「「………はあ?」」
俺とリヴィアはワケが分からなかった。
コイツは何を言った?ドレイになれ?理解が出来ない。
「ほら!さっさと飲み物ぐらい出しなさいよ!無礼なヤツらね!」
ぽふ!
盛大にスカートをひらめかせながら、アリアはさっきリヴィアが寝そべっていたソファーにその小さなオシリを落とした。ちゃき、と組んだ足のふとももが少し見えて、そこに提げている二丁拳銃が片方のぞいた。放課後にも帯銃か。物騒なヤツだ。
「コーヒー!エスプレッソ・ルンゴ・ドッピオ!砂糖はカンナ!一分以内!」
無礼者はそっちだ。
てかなんだその魔法の呪文みたいなコーヒーは。
とりあえずキッチンに行って準備をする。
「……ねえ、アイツって今朝のピンクのツインテール?」
「ああ、神崎・H・アリアな。しかしなんだ「ドレイになれ」って発言は。意味が分からん」
「そうね、意味が分からないわ」
お前が言うなよ。お前が。
魔法の呪文みたいなコーヒーは先輩ではないので作れないため仕方なしにインスタントコーヒーを出してやると、アリアは、
「?……これホントにコーヒー?」
どうやらインスタントコーヒーを知らないらしい。
「それしかないんだから有難く飲めよ」
「ズズッ……ヘンな味。ギリシャコーヒーにちょっと似てる……んーでも違う」
「味なんてどうでもいいでしょ。それ飲んだらとっとと帰って」
リヴィアもコーヒーを飲みながら、テーブルのイスに足を置いてアリアを睨みながら言う。するとアリアはカップを持ったまま、きろ、と紅い目だけ動かしてリヴィアを見た。
「帰らないわよ」
「あ?」
顔を歪めて嫌悪を露わにするリヴィアは無理矢理笑顔を作ってもう一度言った。
「そのコーヒー飲んだらさっさと帰ってく・れ・な・い?」
「やだ」
ブチッ!!とリヴィアから聞こえた。
リヴィアの表情が前髪で隠れて見えなくなる。そして俺のほうへと近づいて胸倉を掴んだ。
「….…キンジ、私に命令しなさい。「
ガクガクと俺を揺らすリヴィア。気持ち悪いからやめろ。
キレているリヴィアをなんとか鎮めて俺はアリアのほうに向く。
「今朝助けてくれたことには感謝してる。それにその……何も言わずにに黙って逃げたことは謝る。でもだからってなんでここに押しかけてくる」
「わかんないの?」
「分かるかよ」
「あんたならとっくにわかってると思ったのに。んー……でも、そのうち思い当たるでしょ。まあいいわ」
全然よくねえよ。
「おなかすいた」
アリアはいきなり話題を変えた。はあ!?
「なんか食べ物ないの?」
「ねーよ」
「ないわけないでしょ。あんたたち普段なに食べてんのよ」
「食い物はいつも下のコンビニで買ってる」
あと時々白雪の作るお弁当だな。
「こんびに?ああ、あの小さなスーパーのことね。じゃあ、行きましょ」
「じゃあって何でじゃあなんだよ」
「バカね。食べ物を買い物に行くのよ。もう夕食の時間でしょ」
いかん。会話が噛み合ってない。
ていうかここで夕食まで食っていくつもりか。早く帰ってほしいのに。リヴィアの精神安定ためにも。
俺はアリアに今にでも襲いかかりそうなリヴィアを抑えていると、アリアはバネでもついてるかのようにぽーん!とソファーからジャンプして立ち上がった。
「ねえ、そこって松本屋の『ももまん』売ってる?あたし、食べたいな」
武偵が気をつけなければならないものが三つある。闇。毒。そして女だ。
その三つ目ことアリアはコンビニでももまんを七つも買った。
「私は14個買ったわ。吐いたけど」
どうでもいいわ。
すでにアリアは五つ目まで平らげている。リヴィアもそうだが、その小さな体にどこにそんなにももまんが入る。まぁ…リヴィアは吐いたけど。
俺たちはいつものハンバーグ弁当を食べながらこの侵入者に「早く帰れ」と目で伝える。だがアリアは俺の三白眼、リヴィアはジト目などどこ吹く風で六つ目のももまんを食べて、ふにゅうー、と頬に手なんか当ててうっとり味わっていた。そんなにうまかったか、それ?
