ついに7つ揃ったオカルトボールは幻想郷の結界を破壊して所持者を外に押し出そうとする。
行方不明になった星を救出するべく、アズマとアールバイパーは外界に躍り出た……!
夜だというのに煌びやかな外の世界。多数の高層ビルから光が漏れ出ており、幻想郷の夜では考えられないほど周囲を明るく照らしている。眼下では多くの車両がせわしなく細い道路を往来しているようだ。俺はついに来てしまったのだ、外の世界に。
このどこかに星ちゃんが、この異変を引き起こした犯人も、そしてもしかしたら霊夢もいるのだ。こういう時はさっそく魔力レーダーだ。さっそく目をやると明らかに異常な数値を示している場所があるではないか。
「これはっ……オカルトボールの反応かっ?」
ここから北側に外の世界に似つかわしくないほどの魔力が渦巻いている。
恐らくはあの先に幻想郷の結界を破壊しようとする黒幕が潜んでいる筈だ。上手く隠れているつもりだろうが、魔力なんて充満していない外界でそんなに力を振るっていてはこちらから丸見えだぞ。
一気に距離を詰める。敵ならばこちらから先手を打ち、戦闘を有利に進めることが出来る。距離がぐんぐんと縮まっていく。300……200……100…50…30…10……っ!
「貰ったぁー!」
ロックオンサイトで捉えたのは少女であった。少女が浮遊しているだとっ? 大きな黒いマントを身に纏い、これまた大きな黒い帽子を深くかぶった少女であったのだ。手にしているのはタブレットだろうか? それさえなければ俺はまだ幻想郷の中にいるのではと錯覚してしまっただろう。
驚きのあまりトリガーを引くのを忘れてしまった。
外の世界で空を飛ぶ少女、これだけでもう色々と怪しい。周囲にオカルトボールらしき球体まで浮かべているし、恐らくはボールを幻想郷に放って混乱させたのは……。
「うひゃ~、宇宙戦闘機の模型が釣れたっ!? ガラクタが釣れちゃったの?」
驚き叫ぶ彼女の赤縁眼鏡がずり落ちている。ふむ、この形を見て戦闘機だということは分かるか。やはりここが外の世界であることを実感できる。これが幻想郷だと「ノッペリとした変な鳥の妖怪」だもんな……。
「だから模型ではないし、ましてやガラクタなどではないっ! こいつは本物の宇宙戦闘機『アールバイパー』、そして俺はそのパイロット『命蓮寺の轟アズマ』だ!」
そう啖呵を切ってみるが、リデュースを発動している今のバイパーの大きさはせいぜい2メートル。少し大きめの模型と言われてしまえば納得できてしまうような見た目である。
「それよりも……お前だな、幻想郷の結界に穴をあけている犯人は? いったい何者だっ! そして何故そんな事をするっ!?」
ようやくこちらが敵であると認識したのか、何かを含んだような笑みを浮かべながらマントをたなびかせながら仁王立ちをしている。
「ふむ、ではこちらも名乗っておくわ。初めまして。私は東深見高校一年、宇佐見
こいつ……研究者気取りか。だが、奴はその道を行くものとしては半人前以下である。俺はそう確信した。
「はんっ、ケツの青いヒヨッコが研究者気取りかっ! どこに貴重な資料を壊す研究者がいる? 貴様は研究者失格だ、この未熟者め! すぐに幻想郷の研究から手を引いていただこう。こちらも寝床の屋根にガシガシ穴を開けられてはおちおち眠れないんでなっ!」
レイディアントソードを取り出し、臨戦態勢を取る。
「み、未熟者ですって~! ぐぬぬ、最近のこっちの人間を舐めない方が良いわ。なぜなら、今は女子高生にだって武器が作れる時代なんだから」
それだけ啖呵を切ると、どこからか案内標識のようなものがフワリと菫子の手元に浮遊してくる。それを手にするとこちらに突っ込みながら振り回してきた。物に触れずに動かして見せたのだ。どうやら今のはサイコキネシスだろう。こいつ、超能力者だ。
だが、その念力で呼び寄せた得物の扱い方はかなり大振りであり、避けるのは容易である。これを難なくかわすと、一度距離を取り菊一文字を展開して動きを制限させようと目論む。
が、こちらが距離を離すや否や、今度は懐から銃を取り出したではないか。日本はいつから銃社会になったんだ? そして何のためらいもなくそれを発砲。かなりの弾速を誇るようだが、その前に菊一文字が展開され、銃弾はバリアに阻まれた。だが、ただの女子高生(いや、彼女は超能力者だが……)が銃を持っていることに俺は驚きを隠せないでいた。
