東方銀翼伝 ~超時空戦闘機が幻想入り~   作:命人

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ここまでのあらすじ

 異変の元凶は外の世界の住民。「神奈子」はその元凶に備えるためにオカルトボール工場を作ったものの、「アズマ」と「妹紅」に破壊された挙句、謎の女性の声にも「肝心なところで見当違いの方向を向いている」と嘲笑われる。

 星と白蓮を救うためにアズマが、異変を解決するために早苗が、真実をこの目で確かめるべく神奈子と妹紅が謎の女性の声が誘う「博麗神社」へと集う。


第6話 ~使命を胸に博麗神社に集うヤツら~

「外の世界の侵略者……。ここを制圧する理由、何なんでしょうね?」

 

 異変の真相は博麗神社にある。早苗とコンビを組んだ俺はほどなくして博麗神社に到着。鳥居をくぐってすぐの場所に、わざとらしいほど大きな釜がデンと置かれていた。

 

 釜は煮えたぎったお湯で満たされており、その上では白蓮が宙吊りにされている。さるぐつわまで噛ませてあるようで、俺達の姿を見ても「むー! むー!」としか言えない。

 

「なんてことをっ。びゃくれ……聖様、今すぐ助けますっ!」

 

 レイディアントソードを取り出して救出に取り掛かろうとする。見たところ普通のロープのようであるし、難なく断ち切れるであろう。釜に急接近し、飛び上がろうとするが……。

 

「アズマさんっ、真上です! 狙われていますっ!」

 

 不意に雨のように降り注ぐ赤い針。早苗が叫んでくれなかったら気づかなかった。咄嗟の回避行動を行うと、真上の脅威に目をやる。

 

「あっ、あなたは……!?」

 

 手にするは御幣。紅白の服に身を包み、頭に結んだ赤いリボンはキュッときつく結ばれており、その決意の固さを示している。凛とした出で立ちで行く手を阻むその姿は……。

 

「そんなっ、よりによってお前が……!」

 

 あの姿を見間違う筈がない。彼女こそ人間でありながら非常識な強さを持つもう一人の巫女……!

 

 狂ったように鳴り響くアラート音がコクピット内に響く。ノイズも激しく俺は思わず耳を塞いでしまった。アールバイパーも恐れおののいているのかもしれない。もしも感情があればの話ではあるが……。

 

「釣れた釣れた……。やっぱり銀翼を釣り上げるエサにはアレが一番ね」

「お前がびゃくれ……聖様をっ。その口ぶりからすると俺に会いたかっただけのようじゃねえか。さあ、目的は果たしたんだ。聖様を安全な場所に……」

 

 しかし聞く耳なしと言わんばかりに霊夢は巨大な陰陽玉を投げつけてきた。まるで見えない壁があるかのようにバウンドする陰陽玉をどうにかかわすと、彼女に対話が通じないことを判断した。こうなれば俺の手で白蓮を救い出すしかっ!

 

 霊夢の挑発を無視して彼女の背後、つまり大釜に近づこうとするも、頑として背後を譲らない。右に平行移動すると、同じくスススと寄ってくる。反対側も同じだ。こいつ、こんなにすばしっこかったっけ? これでは一戦交えないといけない。くそっ、よりにもよって霊夢とやり合わないといけないのか!

 

「答えろっ! 外の世界の侵略者は何者なんだっ? 何が目的なんだっ? どんな手段を用いているんだっ!? お前といがみ合っている暇はないんだぞ!?」

 

 これだけ必死に声をかけるというのに霊夢は戦闘をやめる気配も見せない。今も無数の針をこちらに飛ばしてきており、防御で精いっぱいである。

 

「アズマさんっ、このままでは赤い針に押し切られてしまいますっ! ここは『バーストリンク(※1)』の火力で逆に押し切りましょう!」

 

 バーストリンク、俺のαビームと早苗さんのオーバーウェポン(によるレーザー攻撃)を重ね合わせることで強力なビーム攻撃を炸裂させるという合体技である。さっそくオプションをフル動員してローリングフォーメーションを取る。

 

「よしきたっ。魔力チャージ開始!」

 

 回転するオプションからバイパー本体へ魔力が充填されていく。一方の早苗さんもクローを3つ展開させて同じように回転させる。

 