「………ていうかな、ドレイってなんなんだよ。どういう意味だ」
「
「何言ってんだ。俺は
それに俺にはリヴィア達とやらなければならない事がある。横目でちらりとリヴィアを見る。
「それにこの学校からも、一般の高校に転校しようと思ってる。武偵自体、やめるつもりなんだよ。それを、よりによってあんなトチ狂った所に戻るなんてーーーームリだ」
「あたしにはキライな言葉が三つあるわ」
「聞けよ人の話を」
「『無理』『疲れた』『面倒くさい』。この三つは、人間の持つ無限の可能性を自ら押し留める良くない言葉。あたしの前では二度と言わないこと。いいわね?」
そういうとアリアは七つ目のももまんをはむっと食べて、指についた餡をなめ取った。
「キンジのポジションはーーーそうね、あたしと一緒にフロントがいいわ。そしてプラチナブロンドのあんたもね」
フロントとは
負傷率ダントツの、危険なポジションである。ていうかなんで俺がお前とパーティーを組む前提で話してんだよ。
「よくない。そもそもなんで俺なんだ」
「太陽はなんで昇る?月はなぜ輝く?」
またいきなり話が飛ぶ。
「キンジは質問ばっかりの子供みたい。仮にも武偵なら、自分で情報を集めて推理しなさいよね」
だったら俺が断っている理由くらい推理しろよ。そして子供みたいななりのお前には言われたくない。
という言葉がノドまで出かかったが、なんとかグッと飲み込ーーー
「はあ?バカじゃないの?だったら私達が断る理由くらい推理しなさいよ。それにアンタみたいなガキに言われたくないわ」
むことが出来なかった。おいリヴィア!お前が代弁すんな!
「ーーーなんですって?」
アリアがギロッ!と睨み、リヴィアも睨み返す。
「さっきからゴチャゴチャゴチャゴチャうるさいのよ。キンジが子供みたい?はっ、笑わせんじゃないわよ。人の話しを聞かずに一方的に自分の意見しか言わないアンタのほうがよっぽどガキよ」
「なっ!?う、うるさいうるさいっ!!あんたには関係ないでしょ!」
アリアは立ち上がり地団駄踏んでツインテールを逆立てる。リヴィアはテーブルに足を掛け身を乗り出し、アリアを頭から足のつま先までじっくりと観察する。
「……ああ思い出した。アンタ、『オルメス』ね?なーるほどね、それならアンタの子供っぽい性格も頷けるわ。どう?『あの人』元気にしてる?」
リヴィアが俺から見ても、いやリヴィアを知ってるヤツなら気持ち悪いと思ってしまうくらいの笑顔で言った。
するとアリアは何故か表情が固まった。そしてだんだん顔が強張っていき、そしてリヴィアに拳銃を突き付けた!?
慌てる俺をよそにリヴィアはもっと笑みを深める。
「ーーーあんた、なんで『その』事を」
「何で知ってるかって?武偵なら自分で調べなさいな。そうでしょ、神崎・H・アリア武偵?」
「ーーーッ!こんのッ!!」
「っ!
俺は拳銃の引き金を引こうするアリアを見て反射的にリヴィアに命じた。
リヴィアは突き出された拳銃を素早く掴み、くるっとアリアのほうへ向けさせた!
「!!」
驚いたアリアの顎に向けて掌底打ちを放つ。アリアはそれをその場で小さく後方宙返りをし、その際に奪われた拳銃を足で後ろに蹴り飛ばし、着地と同時に拳銃をキャッチする。
「風穴っ!!」
ばりばりばりっ!
アリアが拳銃を発砲する。
お、おい!?マジかよ!?
「
リヴィアの周りに黒い影が出現して銃撃を防ぐ。黒い影がショートソードに変わり、受け取るとそれをアリアめがけてぶん投げる。アリアはソファーの方へ避け、ショートソードが壁に突き刺さる。
「いいかげんに当たりなさい!」
「い・や・だっ!!」
アリアがリヴィアに発砲するが、ショートソードを黒い影に戻して銃弾を防ぎ、ショートソードを出現させて走りだす。
アリアも拳銃をホルスターに戻し、背中から二本の刀を取り出す。
「「はぁ!!」」
ガキンッ!!
リヴィアのショートソードとアリアのと刀がぶつかる。
「ったく、いきなり銃弾なんか向けんじゃないわよ」
「だったらなんで知っているかとっとと白状しなさい!」
ギリギリと鍔迫り合いになる。
な、なんだこのハイレベルなケンカは。
俺はただ見てることしかできなかった。リヴィアが言った『あの人』?だったか……アリアはなんであんなにも激昂したんだ?今の俺ではまったく分からん。というかリヴィアはアリアの何を知っているんだ?
