霧の湖で、チルノ、わかさぎ姫、にとりと連戦を続けたアズマであったが、ここで得られたオカルトボールは1つ。
とはいえ、にとりからオカルトボールに反応するレーダーを借りてある程度の捜索はしやすくなっていた。
人里に一際大きなボールの反応があるということで向かってみるのだが……。
俺達は人里のオカルトボールの調査に向かうことにした。もしも放置されていたとなれば非常に危険であろうという事でここの調査を優先することにしたのだ。
さすがに人里で問答無用で弾幕を吹っ掛けてくるような奴はいない。人気のない裏通りにアールバイパーを停めると白蓮と一緒に聞き込みを行うことにした。
「ふむ……ふむふむ」
「口裂け女が出る……」
ある程度の聞き込みからどうやらここ最近になって「口裂け女」という妖怪がこの辺りで悪さをしているらしいことが分かってきた。
「聞いたことがあるぞ。マスクをした女で『私きれい?』って聞いてくる奴だ。綺麗と答えても不細工と答えても襲い掛かってくる恐ろしい妖怪だ。確か整髪料の臭いを嫌っている筈だが……」
とにかく妖怪との交戦があるとなれば急いで銀翼に戻らなくてはならない。陽も落ちて久しく周囲も暗くなってきたし、生身の状態で不意打ちなんて喰らってはひとたまりもないからな。
俺は白蓮の手を引きながら路地裏に潜り込む。ふと、俺は声をかけられた気がして振り向いた。
「どうした白れ……っ!?」
違う、話しかけてきたのは白蓮ではない。最初に目に入ったのはこの暗がりでもハッキリと視認できる真っ白なマスクであった。大きなマスクをしたピンク髪の少女。まさか……!
「こいつが口裂け女……」
「というかよく見たらこころちゃんですよね」
マスク女の周囲には無数のお面が浮かび上がっている。白蓮とは面識があるのだろうか、非常に冷静であった。
「ねえ。アタシ、キレイ?」
何のことはない、お面の妖怪が何故か口裂け女になり切っているのだ。
つまり本物の口裂け女ではない。だがそれはポマードが通用しないことも意味する。ええっと確か口裂け女の噂を聞いた時に買っていたものがあるんだ。それがポケットに……。
「あったぞ。それっ、アメちゃんだ」
べっこう飴である。俺はべっこう飴をこころに放り投げたのだ。人里でポマードは調達できなかったので、代わりにべっこう飴を用意していたのだ。口裂け女の大好物であり、これで気を逸らしているうちに逃げることが出来るという算段だ。
飴なら口裂け女でなくても甘いものが好きならば目がない筈。現にこころは飴玉を受け取って、いそいそとマスクの中に押し込んでいく。
「アズマさんっ、今のうちにこのバイクでアールバイパーの所まで向かいましょう。しっかり掴まって!」
いつの間にか黒いライダースーツに着替えていた白蓮。そしてこれまたいつの間にか用意されていた黒いバイク。俺はこれに飛び乗りどうにか窮地を逃れた。
停めていた銀翼の場所までたどり着くと、そのまま飛び乗る。エンジンを点火すると一気に上昇。これでひとまずは安心だ。
すっかり夜になってしまった人里の上空。満月が不気味に輝く中、俺は余ったべっこう飴を口の中で転がしながら、にとりから借りたオカルトレーダーに目を通す。どうやらボールが近いとより精密な情報が出てくるようであり、こころが何らかの方法でオカルトボールを手に入れているらしいことが分かった。
「追いかけてくるだろうか? いや、こちらから仕掛ける!」
クルリと機体を回転させると、来た道を戻る。程なくしてマスクをモゴモゴとさせている(飴を舐めているんだろう)こころの姿を再発見した。浮かび上がるお面の中に紫色のボールが混じっているのを見つけた。
「あんまり人様に迷惑をかけるんじゃない。少しばかりキツーいお仕置きを受けて貰うぞ!」
ボールの所有権を得る為には戦闘は不可避。ただ遊んでいるだけ、あるいは妖怪として人間を殺すことなく怖がらせているだけにしか見えないが、こうやって突っかかってくる上にボールを持っているのだから回収しなくてはならない。
「ねえ。キレイ? キレイじゃない? 答えてよー!」
「しつこいなぁ……。わかったよ、答えればいいんだろ? あんたもキレイだけど聖様はもっとキレイ。これでいいか?」