「させぬわっ!」

「遅いっ! 行くぞ早苗っ『αビーム』!」

 

 コンマ数秒後、早苗もオーバーウェポンによるレーザーを発射。これらの光線が交わることでより強力なビームが撃ち出されたのだ。

 

「「これがバーストリンクだっ!」」

 

 極太レーザーが霊夢を貫いた。避けようと思えばこんな隙の大きい攻撃は避けることが出来た筈。だが今の霊夢はどういうわけか不自然なまでに後ろを守るように立ち回っていたので避けることが出来なかったのだろう。大技をモロに喰らい、霊夢は膝をついた。

 

「あいたたたた……。や、やるのぉ」

 

 さらに追撃を決めようとする俺達を見て霊夢はついに本格的に回避行動を取り始める。その時に俺は初めてこの戦いで霊夢の後姿を見た。

 

「ああっ、狸の尻尾!」

 

 なんと、霊夢の腰のあたりから見事までに太くて大きい狸の尻尾がぶら下がっていたのだ。反射的に俺は尻尾にショットを当てる。

 

「あだっ!?」

 

 すると白い煙がモクモクと上がり、霊夢の姿が見えなくなった。煙が晴れるとそこにいたのは巫女ではなくて化け狸の女性であったのだ。

 

「尻尾はやめんかい。デリケートなんじゃから……あっ」

 

 どうやら霊夢に化けていたらしいが、術が解けてしまったことに今になって気が付いたようである。

 

「その声は……。間違いない、妖怪の山で足をくじいていたご婦人。いや、そのご婦人に化けていた狸!」

 

 驚く俺達の顔を覗き込むと「ほっほっほ」と実に愉快そうに笑い声をあげる。

 

「実に良い反応じゃのぅ。いかにも。妖怪の山で足を挫いて動けなくなっていたか弱い人間の女性じゃよ。してその正体は化け狸『二ツ岩マミゾウ』!」

 

 あの時からか。俺と白蓮を分断させて一人ずつ始末しようと……。

 

「しかしまあ予想通りじゃの。あの尼僧サマなら道中で困っている人には絶対に手を差し伸べるし、お主なら大切な人に危機が及ぶと知るや否や真っ先にすっ飛んでくる。そう踏んでおったのじゃが、綺麗にはまり込んだのぉ」

 

 ぐっ、完全に行動を読まれていたという事か。

 

「それで俺を博麗神社にまで呼びつけて何をしようっていうんだ?」

「決まっておろう。お主の持つオカルトボール、それをいただくためじゃよ。それも、ここ博麗神社で」

 

 得意気にそう言うと、マミゾウはオカルトボールを見せてきた。そ、そんな事の為に、白蓮をあんな目にっ……!

 

「ならば目的はもう果たした筈だ。決闘は受けて立つ。だが、その前にびゃく……聖様を安全な場所に移動させてくれ」

「ふほほほ、そうしたいのは山々なんじゃがのぉ……出来ぬ」

 

 さっきから此方をおちょくる様にのらりくらりと問答をかわしていくマミゾウ。感情がざわつくが、落ち着け俺。冷静さを失ったらそれこそヤツの思うツボだ。

 

「なんだと……!」

「神様と暑苦しい蓬莱人があの周りで暴れておってのぉ。怖くて近寄れん」

 

 見ると神奈子と妹紅が他の化け狸どもを蹴散らしている。おそらくマミゾウの手下か何かだろう。

 

「ぐっ、チョコマカと……」

「キリがないねぇ……」

 

 1匹1匹では大したことなさそうだが、その数は圧倒的であり、物量に押されている。その数はさらに増していき、神奈子たちが押され始めていた。

 

「イテッ! 後ろかっ」

 

 小さい木槌で妹紅の後頭部をぶん殴った化け狸。その衝撃で妹紅がバタリと気絶する。更には神奈子の背後にも大きな木槌を持った狸が忍び寄りつつあった。

 

「神奈子様っ、後ろ!」

 

 反射的に飛び出したのは早苗さん。俺も加勢しようと神奈子を狙う化け狸をロックオンサイトに捉える。

 

 だがしかし、これが、これこそがマミゾウが俺に仕掛けた罠であったのだ。

 