「これぞ現代の科学の叡智『3Dプリンターガン』よ!」
おのれ、銃刀法違反じゃないか。あんなものを何度もぶっ放されてはたまったものではない。そう警戒しているが、菫子は何ともたどたどしい手つきで銃を構えている。さすがに使い慣れているわけではないようだ。
さあ、反撃だ。遠距離では厄介な飛び道具を使ってくるゆえに接近戦を試みることにした。レイディアントソードを構え、一気に接近する。いまだに銃を構えていた菫子は驚いて今度は案内標識を取り出そうとするが、もたついているようだ。
「喰らえっ、『レイディアントソード』!」
二度、左右に薙ぎ払った後に青い剣を突きだして突撃。一方の菫子は両手をバタバタと振り回して反撃しているようだ。なんだかポカポカポカと効果音が鳴りそうな動き。しまいにはお尻に全体重を乗っけて体当たりまで仕掛けてくる。どうやら近接戦闘も不慣れなようである。
今度は逆回転リフレックスリングで菫子を捕えると、ブンブンと振り回し、近くのビルへと叩きつけてやった。これは効いただろう。菫子はフラフラとしている。
「うぐっ、こうなれば……念力『サイコプロージョン』!」
ふむ、どこからかスペルカードによる決闘のルールについて知識を得ているらしい。紙切れを取り出そうと声高らかに宣言を始める。周囲の空気がわずかに歪み始めると、紫色の爆発を引き起こす。爆風にあおられ、アールバイパーが大きく揺れた。
「ぐうっ! 直撃を免れてもこれだけのダメージを受けるとは……」
やはり超能力者としては超一流である。これなら幻想郷の研究なんかに興味を持たずに、エスパーとして生きて行けばいい生活が出来ると思うのに……。俺の脳裏にそんな考えがよぎっていた。そう、戦闘に関係のないことが頭によぎるほど、この戦闘は楽であったという事だ。
「お前の超能力は確かに強力だ。だが、弱いな。お前はヒヨッコだ」
少し弾幕を交えて俺が抱いた感想である。
「弱いですって? 負け惜しみはみっともないわよ!」
「いいや負け惜しみではない。一つ一つの挙動に素人臭さが抜けきっていない。平たく言えば、戦い慣れていないからお前は弱い」
怒りに身を任せ、サイコキネシスでゴミ箱を引き寄せた菫子はそのままこちらに飛ばしてくるが、俺は難なく剣で斬り伏せてしまった。
「お前みたいなのが幻想郷に行っても、生き残れないだろう。もって数日、下手すりゃ朝日を拝めるかどうか……。ああ、エスパーの技術は満点さ。だが『外』でのうのうと生きてきたお前には決定的に足りないものがある。それは、何をしてでも生き抜こうという執念深さだ。俺とお前ではそこに決定的な差がある!」
ああ、俺だって元々は「外」の住民だった。だが、我が相棒たるアールバイパーと共に幻想入りを果たしてからは、波乱の連続であった。大妖怪である八雲紫に命を狙われ、バクテリアンやバイドとの死闘を繰り広げてきた俺だ。生き抜いてやるという意思が外の世界にいたころと比べて桁違いに大きくなっているのが自分でも実感できていたのだ。
よし、顔を真っ赤にして怒り狂っているようだ。ここまで簡単に挑発に乗るとはな。これで彼女の次の一手は再び空間を爆発させることになるだろう。ほら、構え始めたぞ……。
「よーし、今度こそ直撃させるっ!」
「足元ががら空きなんだよー!」
再び空気を歪め始めた菫子であったが、アールバイパーの機動力をもってすれば一瞬で菫子の懐まで接近できる。今みたいに超能力の行使でいっぱいいっぱいな状態ならなおさらである。
「白蓮、力を貸してくれっ……!」
懐から特別なスペルカードを取り出す。白蓮さんと俺の絆の象徴、そのカードに刻まれた名を高らかに宣言した。
「銀星『レイディアント・スターソード』!」
それはもう綺麗に決まった。右側から、左側から巨大化した剣で菫子を薙ぎ払い、仕上と言わんばかりに挟み込むように斬りつける。これだけでは終わらず、砕けた剣の破片が菫子に降り注ぎ、これがさらなる追撃となる。
「ひぇ~!」
これはたまらんと言わんばかりに菫子は墜落していく。勝負あったか?
