妖怪の山にオカルトボールを量産する工場があった。これ以上自体がややこしくなる前に止めようとするアズマであったが、どうやら守矢神社が関わっているようで、侵入を強行するアズマを早苗が迎え撃つ。
互角の勝負を繰り広げているうちにオカルトボールと同じ色をしたクリスタルがひしめくエリアに突入。なおも戦闘を続けるアズマと早苗であった。
薄暗い洞窟のようなジメついたところであるが、わずかな光を反射して周囲の紫色のクリスタルが輝いている。とはいえ視界が悪いことには変わりない。随分と空間に突き出たように成長したクリスタルもあることだし衝突したりしないよう気をつけなくてはならない。
さて、標的は……見つけたぞ。早速トリガーを引き、ツインレーザーをお見舞いする……が、針のような光線は途中でその軌道を屈折させあらぬ方向へと飛んで行ってしまった。
よく目を凝らして見ると俺と早苗さんの間にクリスタルが立ち塞がっているのが見えた。そうか、こいつが光学兵器の軌道を屈折させてしまったのだろう。
「ふむふむ、なかなか面白いギミックですね。水晶がオレンジ色ではなくて紫色なのが残念ですが……。上手く利用すれば死角からの一撃とかできそうです」
お互いにレーザーを撃ち合うものの、周囲のクリスタルによって見当違いの場所にばかり向かってしまう。
「こりゃキリがない。こうなれば……」
「埒があきませんね。こうなれば……」
スッと2つの機体が同時に動き始める。俺は接近戦を仕掛けるべくレイディアントソードを取り出しながら加速。一方の早苗さんは何を思ったか、機体をこちらに向けて何かしらの攻撃の準備に取り掛かっている。
「レイディアントソード!」
「ウェーブ!」
周囲の空気が小刻みに振動する。なるほど、ウェーブなら屈折のしようがない。地形で阻まれたような閉所でも問題なく運用可能だ。だがしかし、アールバイパーの機動力を甘く見たなっ!
「その程度効かぬわ!」
敵も地形もお構いなしに振動させるウェーブショットは非常に火力が低い。まともなダメージが蓄積する前に俺は早苗さんの戦闘騎に斬りかかっていた。
至近距離で青い刃を受けた早苗さんは大きくバランスを崩しながら、逃げていく。追撃せんとこちらもツインレーザーを放ちながら追いかける。出鱈目に乱反射される青い棘は彼女の動きを鈍らせている。
「かくなる上は……!」
ガントレットの周囲に風変わりなクローが3つ展開される。本体の周囲をぐるぐると回転するそのオプションは紫色の球体であった。アレはクローじゃないぞ、オカルトボールだ!
「オカルト技を使わせてもらいますっ!」
展開していたボールのうちの1つが鈍い光を放ったかと思うと、鈍色をした板を回転させながらこちらに押し付けてきた。
「この鈍い色をした板はもしや……バキュラ(※1)か?」
「むぅ、やっぱり一瞬でバレてしまいましたね。256発攻撃を当てればちゃんと壊せますよ。名づけて『バキュラ256』。もっとも、そんな余裕があればの話ですが……」
自らを守るようにバキュラを展開する早苗さん。これではなかなかダメージを与えることが出来ない。あの状態の早苗さんに攻撃するには爆風が発生する兵装、あるいは貫通する兵装が必要だ。よし、菊一文字を用いてバキュラごと串刺しにしてやろう。
その射程内に入るために俺は銀翼を接近させる。しかし、彼女は予想だにしない行動を取り始めたのだ。
「ならば今度は『バネ仕掛けの16連射』!」
別のオカルトボールが光り出したかと思うと、まるで俺が接近してくるのを予測していたかのように5方向に凄まじい勢いで青白いショットを連射していたのだ。さらにそれぞれが光学兵器であるらしく、周囲のクリスタルで乱反射し、恐ろしいまでの弾速を持った弾幕になっている。
「ぎゃあっ、危ないっ!?」
どういうことだ? 今のは恐らく外の世界のゲーム名人「高橋名人」の得意技と彼にかけられたインチキの疑惑(ちなみに彼はシロです)をモチーフにした都市伝説(※2)であろうことは分かったが、早苗さんはオカルト技を2種類使いこなしていた?