 その様子を空中で胡坐をかきながら見下ろしていたマミゾウ。気が付くとその両腕には巨大なハサミが……。

 

「ほれほれ、そっちにばかり気を取られていると、チョキンと切ってしまうぞぉ♪」

 

 あろうことかマミゾウは白蓮を吊るしていたロープにその刃物をあてがう。「むーっ、むーっ!!」と白蓮が唸り声を上げる。そう、さるぐつわのせいで、言葉を発することすら出来ないのだ。

 

 まずい、このままではロープを切られ、そのまま白蓮が真っ逆さまに茹ったお湯に落ちて釜茹でにされてしまうのは明白だ。

 

「ほれほれ、早くワシを攻撃して止めないとこのまま落っこちてしまうぞい? じゃが、少しでも狙いが外れれば自分の武器でチョッキンじゃ。さあさあ、よーく狙うのじゃぞ?」

 

 わざとロープと重なるように陣取るマミゾウ。完全にこちらを舐めてやがる。

 

 こンの野郎っ……! 怒りのあまり震える手をどうにか抑え、照準をマミゾウに向ける。彼女が言う通り早く手を打たなくてはロープを切られてしまう。かといってマミゾウを撃ちそこなえば、俺自身がロープを切るという最悪の結末が待っている。

 

 俺は白蓮が釜茹でにされるのを何としても止めなくてはならない。その為にはどうするべきか。

 

 今の状態で無闇に手を出すのは危険だ。少しでも狙いが外れればマミゾウだけでなく、彼女が握っているロープにも攻撃しかねない。そんなことをしては最悪の結末を迎えてしまう。

 

「ほれほれ、怖気づいたかのアズマぁ? ここじゃぞ、こ・こ!」

 

 なかなか攻勢に転じない俺にマミゾウは挑発をし始めた。だが、それに乗る俺ではない。もっと大きな隙を晒す時が来る。その時を狙って一気に接近して白蓮を救出する。今は我慢だ……。

 

 そうやって睨み合うこと数分……。

 

「さてはワシが本当にロープを切るわけがないと高をくくっているようじゃの。じゃが、ワシは……本気じゃぞ」

 

 最後に暗くドスのきいた声に変わると、マミゾウは大きな鋏でロープを切り始めた。今だっ! アールバイパーを一気に加速させる。グンとGが前方にかかり、俺は顔を歪ませる。だが停滞は許されない。

 

「びゃくれぇーーーんっ!」

 

 今まさに自由落下を始めた彼女の名を叫び、大釜へ突っ込んでいく。

 

「さすがに速いのぉ。じゃが、いささか距離が離れすぎていたようじゃな。このままの速度では間に合わぬ? くくく……いよいよババア汁が完成するぞい」

 

 マミゾウが言う通り、限界までリフレックスリングを伸ばすも、白蓮にはわずかに及ばない。くそっ、あと少しだというのに……。俺はあと少しの所でっ……!

 

「ちくしょう、ちくしょー!」

「泣けっ、わめけっ! 今のお主にはそれしか出来ぬのじゃからな。ほっほっほっほ……」

 

 今まさに白蓮が大釜に落ちる……。

 

「アズマさんっ、最後まで諦めてはいけませんっ! 押し出せっ『バキュラ256』っ!」

 

 そんな声が聞こえた気がした矢先のことであった。アールバイパーの背後に強烈な衝撃が走る。何かに追突されたようである。この状況で後ろから早苗がバキュラを撃ち出したというのか?

 

 鈍い衝撃と共に得られたのはいくらかの推進力である。そう、ビリヤードの玉のように俺は前に押し出されたのだ。そしてそれによって……。

 

「むーっ、むーっ♪」

「届いたっ……!」

 

 見事に白蓮を救出できた。そのまま神奈子たちに彼女を預けると、再び敵と対峙する。あれでもう大丈夫だろう。

 

「よくも白蓮を危険な目に遭わせたな! 絶対に許さないぞ!」

「ふふぉふぉふぉ……ワシが憎いか? そうじゃろうな、さぞ憎かろう。ほれ、今度こそ思い切り攻撃してはどうかの? 今度はよく狙わなくても大丈夫だぞい」

「きさまぁぁぁぁ!!」

 

