そうしていると上海人形を連れた他の魔法使いが戻ってくる。手にする籠には見たことのない植物が蠢いていた。
「ただいま……って、魔理沙じゃない。こんな所までどうしたの!?」
俺達はここまでの経緯を魔理沙に伝えていた。ネメシスのこと、白蓮のこと……。
「じゃ、じゃあ幻想郷を支配するみたいな目論見は……」
「絶対にない。最初に言った通りだ。邪仙に引き裂かれたネメシスの体と白蓮との絆を取り戻す為」
それでも訝しむ彼女であったが、アリスの手にしていた素材を回収するべく神綺さんまでもが加わる。
「おかえりアリスちゃん。そうそうこの素材よ、ご苦労様。今度こそ上手くいくといいわね。これ以上みんなに迷惑はかけられないわ」
更に地上からの客人が一人増えた中、神綺さんとアリスはネメシスの復活の為に神綺さんの部屋へ向かう。
「おいおい、まだ私はお前達の言っていることを信用したわけじゃないぜ。実物を見せておくれ」
何やら適当な理由をつけて魔理沙も押し入っていった。
「ちょっと魔理沙っ……!」
「いいじゃないか、流石にここで物は借りないし、アイツの言っていることが本当か確認しないとだからな」
疲れていたのでもう寝てしまおうと思ったが、心配過ぎる。俺も魔理沙と一緒に部屋に入ることにした。
凄いことになっていた。見たことのない薬品がフラスコの中で煙を吐いていたり、何か光る粒子で描かれた魔方陣があったりと……。神綺さんが本気であることが、そしてそんな彼女をもってしてもネメシスの魂を取り戻すことは難しい事であることが見て取れる。
で、あそこで大きな帽子をピョコピョコさせながらメモを取っているのは魔理沙で間違いないだろう。
「あの魔界神サマの魔法だなんてそうそうお目にかかれないからな。ここでレシピ盗んで後で試すんだ」
横でヤレヤレと首を振っていたのがアリス。
「あのねぇ、この素材もあっちの素材も幻想郷では取れないわ。魔理沙、魔界に移り住むつもり?」
魔法のことについては俺は正直何も分からない。同じ魔法使いである白蓮もこういったことするのだろうか? ちょっと想像できない。
そしてその最奥にいたのは遠くからでもよく分かるサイドテールの頭。そう、神綺さんである。そして彼女の手元には無残にも真っ二つに切り裂かれたネメシスの姿が……。
「これで流石に納得できただろ、魔理沙? 俺は彼女を助けたいんだ! アリスには出来ないと言われた。魔界の神の力をもってしても失敗続きだ。だけど原理的には出来るらしい。俺は神綺さんに頼み込むことしかできない……」
作業に集中していた神綺さんが一瞬だけ視線を向けてきた。それに気づいたアリスは「しーっ」として、俺達に静かにするように促す。肝心要のところらしい。
黙って様子を見ているとネメシスの体が光り始める。思わず口から「おおっ」と漏れてしまい、またアリスに睨まれてしまった。慌てて口をつぐむ。
光はどんどん輝きを増して、増して……そして消え失せてしまった。
「あーん、あと少しなのに……。これで89回目か……。何度もおつかい頼んでごめんね、アリスちゃん」
どうやら失敗らしい。ションボリとする神綺さんを慰めるのはアリス。俺も少し距離を取りながら彼女を励ますことにした。
だが、魔理沙はというと作業台にまで上がりこんでいったのだ。
「あっ、こらっ!」
色々な材料やレシピ本に目を通していく白黒の泥棒。程なくしてアリスに取り押さえられるが、魔理沙はニカッと笑みを浮かべて神綺さんに問いかける。
「へへ、面白いものを見ることが出来たぜ。なあ、この人形はどうしても元いたネメシスとやらの魂を見つけ出してここに押し込む必要があるのかい?」
意味深な質問にアリスは首をかしげる。
「そうに決まっているじゃない。人形を修理するだけなら簡単だけど、私達はネメシスちゃんを復活させるのが目的だから、そんなに単純な話じゃないってことよ。この人形には確かに魂が宿っていたのだから」
「そうかいそうかい。じゃあさ、発想の転換と行こうじゃないの。魂を見つけて押し込めるんじゃなくて、おびき寄せて入ってもらうみたいな?」
そのやり取りを聞いて目を見開いていたのは神綺さん。
「なるほど、それでも結果的には同じね。もしかしたらあっちの方法でも……。アリスちゃん、今度の素材は……」
もう夜だというのに、熱の入る3人。そして今度はアリスに加えて魔理沙までもが飛び出していったのだ。
例によって俺には何も出来ないし、すっかり疲れて果ててしまった。俺は部屋に戻り、眠りにつくことにした。
誰かが俺の名前を呼んでいる。深い深い意識の底から誰かが呼び覚まそうとしている。
「アズマちゃん、アーズマちゃんっ。おはよう♪」
すっかり意識が覚醒して起き上がる。わざわざ魔界神自らが起こしに来ていた。やたらと上機嫌である。どうしたのかと聞いても答える声はなく、ただただ俺の腕を引いて神綺さんの部屋まで連れていかれる。何やら大きな椅子の上に不自然に盛り上がった布がかけられている。も、もしや……!