心なしか笑みを浮かべたように見えたこころ。マスクをゆっくりと外し始める。恐らくは大きく裂けた口を見せて「これでも?」と言ってくるのだろう。だが、その時は来なかった。なぜなら、月をバックにマスクを外そうとした刹那、別の影が急接近してきたのだ。
「なんだっ!?」
満月をバックに急接近した何者かに頭突きをされて撃ち落とされるこころ。当然オカルトボールもその頭突きをした彼女へ所有権が移る。その大きな2本の角を掲げてこちらを威嚇しているようだ。こいつ、もしかしなくても……
「慧音先生!?」
満月を受けてハクタクの姿になった慧音先生が目の前に現れたのだ。普段なら話が分かる良識的な彼女であるが、この姿の場合はより好戦的になっている。厄介なのに出くわしてしまった……。
「妹紅が奇妙な紫色のボールを集めていると聞いたんだが、妹紅の他にもそれでそのボールの取り合いをしている輩がいるようだ。だけどこの人里で迷惑行為をやらかす輩が後を絶たなくてな。成敗しているうちに2つもボールが集まってしまった。確か他にも皿を投げつけて後片付けもしない奴をとっちめた時にボールが手元にやってきたな」
眼下をよく見ると泣きべそかきながら割れた皿の掃除をしている布都の姿が見えた。
「そのボールは俺も集めている。どこかへ消えてしまった俺達の仲間を救出するんだ」
何とか譲ってもらえるように交渉をするが、恐らくは徒労に終わる。この状態の慧音先生に話が通じるとは思えないし、そもそもオカルトボールのやり取りは戦闘を行わないことには成り立たないのだから。
「どうやらこのボールを集めると願いがかなうだとかいう噂も流れている。だが妹紅曰くそんな夢にあふれたものではなくもっと危険なシロモノだという。誰を何から助けたいと願うのかは分からないが、君を危ない目に遭わせるわけにはいかない。悪いが君が持っているものもこちらで回収させてもらうぞ」
やはりこうなってしまうか。いいだろう、かかってこい!
戦闘が始まるや否や、慧音は周囲に白い人魂のようなオプションを展開させてくる。どうやら彼女も本体だけでなくオプションを用いて火力の増強を試みる戦闘スタイルのようだ。こちらも応戦するべくオプションを4つ展開させてツインレーザーで応戦する。
「ダメですっ、魂らしきものに着弾してしまって本体に全くダメージが入っていません!」
どうやらあの白い魂は実体を持っているらしい。慧音はまるで自分を守るようにそれを前方に集中的に配置しているので、普通に攻撃をしているのではいつまでもダメージを与えられない。
この事態を打破する方法は二つ。圧倒的な火力をもってしてオプションごと慧音先生を攻撃するか、あるいは何とかして彼女の背後に回り、直接叩くかのどちらかだ。
「エネルギーを温存させるためにも背後を取るっ!」
俺が選んだ道は後者。まずは銀翼からリングを射出。あの人魂に実体があるのなら、あれを掴んで……そのままそこを中心にグインと大きく回り、最後に引き寄せる。
「ゼロ距離からのショットガンを喰らえっ!」
拡散する弾を全て慧音に命中させ、大きく吹き飛ばし怯ませる。彼女が怯むことで厄介な人魂は消え失せた。
「やるな轟アズマ。ならばこれはどうだっ、『エフェメラリティ137』」
あれはスペルカードか。左右にばら撒くように大きめの弾を撃ち出す。何事かと思った矢先、それらがすべて爆ぜ、大量の小型の弾がばら撒かれた。
「ぐわあああっ!」
なにぶん物量が凄まじい上に、横からも弾幕が迫ってくるので、防戦一方になってしまう。だが、展開するのに時間がかかる上に慧音本体は無防備のようだ。つまりまた接近してショットガンを浴びせれば……。
俺は錐もみ回転しながら、慧音に近づき、照準を合わせた。だが次の瞬間、アールバイパーがムンズと掴まれたかと思うと、思い切り頭突きを受ける。激しい衝撃と共に遠くに、今も弾幕の爆風が続く中へと飛ばされてしまった。
「どうすりゃいいんだよ……」
今度は菊一文字での防御も試みる。爆発する前に展開出来ればかなりの数を防御できる筈だ。
果たしてポッドは無事に発射され、そして予定通りにバリアを展開した。爆ぜる弾幕は時間がかかる故、これで一応の防御は可能である。だが、これでは攻めることができない!