 プッツンときた。怒りに任せ、レイディアントソードを振るう。が、かなり大振りになっているので、まるで命中しない。

 

「いけないっ、怒りのあまり冷静さを失っています。アズマさんっ、落ち着いて!」

 

 平静に、平静に。そう心で唱えるが、溢れる怒りは収まらない。白蓮にあんな仕打ちをしたのだ。俺にはそこまで冷徹になれない。剣の腹がついにマミゾウを捉えた。咄嗟に腕で防御をするが、その力は絶大であり、周囲の空気が震えた。

 

 レイディアントソードとマミゾウがぶつかり合った刹那、周囲の空気が震え、そして「見えない筈の風景」が一瞬だけ写り込んだのだ。

 

 空高くそびえ、所々から白い光が漏れ出ている黒い鉄柱。それが至る所に立ち並んでいるのだ。俺はこの鉄柱の正体を知っている。俺が元いた場所ではありふれた建物「高層ビル」だ。だが幻想郷に高層ビルなんてものは存在しない筈。つまり外の世界の風景が見えたということか……?

 

「くそっ、お得意の化け術の一つかっ? そんな外界のビジョンで俺の精神を惑わそうったってそうはいかないぜ!」

 

 吹き飛ばされながら距離を取るマミゾウに更なる追撃をかけんと、今度はショットガンを装備して距離を詰める。

 

「お主、外の世界を見たというのか? なんということじゃ、すでに結界の崩壊が始まっておる……」

「隙だらけだぞ、マミゾウーっ!」

 

 何だか知らないが逆にマミゾウが困惑している。普通に戦えば恐らくは格上であろうマミゾウにはまず勝てない。この好機を逃す術はない!

 

「よせっ、よすんじゃアズマ! 接近戦はいかん!」

 

 今度はショットガンを浴びせ、マミゾウを大きく浮き上がらせる。無防備になったところで俺は再び兵装をレイディアントソードに交換すると、懐からスペルカードを取り出す。俺と白蓮のとっておきの秘術だ。

 

「化けさせるのに夢中で足元がお留守だったようだな、化け狸さんよぉ! これで終わりだっ、銀星『レイディアント・スターソード』!」

 

 巨大化する蒼い剣が二振り。周囲の空間後とマミゾウを薙ぎ払い、最後の一閃が彼女をそのまま地面に叩きつけた。勝負あったな。ぐったりしたマミゾウを逆回転リフレックスリングで掴みあげる。

 

「ぐぅ、なんということじゃ。このワシがお主の勢いに終始飲まれてしもうた。こんなはずでは……」

 

 ようやく意識を取り戻したマミゾウは随分としょぼくれている。色々と周囲に根回しをし、様々な罠を張り巡らせていただけあってよほど自信があったのだろう。

 

「マミゾウさん、あんたの計算高さはかなりのものだ。だから俺は白蓮と離ればなれになってしまったし、俺を精神的に追い詰めることも出来た。ああ、完璧な計算だった。全ては計画通り進んでいたんだろうな」

 

 フウと一息ついて俺はさらにこう続けた。

 

「だけどな、たった一つだ。たった一つあんたは致命的なミスを犯してしまった。白蓮をこともあろうにババ……コホン、釜茹でにしようとした、つまりこの俺をどこまでも怒らせたこと……だ」

 

 今もリングに掴まれながらグッタリするマミゾウから最後のオカルトボールが飛び出して、俺の手中に収まった。これで、これで全てが俺の手中に集まった。さあ、何が起きる……?

 

「おぬしが一人で来なかったから冷静さも予想以上に削がれず、更に住職サマが絡むときの爆発力ときたか……。やれやれ、こりゃ完全にワシの負けじゃ」

 

 よっこらしょとリフレックスリングから自力で抜け出すと、近くの岩に腰掛け何か感慨深く物思いにふけるように語り掛けてきた。

 

「教えてくれ、いったいどんな異変が起きているんだ? 外界の侵略者は何者で、何を目的にこんなボールをばら撒いたんだ?」

 

 それだけ俺がまくし立てているというのに、マミゾウはどこかからキセルを取り出すとプハーと一服しながら問答に答え始める。随分と余裕しゃくしゃくとしているが、俺、一応コイツに勝ったんだよな……。

 