複数方向から被弾したアールバイパーは出力を低下させる。ぐっ、このまま撃墜されてたまるか! 俺は低空から今も16連射を続ける早苗さんを睨みつけ、この状況を打破する方法に思索を巡らせる。
その性質上「ナゴヤアタック」が決まればあの都市伝説は無力化できるだろう。だが、早苗さんには俺のオカルト技は既に知られてしまっているし、無暗に発動しても、装甲が脆くなっているところを無力化できない弾幕に晒されるような選択をすることが賢いとは思えない。
行き詰っていると、反射してきた早苗さんのレーザーに翼が貫かれる。小さく爆発を起こしたかと思うと、いよいよ墜落し始める。何とか激突させるまいと操縦桿を折れるほどに倒し、ザリザリザリと水晶の壁面を擦り付けながら軟着陸。よし、まだ戦えるようではあるが、どうしたものか……ん?
墜落のショックでいくらかクリスタルが砕けていた。光学兵器を反射させてあらぬ方向へと逸らせてしまうあのクリスタルである。これを利用しよう。
「逆回転リフレックスリング!」
手ごろな大きさのクリスタルを吸い寄せる輪で掴み取ると、前方を守るように配置。あとは全速力で早苗さんに接近するまで。こちらに向けられたレーザーはすべて掴んだクリスタルによってその弾道を大きく逸らせてしまう。よし、ここまで接近してしまえばこちらのものだ。
「ナゴヤアタック」
掴んでいたクリスタルを投げつけた後でこちらもオカルト技を発動。面白いほどにすり抜けていく中、これでもかとレイディアントソードで斬りつけていく。
「ひいっ!」
が、大きくのけ反りながらもこちらから距離を取ると、早苗さんはさらに洞窟の奥へと逃げていく。まだ戦えるというのか。味方になると心強いだけあって、敵に回すとこうも厄介になるということか。
いつの間にか人工クリスタルの洞窟は終わっており、先程までの機械的な回廊に戻っていた。
「かくなる上は……こちらも元々の技で真剣勝負。『コード5.7.3.』!」
それだけ言うと早苗さんはガチャガチャと何から計器類をいじり始める。その直後、3つのオカルトボールが激しく光り輝き始めたのだ。
「秘密のコマンドでオーバーウェポン使い放題。うふ、うふふふ……」
まだこんな隠し玉を持っていたのか。これでアイツの使うオカルト技は3つだぞ。これも元となった都市伝説は「コナミコマンド」であろう。
コマンドはまだ続くようで今も計器類を不気味な笑みを浮かべながら操作し続け、その度に魔力を増幅させている。しかしガントレットは黒い煙を吐き始めていた。連戦でこの戦闘騎ももう限界を迎えているのだ。
「お、おい早苗? そろそろやめた方がいいんじゃないか? いやだって、それ『コナミコマンド』だよね?」
「ふふふ、さっすがアズマさん。これもお見通しでしたね。ですが、まだ足りません。侵入者を完膚なきまで叩きのめすにはもっともっと……」
俺はそそくさと早苗さんから離れ始める。ガントレットが光を放ち始め、そして……
最後にとあるボタンをポチリと押した瞬間、ガントレットは大爆発を起こしてしまった。あふれ出た魔力に耐えられなかったのだろう。いや、これも「コナミコマンド」だったからこそ迎えた帰結なのか。
かつてファミコン版グラディウスを開発していたプログラマーはデバッグ用に自機を一気にフル装備にするコマンドを用意していたそうだ。それをあえて削除せずに裏ワザとして残してこの「上上下下左右左右BA」というコマンドは有名になった。
しかし、後の作品ではこのコマンドを入れたが最後、自機が自爆してしまうという作品も出てきていた。