「いや、逃げるつもりだ。そうはいくか! 今度こそトドメを刺してやる!」
俺が思っていた通り、墜落したと見せかけてかなりの低空でピタリと落下が止まり、どこかへ向かおうとしていた。俺も高度を下げて追いかける。高層ビルが立ち並ぶ狭い空をぶつからないように掻い潜りながら突き進んでいく。
「アールバイパーの機動力から逃げられると思うなよ? すぐに追い詰めてやる」
いつしか夜の灯りはまばらになり、幻想郷に負けないほどの夕闇が辺りを覆っていた。都市から抜け出したのだろう。菫子も視界がきかないのか、逃げるのをやめてしまったようだ。立ち尽くしているようにも見える。
「さあ追い詰めたぞ。お前を、異変の犯人をシメて俺は幻想郷へ帰る。覚悟しろ!」
しかし菫子はマントをはためかせると不敵な笑みを浮かべているではないか。
「果たして本当に追い詰められたのは私なのかしらね? ここで私はまたスペルカードを使わせてもらうわ。念力『テレキネシス 不法投棄』!」
両手を大きく掲げながらスペルカードの宣言をした直後、真っ暗だった周囲に灯りがともった。いや、違う。地面が光っているのか? そうではない、光った地面が浮いている? いや、その認識も正しくないようだ。
光がとある物体のシルエットとなっている。これは……粗大ごみ? うわあっ、四方八方からでっかいガラクタが突っ込んできたぞ!
「轟アズマだっけ? 散々お説教垂れてくれたけどさ、訂正点があるのよ」
地面から紫色の光を纏ったガレキが浮かび上がり、縦横無尽に銀翼にぶつかってくるのだ。レイディアントソードで切り伏せていくが、次第に押されているのが分かる。
「さっき貴方は外の人間には何としても成し遂げようとする執念が足りていないと言っていたけれど、それはハズレ。執念なら私も負けていないわ。何せたった一人でオカルトサークル『秘封倶楽部』を立ち上げたのだから!」
ぐう、洗濯機が背後からブチ当たって機体が大きく揺れた。ここから一度抜け出さないとマズイぞ!
「そして貴方の一番の敗因は……。外の世界を見くびったことよ! 私は逃げると見せかけて自分の一番戦いやすい場所、スクラップ置き場へと貴方を誘い込んだの。ここは幻想郷の外。『外』のことなら『外』に住む私の方が色々と知っている。地の利を味方に出来る私の方がアウェーの貴方よりも圧倒的に有利って事よ!」
一際鋭い速度で放たれたガレキ。避ける間もなく銀翼に直撃。大きく吹き飛ばされ、制御不能に陥った。そして俺は見てしまった。菫子が多くのゴミをかき集めて一つの巨大なボールにしているところを。
「そろそろトドメ。この巨大な鉄くずでペシャンコになっちゃえ!」
浮かび上がる巨大な鉄塊。菫子が人差し指をクイっと動かすと、それはゆっくりと、だが確実に加速して空中で操作できないアールバイパーめがけて飛んできた。
「な、舐めるなぁ!」
それだけ言ってみるが、この危機的状況を俺はどうやって切り抜ければいい?
こうなったら、アレを使うしかない! ひそかに俺はオプションを周囲で回転させる。そう、オーバーウェポン状態でのレイディアントソード「重銀符『サンダーソード』」である。
いきなり剣が巨大化するだなんてことは菫子には予測がつかない筈。ギリギリまで鉄塊を引き寄せて一突きすれば、ひとまずは脅威が去る。その後のことはこの窮地を脱した後に考えればいい。
だが、一瞬だ。サンダーソードが絶大な火力を誇るのはほんの一瞬。オーバーウェポンの弱点は長時間維持させることができない事である。フルパワーの状態で維持できるのは9秒弱程なのだが、今はある程度消耗しているから、さらに短い時間になると考えた方がいいだろう。
「うおぉぉぉ!」
とにかく何もしないよりはずっとマシだ。レイディアントソードを突き出し、魔力をアールバイパーに収束させていく。バチバチと魔力がスパークし始める。
「今から何をしようというの? あまりに遅すぎる!」
それはどうかな? さあ、魔力が溜まり切ったぞ。来いっ、鉄塊よ! 後少し、後少し引き寄せて……今だっ!
「重銀符『サンダーソード』!」
ほとばしる蒼い雷。魔力がレイディアントソードに注ぎ込まれ、その刀身が何倍にも膨れ上がる。
「なっ!?」
土壇場で繰り出した一撃。蒼き剣が鉄塊を突き刺したっ! そして風穴を開けてやったのだ。この目の前の脅威に。
「見たかっ。これぞ執念、幻想郷流の戦い方!」
だが、菫子は既に平静さを取り戻しているようだ。ど、どういうことだ?