「さて、どこから話し始めようかねぇ? ではこのオカルトボールの話からにするかの。こいつは幻想郷を覆う結界を破壊する力を持っておる。全て集めると博麗大結界に風穴ブチ開けながら、ボールを全て集めた者を一時的に外の世界に放り出してしまうのじゃ」

 

 結界の破壊に外の世界だって!? これではいよいよもって本当に「侵略者」ではないか。これには妹紅も神奈子も驚き、素っ頓狂な声を上げる。

 

「なっ、正気なのか!? 結界に穴が開くという事は……」

「ヘタすりゃ幻想郷そのものの崩壊につながるわね」

 

 それよりももう一つ気になることがあった。ボールを集めた者は外の世界に放り出される。つまり星ちゃんは……。

 

「そういうことになるのぉ。命蓮寺の本尊、寅丸星は今頃外の世界をさまよっておるじゃろう。そして間もなくお主も……そうなる。本来なら1時間程度で帰ってくる筈なのじゃが、向こうで何かトラブルにでも巻き込まれたかのぉ」

 

 ならば好都合だ。俺も今から外の世界に向かい、迅速に星ちゃんを救出。一時間後に幻想郷へ帰還する。そのついでにこんな馬鹿げた計画をおっ始めた馬鹿野郎を懲らしめようとも思ったが、今は本尊の救出が優先であるし、仮にも結界に穴をあけるような存在、果たして俺に勝てるのかも未知数だ。

 

「外の世界ですか。私もしばらく見ていないものですから羨ましいです」

 

 おいおい、俺は遊びに行くんじゃないぞ。さて、そう言っているうちに7つ揃ったオカルトボールが効力を発揮し始めたか、周囲の結界を壊し始めた。空気が震えるたびにコンクリートのジャングルの風景と自然豊かな幻想郷の風景が切り替わる。俺は行くんだ、外の世界に……。

 

 ……いや待て、何か引っかかるぞ。この俺が幻想郷の外へ向かう。当然俺だけではなくアールバイパーも一緒に。そう、未知の技術が幻想郷からまた離れていくのだ。そのような状況をよしとしない存在が居た筈だ。それは結界にかかわる博麗霊夢と……!

 

 脳裏にそうよぎった瞬間、俺の周囲が紫色の亜空間に飲み込まれた。無数の目玉がこちらを覗き込む。間違いない、これはスキマの中だ。それと同時にアラームがけたたましく鳴り響く。八雲紫が俺を止めにやって来たのだ。

 

 憤怒の表情を浮かべているのだろう。扇子で口元を隠しておりその表情はよく見えないが、そうに違いない。俺は一度幻想郷から脱出しようとして霊夢とドンパチやっている。恐らくは紫も俺の外界への脱出を引き止めにやって来たのだ。だが、俺だって退けない理由がある。信念と信念のぶつかり合いだ。まともにやり合っていては勝負は見えている。ならばより強固な信念をぶつけて退ける他ない。

 

「紫、俺を止めようとしても無駄だ。訳も分からず外界に放り出されて今も泣いているうちの本尊を救出するまでは俺は止まるわけにはいかないし、そもそも止まりたくても止まれない。このオカルトボールが勝手に外の世界へ引きずり込んでくる」

 

 言い切ってやった。これはいわば宣戦布告。折れるわけにはいかない、逃げるわけにはいかない。恐らく最初は「貴方を外の世界に向かわせるわけにはいきません」と言い出すに違いない。さあ紫、その次は、その次に来るであろう最初の弾幕、どう仕掛けてくる……。

 

 だが、意外にも紫は一直線に突っ込んできたのだ。手に道路標識を手にしながら。どういうことだっ!? 紫なら圧倒的かつ幽雅な弾幕で身も心も屈服させる方がよっぽど効率がいい筈。このような行動に出た理由、それは紫の最初のセリフが全てを物語っていた。

 

「霊夢を、霊夢をどこにやったのよ!」

 

 感情の赴くまま道路標識を振り回しながら迫ってくる。どうにかレイディアントソードの腹でこれを受け止めていく。ぐっ、弾幕が強いとばかり思っていたが、身体能力も桁はずれだ。さすがは九尾の狐をも式神にしてしまう大妖怪という事か。腕っぷしも並みの人間の比ではない。

 