俺は早鐘のような鼓動を抑えながらもゆっくりと布を取り去る。
「……あれ?」
しかし誰もいない。いや、両手を広げて何かが思い切りジャンプしてきた!
「マスター!」
そこには元の体に戻った愛しい上海人形「ネメシス」がいたのだ。思いっきり抱き付いてきたので、俺もその体をしっかりと受け止め、頭を何度も撫でた。
「ああ、ネメシス。怖い思いをさせてしまったね。戻ってきて嬉しい、とっても嬉しいよ!」
どうやら驚かせるために布の中に隠れていたはいいものの、我慢できなくなって出てきてしまったのだとか。アリスも気になるのか、傍でネメシスの様子をうかがっている。
「そうやって見ると本当に親子みたいだな。アズマとアリスが二人で創った……」
「だからその言い方はやめなさいっ、魔理沙!」
少し離れた場所でニコニコと微笑みながら見ていたのが神綺さん。
「結局90回目でようやく成功したわ。その子にはアズマちゃんやアリスちゃんの他にも色々な方の想いが詰まっているのよ」
「私も忘れないんで欲しいんだぜ!」
「もちろん、魔理沙ちゃんもいいアイデアをありがとうね♪ さあアズマちゃん、再会を喜ぶのはいいけれど、まだこれで終わりではないわね?」
ああそうだった。これで改めてオプションが4つになり、さらには強力なオプションのフォーメーションまで会得したのだ。悲しい嘘に縛り付けられた白蓮を救うには強烈な弾幕を、想いを込めた弾幕を撃ち込む他にない。
「ガンバル!」
さあ、お世話になったパンデモニウムともそろそろお別れである。魔法に関しては特に力になれなかった雛や早苗さん、にとりを呼ぶと、地上に帰る旨を伝える。
「白蓮ちゃんを救ってあげてね。大丈夫、想いを伝える力も覚悟も持っているから」
ネメシスはすっかり人気者になってるのか、雛や早苗と戯れているようだ。
「クスグッタイヨ~」
神綺さんが地上までワープさせてくれるとのことなので、帰りは楽である。かなりの大所帯になっているが問題はないそうだ。もちろん、その後にまだ一仕事残っていることは忘れてはならない。
周囲が光で覆われていく。ああ、そろそろワープするらしい。
「神綺さん、ありがとう! 成し遂げてみせます!」
銀翼が、肉体が、意識がフワっと浮かび上がり、そして光の粒子となり地上へと向かっていった……。
白い、真っ白い光。これは魔界では決して拝めなかった地上に降り注ぐ太陽のもの。そう、俺達は神綺さんの力で一瞬にして地上に戻されたのである。
「ネメシス、調子はどうだ?」
「バッチリ! マスター、コレカラモ、ヨロシクネ」
コンパク達との連携もしっかり行えているようで、キビキビと動き回っている。
そうやって人里近くへと向かい、そして白蓮の封じられた洞窟の入り口まで到達した。今も神子が白蓮を封じ込めているのだが、額からは汗が流れており、抑え込むのも限界が近いことを物語っている。
「やれやれ、ようやく戻ってきましたね轟アズマ。ここからでも彼女の力が、意思が膨れ上がっているのが分かります。そろそろ私にも限界……」
心なしか洞窟から禍々しい瘴気が漏れ出ているようにも見える。白蓮、いったい青娥に何を吹き込まれて……?
「ここは俺一人で行く。これ以上皆を巻き込めないから。最後の仕上げ……彼女の心を融かすのは……俺が、俺自身がやらないといけない」
雛や早苗を置いて、俺は不気味に紫色に発光する洞窟へと突っ込んでいった。
魔人経巻の模様が壁面で光り、巨大なダンゴムシの死骸が転がる道中。そこを更に進むと……。
彼女はいた。ただ一人でたたずんでいた。冷徹な光を宿した瞳に睨まれ、思わず震え上がる。
「舞い戻ったのですね。いいでしょう、私達を不幸のどん底に突き落とした轟アズマ、憎くないと言っては嘘になってしまいます」
魔人経巻をブワッと広げ、戦闘態勢を取り始める。
「白蓮っ、貴女は騙されているのです! 青娥に何を吹き込まれたのか知りませんが、俺はむしろ侵略者を屠ってきた側。いつまでも寝ボケたことを言うのなら、少し手荒く叩き起こすことになりますよ!」
負けじとレイディアントソードを取り出す。
「良いでしょう。その驕りも含めて完膚なきまでに打ち砕きましょう。私は決して侵略者には屈しない!」
俺は本気でぶつかるつもりであった。たとえ相手が白蓮だとしても……いや、誰よりも大切な白蓮だからこそ、体を張って道を誤ろうとしている彼女を正すのである。
ぐんぐんと距離が縮まる。いよいよ決戦の時だ!
90回目の試みでネメシスが復活。コレがホントの「ネメシス90改」……