「やれやれ。貴方、重要なことを忘れているわよ? この鉄塊は元々何で出来ていたかしら?」
こいつはいきなり何を言っているのだ? そんなの菫子が超能力で固めて作ったんだろう。このスクラップ置き場の大量のゴミを集めて……まさかっ!?
「今更気がついてももう遅い。その青い剣は確かに鉄塊に突き刺さった。だけど突き刺さっていない場所はそのまま突き進むだけ」
中央に穴の開いたゴミの塊が突き出されたレイディアントソードをすり抜けてグイグイとこちらに迫り、そしてアールバイパーが風穴の中に、つまり大量の鉄くずに囲まれた状態になる。
「どうやら最後の足掻きも無駄に終わったようね。今度こそトドメよ!」
くそっ、今度こそオーバーウェポンを……。駄目だっ、さっきので魔力を使い果たしてしまった。万事休すか……!
鉄塊がバラけたかと思うと、全方位から一度に銀翼に襲い掛かる! ガツンと強烈な衝撃が走ると、それが致命傷となったのか、みるみる出力が低下していく。だめだ、アールバイパーが落ちていく……。そのまま動力が復活することなくアールバイパーは瓦礫の山に突き刺さる様に墜落してしまった。再びコクピットに衝撃が走り、うめき声を上げる。
「くそっ、まだ終わっちゃいねぇ……」
反撃を行うために、バイパーの再起動を試みるが、動力が完全にイカレてしまったようで、再びエンジンがかかることはなかった。悪態をついていると、懐から7つのオカルトボールが飛び出し、キャノピーをすり抜けていった。
そうか、俺は菫子に負けたから、そのままオカルトボールも彼女の元へ飛んでいくわけだ。俺が敗北したという事実を否応なしに突きつけられたのである……。
「おお、これぞ幻想郷で血塗られて大きな力の凝縮されたオカルトボール! これだけ力を溜め込んでいるのなら、今度こそ幻想郷への扉が開くに違いないわ! さっそく儀式の用意をしなくちゃ」
このままでは……。「待ちやがれッ!」と俺は叫ぶも、だからと言って何かが出来るというわけではない。まさに負け犬の遠吠えである。そんな俺を尻目に菫子はオカルトボールを7つ空中に浮かばせながらゴミ捨て場から飛び去っていった。
頼みのアールバイパーも動力を失ってしまえばただの鉄クズである。この中にいても事態が好転しないので、リデュースを解除して機体から降りることにした。ダメ元で宝塔型通信機を取り出し、白蓮と通信できるか試みてみる。
「こちら轟アズマ。外界で撃墜された。救助を頼む。繰り返す。外界で撃墜された。救助を……」
白蓮に、一輪に、早苗さんに、マミゾウに、いやこの際(取り乱していた)紫でもいい。幻想郷の誰かにこの通信が届くことにわずかな希望を託し、俺は救難信号を出し続ける。
しかしいくら通信機の前で声を張り上げても、非情にもノイズが響き渡るだけであった。それでも
そうだ、少しでも電波の入りそうな場所に移ろう。俺は山のように積み重なったガレキによじ登ると再び通信を試みる。
「助けてくれっ! 異変の黒幕に撃墜された。アールバイパーはもはや動けないっ!」
……駄目か。まったく向こう側からの通信が入らない。声を張り上げ続けて疲れてしまった。俺はガレキの山を下りると、アールバイパーの所まで戻ろうとする。その時、何かがキラリと光るのを見た気がした。
こんな人気のない深夜のゴミ捨て場に光が灯るなんておかしい。何事かと俺はその小さな光に吸い寄せられるように、進んでいった。ガレキをかき分けながら光の出所を追っていると、何やらすすり泣いているような声までしてきたではないか。
「ゆ、幽霊!?」
宝塔型通信機のわずかな灯りで暗闇を照らしながら、さらに進んでいくと、すすり泣く声と光がさらに大きくなっていく。そして俺は光の出所に到達した。この特殊な形状は見覚えがある。今俺が手にしている通信機の元となったモノ。つまり本物の宝塔であったのだ。そして、すすり泣く声の主は……。
「ひっく……ぐすっ……。聖ぃ、みなさーん、どこへ行っちゃったんですか……」
あの黒髪の混じった金髪を見間違うはずがない、星ちゃんだ! あちこちが汚れている我らが本尊がすすり泣いていたのだ。俺は思わず声を上げる。
「こんな所にいたのか! ほら、宝塔をまた落としているぞ?」