奇しくも無秩序に膨れ上がった魔力と、連戦によって傷ついていた戦闘騎という二つの要因が重なったことで、早苗さんの用いたオカルト技は都市伝説の通りの結末を迎えることになってしまったのだ。
「倒れるわけには、私達の計画を阻止されるわけにはいかないというのに……。神奈子様、申し訳……ありま……」
大破したガントレットから這い出た早苗さんはそのままバタリと倒れ込んでしまった。勝負がついたことを確認すると俺はアールバイパーから降りる。
「おいっ、大丈夫か?」
すると彼女が持っていた3つのオカルトボールがこの勝負を決した者の気配を感じ取ったのか、ひとりでに浮かび上がると、俺の方へと飛んでいき……途中で粉々に砕け散ってしまった。
「なんだって!? オカルトボールが……」
砕けてしまったボールも気になるが、それよりも今は早苗さんだ。ガントレットは見るも無残なほどに大破しており、修理しないと再び空を舞うことは難しいだろう。しかしその乗り手たる早苗さん本人には見たところ大した負傷が見られない。今までのダメージはみんなガントレットが引き受けていたのだろう。さすが
「うぅ……」
今はオカルトボールも失ってしまったし、何よりも彼女を放置するわけにはいかない。俺は早苗さんを背負うと、銀翼の後部席に座らせ、再び空を舞った。
「私達は、止まるわけには……」
「どうしてそんなにオカルトボールの量産に固執する?」
俺は更に中枢を目指しつつ、うわ言のように何度も同じことを口にする早苗さんに問いかける。
「それは……幻想郷の為なんです。神奈子様に会ってください。そしたら貴方も考えを改める……筈」
それだけ口にすると再び寝息を立ててしまった。
ほどなくして俺はオカルトボール工場の中枢にたどり着いたようだ。薄暗い広間であったが、あちこちで機械類が小さな光を発している不気味な空間であった。その奥では注連縄を背負い、巨大な御柱に腰掛けて威圧的に見下ろす山の神様の姿があった。
「早苗の持っていたボールは……。くっ、やはり砕けてしまったようだな。反応が見られない。まだまだ改善の余地ありか……」
俺は早苗さんを安全な場所に降ろすと、ブツブツと独り言を続ける神奈子と対峙する。
「来たか轟アズマ。早苗は……アールバイパーが連れてきたのだな。轟アズマなら倒した後も放っておかずにそうするだろうと思っていた。さて、私の工場で散々暴れ回ったようだが……」
今も余裕しゃくしゃくとした態度を崩さない山の神に俺は啖呵を切る。
「これ以上の混乱を引き起こさない為にも……神奈子っ、俺はお前と工場を止めて見せる!」
そんな俺を見据えながら、神奈子さんはスッと御柱から飛び降りる。
「くくく、人の子が神に挑むか。いいだろう、遊んでやるっ! そして身をもって思い知るがいい、今のお前があまりに目に見えているものしか認識できぬ浅はかさに囚われているかを!」
ズンと神奈子は地面を踏み鳴らす。その一踏みだけで地面が揺るぎ、倒れていた御柱がこちらに向けられる。ただ突き付けられるだけでなく、側面から青い弾も放っており始末に負えない。ただ避けるだけでは被弾してしまうだろう。
どうにか機体を捻りこれらを避けるも、今度はアールバイパーすら吹き飛ばす突風を仕掛けてくる。同時に爆ぜると弾幕をばら撒く爆弾のような花の蕾までもを繰り出してきた。
「何でもありなのかよ……」
こちらの動きを縛るような攻撃は元々の足の遅い神奈子とピッタリ嚙み合っている。とりあえず喰らっては駄目だ。喰らったが最後、致命的なダメージを貰うことになる。
ならば神奈子を放置して中枢だけを破壊するか? いいや、それも不可能だろう。彼女はそこを守るように鎮座しているのだ。防戦一方になりながらもどうにか猛攻を凌いでいるといった状態だ。