「霊夢だって? 俺だって最近見かけていないぞ」

「嘘おっしゃい! こんなにも結界がズタズタなのに、いくら呼んでも霊夢が来ないの! きっと今頃外の世界に放り出されて……」

 

 駄目だ、完全に錯乱していてこちらの言い分をなかなか聞いてくれない。怒りのあまり動きが単調になっているのが幸いしており、どうにか攻撃を防御し続けているが、こんな状況が長く続いてはアールバイパーが持たない。

 

「馬鹿言うんじゃない! 俺が外の世界に飛ばされるのはこれが初めてだし、誰かを放り出した覚えもない!」

「そんな筈ないわ。ここ最近になって何度も結界に穴が開いているの。そんなことはお見通しよ」

「オカルトボールの異変だ。全部外の世界の侵略者が仕組んだ罠……」

 

 ガツンと衝撃が走った。遂に翼を思い切り標識でぶん殴られてしまったのだ。スキマの中でアールバイパーは大きくバランスを崩す。何が起きているのかを知らしめるため、オカルトボールを7個リフレックスリングで掴んだまま……。

 

 何処へ、いつまで落ちるともしれない無間地獄。そのスキマの中で今も落下する俺は……ふいに何かにぶつかった。

 

「これは……オカルトボール。ボールがスキマをブチ破るっていうのか?」

 

 そうだ、この外界の侵略兵器は外の世界のパワースポットで採取された石。それらは幻想を否定し、結界に穴を開けるもの。もしかしたらっ……!

 

「スキマも一種の結界みたいなものだ! ブチ破ってやる!」

 

 上下感覚も麻痺する中、俺は全速力で進む。バリバリバリと紫色の空間を引きちぎると、光が差し込んでくる。月の光だ。

 

「うぉりゃーーーーっ!!」

 

 最後の一押し。俺はオカルトボールの力で強引にスキマから脱出した。幻想郷に戻ると今度こそオカルトボールは本来の役目に戻る。つまり、再び俺を外の世界へと押し出そうとし始めたのだ。

 

「霊夢を……返せっ! 返せぇぇぇぇぇ!!」

 

 再び周囲をスキマで覆い始める紫。だが、それは途中で止まってしまった。俺を庇うように神奈子が御柱をズドンと地面に突き刺したのだ。

 

「少しは頭冷やしたらどうだい、賢者さんよぉ。コイツもこのオカルトボールも博麗の巫女とは何ら関係ない筈」

 

 すぐに山の神を睨みつける妖怪賢者。相変わらずヒステリックである。

 

「貴方達、グルだったの? 博麗神社を蹴落として山の神社が幻想郷で覇権を握ろうと? だけど、ここはただの宗教じゃなくて、結界を……」

 

 駄目だ、さしもの賢者も自分の娘(のような存在)が関わると平静さなどどこかへ飛んで行ってしまうようである。

 

「内輪で争っている場合じゃないだろ! 幻想郷は今まさに外の世界から侵略を受けているんだぞ!」

 

 的確な一言を叫び、周囲の空気を凍らせる妹紅。だが、時は止まっていない。最後に結界の薄皮を破壊せんというところまで結界の破壊が進んでいく。いよいよ観念したのか、紫はへたり込むと同時に落ち着きを取り戻した。

 

「ぐ……。ならば約束してアズマ。私は幻想郷の、もはや私の体の一部たりえる楽園の結界を壊そうとする侵略者が心底憎い。この馬鹿げた計画を止めて頂戴。それと、もしも外の世界に霊夢がいたら、助けてあげて。お願い……お願い……だから……」

 

 妹紅と神奈子に取り押さえられた紫は涙ながらに訴えかけてくる。確かに、侵略者を野放しにするわけにはいかない。だが、俺には寅丸星を救出するという最優先するべき任務がある。それに霊夢も……か。

 

 最後の最後に妖怪賢者からとんでもない宿題を出されながら、俺は最後の壁を破壊した。一気に吸い込まれていく。外の世界に、埃と排気ガスにまみれた懐かしい空気に……!




(※1)バーストリンク
ダライアスバーストACに登場するテクニック。複数の設置バーストを重ね合わせることでより出力の高いバーストを展開することができる。
多人数プレイでないと使うことができない。
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