何かいい方法はないのだろうか……。何か……!
「こうなってはオカルト技を使うしかありません!」
白蓮が珍妙な名前をした技を使えと言い出す。なんじゃいそりゃ?
「オカルトボールの発する力を借りて新たな技とするのです。アズマさんの思い描く都市伝説に反応してオカルトボールが力を貸してくれるはず。私のバイクのように!」
何だか知らないが、慧音先生はオカルトボールの使い方自体には通じていない様子。だが都市伝説だって? 急にそんなこと言われてもあんまり思いつかない……。
ええとええと……。バキュラの耐久力、16連射とバネ仕掛けのコントローラー、上上下下左右左右BA……駄目だ、どれもこれもSTGに関するものしか出てこない! こういった都市伝説にもオカルトボールは反応してくれるんだろうか?
躊躇っていると、慧音が接近してきた。あの強烈な頭突きが来る……!
絶体絶命のその時、俺の脳裏に浮かんだ都市伝説は日本でSTGのパイオニア的存在となった「スペースインベーダー」のものであった。
自機とインベーダーの距離が限界まで詰まった時、奴らからの攻撃がすり抜けてしまうという裏技、通称「名古屋撃ち」。
侵略目前の逆転の一手。失敗すれば地球に明日はない大博打。コレだ、現状を打破するにはコレしかない!
手にしていたオカルトボールが呼応するかのように光を放ち始める。それと同時にディスプレイにも異変が起きた。
『OCCULT WEAPON『NAGOYA ATTACK』READY!』
インベーダーからの射撃をすり抜けるアールバイパーのアイコンが浮かび上がったのだ。俺は声高々に技の発動を宣言……する。
「頭突きで地面に叩き落して……」
「今だっ『ナゴヤアタック』!」
不思議なことが起きた。慧音が今まさに頭突きをせんと角を突き出してきたものの、銀翼はその角を勝手にスルリと避けてしまったのだ。まるで同じ極の磁石が決してくっつかないかのように。
驚き目を見開く慧音に今度はこちらから攻撃をお見舞いする。武装をダブル系、つまりショットガンに設定した。
「全部喰らってはじけ飛べっ、ショットガン!」
至近距離から散弾銃を全弾命中させたのだ。その威力は計り知れず、慧音を大きく吹き飛ばした。が、彼女も負けておらず、右腕を差し出すと人魂型のオプションを呼び寄せ、弾を撃ち出してくる。
「無駄だ無駄だ、この『ナゴヤアタック』を前に至近距離からの攻撃は意味をなさない」
今度は悪あがきなのか、角を突き出して突進してきた。今度もすり抜けて……。
驚愕した。今度もすんでのところでスルリと抜けるものだと思っていたのだ。しかし、結果はそうならなかった。
慌てた俺は回避行動を取るも、機体に少しかする。まあこの程度ならさしたるダメージは……。
「ぎゃああっ!?」
あり得ない、あり得ないほどの衝撃がアールバイパーを襲った。嘘だろ、ほんの少しかすっただけだぞ? だというのに、強烈な一撃をモロに受けた時ほどに銀翼は深く傷ついていたのだ。なぜ……なぜだ……。
「はっ、まさか!」
俺は名古屋撃ちの特徴を思い起こしているうちに恐ろしいことに気が付いてしまったのだ。あくまで名古屋撃ちは至近距離からの射撃をいなす技。近接攻撃には対応しづらいのだろう。恐らくはほとんど零距離からの攻撃の身をいなせるだけで、さっきのような突進の類には適応できないのではないだろうか。
弱点はまだある。そもそも「スペースインベーダー」で名古屋撃ちが成立するときはどんな時だった? それは侵略一歩手前の時だった筈だ。侵略されると残機に関係なくゲームオーバー、終わりである。確か名古屋の名前の由来の説の一つに「あと一段でゲームオーバー→終わり→尾張→名古屋」なんてものもあった。
