「先生、あたしはアイツの隣に座りたい」
俺が新しくクラス分けされた2年A組の最初のHRで神崎・H・アリアが爆弾を投下してきた。
クラスの生徒たちは一瞬絶句して、それから一斉にこっちを見て……
わぁーーっ!と歓声を上げた。
俺といえば盛大にイスから転げ落ちていた。
絶句。ただ、ただ、絶句するしかない。
(う、うそ、だろ……?)
朝のセグウェイ襲撃は俺とリヴィア、そしてレトラの三人で治めた。
それはもう剣で銃弾を弾くとか避けたりとか……様々なことをやらかしたなぁ……ヒスった俺は。
それで、何も詮索されたくない俺たちはそのまま呆然とするアリアを放置してその場から逃げた。
なぜ逃げたかと言うとアリアにリヴィア達のことを説明をしたくないのと、ヒステリアモードが切れたからだ。
ヒスった俺ならともかく、普通モードの俺にはどうすることも出来ない。
まあ、それに相手は武偵といえどインターンで入ってきた小学生だ。俺達の事情に巻き込む訳にはいかないからな。
後でメシを奢ってやればいいや……と思っていた、が。
それは勘違いだったようだ。
神崎・H・アリアは俺と同い年、つまり高校生だった!
俺が驚愕の真実に唖然していると、右隣から
「よ……良かったなキンジ!なんか知らんがお前にも春が来たみたいだぞ!先生!オレ、転入生さんと席代わりますよ!」
まるで選挙に当選した代議士の秘書みたいに俺の手を握ってブンブン振りながら、右隣に座っていた大男、ツンツン頭の武藤剛気は満面の笑みで席を立つ。
俺が
「あらあら。最近の女子高生は積極的ねぇー。じゃあ武藤くん、席を代わってあげて」
先生は何だか嬉しそうにアリアと俺を交互に見てから、事情を知らない武藤の提案を即OKしてしまう。
武藤が席から離れて、アリアが座る。
「……………(じーーーっ」
見られてる。メッチャ見られてる。ガン見されている。
「ハーイ、これから
ちょっ!?ちょっと誰か助けてくれ!
だが俺の願い虚しく、アリアに午前の授業全て監視されながら受けた。
そして昼休みになった途端、アリアがどこへ行ってしまい、これを好機に俺は理科棟の屋上へと避難した。するとそこには、
「やあ、遠山君」
レトラの
武偵高の三年生はほとんど学校には出てこない。
だが清水更紗、先輩は毎日学校に来ている。何故だかは分からないが、本人曰く「暇だから」そうだ。
先輩はこの武偵高でもかなりの変わり者だ。
例え
単位は大丈夫かと俺が聞いたときは「大丈夫じゃない」と言われた。おいおい。
コーヒー
「ふぅ……今朝は災難だったね。また『武偵殺し』に遭うなんて」
「……朝から最悪です」
しかもそのせいでアリアに目をつけられたんだからな。
そういえば。先輩にお礼を言わないとな。
「先輩、応援にレトラをよこしてくれてありがとうございます」
「別にいいよ、仲間だからね。はい、エスプレッソ」
俺は先輩からエスプレッソを渡され、飲む。……うまいな。
先輩はクッキーを食べながら軽い調子でこんな事をいった。
「
俺は飲んだエスプレッソを全て噴き出した。
い、いまなんていった?
「なんでも『武偵殺し』が
……おいおい。冗談だろ?
だが
正確にはリヴィアが戦って先輩が捕まえたと言ったほうがいいな。
俺はなにしてたか?別に大したことはしてない。けど俺が一番睨まれていたな、何故か。
俺は去年の冬に、『武偵殺し』と
……去年のことはあまり話したくはない。ていうか思い出したくもない。
「所長がイライラしながら言ってたよ、『おい食欲旺盛女と根暗ヒステリア、
……マジですか。次に会うときは面倒なことになりそうだな。
ていうか
俺がゲンナリしてると先輩はエスプレッソマシンを片付けて俺に渡してくる。
「これ、私の部屋に置いといて。これからレトラと一緒に逃げ出した
もう一度言おう。マジですか?
俺はいま、
東京武偵高は隅から隅まで危険極まりない高校だが、その中にも『三大危険地域』と呼ばれる物騒なゾーンがある。
そして、
教師の詰め所にすぎない教務科が、なぜ危険なのか?