そうやって攻めあぐねていること数分……。遂に神奈子がしびれを切らした。
「当たらないものだな。チョコマカとすばしっこいヤツめ。ならば、私も都市伝説とやらを使わせてもらうぞ!」
フンと鼻息を鳴らすと神奈子の背中から白い大蛇が飛び出してくる。どうやら飛行能力を持っているらしく、アールバイパーを取り囲むようにその胴体を動かしていく。あくまでこちらの動きを拘束するつもりのようだ。
「都市伝説も何もただのドラゴンじゃないか。こういうのは頭を撃ち抜くって相場が決まってるんだ。覚悟しやがれ!」
兵装をショットガンに変えながら、大蛇がこちらに喰らいつくよりも早くその頭の前に躍り出た。よし、ここでぶっ放せばかなりのダメージを見込める。どれ、奴の瞳も恐怖色に染め上がっている筈だ。
しかし、それがまずかったようだ。大蛇の瞳、その奥は何か真っ白くて細長いものがうねうねと動いていたのだ。
それを視認した直後のことであった、全身に力が入らなくなり、アールバイパーは勝手にあらぬ方向へ向いてしまう。
「わははは! 引っかかったな。私の使う都市伝説は『くねくね』だ(※3)。その本体はこの大蛇そのものではなくて、瞳の方。『くねくね』を近距離で見てしまったものは狂ってしまうそうな。どうも私が使うと精神ではなくて神経系に異常をきたすようだがな。どうだ、全身が痺れていう事を聞かないだろう?」
これじゃあ「くねくね」というよりかは「メドゥーサ」じゃないか。何とか無理にでも体を動かそうとしてもあらぬ方向へしか動いてくれない。
「お前なら、轟アズマなら龍の形をしたものをけしかければきっと頭に向かうだろうということが分かった。だからこそ、瞳の奥に『くねくね』を仕込んだのさ」
なんということだ。指一本すら動かせない。トリガーを引けなければ反撃することも出来ない。まさにアールバイパーへの対策に特化したカウンターウェポン。ああ、俺はここで負けるのか……。
「これも幻想郷の為なんだ。悪いけれどこの工場を潰させるわけにはいかないのだよ……。さあ、君の集めたオカルトボールは重要なサンプルになる。いただくとしようか」
手にする御柱が思い切り振り上げられ、そして今まさに俺を銀翼ごと叩き潰そうとしている。俺は恐怖を感じたものの、瞼すら動かせず目を閉じることも出来なかった。ただただ最期の時を目にすることしかできないのだ。うぅ、俺はここまでのようだ。星、ごめんよ……。
(※1)バキュラ
ゼビウスに登場する回転する灰色の板。イル・ドークトという核の直撃にも耐える物質が使われているらしく、基本的には破壊不能。
かつて256発ザッパー(対空ショット)を当てれば破壊できるというウワサが流れたが、原作のバキュラは別にそんなことない。
(※2)高橋名人の都市伝説
1秒間にボタンを16連射する高橋名人は、かつて逮捕説が出ていた。
その内容はコントローラにバネを仕込んで連射速度を誤魔化した詐欺罪というもの。
重ねて言うが事実無根である。しかし当時は問い合わせの電話がひっきりなしにかかってきて、仕事にならんと副社長に怒られたとかなんとか。うーん、理不尽。
名人が言うには口裂け女の都市伝説よりも広まる速度が速かったとかなんとか。
(※3)神奈子の都市伝説
原作執筆段階では、まだ深秘録で鈴仙(使う都市伝説が「くねくね」)が参戦してなかったもんでして……。一応神奈子のそれは作中でもツッコまれてた通り、くねくねではなくメドゥーサのもの(都市伝説なのか微妙だけど)。効果も体が思い通りに動かなくなるというものなので、ますますメドゥーサ。