本物とレプリカの宝塔を手にする俺の姿を確認した星ちゃんは目を見開いている。そしてその直後、思い切り抱き付いてきた。
「あーん、アズマさーん! 心細かったよぉー! 急に見たことのない場所に出てきちゃうし、ここの人たちは皆冷たいですし……聖も貴方も他の寺の皆さんの姿も全然見えませんし……ぐすっ、ひっく……うぇ~ん!!」
大泣きする星ちゃんの頭を撫でながら抱き返す。そうやってしばらく抱き合い、彼女が落ち着いたところを見計らい、何が起きていたのか、そしてこれから何が起きようとしているのかを説明した。
「それでは、私は7つ揃ったオカルトボールを手にしていたせいで、幻想郷の結界を破壊しながら外の世界に飛ばされてしまったってことですか?」
「ああ、全てはそのボールの性質を利用して幻想郷の結界を壊しながら侵入しようとする外界の人間『宇佐見菫子』が仕組んだことだったんだ。妙な噂を流して幻想郷の住民同士を戦わせ疲弊させるのと同時に、ボールに力を蓄えさせる。その力をため込んだオカルトボールを手に外界に放り出された幻想郷の住民を倒し、ボールを奪うことで、幻想郷へ侵入するつもりだ」
そこまで言うと俺は星ちゃんから視線を逸らして続ける。
「そしてたった今、菫子は幻想郷へ侵入する手段を手に入れてしまった。この俺から力の蓄えられたオカルトボールを奪い取ったことによってな」
そこまで聞くと焦りながら手をバタつかせる星ちゃん。
「あわわ……。そんなことされては大変ですよ! すぐに追いかけてオカルトボールを取り返しましょう!」
「しかし、俺のアールバイパーは動力をやられてしまって飛べなくなってしまった。追いかけようにもこれではどうしようもない……」
今も瓦礫に突き刺さった銀翼に目をやると俺はため息をつく。
「何を言っているんですかっ。そんな簡単に諦めてしまうなんて貴方らしくありませんよアズマさんっ! これを、私の宝塔を使ってみましょう!」
……そうかっ。宝塔の力がバイパーの動力になるかもしれない。このまま幻想郷が蹂躙される様を指をくわえて見ているくらいなら、何か行動を起こしてみよう。
普段は宝塔型通信機をセットしている場所に本物の宝塔を置いてみる。そしてバイパーを起動。……おおっ、起動したぞ! 後ろの座席に星ちゃんを乗せると、突き刺さっていた瓦礫をレイディアントソードで一閃。
再び自由の身となった銀翼はゴミ捨て場から大きく飛翔を始めた。……が、宝塔から溢れる力が大きすぎてアールバイパーが暴走を始める。あちこちでバチバチとスパークを起こし制御が効かない程に前進しているのだ。
「ぐぅっ! 足りないどころか力が強すぎるな。膨大な魔力が俺の体に……ゴフッ!」
両腕に魔人経巻のような痣が浮かび上がる。これ以上魔力が流れるのはヤバい。ここはいち早く「バジュラモード」にならねば。痛みに顔を歪めながらも、落ち着いてモードチェンジの動作を行う。
『Variable Arsenal,Jet and Resistance for Assault.
Earl Viper...VAJRA MODE!!』
よし! 俺がくたばる前に間に合ったぞ。我が相棒が金色の燐光を散らす紫色のフォースフィールドに包まれる。オプションの纏うオーラも蓮の蕾の形となり、問題なくバジュラモードに移行できたことが分かった。
「奴の居場所は魔力レーダーで筒抜けだ。こんな外界でバカでかい力など振るうからな。だが、随分と遠くに行っているな。星、カッ飛ばすから舌を噛みたくなかったら喋るなよ?」
バジュラモードとなりさらに機動力の増している状態だ。どうにか結界を破壊して外の世界から脱出する前に追いつかなくては。
どことなく白蓮を彷彿させるこのバジュラモードで全速力で追跡した結果、菫子を目視で確認できるまでに捉えることに成功。だが、彼女の頭上には大きな空間のゆがみが発生しており、ゆっくりと渦を巻いている。
菫子はふわりと浮き上がり、渦の中へと姿を消した。ちくしょう、あの先は恐らく幻想郷だ。わずかに間に合わなかったか……。
「いや、何としても引きずり出してやる!」
俺も渦に突入することにした。菫子が通過した後、次第に小さくなりゆく渦であったが、消える寸前にこちらも飛び込むことに成功した。幻想郷に到達する前にヤツを倒さないとな。