答えは簡単だ。
武偵高の教師が、危険人物ばっかりだからである。
俺が知っているだけでも、前職が各国の特殊部隊、傭兵、マフィア、噂では殺し屋……などなど、聞かなきゃ良かった経歴の持ち主が大集合している。
そして俺がいまから会おうとしているのが二年B組の担任で
綴は教師の中でも、アブないのの筆頭みたいな女である。
まず目がいつも据わっている。年中ラリってようなカンジだ。そしてタバコ、明らかに市販のものとは違う草っぽい臭いがする。間違いなく違法なモノだ。
なぜそんな危険人物に俺が会いに行くかというとーーーー
「遠山ァ、何してんだー……邪魔ァー」
女にしては低めの、俺を呼ぶ声にギョッとして振り向くとそこには綴がいた。
「なんだー……
ぷは、とタバコの煙を輪っか型に吹いた綴は、真っ黒なコートを羽織っていた。そのコートの着方が、マンガとかに出てくるだらしない博士の白衣みたいにだらしない。
腰には黒革のホルスターとそこに入った真っ黒な拳銃、グロック18が丸見えだ。
「え、えっとですねーーー」
俺は先輩に言われた事を周囲に聞かれないように綴に話す。
それを聞いた綴は凄いイヤな顔をする。
「メンドクセー……私はやんないから。あとヨロシクぅー…」
……やっぱり。言うと思ったよ。
ここで綴を動かせなかったらこっちが面倒くさいことになる。どうすれば……
「ーーーー
「……げっ!……アレッシオ」
音も無く綴の後ろから現れてタバコを取り上げたのは14、5歳くらいで、落ち着いた雰囲気を持った男だ。
「それに酒のニオイ……また昼間っから一杯やったんですか?あーあもう服もだらしない……しっかりしてくださいよ
「わ、わかってるってー……」
す、すごいな。あの綴が押されている。
よし『武偵殺し』の件もアレッシオに頼むか。
「なあアレッシオ、ちょっと良いか?」
「あ、はい。なんですか?」
「『武偵殺し』の件で俺とリヴィア一緒に調べろって所長命令が出てるんだ。だから……」
「ええ、分かってますよ。ちゃんと
「え、えー……だるいからパ「お酒3本追加」ーーー遠山、とっとと仕事を終わらせるぞ」
綴の嫌そうな顔から一転してキリッと表情を変えた。現金だなおい。
だが、こんな綴でも一応は教師の仕事があるため、とりあえずは俺とリヴィアだけで『武偵殺し』を調べることになった。
そのまま学生寮の部屋へ戻り、自室のソファーで寝そべっているリヴィアにこれまでの事を話す。
「やだっ!」
綴に続き、リヴィアにも断られた。
「やだもなにも……所長命令だからしょうがねえだろうが。諦めろ」
「やだやだっ!!」
リヴィアはソファーでジタバタする。
こ、こいつ…!駄々こねやがって!
殴りたい欲求が出てくるが、なんとか抑える。
「……分かったよ。じゃあお前ナシで調べるから後で所長の説教全部聞けよな」
「やだやだやだっ!!!所長の説教長いからやだやだやだやだっ!!!!」
よっしゃ、もう我慢しない。殴ってやる!
俺は拳を握ってリヴィアの頭に落とす。
ピンポーン。
「痛ったぁい!!何すんのよ!」
「駄々こねる子供に教育的指導だ」
「私は子供じゃない!これでもアンタより年上よ!」
ピンポンピンポーン。
「そうか、じゃあバアさんだな」
「言いやがったわね!アンタ言ってはならないことを言いやがったわね!」
「ふん、だからどうした」
「………!ブン殴る!!」
「やってみろ。ただしその頃にはお前は俺に謝っているけどな」
ピポピポピポピポピピピピピピピポーン!ピポピポピンポーン!
「「あー!さっきからうっさい!」」
誰かがさっきから俺の部屋のチャイムを連射している。居留守を使おうと思ったが、ダメらしい。
「ったく、誰だよ……?」
渋々、ドアを開けるとーーー
「遅い!あたしがチャイムを押したら五秒以内に出ること!」
びしっ!と両手を腰にあて、
「か、神崎!?」
制服姿の、神崎・H・アリアがいた。
俺はマンガみたいに目をゴシゴシ擦って見開くが、やっぱりアリアだ。
なんで コイツが ここに !?
「アリアでいいわよ」
言うが早いかアリアはケンケン混じりで靴を玄関に脱ぎ散らかし、とてててと俺の部屋に侵入してきてしまった。
「お、おい!」
俺はそれを止めようと手を伸ばしたが、するっ。ヤツの子供並の身長のせいで、屈んでかわされる。
「待て、勝手に入るなっ!」
「トランクを中に運んどきなさい!ねえ、トイレどこ?」
アリアは俺の話になんか耳を貸さず、ふんふんと室内の様子を見回す。そして目ざとくトイレを発見すると、てててっ、ぱたん。小走りに入っていってしまった。
……いかん。
ここは武偵高。
そして『武偵』はそもそも、『武装探偵』だ。
「まためんどくさいこと……」
リヴィアがそう呟く。うるさい。
「つか、トランクって……」
何がなんだか分からないまま周囲を見回すと、玄関先にはアリアが持ってきたと思われる車輪つきのトランクがちょこーんと鎮座していた。明らかにブランドものと分かるロゴの入った、小洒落たストライプ柄のトランクだ。
ていうか、これもありえん。
女物のトランクが部屋の前にあるのを近隣の生徒たちに見られたら、後で何を言われるか分かったモンじゃない。
今朝の白雪にも言ったが、このマンションは男子寮なんだぞ。
「あんたたち、一緒に住んでるの?」
トイレから出てきて手を洗ったアリアは、何が入ってるのか異様に重いトランクを玄関に引きずり入れる俺には目もくれず、部屋の様子を窺っている。
そしてリビングの一番奥、窓の辺りまで侵入していった。
「まあいいわ」
なにがいいのか。
くるっーーーと。
その身体を夕陽に染め、アリアは俺達に振り返った。
しゃらり。長いツインテールが、優美な曲線を描いてその動きを追う。
「ーーーーあんたたち、あたしのドレイになりなさい!」
いきなりそんなことをアリアは言い放った。