以上のことを鑑みると、この珍妙なオカルト技の性能が見えてくる。
この「ナゴヤアタック」は主に至近距離の射撃系の兵装を無効化するものであり、近接攻撃の無効化はほぼゼロ距離でのみ適用されるのでオマケ程度に考えた方がいいというものだ。
加えてこのオカルト技の効果が適用されている間はアールバイパーの防御力が著しく低下しており、ちょっとでも攻撃の無効化に失敗すると壊滅的なダメージを受けてしまう。
流石に何でもいなせるほど万能の技にはならなかったか。ではどうする? 一度体勢を立て直すか? 否! 慧音とてあれだけの攻撃を受けてヘロヘロになっている。ここは慧音にこの技の弱点を見破られる前に勝負を決してしまった方がいいだろう。
突進で思わぬ効果を出した慧音は追撃するべく、再び角を突き出して接近してきた。恐らくはナゴヤアタックの弱点に何となく察したようである。
だけどな、俺にはまだ手があるんだよ。とっておきの手がな……。
「重銀符……」
周囲でオプションを高速回転させつつ、レイディアントソードを前に構えた。魔力が収束し、バチバチと蒼い刃がスパークする。
慧音を射程内に捉えた。もう少し引きつけて……今!
「サンダーソード!」
夜の人里に雷が落ちた。いや、突き出された。満月の明かりでぼんやりと照らされた闇は一瞬にしてまばゆい光に包み込まれる。しかしそれもほんの刹那の出来事である。
魔力がすべて放出されると俺は元の大きさに戻った剣を振り払い、そして機体ごと振り向いた。光の剣に貫かれ爆発するワーハクタクの姿が見えた。ほどなくして二つのオカルトボールが俺の手中に収まっていく。勝負あり!
いつの間にか満月は雲に隠れて陰りを見せている。眼下には元の青色の髪の色に戻った慧音先生がうずくまっていた。
今も恨めしそうにこちらを睨みつける先生。そんな中、白蓮が俺達の仲に割って入ってきた。
「私達はオカルトボールの力でどこかへ消えてしまった星ちゃん……コホン、うちの本尊を探しているんですっ! そんな悪さに使うわけでは……」
住職サマの必死の説得。今のハクタク化していない状態ならば話も通じるであろう。案の定、彼女は柔和な面持ちとなり、フウとため息を一つ。
「負けてしまったか……。恐らくはあの奇妙な紫色の玉の力で不思議な現象を起こしたのだな。2つも持っていながら、まったく使いこなそうとしなかった私が敗北を喫するのは必然だったよ」
それだけ言うと先生はポンと俺の肩に手を置いた。
「君ならばその力を間違ったことに使うこともあるまい。轟アズマ、今もあのボールを悪用しようとする輩が後を絶たない。それを回収するのを君に任せよう。行方不明になった仲間、見つかるといいな。陰ながら応援しているぞ」
手を振る慧音先生にサムズアップで応えると、俺は銀翼に乗り込み人里を後にした。
「これで私たちが手にしたオカルトボールは4個。確か全部で7個の筈でしたからあと3個ですね」
「ああ、またオカルトレーダーを用いて場所を……なんじゃこりゃ!?」
冷静にオカルトレーダーに目を通し、じっくりと次の行き先を模索しようとするも、その表示された情報に俺は驚愕した。
「オカルトボールの反応が4つ……。数も合いませんし、それに反応が大きすぎます!」
どうやらはるか上空方面と地底方面にそれぞれ反応が見られるのだが、その魔力が異常に膨れ上がっているというのだ。
このいずれかに向かうことになるのだが……次の行き先は守矢神社に決めた。
オカルトボールの反応は遥か天空の白玉楼や地底でも見られたからだ。守矢神社ならばその後どちらに向かうにしても経由するので、まずはそこの調査から行うことにしたのである。
未だに闇に包まれた人里を急速に離れ、月明かりにわずかに照らされる大きな山へと進路を取った。