と、俺はただ突っ立っていると
……ピン、ポーン……
こ、この鳴らし方は……白雪か!?
ど、どうする、出るか?居留守を使うか?いや無理だ。リヴィアとアリアが暴れているからそんな事はできない。
俺はリヴィアとアリアの方を見る。
「ーーーもう手加減はしないわ。いま謝っても許さないからっ!!」
「別に許さなくても結構よ、コッチはなーんにも悪いことしてないし。というか手加減?なんかしてたのね。てっきりそんなのが本気かと思ってたわ」
「~~~~~~ッ!!泣かす!ゼッッッッッッッタイ泣かしてやるわっ!」
おいリヴィア!なに挑発なんかしてんだよ!これ以上アリアを怒らせるな!!
「お前ら!こんな狭い部屋でケンカすんな!やるなら外でやれ!」
俺は小さい声で二人にそう叫んだ。
「分かったわ。ほら行くわよツインテール」
リヴィアは部屋の窓を開けてベランダに出て、学生寮の壁を登っていった。お前はサルか。
「あっ、ちょ!待ちなさいよ!」
アリアも腰にあるワイヤーを使って上の階のベランダにワイヤーを引っ掛けて上へ登って行った。
二人がいなくなってやっと部屋が静かになった。だがまだ終わってはいない、さっきからドアチャイムを鳴らし続けている白雪を何とかしなければならない。
平静を装って玄関のドアを開けると、緋袴に白子袖ーーー巫女装束の白雪が、何やら包みを持って立っていた。
「な、なんだよお前。そんなカッコで」
平静を装ったつもりだが、メッチャ声が裏返っている。白雪はそんな俺に首を傾げながら、
「あっ……これ、あのね。私、授業で遅くなっちゃって……キンちゃんとリヴィアにお夕飯をすぐ作って届けたかったから、着替えないで来ちゃったんだけど……い、イヤだったら着替えてくるよっ」
「いや別にいいからっ」
本気で着替えてきかねないムードの白雪を、制止しておく。
授業、というのはS研の授業のことだろう。
S研とは
「ねぇキンちゃん。今朝出てた周知メールの自転車爆発事件って……あれ、もしかしてキンちゃんのこと……?」
「あ、ああ。俺だよ」
と早口に言うと白雪は文字通り十センチぐらい飛び上がった。
「だ、大丈夫!?ケガとか無かった!?て、手当させて!」
「俺は無事だからっ。触んなっ」
「は、はい……でもよかったぁ、無事で。それにしても許せない、キンちゃんを狙うなんて!私ぜったい、犯人を八つ裂きにしてコンクリ……じゃない、磔にして拷問……じゃない、逮捕するよー!」
なんか今……いや気にしない方が良いだろう。
「い、いいからっ。
「は、はい。えっと……はい」
白雪はまだ何か言いたそうだったが、コクリとうなずいた。この従順さ、どっかの二人にも見習ってほしい。
「……でも……その、今夜のキンちゃん、なんか……ちょっと、ヘンだよ?」
「へ、ヘン?どの辺が」
「なんか、いつもより冷たいような気が……」
ぎく。なんだこの勘ぐり。
「き、気のせいだ!そんなことより用事!用事は何だよっ?」
早く白雪を追い払ってあの二人を止めないといけない。
「あ、あのね。これ」
白雪はもじもじと、持っていた包みを俺に差し出してくる。
「タケノコごはん、お夕飯に作ったの。今、旬だし……それに私、明日から今度は恐山に合宿で、キンちゃんのごはん、しばらく作ってあげられないから……」
「あ、ああ。ありがとありがと。よし用事は済んだ。さあ帰ろう。な?」
俺が包みを受け取ると、白雪は嬉しそうに顔をほころばせる。そして、ぽわっ、と頬を桜色に染めた。
「い、一日に二食も作っちゃうなんて、な、なんか私、お嫁さんみたいだね……って、何言ってるんだろうね私は。あは、あはは。ヘンだね。うん、ヘン!……キ、キンちゃん、ど……どう思う?」
ああもう!面倒くさい!
「
「『
焦りまくって適当に答えた俺に、白雪はなんでか感激したような顔を上げる。
「じゃ、じゃあ!今からお夕飯の支度するねキンちゃん!」
白雪はドアノブに手をかける。
「ちょっ!まっ、まて白雪!?」
俺は白雪を止めるのに似たような会話を繰り返して三十分も掛かった。