードで戦うかどうか考えていると、リヴィアが俺の制服を引っ張る。
「なんだよ」
「ハイこれ。キンジにあげる」
リヴィアが俺に渡してきたのは表紙カバーがついた本だった。
なんでこんな時にこんなモン持ってんだ。
リヴィアが見て見てと言うので、見てみるとそれはーーー
「ぶっ!?」
俺は本をリヴィアに投げ返す。
「ちょっと危ないじゃないのよ」
「おっ、おま、お前!そんなモノを俺に見せるなっ!」
「はぁ?なに言ってんの。キンジくらいの年だとこういうのを読むの普通じゃないの」
た、確かに俺くらいの年なら読むのは普通かもしれんが、俺はそういうモノを読まないようにしてるんだ!
リヴィアが俺に見せた本……それは
「若い男女がくんずほぐれつのイヤンって感じの面白い漫画よ」
エロ本だった。
ていうかどこから出てきたそんなモノ。
「え?ここで偶然見つけたけど?」
マジか。学校にエロ本隠すなよ。
「…….………………ゴクリ」
そしてレトラ、エロ本ガン読みするな。
エロ本に夢中のレトラにリヴィアが耳打ちをする。
「………分かりましたわ」
こっちを向いてレトラは頷いている。
何かすごい嫌な予感がする。
するとレトラは俺の背後に回り、俺の両腕を拘束する。羽交い締めだ。
「お、おい!なにするんだ!」
「羽交い締め、ですわ」
知ってるよ!そうじゃなくて何で俺を拘束するんだ!
リヴィアがエロ本を持ってこっちにくる。
ま、まさか……!
「フッフッフ……その表情、分かったみたいね」
こ、こいつ……エロ本を見せて俺をヒスらせるつもりだ!
これまでリヴィアにいろんな方法で強制的にヒステリアモードにさせられてきたが……今まで一番酷い。
リヴィアがエロ本を広げてこっちに近づいてくる。ちょっ、くるな!
「さぁ……観念しさない!」
俺の視界がエロ本だけになってしまった。
リヴィアが広げたページはかなりドギツイ描写が描かれていた。最近のエロ本すすんでるなぁ!
火傷しそうに熱くなった血液が体の中央に集まっていくのが分かる。
ーーーああ。なっちまうんだなぁ……ヒステリアモードに……
「ーーーまったくリヴィアは。キミは本当に悪い子だね」
ヒスるといきなり口調がクールになるな。
俺はレトラの拘束を解いて立ち上がる。
「ええ。私は悪い子よ?知らなかった?」
「知ってるよ。リヴィアの事なら全部、ね」
………寒いな俺。
ズガガガッ!ガキンッ!
弾切れの音を派手に上げたアリアが、身をかがめて拳銃に弾倉を差し替える。
「ーーーやったか」
「射程圏外に追い払っただけよ。ヤツら、並木の向こうに隠れたけど……きっとすぐにまた出てくるわ」
「強い子だ。それだけでも上出来だよ。リヴィア、準備してくれ。ーーー
「
リヴィアは右腕から黒い影を出現させる。リヴィアはショートソードに形作られる。
俺は見て驚いているアリアの細い脚と、すっぽり腕に収まってしまう小柄な背中に手を回し、
「きゃっ!?」
「ご褒美に、ちょっとの間だけーーーお姫様にしてあげよう」
いきなりお姫様抱っこされたアリアが、ぼんっ。
ネコっぽい犬歯の口を驚きに開いて、真っ赤になった。そしてそのままアリアを積み上げられたマットの上に……ちょこん。
アリアを、お人形さんみたいに座らせてやった。
「な、なな、なに……!?」
さっきまでの俺とは一変してしまった俊敏な動きに、アリアは目をぱちぱちさせている。
「姫はそのお席でごゆっくり、な。銃をなんかを振り回すのは、似合わない」
ああ、俺よ。
俺はもう、自分を止められないらしいな。
「あ……アンタ……どうしたのよ!?おかしくなっちゃったの!?」
慌てまくったアニメ声に、被せるようにしてーーー
ズガガガガガガカンッ!
再び、UZIが体育倉庫に銃弾を浴びせてきた。
だが壁は防弾壁だし、ここはヤツらからみて死角になっている。撃つだけ弾のムダだ。
俺は苦笑しながら……ヤツらの射撃線が交錯する、ドアの方へと歩いていった。
「あ、危ない!撃たれるわ!」
それなら大丈夫だ。何故ならば、俺には『剣』があるから。
グラウンドに並んだ7台のセグウェイが、一斉にUZIを撃ってくる。
その弾はーーー
「ふっ!」
俺の前に出たリヴィアが全てショートソードで弾き飛ばす。
「リヴィア!」
「OK!」
俺はリヴィアからショートソードを受け取って走り出す!
またUZIが一斉に撃ってくる。
だが、今の俺の目には、銃弾がまるでスローモーションのように、全部見えてしまうのだ。
いい狙いだ。全て、俺の頭部に照準を合わせているな。
俺はその一斉射撃をーーーリヴィアがやったようにショートソードで全て弾く。
ーーーーそして俺はセグウェイの懐に入り、全てを横に斬り飛ばした。
俺達の、たった一振りの剣で。あっけなく。